The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.6-05 シャーレ

契約書を書き終えた時には、夜はすっかり更けていた。オフィスに戻り、俺は再度温泉開発部の契約内容と支払い状況を確認する。合法的な温泉開発の許可や管理権、シャーレのセーフハウス設置等に目を通していく。

ひどく疲れた。だから今夜は送信しない。だが…

 

柱のように積みあがった書類を見て、絶望しながらため息を吐く。

 

椅子の背もたれへ体を預け、一息ついて立ち上がる。セキュリティシステムの確認といこうか。

 

物を動かして、隠したものを確認してうなずいていく。

 

本の中にはナイフ。別の本の中には銃。机の下にはダブルバレルショットガンとショットシェル。引き出しには弾薬。ソファの下にはSMG。コーヒーテーブルには貼り付けられたバリスティックシールド。本棚の後ろには追尾マイン。キャビネットはボディアーマーとグローブとニーパッド、そしてエルボーパッドやらマスクやらバックパックに、更には弾薬やアーマープレートなどで一杯になっている。

 

武器の多さにはっちゃけ過ぎたか?そうだとも。

隠した武器や罠は戦略的に配置されているか?当たり前だ。

万が一の事態が発生した際、すぐに発見できて、他の罠を起動したり他の武器を取る時間を稼げるようになっている。

シャーレの警備主任はこれを知っているのか?だいたいは知っている。

ISACが状況を監視できるなら、内部の警備を週ごとに点検して外部の警備を可能な限り確認する必要があるか?いいや違う。だが俺の安全が関わるものがどこにあるのかは常に把握しておきたい。

 

被害妄想(パラノイア)だって?俺は"準備"と呼びたい。まあそうだ、こういう言葉がある。

『もし本当に狙われているなら、それは妄想ではない。』

ブラックタスクはD.C.に何度も侵略してきて、その中には俺が交渉した地域もあった。

ローグエージェント、ハンター、その他敵対勢力…キヴォトスが経験したあの日を、実質俺は四年間も経験してきた。死闘の演じ方は知っている。だからこそ俺はあらゆる武器を最大限に有効活用する。

 

オフィスの確認を終えて他の部屋へと検査を続ける。

冷蔵庫には異常なし。中にはピストルと酒と小麦粉、そしてボラチータス入りのタッパー。その一つを口に運び、糖分が僅かに目を覚ましてくれる。

 

素早く、部屋へと戻り、俺がそこにいない時のための、"俺の"モーニングルーティーンを模倣させたホログラムのセットアップをする。枕の下にはピストルが、ベッドの下にはスナイパーライフルがある。

 

すぐに使うことはないと思う…アメリカで過ごしていた間に俺の魂に刻み込まれた本能と恐怖心がなくなる限りは…

 

部屋の点検を終え、ゆっくりとシッテムの箱の前へ戻る。レーションバーを一口かじりアヤネの返信を見る。

 

温泉開発部はテロリストでは?

 

いや、情熱に溢れていて、目的を果たすために爆発物、重機、その他諸々を扱う術を知っている生徒たちだ。

 

顎を掻く。何か忘れているような…

 

そうだ!

 

マスクのデザインはどうする?無地がいいか?

 

オレンジはなんだかんだで気に入ってきた。

 

そうみらこらはまみまら

 

 

どうした?

 

すみません。スマホを落としかけてしまいました。トラブルを起こさないのなら大丈夫だとホシノ先輩が言ってました。

 

よし!リニーは今かなり忙しいから、弾薬の申請は俺の方で送っておく。きっと気付いてくれるはずだ。しっかりと休んで学業に集中すること。

 

…分かりました。

 

契約書は明日送る。ひとまず、しっかりと休んで学業に集中すること。

 

おやすみなさい。

 

おやすみ。

 

大きく息を吐き、うつむく。

“疲れたな…”

 

こんなに動いたのはD.C.やニューヨーク以来だ。

 

息を吐き、身体を無理やり起こしてパジャマ片手にシャワーへ向かい、寝る準備をする。

 

まあ、いつものように安眠出来る訳ではないが。

 

書類仕事、現場作業、面接…そして予測できない何か。

 

頼むから厄介事が増えないようにしてくれ。ここの皆は生徒だ。ディビジョンエージェントでも市民軍でもない。だから言葉の選び方は間違えられない。クソ…

 

シャワーの中、お湯がゆっくりと体を伝い、両手は壁につけたまま呼吸を整えようとする。首筋には灰の中から蘇る不死鳥──SHDの記章が、脚には向かい合うパンチナイフとアメリカの野生動物の姿が刻まれている。

 

腕にはナイフや鋭利な刃物による傷。胴体と脚には装備を貫いた銃弾が残した丸い傷。肩には火傷痕。腰にはカジカによる深傷や電気の罠による痕跡、そして数えきれないほどの似たような傷痕が。

 

 

自分の体を睨みつけ、負傷した時のことを全て思い出そうとすると嫌悪感が全身を駆け巡る。

“惨めな姿。”

昔D.C.でケルソに言われたことを口に出す。だがあの時とは違いそこには憐れみも心配もなかった。事実だけがあった。嫌悪感が増すばかりで、何人もの顔が脳裏を過ぎていった。

“だから救えなかった。だから誰もお前のそばに留まらなかった。”

 

俺が救えなかった人たち…俺のせいで壊れた関係…そのすべてを思い返す。

 

その一方で、起きてしまった理由は分かっている。遅すぎた。力不足だった。狙いを外した。意識を失った。自分だけではどうしようもなかった。だから間に合わなかった。

 

だがあれらの交友関係は…俺が選択したものだった。俺は受け入れることを選び、エージェントとしての使命を優先することを選んだ。もちろん向こうも忙しかった。看護師に先生に料理人に…前者二人は続いた理由も円満に別れた理由も理解できた。だが最後の一人は…

 

誰が見ても、別れた原因は明らかだった。叩かれた時、肉体的な痛みよりもずっと堪えたものがあった。それでも俺たちは乗り越え、謝罪し合い、確執を埋めた。だが…

 

頭を振ってシャワーを止め浴室を出て、ふと鏡に映った身体を見る。嫌悪を込めて頭を振り、何も言わない。着替え終えると眠りにつく。場所はまたまたオフィスのソファだ。

スキャンテックとイヤーピースを外してシャワーを浴びたおかげで、ISACとアロナが俺の言葉を聞かなくて済んだ。

 


 

翌朝、太陽がゆっくりと顔を覗かせる。自然に目覚めた者、目覚めざるを得なかった者、自ら目覚めた者、何であれ、オレンジ色の空は早起きした者たちにとって美しい光景であった。

 

現在、トラックの上には自ら望んで乗り込んだ三人と渋々乗せられた二人が、その時が迫るのを待っている。

編み込まれた銀髪にベージュのリボンが結ばれ、残りは背へと流れ、装飾された片翼がほんの少し飛び出し、頭に帽子をのせ、シンプルなシャツとスカートと肩から掛けたジャケットを身に纏った彼女は、シャーレの建物へと視線を向けて席に座っていた。「ふぅ~…いよいよこの時が近づいて来ましたわ。」そう言うと、照準のような形をしたヘイローが動きに合わせて揺れる。

 

隣には羊の角が生えた困惑した様子を見せる生徒がいた。赤いシュシュで二つ結びのベージュの髪にぴょんと跳ねるアホ毛、ゲヘナ学園の制服を改造したものを着用しており、ハンバーガーの形をした黄色いヘイローが浮いている彼女が隣の生徒を見る。「これから何するの?」

 

「イズミさん、ちゃんと聞いてくださいね。」金髪の少女が優しく注意する。青い虹彩とピンクの瞳孔が際立ち、ギザギザの角が髪を貫く。制服は軍服に似たデザインでの中央にはマゼンタの青いヘイロー。「これから私たちは、ハルナさんの面接を見届けに行くんですよ。」

 

一方、渋々乗せられた側。羊の角に紅色の翼、肩までのツインテールは黒いリボンで結ばれた赤髪のボブカットで尖った耳の少女がぼやく。「それって風紀委員の牢屋にのこのこと入っていくようなものじゃん…」

 

「先生が焼いてくださったお菓子の匂いを嗅いだ時に突撃しかけたようなものでしてよ、ジュンコさん。」銀髪の少女であるハルナがそう指摘すると、彼女たちは風紀委員会本部に突入した時を思い出す。そしてジュンコは一瞬で顔が真っ赤になり視線を逸らす。

 

最後に、最も乗り気でない参加者である小柄な少女。ゲヘナの制服の上には白いエプロンに紺色の髪のツインテールとヤギの角、黄色いバンダナが頭を覆い、口が塞がれているせいで何も言うことができない。唯一彼女にできることは先生の無事を祈ることだけである。

 


 

科学の驚異、独創性、日々の進歩に溢れるこの自治区。その中では、ツインテールの会計がとある先生の報告書を見つめていた。

 

眉をひそめ、疑惑の念を持ったまま口元を開き、目の前の情報を理解しようと試みる。ゆっくりと目を閉じ、眉間を指で揉みほぐし、再び開く。神頼みのような気持ちで報告書の内容が変わっていることを願う。

 

だが変わらない。何度見ようが同じままだった。

 

マテオが訪れて以来、時には夜更かしをする程までユウカは熱心に仕事をこなしシャーレへ訪問する時間を確保した。

そして今日、シャーレに訪問出来る。

また、彼が適切に支出を管理しているかを確認するためにシャーレへの請求書を精査したが、結果は何もなし。

 

購入もなければ浪費もなく、一切の支出はなかった。帳簿上では問題なかったのだが…

 

どうしても不安が拭えなかった…

 

「何を見ているんですか?」と白髪の少女が後ろから問いかけ、ユウカは驚いて声を上げる。

 

「ノア!?」青髪の少女がそう叫ぶとノアは画面を覗き込み、彼女へと視線を移す。次の瞬間、愉快な笑みへと表情が変わり、含みのある視線がユウカへと向けられる。

 

「まあ、既に先生の購入履歴を確認していたんですね。私が何も把握していなかったらまるでせんせ──」

 

「そういうのじゃないから!」ユウカが声を張りあげるとノアは目を細め、そして驚いたように見開く。

 

「お化粧、してます?」そう指摘される。ユウカの顔の赤みはさらに増し、かんぺき~な記憶力を持つ友人に何かの見間違いだと必死に説得を試みる。

 

だがしかし、それは逆効果となり、ノアは容赦なく彼女をからかい続けた。




[作者あとがき]
もともとこの章はもっと長くなる予定だったのですが、やめることにしたよ。
それと、しばらく投稿を控えるかもしれません。気が変わってやめるか、4月7日にブルーアーカイブのアニメ放送後に投稿するかのどちらかです。もしかするとこのお知らせ自体が無意味になるかもしれない。放送前にまた章を投稿するかもしれないので。さて、どうなることやら。
あと、私のベータリーダー*1であるUnknown Sixthは、リアルの事情によりもうベータリーダーをしてくれなくなりました。
もしかしたらいつか戻ってくるかもしれませんが、今は彼が手伝ってくれただけで感謝しています。Unknown Sixth、もしこれを読んでいるなら、本当にありがとう。あなたの助力はかけがえのないものだったよ。
とりあえず、今はこの章を楽しんでもらえたら嬉しいですし、生徒たちの性格をうまく描けていたなら幸いだよ。
何か気になる点があれば、遠慮なくレビューを残してください。

[訳者あとがき]
アヤネとパイロットとドライバーと警備主任の肝はもうヒエッヒエ。
そしてマテオ先生の精神ももうボロボロ。
今回はテロリストに絡みましたが次回は違うテロリストとテロリスト(ゲーム開発部基準)が来ますね。

ちなみにUnknown Sixth氏はA Courier for Kivotosというフォールアウトニューベガスとのクロス小説の作者でもあり、かなり面白いのでおススメです。
https://archiveofourown.org/works/54130039/chapters/137053165

ちなみに韓国語に翻訳されたものもあって驚きました。https://novelpia.com/novel/214792

更に更に日本語翻訳が計画中みたいです。凄いですね。

次回は27日から投稿します。
The Divideに関係ないお知らせ:https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=327949&uid=483000

*1
公表をする前の原稿をチェックする人。要は校閲。

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