社会が崩壊する瞬間を、見たことがあるだろうか?
「いいえ」という答えがほとんどだろう。そして中には「そもそも社会なんてものはなかった」と答える者もいる。
だが、この問いの意図や背景の中には、あるひとつの共通する経験がある。
家族だ。変わりゆく世界に耳を傾けながら、お互いを抱きしめて寄り添う家族だ。
俺?あー…一度も考えたことがなかったな。
実際、俺は採用担当者を半ば脅して、ここに入ることを認めさせた。だが、そのことは誰も問題視していなかった。それどころか俺の銃の腕前に感心していた。
俺が持つ技術は、射撃だけでは留まらなかった。生存術に格闘術に戦略に…とにかく様々なものへと応用された。とはいえ、俺は"凄腕"というわけではなかった。
"上手"だった。だが採用担当者にとって、それは十分価値のあるものだった。
「適応力がある」「伸びしろがある」「飲み込みが早い」盗み聞きした会話の中で、そんな言葉が飛び交っていた。
そして最終的に、俺はウォッチを渡された。母が贈ってくれた腕時計を着けてある方とは逆の左手首へと、装着した。
ISACは俺の正式なデータにアクセスできて、政府に向けて正当化するために書かれたそれも見れる。
だが、最初のテストはVRミッション、シミュレーション、議論、対戦だった。担当者は何も言わなかったが、その表情を最後まで見ることはできた。
あいつらのタマを掴んでいた若者として、俺の存在は"十分"なものだった。そしてあいつらの冷徹な仮面が崩れる瞬間があるとすれば、それは単独任務か、俺が指揮を執った任務のときだった。
あいつらの呆気にとられた表情は俺の宝物のひとつだ。
とはいえ、壊れていくものについて考えても、誰も得をしない。確かに、俺は極秘プログラムに属していた。そういうことが起きてしまった時のために、国家と国民の存続のためにあらゆる障害を突破できるような人材を確保するプログラムに、俺は属していた。
だが誰も本気で想定していなかった。せいぜい大規模な停電で呼ばれる程度だろうと思っていた。社会そのものが崩壊するような事態は思ってもいなかった。
俺はまだ最初の訓練さえも終わっていなかった。
その…
(マテオは椅子に身を乗り出し、深く息を吸う。眉が目元に影を落とし、実年齢よりも老けて見えた。)
覚えているんだ。あれはうるさかった…
(マテオの手が上がると頭の周りで揺らし、その音を言葉で説明しようとする。)
「悲鳴」だった。誰もが知っていた、俺も知っていたそれだった。そして俺たちは、夜中にそれを聞いた。俺と母と父と従兄弟と従兄弟の両親が、それを聞いた。
俺は母の手を握って落ち着かせて安心させようとした。父は叔父と共に、酒をあおっていた。叔母は神経質だったから家の荷物をひっくり返しながら、俺たちの安否を確認していた。
その前日、俺は機械や車両といったものの整備を教わりながら働いていた。その時、オートショップに男が入り込んできて、一台の車を奪おうとした。
だが、俺たち二人は何もせず、黙ってそれを見送っていった。
俺に教えてくれていた人は何かの前兆を察知して、店を早く閉めた。その代わり、俺たちは夜通しで、手持ちの工具で車を修理し続け、できる限り助言を与えながら動いた。
強盗を何回か止め、何人かと戦った。だが、恐怖というのは確かにそこへとあった。
何かが壊れることを気にかけるのは無意味だ。だが何かが壊れてしまう瞬間に感じる無力さっていうものは…
(彼は動きを止め、顎に添えていた手を目元へ移し、背もたれに寄りかかる。そして、髪をかきむしるようにしながら前のめりになり、顔に笑みを浮かべる。)
数日間、俺は笑顔にならざるを得なかった。すぐ外で終末が迫っていたからだ。俺たちは扉を閉ざし、身を潜めていた。混乱の中心は、ニューヨークのブラックフライデーだった。だが、それは徐々に他の場所にも波及していった。
最初は散発的だった。異なる人々が集まり、ただ必死にやれることをやるだけだった。だがそれは、やがて暴力へと変わっていった。
俺が活動を開始したのは、ニューヨークに第一波のエージェントが送られた後だった。だが通信は不安定で、ニュースも信頼に値しなかった。「すべては制御下にある」と、そう報じられている背後では次々と死んでいく兵士たちがいた。
出発前、叔父は俺に銃を渡してくれた。M1911をくれたんだ。そして「お前の母さんと父さんを守ってくれ」と伝えられた。
俺はそれを受け取り、活動を開始した日にそれを使った。
強盗に襲われていた。運命と運と遺伝のおかげで、俺たち一家は頑強だった。病気になりにくく、そして倒れ伏すということもほとんどなかった。だから物資の供給が途絶えても、俺たちは耐えられた。寒さは厳しかったが、それでも凌げる程度だった。必要な薬も、市販の風邪薬くらいだった。
別に貧しいというわけでもなくて、避難する必要もなかった。その結果、俺たちが物資を隠し持っていると思い込む人がいた。
そいつらはすぐに悟ることになった。自分たちが間違っていたことと、子供に銃を向けることがどれだけ愚かであることをだ。
計六人が押し入ってきて、俺は迎え撃ちにいった。
そいつらは家を探し回ったが、見つけたのは重すぎて持ち運べない発電機と市販の薬だけだった。そのせいで期待は裏切られ、怒りが募っていった。その時に一人が俺に銃を向け、父が斧でその男を叩き伏せた。
俺は残りの五人を撃った。訓練のおかげか、その行為は簡単に綺麗な流れで行われた。数秒後、俺のウォッチはオレンジ色へと変わった。
自分の息子が銃で男五人を殺した理由を、両親へ説明できる時間はほとんどなかった。父に銃を渡して、その場を去った。そして作戦地点で再び会ったとき、両親は俺に最後の贈り物を手渡してくれた。
木製のロザリオだった。信仰心が特別強いわけではなかったが、それでも両親の心を傷つけたくないからバッグへ結びつけて、進み続けた。
だが、何度も何度も生き延びてきたことについてはもはや──
(マテオは動きを止め、片手を上げてバッグへと手を伸ばし、横に固定されたM4を掴む。カメラへと向き直ると、その顔には、疲労も感情も、ためらいすらも消え失せていた。)
(彼はカメラの背後にいる人物にしゃがむように指示を出し、その者たちが従っている合間、背後から皿状の装置を取り出し、扉の前へと投げる。一秒後、光を放ち、マテオの形をしたホログラムが浮かび上がる。)
(扉が破られ、先陣を切ったハイエナの一人がホログラムへと発砲。そしてマテオが姿を現し、リーダーの頭を撃ち抜く。リーダーの頭はのけ反られ、他のハイエナたちは狼狽する。そのうちの一人は血染めのマスクを身に着けていた。)
(マテオは静かに歩き出し、ウォッチをタップする。バッグからドローンが飛び出し、彼の前で静止してバリアが展開される。敵の銃弾は跳ね返り、彼は正確な射撃で残りを仕留めていく。)
(録画はここで途切れている。)
[作者あとがき]
ひとまず戻ってきたよ!いろいろ話したいことはあるけどまずはこの章とちょっとしたおまけもどうぞ。
Division: Originsを見ていくつかの疑問が解消されたんだ。
無料だからディビジョンのファンフィクション*1を書こうと思ってる人にはぜひおすすめしたい。革命的というほどではないけど、良作だったよ。
それから、キャラクターの個性と態度の描写、特にセリカは大丈夫だったかな?
対策委員会の戦闘スキルをマテオのレベルより下にしつつ、経験不足の集団に見せないようにするのはなかなか難しかった。いくつか非効率な要素を入れたけど、上手く伝わっているかちょっと不安かも。
ともかく、楽しんでもらえたなら嬉しいよ!
[訳者あとがき]
Division: Origins、日本語版が無いんですしアマプラではおま国されてるんですよ。悲しいですね。まあスチームの方で見れますが。※Originsネタバレクリーナーズの火炎放射器の炎を消防服で防ぐシーンは笑っちゃいました。あと追尾マイン怖くな~い?
次のチャプターは12日から投稿します。
追記:The Divideの番外編についての情報です。https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=327400&uid=483000