The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.8-04 アビドス自治区 ヘルメット団拠点

新しいバイクを手に入れた。

 

それと同時に気づいたことがある。鎮痛剤、アルコール、そして兵士の集中力を維持するための薬──これら三つは混ぜるな危険。失血したせいで頭が回らない。他の要素も相まって状況はさらに悪化している。

夜の静寂の中、バイクのエンジン音が響く。

 

ようやく拠点へと到着した。酷い有様だった。ゴミだらけの倉庫でろくな設備もない。作戦基地としては余りにもお粗末な場所だった。だが、俺の装備を持っているヘルメット団の姿は確認できる。あとは奴らを倒して、セリカの居場所を聞き出すだけだ。…その前に、少し離れた所にある戦車を片付ける必要があるが。

 

視線の端で何かを捉え、俺は小さく頷く。ISACはやるべきことを理解していた。こちらに向かってドローンが飛んでくる。

見覚えのある武器が吊り下げられている。どうやらこの世界では、配送ドローンはかなり一般的な存在のようだ。つまりはクラフトチェンバーにアクセスして必要な装備を作れば十分だったということだ。

 

ドローンから荷物が投下され、箱が開かれる。中身を見て俺は微笑む。

“ハローベイビー”

そう呟きながら、P-017ミサイルランチャー──テクニシャンを選んだときに手に入れた武器──それに手を伸ばす。得意武器ではなかったが、それでも十分な成果を出し、この武器の設計図にアクセスする資格を得た。

 

それでも、こいつがあれば十分だ。

 

「先生っ!」と誰かが俺を呼ぶ声がして、思わず身を跳ね上げる。振り返ると、対策委員会が近づいてきていた。だがその光景に俺は困惑した。

「来たよ。」シロコがそう言いながら歩いてくる。他の皆も後に続いたが、シロコの視線はミサイルランチャーに釘付けだった。

 

“シロコ…ってなんで皆ここに?”

そう問いかけると、アヤネのドローンからハッと息をのむ音が、見開かれるホシノの目、手で覆われるノノミの口元、呆然と立ち尽くすだけのシロコ。その口元は震えていて、何か言葉にしようとするも、何も出ない。

“…なんだ?”

 

「先生、血が…!」ドローン越しに指摘するアヤネ。俺は片眉を上げて返す。

 

“ああ、出たさ。”

アルコールと薬のせいで少し感情的になり、少しどもった後に皮肉っぽく答える。

“人は怪我をすれば血が出るからな。それで何しにここへ?”

 

「先生がここにいるっていう連絡が。セリカちゃんはどこ?」真剣な様子でそう尋ね、俺の全身を見回すホシノ。

 

ため息をつき、拠点を指差す。

“たぶんあそこか、それか違う所にいる。だが俺の装備は絶対にあそこだ。”

 

「何があったのですか…?」と心配そうに尋ねるノノミ。

 

“しくじった。”

そう答え、状況を説明する。

“店を出て別れた時、ヘルメット団の連中がうろついてるのを見た。セリカを探しているようだったから、狙撃地点(スナイパーズネスト)を設けて奴らの動きを待った。動いたはいいものの、Flak 41があるとは思ってもいなかった。最初の砲撃でセリカがやられかけて、俺は数人倒した後にFlak 41に集中していて、セリカは車の陰に隠れていた。”

一度ため息をつく。そして続ける。

“その時に砲撃されて、車が爆発してセリカがやられた。助けに行こうとしたが、身動きが取れずにそのまま砲撃の餌食になった。今まで経験してきた中で一番近かった。あれを喰らって生き残れたのが自分でも不思議に思うよ。ある意味いい経験になった。”

苦々しく呟き、自分の体を見下ろす。

 

皆、呆然とした表情で俺を見つめていた。俺は逆に困惑して、見返す。

“そういえばなんでここに?待機しろと言ったはずじゃ…”

 

「拠点へは一緒に向かうと言っていたからです。」とアヤネが口を開く。「それなのにいきなり先生だけで…しかも怪我をしたままで…いくらなんでも無謀です!」

 

“心配するな。”

拠点の方へ視線を向けながらそう言う。

“痛み止めは効いてる。”

それに加えて、アルコール、薬、その他諸々も。

 

“それに…”

眉をひそめる。

“こいつは俺が犯した失態だ。君たちのでもなく、セリカのでもない。俺の失態だ。もっと注意を払うべきだった。セリカをもっと守るべきだった。でも駄目だった。”

 

────レイラのように。

 

“俺がやらかしたことだ。”

ミサイルランチャーを拾い上げ、肩に構える。

“だから俺が蹴りをつける。装備を取り戻して、必ずセリカの居場所を突き止める。”

 

「ですが先生!無茶が過ぎます!すぐに私たちも──」とアヤネが言い切る前に、ISACが戦車をロックオン。俺がトリガーを引けば、マイクロミサイルが発射され、数秒後に戦車が爆発。中にいた団員たちが慌てて飛び出してくる。すぐさまM700を構え、トリガーを引く。ヘルメットが貫かれ、相手は倒れる。すぐに二人が飛び出してくるが、ボルトを回して引いて、排莢。そしてボルトを押し込む。

 

数秒後、二人も仲間の隣に倒れた。今までの経験が、射撃サイクルを極限まで短くしてくれた。

“遅かったか…突入するぞ。行く、行かない──どっちだ?”

俺はそう言い残し、拠点へと歩き出す。皆、一瞬言葉を失ったようだった。

 

だがすぐに我に返る。「待ってください!」とノノミが後ろから呼び止めれば、ホシノが前に出て、シロコが中央に位置取る。「怪我をしていますので後ろへ…!」

 

「そそ、後は任せて。」とホシノが言うが、どこか不安げな声色だった。

 

「ん、少し休んで。」とシロコも言うが、その言葉には、何か複雑な感情が滲んでいた。そして彼女はふと後ろを振り返る。

 

“断る理由はないけどな。”

そう言いながら、M700に弾を装填し、ホシノの標的に向けて発砲し、倒す。続けて、シロコの標的にも同じように撃ち込む。

“ちゃんとついてこいよ。”

思わず自慢げに言ってしまう。死にかけた後には、そういう気分になる。特に、シロコが少し驚いて振り返ったのを見たときは。アサルトライフルやショットガンを好んで使うのは事実だが、対物ライフルを持ち歩く理由は、単に設計図が手に入ったからではなく、しっかりと意味がある。

 

“ホシノは左側をキープ。シロコはホシノの右後方に。ノノミは左へ回り込め。ホシノ、左側の敵を中央に追い出せ。シロコは右側を同じように制圧しつつ、ホシノの射程外の敵をカバー。ノノミはシロコの支援に回れ。俺の装備は二階にあるはずだ。”

立ち止まり、窓に狙いを定めて発砲。スナイパーが撃つ前に倒し、すぐに次弾を込める。

“ホシノ、接近したら先陣を切れ。シロコとノノミは外で待機、戻ってくる敵に注意を。”

そのとき、スキャナーPulseが発動し、ヘルメット団の輪郭が浮かび上がる。

“素早く終わらせば、明日はセリカと一緒に柴関ラーメンへ行けれるぞ!”

 

「分かった!」

「は~い☆」

「ん。」

分かりました!

 

その合図とともに、ホシノがショットガンをぶっ放しながらバリケードを飛び越える。ヘルメット団の一人が後退し、シロコの銃撃が正確に追い込む。別の敵がシロコを狙うが、ノノミのミニガンの弾幕がそれを阻ませ、しゃがみ込ませる。ホシノもしゃがみ込み、シールドに弾が当たる音が響く。「スナイパー!」

 

“視えたっ!”

M700のスコープを覗き、スナイパーの頭部をクロスヘアの中心へ合わせ、トリガーを引く。ボルトを引いて排莢し、次の窓へと視線を移す。スナイパーが身を隠すが、別の窓から顔を出した瞬間、その頭が再び俺の照準に入る。

 

スナイパーの頭が跳ね上がる。ボルトを引きながら、近くのドラム缶の陰に身を隠す。リロードしつつ、ホシノが前進していくのを確認する。バックショット弾を次々と撃ち込み、敵を開けた場所へと追い出す。そこをシロコが仕留め、ノノミはシロコを狙う敵をミニガンで抑え込む。

 

ホシノがシールドを叩きつけて、ヘルメット団の一人を後退させる。俺はその肩を撃ち抜き、ボルトを引いて続けて胸に二発。三発目を撃つ前に相手は気絶した。

 

出来るだけ頭を狙うべきか。

 

月明かりがスコープに反射し、スナイパーが再び顔を出すのが見えた。すぐドラム缶の陰に伏せた直後、弾丸が命中する音がすぐそばで響く。顔を出した瞬間、肩を撃ち抜かれた。地面に倒れ込み、うめき声がかき消される。

 

「先生!」ノノミが悲鳴混じりに叫ぶ。だが俺は、反撃の一発でスナイパーの頭を撃つ。ヘイローがちらつき、敵は倒れる。

 

“スナイパーダウン!進め!”

周りの不安そうな視線を無視し、指示を出してリロードする。

 

アメリカでの任務と比べれば、ずいぶん楽に感じる。それだけ、対策委員会が優秀なのだろう。

 

そのとき、見覚えのある敵の姿が現れた。俺は一瞬の迷いもなく奴を倒し、対策委員会は前進する。

 

一方で俺はスマートウォッチを取り戻し、手首に装着して微笑む。その瞬間、またしてもスコープの反射が視界に入る。俺は即座に横へ跳び、銃声が轟く。同時に狙いを定めえてスナイパーの胸に二発、そして頭に一発。

 

俺のTAC-50Cだ。

 

そこから先は装備の奪還戦となり、こちらが進むにつれて敵数が少なくなっていった。

 

ボディアーマーも回収した。あとはゴーバッグさえ取り戻せば、すべてが揃う。

 

外ではシロコとノノミが待機していた。俺はM700を置き、代わりにセーフティディスタンスを手に取る。閃光弾のピンを抜き、数秒間"調理"*1してから投げる。

“グレネード!”

 

ホシノが身構え、閃光と爆音が室内を満たされれば一斉に突入する。初めにシールドを構えたホシノが右側をクリアし、俺は左側に銃口を向けてヘルメット団を制圧。そのときに見覚えのある二つの姿が目に入る。

 

ISACはいつも通り冷静沈着だったが、わずかな動きから、安堵の気配が感じ取れた。だがアロナはというと…

 

S しぇえんしぇーーっ!!

泣きじゃくりながら飛びついてきた。

S ごべんなさあああい…

 

そこには、俺のゴーバッグもあって、安堵の息を漏らしながらこう呟く。

“二人とも無事で良かった。”

そしてホシノに気づかれないように、アロナのホログラムをそっと撫でる。スリングバッグを外し、中身をゴーバッグに移しながら確認し、アロナを落ち着かせようとする。どうやら、中身はほとんど手つかずのようだった。アクセスできなかったのだろう。スリングバッグごと詰め込んだゴーバッグを背負えば、その重みとハンターの斧や母のロザリオといった宝物が鳴らす音の心地よさで、思わず微笑んだ。元の世界へとようやく戻った気がした。

 

まあ、命綱のようにしがみついて離れようとしないアロナを除けば、だが。あとでちゃんと慰めてやらないとな。ISACの姿を見る。イヤーピース越しに聞いていたのは分かっている。どうやらすでに動き始めていた。

 

“よし、少し時間がかかるが、根こそぎ強奪…じゃなくて回収してくれ。”

そう言いながら、ハイヴを取り出してリストアラーハイヴに切り替える。起動と同時に、体の傷が癒えていくのが分かり、痛みが少しずつ引いていく。

“数日後にもまだ作戦がある。アヤネ、迎えに──”

 

既に外で待機中です。

妙に圧が強い声でアヤネが割り込む。

先生、お怪我の方はあとでしっかりと医療機関の方で診てもらってください。

その声を聞いただけで表情が目に浮かぶ。

 

「おぉ~」とホシノがからかうような声を上げる。「絶賛怒られ中だね~」

 

ため息をつきながら俺はホシノの方を見る──どこか複雑な表情を浮かべていた。

“だな。しかも二人からな。”

そう言って、首を振る。

“まさかここまでやらかしてしまうとは…信じられん…”

 

いつもそうだった。

間に合わなかったからレイラを救えなかった。

間に合わなかったからキャッスルコミュニティを守れなかった。

間に合わなかったからキーナーを止められなかった。

いつだって、いつだって間に合わなかった。

 

ホシノが一瞬ためらい、それでも俺を見て言う。「先生…傷が…」

 

視線を落とすと、赤が再び広がっていた。

“すまない、こんな無様な姿を見せてしまって。アヤネと一緒に行って手当てを受けてくる。そして──”

 

「お医者さんにちゃんと診てもらってね。」とホシノが遮る。鋼の如く揺るがない眼差しで、今まで見たことがない感情が宿っていた。

"心配"が。

「ここと比べれば身体は頑丈じゃない方だし、アヤネちゃんは頼りになるけど──」

その言葉に思わず苛立ち混じりに呻いてしまう。

 

“大丈夫だ。”

そう言い張る俺に、同様に苛立ちを隠せないホシノ。そして背を向け、歩き出す。

“今はセリカを助けなければならない。まずはアヤネに診てもらって、それから装備を──がっ!”

 

突如としてヘルメット団の一人が俺に体当たりを仕掛けてきて、壁に叩きつけられた。ホシノですら驚いたようで、再び全身に痛みが駆け巡るが、本能が身体を動かす。そのまま上に乗りかかり、前腕でヘルメットを押さえつけ、喉元に拳を叩き込めばヘルメットの下からむせる音が。M9を抜き、バイザーへ一発打ち込めば、粉砕されて相手は気絶。安堵の息をついてホシノの方へと振り返り、微笑む。

“な?大丈夫だろ~?”

とは言うものの、足がふらつく。倒した敵の装備に目をやれば、セリカのアサルトライフル(シンシアリティ)があった。ISACの情報が正しければそれで間違いない。拾い上げる。これで準備は整った。

 

だがホシノは俺の言葉を信じていなかった。「先生…瘦せ我慢はもう止めてよ~…」

 

“止めれるのならもうとっくに止めてる。でもまだセリカが待ってる。この辺りを漁ってくれ。セリカが戦えるようになるまでに、使えるものは全部集めておきたい。”

そう言い残して階段を下りていく。ホシノに仕事を任せ、彼女の呼びかけを心苦しく思いながらも、無視していく。

 

そしてノノミとシロコと鉢合わせた。「先生!」とノノミが駆け寄り、俺を上から下まで見て声を上げる。「大丈夫でしたか?」

 

“ああ、ちょっとした小競り合いだった。”

そう言い切るが、明らかに信じていない表情だった。

“アヤネはどこだ?傷を診てもらわないとな。”

そう言って話を切り上げる。視線が俺の肩へと大きく集中していたからだ。そこから流れる血が、否応なく目を引かせた。そこまで深い傷ではないが。

 

「こちらです。」すぐ隣から声がした。その笑顔は、年少者にしてはまったく安心感を与えてくれないものだった。「では、こちらへ。」それはお願いではなく、命令。俺には馴染み深い口調だった。かつて付き合っていたメディックもそうだったし、その後に俺を鍛えてくれたサバイバリスト兼メディックも、まさにこんな感じだった。

 

“了解。”

素直に従い、彼女たちが乗ってきた車へと向かう。ただ、車内には慣れ親しんだタバコの匂いがなかった。それが少しだけ、物足りなかった。アヤネはすぐに救急キットを取り出す。

 

「座ってください。」と命令されて、俺は後部座席に腰を下ろし、シャツを脱いで包帯の状態を見せる。破片はすでに自分で取り除いた。リストアラーハイヴはナノドローン技術でアーマーの修復だけでなく、身体の治癒にも使える。ブースターとは違い、能力を強化するのではなく回復に特化している。脚まわりの軽傷はボディアーマーが大半の破片を防いでくれたおかげで問題ない。だが太ももの深い裂傷、腰の傷、そして目の上の切り傷、さらに肩の一部を持っていかれた銃創──それが、今の容態だった。

 

静かに、ゆっくりと、アヤネは手を動かしていた。無言のままほんのりと頬を赤らめて俺の頭と脚の包帯を交換していく。爆発で破れたジーンズの隙間から、傷が露わになっていた。その背後には、アロナのホログラムが佇んでいる。「どうして大人は…こんな無茶が出来るのですか?」

 

“きっとビックリするかもしれないが…”

そう返す。SHDでは、無茶なことが日常茶飯事だった。俺たちが請け負う任務は、他の誰にも任せられないほど危険なものばかりだった。

 

口答えしたことに鋭い視線を向けてくる。だが俺は思わず笑ってしまう。

“なんとでもなる。飯食って寝れば、すぐ元通りさ。”

 

それに加えてリストアラーを数発。本来はケミランチャーで使うが、少し工夫すれば銃創といったものにも使える。……まあ、骨折はどうにもならないが。

 

アヤネは黙って、それでも睨み続けながら応急処置を続ける。「せんせい…」

 

しばし無言のにらみ合いが続けたが、やがてアヤネがため息をつき、処置を再開する。「その…どうか…これ以上傷つくのは──」その声は震えていた「傷だらけになった先生の姿はもうみたくないので…私は──」

 

“アヤネ。”

俺はそっと、アヤネの唇に指を当てて、悲しげな笑みを浮かべる。

“言うべきことと言うべきでないことがある。でも今回は…ここで止めておいたほうがいい。じゃないと、お互い後悔することになる。”

 

俺が指を離すと、アヤネは瞬きをして、そして睨み返してきた。「無茶しないでください。」

 

“あっ!”

思わず声が漏れる。頭の包帯をほんの少しだけきつく締められた。そのまま、アヤネは黙って次の傷へと手を伸ばしていく。

 

その後、俺が見落とした傷や処置ミスをすべて直し終えると、俺は背筋を伸ばして立ち上がった。その動きにアヤネが驚くのをよそに、ゴーバッグを背から外しながら声を上げる。

“対策委員会、ついてこい!”

そう指示して、痛み止めをもう一錠、集中力維持の薬も追加で飲み込む。その間に、シロコ、ノノミ、ホシノがこちらへ歩いてくる。手には弾薬や物資が抱えられており、特にシロコの目は輝きを帯びていた。

 

“よくやった。セリカは西側、住宅街の方にいる。今日は長い一日だった。今動かなければもっと長くなる。物資は全部車に積め。”

そう告げながら、ISACが設定したウェイポイントを見て思わず頬が引きつるのを感じる。

“これはもう、セリカを救うだけの作戦じゃない。警告だ。”

その瞬間、背中のドローンが起動し、ISACが人型の姿で現れる。ドローンと共に歩きながら、俺たちが残した惨状の痕跡を記録していく。

“奴らは君たちの仲間を奪い、この地区を好き勝手に荒らし、住民の生活をさらに悪化させた。”

そう言うと、少女たちから疲労が消え、代わりに怒りと決意が宿っていく。特にホシノが顕著だった。

“アビドスの問題は、これで終わりじゃない。借金も、他の問題も、まだ山積みだ。そしてあの戦車が何よりの証拠だ。”

燃え上がる残骸を見つめながら言う。ISACはその光景を見つめ、ドローンが一枚の写真を撮る。

“ヘルメット団の背後にいる連中はこれから先、もっと厄介な存在になる。だから見せてやろう。たとえ誰が相手になろうとも、アビドスに手を出せば…”

 

言葉が途切れてしまう。少し自信がなかったからだった。その後なんとか不安を振り払おうとしたが、駄目だった。

“…いや、アビドスじゃなくて君たちに手を──”

 

「"我々"に、でしょ?」ホシノが遮る。月明かりに照らされたその瞳には、確かな決意が宿っていた。「"我々"に手を出せばどうなるか…部活には顧問が付き物だし、それにセリカちゃんを迎えに行けば、もうにゃんにゃん言ってこないからね~」

 

完全に虚を突かれた。ノノミの反応から察するに、表情に出ていたのだろう。マスクは壊れていて、顔は晒されている。「ふふっビックリしちゃった~?」

 

首を振り、こみ上げる感情を抑えるように深く息を吸う。

“ありがとう。”

笑顔で──自然と心からの笑みがこぼれた。

“本当に、ありがとう。”

 

なぜかアヤネが顔を赤らめ、眼鏡が少しずり落ちる。ノノミは目を見開き、照れたように視線を逸らして指先をいじる。シロコはじっと見つめ、ホシノはそっぽを向いて一言。「うひゃあ~…とってもヤバい笑顔…」

 

その言葉に、俺は笑い声を上げる。

“じゃあ、行くぞ。車に。”

少女たちは車に乗り込み、俺はバイクにまたがる。

 

アロナがモモトーク用の投稿を仕上げると、その内容を確認する。そこには俺たちが破壊していった光景が写っていた。

 

事実上見捨てられたことになるアビドス自治区は、数々の問題に立ち向かってきた。だが一週間が経過した今、憂うべき問題が一つ解消されることになる。

 

続いて、拠点の写真と俺たちが残した爪痕の数々が表示される。頭を振り、スマホを取り出して入力を始める。

 

  

Take this as my first lesson to all of you.
                             
全員、これを一番目の教訓として受け止めること。
 

  

Unless you're not willing to find out.
                             
ただし、本気で学ぶ意思がないのならば話は別だ。
 

  

Don’t fuck around.
                             
真に受けろ。
 

 

投稿を終えて、バイクのエンジンを吹かしながらニヤリと笑う。

先生、そのバイクはどこで?

耳元でシロコの声が響く。

 

“戦利品だ。ロボットが数体止めようとしてきたから、撃って奪った。塗装は変えないとだな。”

 

ロボ…まさかカイザー!?

アヤネが驚く声が聞こえ、ホシノの笑い声とノノミのくすくすと笑う声が続く。

盗んだのですか!?

 

“これは連邦捜査部としての正当な押収だ。シャーレの職務に基づく、やむを得ない措置だ。”

アヤネが混乱する中、ホシノが笑いながら言う。

 

うわぁお~すっごい大人っぽい言い方~

 

“言葉は真似してもいいが、行動に移すなよ。略奪はしてもいいが。”

そう言いながら、砂漠を駆け抜ける。その後ろに対策委員会が続く。

 

まだ怪我は完治してませんので後ろに……!

アヤネが言うが、俺は首を振る。

 

“いいや無理だ。現地に着いたら状況次第で戦術を変えるが、基本は突破して切り込む。”

 

ん、先生は監視支援(オーバーウォッチ)に回るべき。

ん?

つよつよスナイパーだったしね。

は?

ありがとうございます!頼りにしますね、先生!

ちょっとまっ──

医者に診てもらうまでは戦闘禁止です。

…その口調じゃ…

 

“ちょ、でも──”

 

「ダメです!」と思わず俺の体が跳ねる。横を見ると、アヤネが車を並走させていた。「本当にここまで活躍してくださったのですから、今度は私たちの番です。」

 

「そうそう!お年寄りは若者に任せなって!」ホシノが叫ぶ。

 

“俺とそんな歳変わらないだろ。さっき腰が痛いって愚痴ってなかったか?”

 

「んも~おじさんは永遠の十七歳なんだよ~」とホシノが軽口を返し、俺は頭を振る。

 

“分かったよ!”

息を吐く。M700を持ってきておいて正解だった。イキムロングスティックや自前で改造したM700カーボンでもないが、今はこれで十分だ。ただ、転送時にどのネームドが来たかは確認しておくべきか。保管庫の中身も整理しないと、ワークショップはあるか?

 

S ありますよ。

まだ俺の背後にホログラムのまましがみついているアロナがそう答える。

S 戻ったら、救急医学部に行くついでに案内しますからね。

 

“なんだって?”

俺が呟くと、アロナは続ける。

 

S 先生の治療が必要だってISAC先輩が連絡していました。

 

まあいい。やるべきことはまだ残ってる。さあ、やるぞ。

*1
通常、手榴弾は安全レバーが離されてから数秒後に起爆する。その仕組みを利用して、安全レバーを離したまま数秒間手に持って、起爆時間を調整するテクニックを指すスラングのこと。ディビジョンでは出来ない。

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