The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.7-02 シャーレ オフィス

まるで9時から5時まで働く哀れな労働者のように、またしても、俺は机に縛りつけられる。数字の羅列が意味を成そうとするが、俺が得たものはただの頭痛。ただただ呻く。息抜きとしての訓練は良いものになった。しっかしキリノの…

 

状況判断能力は抜群だ。それはもう怖いくらいまでに、だ。

 

フレンチクルーラーを頬張りながら作業を続ける。ちなみ好きなドーナツだぞ。

 

俺が訓練で加減を覚えることに何ヶ月もかかったのに、彼女はほぼ即座にそれをやってのけた。しかも、自分より大きな相手に対して、だ。何気なく手首を回すと、キリノの攻撃を防いだ前腕が少し痛む。生徒の力は驚くべきものがある。ヘイローのおかげなのか、それとも訓練のおかげか……まあ、その気になった時だけだろう。

 

ふむ…

 

シャーレの生徒も訓練が必要か?

 

いや、頼むのは無理だ。残念だが、そういう目的でここにいるわけじゃない

 

ハスミは?

 

 

いや、スナイパーを使うのには理由があるはずだ。決して非力だからとかではなく。

 

ツルギ?

 

いや、壁のシミになるつもりはない。

 

チナツ?

 

彼女は医療担当だ。そしてゲヘナが…

 

そう、あそこは馴染み深く感じた。悪い意味で。

 

ニューヨークでの短い滞在を終え、ワシントンへ戻ると、マニーはキャッスルコミュニティの再建を決断していた。俺も、あの場所に立ちこめる迫撃砲の煙や沈んだ雰囲気をどうにかしたかった。どうやってそれを成し遂げたかといえば、ブラックタスクに捕らわれた人々を解放していくことだった。皮肉でも何でもなくて、本当に全員そこから抜け出したがっていた…たぶん…いや、おそらく…

 

俺自身も、囚われの身になりかけた。あいつらに襲われ、拉致されかけた瞬間があった。情報が目的か、それとも労働力としてかは分からないが、理由が分からなかったのは幸運だったと思う。

 

とはいえ、俺が頼れる情報源は彼らしかいない。

 

時計を確認し、ため息をつきながらゴーバッグを肩にかける。

“さて、手元の依頼を確認するか。”

 

レストランへ立ち寄り、アロナのために甘いものを十二種類ほど買い込む。こっそり渡して、好きなだけ頬張らせるつもりだ。目的は定まっていないが、ISACとともに依頼を確認しながら歩く。それでも、明日には任務を遂行できるかもしれない。重要な情報が手に入る可能性もある。

 

今のところ、特に目を引くものはない。俺はため息をつき、シャーレへ戻る。

“ま、少なくとも生徒の一人二人はいるはずだ。”

 

椅子に戻ると、アロナが声をかけてくる。

 

S 先生、生徒さんが来ましたよ!

 

くそ、ファイルを確認し忘れた。

 

“先にファイルをざっと見ておく。終わったら入れてくれ。”

そう言って、シッテムの箱を開くと、アロナが諦めたような笑みを浮かべ、腕を広げて肩をすくめている。俺は目を回しながら画面を見る。一秒もしないうちに、ファイルが表示された。

 

すごいな、また美人だ。

 

「綺麗」──赤い瞳に銀色の髪の彼女を説明するとなると、可愛いでも美しいでもなく、「綺麗」がぴったりだった。他の情報に目を通していると、部活動の欄で目が止まる。

 

美食研究会だって?

 

ここの近くにある美味い飯でも聞けるかもしれない。

 

……いや、待て。ゲヘナか。

 

どうも嫌な予感がする。

 

ここは学園都市キヴォトスだ。俺の乏しい知識でも、ここでは何事も単純には進まないとわかる。

 

ため息をつき、アロナに彼女を通すよう指示する。スナックの入ったボウルをコーヒーテーブルに置き、書類をもう少し確認する。

“ISAC、ハルナがオフィスに入ったらセキュリティシステムを起動しろ。”

 

A 了解。

ISACの応答とともに、コンピューターの画面が切り替わる。タレットの位置がオレンジ色に変化するのを確認する。

 

ノックの音がドアから響いた。

“どうぞ。”

さっき見ていた書類を片付けながら声をかける。

 

ドアが開き、どういうわけかヒールの音が響くと、ハルナ・クロダテが足を踏み入れる。ISACが彼女の身元を確認し、背負っているスナイパーライフルがいくつか改造を施したH&K PSG-1であることを特定する。ファイルの写真では伝わらなかった雰囲気を纏いながら、彼女は俺の方へ歩いてきた。

 

「初めまして、先生。」ハルナは微笑みながら、丁寧なお辞儀をする。「ご存知ではあると思いますが、黒舘ハルナと申します。」もう一度お辞儀をしようとするのを、俺は軽く手を振って制する。

 

“気持ちは嬉しいが、別にお辞儀をする必要はない。”

 

その瞬間、銃声が鳴り響き、ハルナの微笑みがわずかに引きつる。「そう…仰るのならば…」

 

「伏せて!」とパニックに陥っている叫び声の後に、炎が飛散して聞いたことがない声が響く。

 

「ちょっ!?わっあっ!あっつ!」

 

「気をつけてくださいねイズミさん。丸焼きになってしまいますよ。」

 

“俺の名前はヴェルネス マテオ。”

騒ぎを無視しつつ、マスクを外し、グローブを取る。

 

“知っての通り、ここ出身じゃない。だから多少不慣れなことがあるかもしれないが、許してくれ。”

 

「いえ、構いませんわ。」ハルナは外で騒ぐ部員らの方へ目を向け、俺に視線を戻す。「…何か問題でも?」

 

“少しな。”

肩をすくめながらそう答える。外の騒ぎは続いている。

“とりあえず座ってくれ。俺がセキュリティを解除して、他の部員も中に入れてこよう。”

 

「ありがとうございます。」

 


 

“つまり、連邦が俺の玄関先にいると。一体何をやらかした?”

窓の外を覗き、視線をそらす。外にいる一人が俺に気づいたようで、視線を合わせようとしてくる。ため息をつき、ソファに座る四人へと目を向ける。アカリ・ワニブチとイズミ・シシドウは、俺がテーブルに置いていたスナックを勝手に食べている。ジュンコ・アカシはそんなクラブメイトを信じられないような目で見つめている。そしてハルナ・クロダテは、まるで世界には何の問題も起きてないかのように優雅に座っている。

 

「…先生。」とハルナが身を乗り出しながら話を切り出す。「美食について…どれくらいご存知でしょうか?」

 

“俺は21年生きてきた。そういう手口は10年遅い。だからさっさと話すか、それともテレビをつけて事実確認するか?”

そう答えると、ハルナは動きを止める。想像以上に即座に遮られてしまったことが予想外だったらしい。

 

そしてゆっくりと答え始める。「蛇口が開いたままであれば、先生はどうしますか?教えてくださいませ。」

 

“当然、閉める。”

そう答えると、彼女はうなずく。

 

「そうです!私はそれと同じことを美食を侮辱した者へしたまでです。」とハルナが言うと、俺は眉を上げてゆっくりと見つめる。ISACが事件の詳細を送ってきたが、俺ですら信じがたい内容だった。

“レストランを爆破したのか?”

 

「まさかこんなにも早くバレてしまうとは~」アカリが視線をそらし、顎に指を当てながらそう呟く。

 

「そう言ってる場合じゃないでしょ!?」赤毛のジュンコが叫びながら部員を睨みつける。「ここに来る前に爆破したんだよ!?しかも面接の予定を立てた直後に!」

 

Eat or Die

 

それがモットーだろう。体のどこかしらにその言葉が刻まれたパッチをつけているのだから。

“で、ここに来た理由は?俺が提供してるのはせいぜいスナックや飲み物くらいで、共有キッチンは長いこと使われていないぞ。”

 

「そうですわね…私たちはこれまで誰も口にしたことのない味を確かめるためにここへと…先生が初めて来てくださった日に協力してくださった、その方たち以外…誰も口にしたことがない"それ"を確かめるために参りました。」

ハルナはそう言いながら微笑み、帽子の影の中で赤い瞳が輝く。「そんな逸品を見て口にしないなど、美食家として恥ずべき行為ですわ。」

 

“…マジで?”

眉を上げる。

“つまり、食べ物のためだけに、レストランを爆破して法が適用されないオフィスに侵入したのか?”

 

「その通りですわ。」ハルナがそう言うと、俺は頭を横に振る。

 

“…分かってると思うが、きっちり罰を与えるぞ。いいな?”

部屋を出る。

”ここで待ってろ。”

 

数秒後、ボラチータスの残りを入れた容器を持って戻る。

“ほら、作りたてではないが、それでも悪くはない。”

 

容器の蓋を開けると、少女たちは興味津々に身を乗り出す。

“好きなだけ取れ。ただし、散らかすなよ。”

そう忠告して、俺自身もひとつ手に取る。

 

「えっいいの!?」とジュンコが瞳を輝かせ、口元に垂れるよだれを拭いながら言う。

 

“いいって言っただろ。散らかさずに食え。”

そう言って俺は再び書類に目を向けながら、警察が突入してくるのか、それとも電話が鳴るのかを待つ。

 

書類作業の最中に椅子を引く音が聞こえ、顔を上げると、ハルナが品よく腰かけていた。「素晴らしい逸品でしたわ、先生。」と褒められ、俺は軽くうなずく。

 

“子供の頃から好きだったんだ。作るのもな。”

背もたれに寄りかかりながらそう言って、テーブルを挟んで取り合いのような様相を見せる少女たちへと視線を移す。

“友達も気に入ったようで。”

 

「ええ。」ハルナはそう言いながら、俺へと向き直る。「では、面接の方を続けましょうか?」

 

“まだやるのか?”

俺は部員の方へ軽く顎をしゃくる。

“それ目当てで来たんじゃなかったのか?”

 

「そうですわ。」特に恥じる様子も見せずにそう認める。「ですが私もシャーレの一員へと加わりたいのです。他の方々はまだ賛同してはなられてはいませんが、これが究極の美食へと至る更なる一歩であると私は信じております。」

 

“ここではあまり料理はできないぞ。俺には時間がないし、必要なカロリー摂取量が多すぎる。”

そう答えると、彼女は瞬きをする。

 

「多すぎる、というのは?」ハルナが尋ねると、俺は肩をすくめる。

 

“俺はファーストレスポンダーという自然災害が発生すると、片付けを手伝ったり警備を担当したり、または先生として生存者に教育を施す職に就いていた。”

説明すると彼女はうなずく。

“その災害のひとつがウイルスのアウトブレイクだった。それはあっという間に広がり、そのおかげで色々な事が次から次へと起きてしまって最悪な状況になった。そして俺の責務も単なる"警備"から"現場指揮官"へと変わった。最終的にはワクチンを見つけ出したが、俺はそのワクチンの…三番目の被験者だった。”

最初の二つは修道女に渡した。だから三番目だ。

“そいつのせいで俺は数日間ぶっ壊れたままだった。その後の二週間はまともに動けなかったが、最終的にマシになって前よりも健康になった。それまでは、俺の体にはカクテルというものが入っていた。食べ物じゃないぞ。”

興味津々な様子のイズミに指さして警告する。

 

「え~じゃあ何なの?」そう聞いてくると俺は息をつく。

 

“大量のワクチンを一気にぶち込まれた。その結果、ワクチンは身体を強化する薬として作用した。ほとんどの病気に対する免疫がついて、病気にはかからなくなった。眠らなくても長時間動けるようになって、傷が癒える速さも倍になった。”

ヒーローモノの映画の設定でありそうだな。

“だがその影響で、必要な食事の量が激増した。いつも忙しかったから、自炊する時間なんてのは残っていなかった。”

肩をすくめ、話を締めくくる。

 

「美食への道のりは決して容易なものではございません。」ハルナは俺の困惑した表情を気にせず、微笑みながら言う。

「美食というものは単に料理や調理場所だけでは決まらず、食材の入手性と希少性、調理過程──それら全てが究極の味へと導いてくださるのですわ。」

そして最後に、微笑んでうなずく。「ですので、少し待つ程度であれば構いませんわ。食べ物だけが美食ではございませんので。」

 

俺はため息をつき、頭を軽く振る。

“まあ、確かにそうかもしれないな。じゃ、面接を続けようか。”




[訳者あとがき]
珍しいことにブルアカではキャラの名前の表記が英語でも日本語と同じ姓→名になっていて、日本語で名・姓といった表記になっている部分は原文でも元から名→姓になっています。名・姓に表記すると不思議な感じになりますね。
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