The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.7-03 シャーレ オフィス前

シャーレのオフィスの入り口にて、ユウカは深呼吸を行う。「よし…ただ先生の様子を確認するだけ、それだけよ。だから落ち着きなさい、ユウカ。」

 

再び深呼吸、そして青髪の少女はまたまた息を吸って、吐く。「うん。いくわよ。」

 

ドアを開け、明るく微笑む。「こんにちは先生。お仕事頑張っていますか?」

 

次の瞬間、全てを受け入れざるを得ず、心が崩れさってしまう。床には出前の空箱が散乱し、机の上も周囲もどこもかしこも散らかっている有り様を目撃してしまった顔も同様に崩れていった。

その渦中には二人──翼と尻尾からして一人はゲヘナの生徒だろう──彼女は不満げな表情で、ゴミを拾い集め、ゴミ袋へ詰めていた。

 

「ちょ…ちょっとなにこれ!?」ユウカが叫ぶ。二人は視線を向ける

 

「あら?」ゲヘナの生徒が口を開く。「先生へのご用事ですか?ご覧の通り、ただ今お取り込み中で──」

 

“ユウカ!”

先生が彼女へ顔を向け、あの目を細める微笑みを見せる。そしてそれが体操競技の如く、彼女の胸を躍らせるものとなった。

“ちょうど会いたかったところだ。”

 

「そ、そうですか?」ユウカは髪を整えながら答えるや否や、自身の行動に気づく。「…ってこれどういうことですか!?」

 

“財布を渡してはいけない奴に渡してしまった。”

先生はそう呟き、ゲヘナの生徒も深いため息をつく。

 

「あまりこの言葉は使いたくありませんが…だから言ったでしょう、先生。」ため息混じりにそう言った。

 

“大食い選手がいるとか…イズミの食べっぷりを表す言葉すらも見つからない状況を、どう予測しろっていうんだ。”

マテオは困惑しながら続ける。

“少なくともジュンコは自重してくれたけど、警告くらいしてもよかっただろ…”

 

「警告はしましたわ。」とまるで己が侮辱されたかのように胸に手を当て、その生徒は反論する。

 

“いいやしてない。「悪手になりますわ」だと言っただけで理由は一切説明しなかった。”

 

「あの、先生?一体何があったのですか?」とユウカが尋ねると、マテオはため息をつき、取り組んでいた書類へと視線を戻す。

 

“ユウカ・ハヤセ、ハルナ・ク──”

彼は言葉を止め、顔を覆いながら眉間をつまむ。

“すまないユウカ、こちらがさっきシャーレに加入した黒舘ハルナだ。そしてハルナ、こちらが早瀬ユウカ、あの騒動で一緒に動くことになった生徒のうちの一人だ。”

 

「早瀬さん?」驚いた様子でハルナは問いかける。

 

「黒舘って…まさか美食研究会!?」とユウカは目を細め、自分の仕事を困難なものへとさせた人物に睨みつける。「ここで何をしているの!?」

 

「美食への道は、時として奇妙な場所へと導かれるものですわ。」不満を漏らすかのように咳払いをして、そう答える。「そちらこそ、はるばるミレニアムから来てまで何をしていらっしゃるのでしょうか、会計のデーモンさん?」

 

「デ──!?」とユウカは驚愕して声を上げ、ちらりと先生へ視線を動かした後、咳払いをする。「何を仰っているのかがさっぱりですね。」

 

「…あら?」とハルナは小さく呟きながら、困惑の色を見せる。「つまり早瀬さんはミレニアムの予算を手中に収め、どんなに小さな粗が出てしまっただけでも予算を削り、部の未来を一考もせずその身を以て()()()と潰す…情け容赦のない大魔王ではないと?」

 

目を閉じ。静かに黙るユウカ。大きく深呼吸──そして宣言をする。「はい!ユウカはゲーム開発部を殺します!」穏やかな表情で──。

 

“考えが声に出てるぞユウカ。”

椅子に座ったままマテオが応じる。ユウカは驚いた様子で振り向き、ハルナの発言を必死に否定しようとする。

“ゲヘナにまでそういう評判が知れ渡っているのなら、数字には相当強いとみた。この書類を頼めるか?”

彼は二枚の書類を渡し、ユウカはそれに目を通す。

 

「これって何の書類ですか?」目を通しながらそう尋ねる。

 

“契約書みたいなものだ。”

彼はそう答える。

“俺は現在、アビドスの問題を解決するために動いている。そのためには、拠点の確保、セーフハウスの設置、弾薬箱の確保が必要だ。弾薬についてはリンが時間を取れるようになったら話をつける予定だが、セーフハウスの設営には資金が必要だ。幸い、シャーレの予算にはこうした用途の枠がある。ただ、シャーレの予算を不必要に削らないようにしつつ、アビドスへの負担も軽くしないといけない。”

 

一枚目は正当なものであると確認し、うなずく。だが二枚目は…「温泉費?」

 

“温泉開発部との契約だ。”

マテオがそう説明するとユウカは困惑しながら周囲を見回す。

“詳しい説明は出来るが、その前に説明を聞いてもここから出ないことを約束してほしい。”

彼が声を低くして更なる説明をすれば、ハルナは掃除を中断し、ユウカも、マテオの方へ視線を向けた。

 

彼は今までにないほど真剣であった。考え抜いた後、ユウカはうなずく。「約束します。」

 

「こちらも拒否できるものではなさそうですわね。既にNDAに署名したのですから。」とハルナが言う。

 

“そうだな。だが俺としては面と向かって約束する方がいい。”

彼はそう言ってハルナに向く。

“どうだ?全てを話すつもりはないが、充分理解できるはずだ。”

 

「勿論ですわ。」うなずきながらハルナは同意する。

 

“まず、アビドスの砂漠化問題については知っているな?”

書類にサインをしながら、彼は説明を始め、ユウカとハルナはうなずく。

“本当に酷い有様だった。おまけに最近までギャングが嫌がらせをしていた。今はもうしてこないが、完全に無くなったとは思えない。”

“ともかく、調査を進めるには手がかりがいる。そしてその最善手が砂に埋もれた旧校舎にあるサーバールームだ。”

 

「長期間電力が供給されていないとなると、ファイルはもう全て破損しているのでは?」とユウカが問いかけ、マテオはうなずく。

 

“普通ならそうだ。だが調査をすると電力がまだ残っているサーバールームを一つ見つけた。多分予備のものか、それとも昔の生徒会が浪費した結果の産物か…とにかく、そいつが残っていた。そこへ入ってファイルを取り出し、残ったハードウェアも持ち帰れば、少し電力を供給するだけで解析できる可能性がある。”

そしてため息をついて、こう言う。

“それが無理なら、地道な調査を続けていくしかない。”

 

「どうして温泉との関係が?」とユウカが尋ねると、マテオのマスクの下で微笑む。

 

“そう、温泉を掘るには爆発物、重機、そして穴を掘る技術が必要となってくる。アビドス本校は現在、大量の砂で埋もれている。”

そして意味深に言葉を止める。

“それで俺は部長と出会い、話をした。そしてその部長は許可を求めてきたから、誰にも迷惑をかけないという条件を付けて許可を出した。それに、温泉はセーフハウスとしても機能する。”

 

「全部胡散臭く聞こえますね…そうじゃないことは分かっていますけど…」そうユウカは呟く。「分かりました。確認してみますね。」

 

“助かる。”

マテオは安堵のため息をつく。

“よし、ハルナの掃除を手伝うぞ。”

そう言って立ち上がる。

 

「大丈夫です先生。」ハルナが口を開く。「私たちのツケが回ってきただけですので。」

 

“そうだ、俺は(ツケ)を払わせているだけだ。”

マテオはそう答え、ユウカはどんな(ツケ)なのかを考える。

 

一方その頃、アカリとイズミはシャーレの弾薬庫で弾薬を、ジュンコは武器と車両を数えていた。

 

“それに、こんな散らかった部屋では仕事ができない。まっ自分で散らかしたのなら話は別だが。”

彼はそう認め、ユウカはため息をつく。

 

「しょうがないですね…」とユウカが言う。やがて三人は作業に取り掛かり、30分で終わった。

 


 

俺たちは再びデスクへと戻り、ハルナ以外の美食研の部員は数え終えて帰っていく。身体の動きから疲労困憊であるのが明らかで、俺は彼女たちに向かって小さく頭を横に振る。あの罰は、コミュニティやディビジョンエージェントが活動する作戦地点ではよくあるものだった。なぜならエージェントはあんなお役所仕事をする必要はなくて、弾薬を頼めばすぐに貰えたからだ。そのため、弾薬を一個一個数えさせる罰はひどく退屈で、苦痛を伴うものだった。特に、途中でエージェントがやって来て弾薬を持っていくとなれば、もう一度、最初から数え直すハメになる。

 

エリス大統領というあのネズミ野郎が生きていた頃は罰を与えやすかったせいか徹底されていた。だが死んだ後は、エージェントの間では時代錯誤のものになっていった…それでもまだ残ってはいたが。

そして奴の魂はコキュートス(裏切者の地獄)へ落とされ、身体は氷漬けになったままあそこから抜け出せず永遠にいるのだろう。

 

それはさておき、ユウカが声を上げる。「先生、契約書仕上げました。」

 

“よし、送ってくれ。”

俺はそう答え、すぐにメッセージを受け取る。

“確認した。それじゃ、送るぞ。”

こうして、ファイルはアビドスと温泉開発部へと送られた。

“これで準備は出来た。あとは返答を待って、来たら動くだけだ。”

 

「アビドスにはどのくらい滞在する予定ですか?」

 

“そう長くはない。だいたい二日ぐらいか、それより早くなるかもしれないし、問題がなければもう少し滞在する可能性もある。”

通知音が鳴ると、俺は微笑む。

“温泉開発部か。承認したみたいだ。これで完了だ。”

さらにもう一つ通知が来る。今度は座標データだ。

“調査した場所の座標のようだな。”

 

「先生、コーヒーを淹れてきましょうか?」とユウカが尋ねたので、俺は座標を確認しながら頭を横に振る。

 

“いや、飲むと眠くなるって言ったのを覚えてるだろ?”

そう答える。

 

「本当に眠くなるのですか?」ハルナが口を挟む。「本来カフェインには覚醒作用があるはずでは?」

 

「珍しいことですが…」ユウカが説明する。「カフェインや他の成分の効果が真逆のものになる体質を持つ人がいるみたいです。」

 

“そういうことだ。”

そう答える。

“ソーダがあるのなら、それで。”

 

「分かりました。」ユウカはそう言いながら歩き去っていき、俺はハルナと二人きりになる。

 

“整理の進み具合はどうだ?”

そう尋ねると、ハルナは微笑む。

 

「順調でしてよ。…先生の字、拙いですわね。」

そうハルナが指摘すると俺は肩をすくめる。

“初めて見るような言語を書いてるんだ。多少許してやってくれ。”

その呟きにハルナはくすくすと笑った。

 

「もちろんですわ、連邦生徒会も許してくださればいいですわね。」書類を整理しながらハルナはそう答える。

 

“俺がやってることを考えたらリニーはそんなタイプじゃないと思うけどな。”

そう言うと、再び二人の間に静寂が流れる。

 

「せーんーせーいー!!!」と以前よりも更に怒った様相を呈して、ユウカが長いレシートを持って戻って来た。「何ですかこれは!」

 

“捨てておいたはずじゃあ…”

眉をひそめてそう言うと、すぐに、頭の中で円をドルへ換算して身が縮み上がる。

“店で注文した時のレシートだ。”

 

「これが!?」ユウカは叫んでハルナへと視線を向ける。「これ全部を美食研究会が!?」

 

「その通りですわ!」ハルナが誇らしげに言い、そしてすぐに不安げな表情になる。「そういえば、冷蔵庫の中身はもう確認しまして?」

 

“またかよ…”

そうぼやく。

 

「先生の冷蔵庫がどうしたんですか?」ユウカが心配そうに声をひそめる。

 

「銃とお酒と小麦粉が入っていましたわ。」信じられないですわというような口調でハルナが言う。「先生は一体どうするつもりでしょうか…まさか銃をカリカリに揚げて召し上がるとでもいうのでしょうか?そして、それ以外にも棚や冷蔵庫には何も入っておらず、先生はグラノーラバーとレーションバーなるものをずっと…そう!ずっと味気のないものを食べていらっしゃるのですわ!」

 

“必要なんだ。”

ここで口を挟む。

 

「先生…」とユウカは言葉を濁す。「連邦生徒会から報酬を貰ってなかったのですか?」

 

「…興味深いものですわね。」とハルナが呟き、考え事をしてるせいか表情が暗くなり、俺は止めさせる。

 

“貰ったさ。”

彼女たちがイカレたアイデアを思い付く前に俺は答える。

“ただ、時間がなかったし特に欲しいものもなかっただけだ。”

 

「…つまり、先生はずっとグラノーラバーとレーションバーだけを?」と少し気の毒そうな声で言い、俺はそのニュアンスにわずかに不快感を覚える。レーションバーだけの食生活は問題ない。

 

“ロリポップもだ。”

言葉を差し挟む。

“他にもあるが、まあそうだな。ほとんどそればかりだ。”

 

「これは美食家への冒涜行為、由々しき事態ですわ。」ハルナはそう断言する。「ですので私たちの方で早急に是正させなければなりませんわね。先生、少し出掛けても?」

 

“えっ?いいぞ。ただし、あまり騒ぎを起こし過ぎないように。”

そう答える。ハルナはうなずいて部屋を後にして、俺は再び書類の方へと戻る。

 

「本当に良かったのですか?」ユウカが尋ね、俺は肩をすくめる。

 

“さあな。だがこいつはやらないといけないし、それにハルナが問題を起こして俺が動く口実になっても悪くない。”

少し冗談混じりにそう答え、体を動かしながら伸びをする。

“さて、エンジニア部に連絡してプレートとボディアーマーの進捗を確認するぞ。”

 

電話をかける前にふと、あることに気づく。

“どうして美食研は俺の報酬の半分の分を食い尽くしたっていうのに他人事のように振る舞っていたんだ?”

 


 

“ヒビキ。”

目の前にお出しされた進捗を見つめながら、口を開く。

“これって強化外骨格(エグゾスケルトン)だよな。”

 

「そう…だね。」とそわそわしながら呟き、耳をパタつかせて目を合わせようとしない。羞恥から来たものか、期待から来たものか、あるいは他の感情から来たものか…見当がつかない。

 

“出掛けたのはせいぜい…三日で、その間に俺の要望を全部詰め込んで出来たものが強化外骨格(エグゾスケルトン)なのか…?”

ちょっとした驚きと困惑を込めながらそう聞く。

“ほんっとうに…凄いな…”

 

「ま、まだ完成はしてないから…」とヒビキは頬を掻く。

 

“素晴らしいな…”

言葉を濁す。

“でも俺が頼んだのはプレートの強化とボディアーマーの改良だったはずだが?”

 

ヒビキの目が虚ろになり口が動くと、何かに気づいたようだった。「その…胴体は守れるよ…?」

 

“俺のボディアーマーはエネルギーやEMPのことを気にせずに同じことが出来るぞ。”

そう答え、ハルナへと向く。

“で、ハルナ。肩に乗せているのは誰だ。”

 

「よくぞ聞いてくださいました!」ハルナがそう言うと、肩に乗せていた生徒を下ろす。ゲヘナの給食部部長のフウカ・アイキヨとISACが俺へ知らせてくれた。「この方がフウカさんです!」

 

フウカは無表情のままで、俺とヒビキとユウカは彼女を見つめ、俺はため息を吐く。

“どうして縛られていて口も塞がれているんだ?”

 

「それが残念なことに…」そう言い出すと、ハルナはフウカにもたれかかる。フウカの怒りが徐々に増しているのが分かる。「フウカさんは本当に…本当に料理人としては素晴らしいお方なのですが…フウカさんを取り囲む環境が才能を発揮させていただけないのです。故に、私はフウカさんの才能を輝かせるべくここへ連れて来ましたわ!」そして、ハルナは堂々とフウカを示す。なお、フウカの表情は変わらないままだった。

 

温泉開発がしたいテロリストが集まる部活に天使に悪魔にエルフにロボットに歩く犬や猫…俺は異常なものを色々と見てきた。だがこれは…

 

ヒビキとユウカへ視線を送る。そしてこればかりは生徒にとっても異常であると結論づけた。ゆっくりと距離を詰めて、ため息をつく。

“ハルナ…”

そう言うと、いきなり疲れが押し寄せてきた。

“フ、フウカを解くぞ。”

 

「どうぞ。」と言うと、ハルナはデスクへ戻って整理作業を続ける。

 

俺は紐を解くこともできたがそこまでの忍耐はもうない。

“じっとしてろ。”

そう警告しながら、腕と脚の拘束を解いて最後に口の封を剝がす。

“大丈夫か?”

 

フウカは答えなかったのでついトラウマになったのか?と疑うと、答え出す。「もう慣れているので大丈夫です。」

 

ど…どう返せばいいんだ?

 

「では。」ハルナが腕を広げ、喋り始める。「フウカさん、そのご自慢の技を是非とも私たちの前で披露してくださいませ!」

 

そしてフウカはゆっくりと銃へ手を伸ばすが、俺は優しく押し下げる。

“シャーレでは発砲禁止だ。”

 

「一発だけでいいから…先生、どうか…」そう懇願するが、俺は頭を横に振る。そしてフウカは重いため息をつきながら銃をしまい込む。

 

シャーレのオフィスに沈黙が訪れ、再び扉が開かれる。「先生!不審人物がここに人を無理やり連れ込ませていたとの通報が!」

 

ちくしょう。

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