キリノとフブキに、人身売買やそれに似た組織を運営してるわけじゃないときっちり説明したあと、もうこれ以上の理解を諦めることにした。だから今はこうして、俺はフウカと並んで歩きながら食材を探している。「先生、好きなお料理って何ですか?」
“特にない。ありあわせのものでどうにかしていくのがファーストレスポンダーっていうものだ。”
そう答え、彼女へと向く。
“こんなことに巻き込んでしまって申し訳ない。”
「もう予定調和みたいなものでしたから。」そう答えてため息をつく。顔にはあからさまな疲労が滲み出ている。「誘拐しないと思えば唐揚げにレモンをかけなかったことで人質を取ったり、そういう馬鹿みたいな理由で食堂を爆破したり、美食研究会がやってないと思えば他の人がしでかしたりしていて…」
同情せずにいられず、つい彼女の肩を軽く叩く。
“給食はどのくらい作っているんだ?確か給食部は二人だけだよな?誰かに助けてもらったりは──”
「いえ、私とジュリだけです。」と答え、頭を横に振る。「給食の方は数千食ぐらいで、不良が来たら数万食になりますね。」
“ああ神よ、多すぎます。”
そう呟くと彼女は微笑みながらうなずく。
「ですね。ただ私は認められたくてやっているわけではないので…」と言葉を濁し、どこか苛立ちを感じるようなしかめっ面になる。「でも、ごちそうさまでしたぐらいは言って欲しいですね。」
“そうだな、あまり多くはないが。”
俺はそう切り出す。
“好きなだけ買っていいぞ。アカリとイズミに散々搾り取られてしまったから、この際気にしないことにした。俺も他の店に注文していたしな。”
正直、ある程度は共感出来た。
次のコミュニティに受け入れられることを願って何時間も歩き続けるも、門前払いされてしまったという状況を想像して欲しい。
その場合、敵対コミュニティと穏便に交渉するか、エージェントに親切ではなかったという理由だけでコミュニティごと潰すか、あるいは両方を排除するかを迫られてしまう。それでも俺は手持ちの道具や些細なものを提供することもあった。
発展を後押してくれたことに感謝されることもあれば、単に侮辱されて追い出されることもあったので、フウカの事情を聞いた時は少し苛立ちを覚えた。
「先生…」フウカはふと口を止め、微笑む。「自分自身のためだけでなく、皆のためにやっているんですね。ありがとうございます。」
“気にするな。”
頭を横に振ってそう答える。
“せっかくここに来たんだし、これからのために食材も買っておこう。”
俺とフウカは市場の屋台をゆっくり回っていく。フウカは食べ物やフルーツの品質と値段を見極めながら、最適なものを選び取っていき、見事な交渉術で値切っていく。いささか高かった場合、俺も時折、手助けをする。
必要以上に高かった場合、俺は黙り込んでどこかを注視して手助けをした。要するに、フウカに勘ぐられないように人を睨みつけていた。自分自身のことを怖いとは思ってもないし、他のディビジョンエージェントからそう言われたことはなかったから、何か変な感じだった。
最終的には中々の収穫になった。「先生、食べたいものはもう決まりましたか?」
“何でもいいって言っただろ?”
そう主張すると、フウカは目を細めてわずかに拗ねる。
「そう言われても決めにくいんですよ…」と小言を言われて、肩をすくめる。
“悪いな。三、四年前に同じことを聞かれたら即答できたと思うが、その頃の俺は先生じゃなくてただの生徒だった。”
肩をすくめながらそう言うと、フウカは驚いた様子で俺を見つめる。
“何か変なことでも言ったか?”
「あ、いえ、ただその…そんなに年が離れてないとは思ってなくて…」そう言うと俺は肩をすくめる。「四年前は同じ生徒だったていうのがちょっと想像しづらかっただけです。」
“俺も先生と話していた時に同じことを思ってたな。”
エージェント時代の恩師にしろ、ブラックフライデー前に受けた数少ない訓練にしろ、俺が知っている軍の厳格な人間が昔は反抗的でやんちゃな十代だったということには全く結びつかなかった。
「スプーンとお箸どっちにします?」尋ねてきて、俺は少し呆れて笑う。
“まだここの文化には慣れてないからスプーンで頼む。”
そう答え、フウカはうなずく。
“それでフウカはシャーレに入るのか?”
「考えてはいます。」と答える。「まあ、今すぐにではなくてまた後でっていう感じですけどね。」
“じゃあ、応募することになったら、面接を早めに済ませられるようにしておく。”
そう答える。
“手作りのを食べるのは久しぶりだな…確か…”
途中で言葉を止め、いつ食べたのかを思い出そうとする。
クリスマス…だったな。略奪の心配をせずに安全に両親が外へ出て食料を買いに行けられた、最後の時だったかもしれない。活動開始からもう四年も経ったのか?俺が初めて人を殺し、血路を開きながらD.C.、ニューヨーク、シルバークリークを駆け抜けたあの時から…両親にもう一度会うために、両親がこの世界を去る前に、少しでも良い状態の世界を見せるために。ただ、そのために。
あの恐怖、あの死、あの傷、あの痛み──忠誠を誓っていない国のために、ブラックフライデーの前後問わず、俺が大切にしていた人々のために。
そのことに意味はあったのか?ヒーローになるとかはどうでもいい。ただ何か意味はあったのだろうか?俺が関わった取引は、俺がいなくても成立していたのか?俺が守ったコミュニティは、今も生き残っているのか?俺が教えた子供たちは俺との歳の差はあまりなかったが、それでも立派な大人になれたのか?
俺は、自分の居場所に誇りを持てるのか?
「──せい!先生!」フウカの声が俺を現実へと引き戻し、フウカに振り向く。
“ん?”
「大丈夫ですか?」と心配そうに尋ね、俺は瞬きで返す。
まただ。この活動の少なさが俺を考え込ませすぎる。
アビドスへ戻る予定を早めるべきか。
“ああ、ちょっと考えすぎてただけだ。”
フウカへ笑みを見せる。
“行こう。何を作ってくれるのか楽しみだ。”
そう言って歩を進め、フウカが後を追っていく。心配そうな眼差しは無視せざるを得なかった。