The Divide   作:粋刺@翻訳

37 / 132
Chap.6-02 アビドス高等学校本校跡地

その建物は────もはや建物といえるものではなかった。

 

かつてアビドス本校だったであろう場所は、今では見分けがつかない砂丘の一つなっている。誰にだってそう見えるだろう。パイロットも、そう見えたように。

 

ここが目的地だね先生。

イヤーピースからパイロットの声が響く。

着陸しても?

 

“いや。”

そう答えると、ISACはすでに作業を開始していた。俺は双眼鏡を目に当て、建物の位置を示す手がかりとサーバールームの所在を探す。

“ホバリングでいい。そこまでかからないはずだ。”

 

S ん~~~~~………

俺の横でアロナが砂山に目を細めながら唸る。

S なんにも見えませんね……

役に立てなかったようでかなり落ち込んだ様子でそう言った。

 

パイロットに独り言を聞かれないよう確認してから、俺は答える。

“砂に関する報告書や地図やデータとかをまとめていたISACを手伝ったのだろ?それで十分だ。”

そう言うと、アロナは足をぶらぶらしながらふくれっ面になった。

“なら、アビドスの契約書を作成してくれないか?俺はシャーレの資金分配も法律も把握していない。だからアロナ、やってくれ。”

 

アロナは驚いた顔を向けるがすぐに明るい笑顔になる。

S はぁーい!

返事をすると…どこからともなく紙を取り出し、驚異的な速さで他の書類を確認し始める。

その幼さが、プログラムによるものかどうかはさておき、この瞬間、俺はアロナがAIであることを改めて思い知らされる。それも、高度なものであることを、だ。

 

A 対象地点を発見

俺の上空で具現化しながらISACが声を発して、指をさすとスキャンテックにウェイポイントが表示される。

A 示した場所がサーバールームではない可能性があります。ですが電子機器が大規模に集中しています。

 

“パイロット?”

問いかけてから数秒後、パイロットが応答した。

 

先生?どうしたいの?

 

“今から言う座標で旋回してくれ。座標は……”

座標を確認し、パイロットへと伝える。ヘリが移動し双眼鏡を構え直す。

 

見えるものは少ないが、確かに道筋は見えた。もう一度パイロットが聞こえないことを確認し、低く呟く。

“少なくとも大型のドリルが必要になってくる。だが掘ればまた砂で埋まる。砂まみれになってる中を動くのも辛くなるだろうから、破壊用爆薬(ブリーチングチャージ)もいるな。それにマスクもだな。サーバーは持ち帰るかデータをダウンロードした方がよさげか?”

 

A ダウンロードの方が簡単ですが、電力は何年も途絶えたままです。仮に入手したとしても、望んだ成果とはなり得ないでしょう。

未だに電力が供給されている場所が一ヶ所ありますが、そこへ直接掘り進める場合、崩落する恐れがあります。ホールからの進入を提案します。

ウェイポイントから別のウェイポイントへと線が描かれ、俺はうなずく。

 

“無駄遣いの末路はあそこにってか。”

そう呟く。

“よし、これで方針が決まった。ISAC、アヤネに報告書を送れ。シャーレに戻るぞ。”

 

ISACがうなずくと姿を消える。俺はパイロットへと向き直る。

“オールクリアだ。帰るぞ。”

 

ラジャー。

 

パイロットが答え、ヘリが旋回し、クラブ室へと向かう。

 

A エージェント

ISACが答えると俺は三度目のパイロットの通信を確認する。

A これで十分ですか?

 

アヤネへ、空中偵察の結果、回収出来る資源は乏しいことが判明した。

だが各種スキャナーとツールを使用した結果、サーバールーム内にエネルギー反応を確認した。

しかし重機と爆薬なしでは進入は困難。それらを使用すれば崩落の恐れあり。

ホールからの潜入を推奨する。そこから内部へ移動しデータ回収を行い帰還する。

 

報告書を読み直すと、ふと疑問が浮かぶ。

“電力の復旧はどうだ?ソーラーパネルがあるはず。”

 

A それでも、停電によるデータ破損については変わりようがありません。

ISACが答える。

 

“だな。”

コンピューターについては俺の専門分野ではなかった。プログラムや修理といったものはできるが、技術者がSHDテックにしてきたことと比べると…

 

確かに、自分のものを改造出来るが、専門家が使うSHDテックについてはサッパリだ。本当に凄かった。

 

どのみち、技術よりも銃のほうが好みだった。だから自分の選択には満足している。

“うん。問題ない。送信しろ。”

 

ともかく、ポケットが揺れてメッセージが送信された。

 

S せんせ~

アロナが書類を見せながら鼻歌混じりに呼んでくる。

S これ、どうですか?

 

書類を読むと、思わず笑いがこみ上げてくる。

“お金を払うのであなたのものを使わせてください。”

そう復唱すると、アロナは誇らしげにうなずいた。

 

S とってもシンプルですよ!

アロナは期待に身を乗り出し、俺は笑いを堪える。

 

何とか笑いをこらえて読む。幼稚な文章が並んでいるが、根本の考えは筋が通っている。

これは形式的なものだ。拠点の選定と配置を確定した後、具体的な価値を決める。

広くぼんやりとした条件設定は悪くない選択だと思う。

……最後の一文を見るまでは。

 

ルールを破ったら、罰ゲームとして破らなかった人の下僕になる。

 

“ああ…”

笑いを抑えながら答える。

“上出来だぞアロナ。”

アロナの頭を撫でると、アロナは満面の笑みを浮かべる。

“す、少しだけ編集するが、大丈夫か?”

 

S いいですよ!

アロナが言うと、書類が消えて俺のスマホが振動する。メールとアロナのファイルが送られたのだろう。

 

“よし。じゃあ、明日の予定は?”

そう聞くとアロナが笑顔を見せる。

 

S 書類仕事がお待ちしておりますよ!

くそったれ。

S 午後からは面接が入っています。残念なことにリンさんは数日間忙しくなるのでちょっかいは出せれませんよ。

 

周囲の環境がアビドスの砂漠から、キヴォトスの街へゆっくりと変わっていく。気温もまた同様に。

 

“なら…アロナ、探してもらいた──”

その時、爆発音が響いて会話は遮られ、俺は煙へと身を翻す。

“パイロット。”

パイロットの無線へと切り替える。

“9時の方向で爆発が。”

 

見えたよ。

応答が入る。

ちょいまち。

通信が一瞬途切れ、再び戻る。

なんだ温泉開発部か。心配しなくてもいいよ。

 

シッテムの箱を開くと、画面がさっきのものを録画したものへと切り替わる。

“温泉だって?ここ市街地のど真ん中だぞ。温泉なんてあるわけないだろ。”

 

僕はそう思わないね。

パイロットが答え始める。

温泉開発部の部長は鬼怒川カスミっていうんだけど、まあ源泉をドンピシャで掘り当てる第六感っていうのがあるんだよね。僕はカスミについてはあんまり知らないんだけど、それでも五回会ったことがあって、出会った場所全部が源泉があるポテンシャルを秘めてたよ。

 

“許可は取っているのか?”

呟きながら端末を確認するが、何も出てこない。

 

そんなの気にしてないよ。

パイロットがそう答えると俺は驚く。

 

“ただのテロじゃないのか?それ。”

そう呟くと、再度監視カメラの映像を確認する。

 

ふむ、重機を器用に運んでいるな…

 

そして爆薬もだ。兵士のような使い方ではなく、建設作業員に近い。

 

 

“なあ、シャーレに収容施設はあるか?”

 

ないけど、なんで?

 

“特に何も、計画を変えるぞ。”

そう答え、装備を確認する。今日はそこまで使ってはいないが、店に寄ることもできる。まさか銃関係で店に行くとはな…

“建物に降ろして車を手配してくれ。戦闘にはならないはずだが、運任せにはしたくない。”

 

パイロットはしばらく無言になり、ただただ大きなため息をつく。

マジぃ?温泉開発部に何しにいくの?

 

クエレブレを取り出し、再度確認をして横のキャディに弾を入れ込んでいく。

“誤解のないように言うと、こちらには悪気はない。ただ単に向こうが欲しがっているものを俺が持っているかもしれないだけだ。上手くやれば戦闘にはならない。”

 

また、パイロットはしばらく無言のままになり、そして大きなため息をつく。

…分かった。でもパパっとやった方がいいよ。既に風紀委員が動いてると思うし、ヒナもいるかも。

 

「ヒナ」──何かあった時の為にもその名前は覚えた方がいいだろう。ピストルを取り出し、確認する。

“よし、ラぺリングで降りる。距離は取ってほしいが離れすぎないように。”

 

ラジャー。着陸(L)地帯(Z)確認。降下開始。
  

パイロットがそう伝え、ヘリが駐車場上空で減速する。

グッドラック、先生!

 

“送迎ありがとう。”

お礼を言って、ラぺリングの準備をする。

“安全な空の旅を!”

 

そして降下する。ラぺリングロープのおかげで、パンケーキのように潰れることはない。エージェント時代の記憶が蘇る。

 

エージェントはロープ昇降機が主流でラぺリングはあまりない。だが俺は数人の元特殊部隊員からコツを教わったことがある。

着地し、M4を構え警戒する。何もないことを確認し、ロープを外しヘリへと手を振り、ヘリが離脱する。

 

深呼吸をして、掘削音やら爆発音やら銃声とやらが響く地点へと走り出す。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。