The Divide   作:粋刺@翻訳

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[作者まえがき]
編集内容:軽微な誤りを修正し、一部セクションの視点と時制を調整しました。重大な変更ではなく、過去の単純なミスの修正です。

[訳者まえがき]
上記の編集内容はチャプター9-01の投稿一時間前に気が付きました。
修正は間に合いましたので問題はありません。



Chapter 9: オペレーション:オールド・アビドス・ウィング
Chap.9-01 アビドス高等学校 保健室


翌日、いつもの時間、アビドス高校の保健室で目覚める。そばで心配そうにしているホログラムのアロナに、昨日の痛みはまだ体に残っているものの、元から何事もなかったかのように俺は微笑む。

“おはよう、腹減ったか?”

 

S 先生…わ、私…

そう言いかけたのを前屈みになって遮る。痛みが体を突き刺す。だがリストアラーがなければ更に酷いことになっていたと、包帯に巻かれた傷を見てそう実感する。

 

“アロナ。”

その言葉と共に、そっと頭を撫でる。

“大丈夫だって。ほら、生きてるだろ?”

 

S でも怪我していたんですよ!

AIが声を出せば、目元には涙が滲んでいた。

S 私が……間に合わなかったせいで……あの時バリアを展開していれば──

 

“待て、バリアが使えるのか?”

それにうなずくアロナ。言葉を失う俺。

“ど、どういうことだ?一体…何をどうしたらそうなるんだ?”

理解しようとしてみる。恐らくディフェンダードローンが近いのだろう。だが何年も改良を重ねてきたあれですら完璧なものではなかったのに、それをアロナは…一瞬で出来るのか?

 

どういう…?さっぱり分からない。たが、心強い…が…

 

今は後回し。

“まあ、それはいいとして…”

思考を脇に置く…というよりかはあまりにも突拍子もないことに処理しきれず、落ち着きながら言う。

“大丈夫って言っただろ?”

 

S でも私は何も出来なかったんです!

そう叫び、溢れ出し涙が止まらない。

S 先生の頼れるOSで助手なのに…スーパーアロナちゃんなのに…なのに…何も…

 

俺はその言葉に眉をひそめ、目をそらしながらため息をついた。

“後悔してるのか?”

そう尋ねる、だが答えが怖かった。

 

何も答えず、俺に抱きついてきた。両腕を俺の首に回して足を腰に絡め、そしてこう言った。

S いいえ。もう止められないのは分かりきっていましたから。

 

罪悪感に苛まれ、ただただアロナの背中をさする。それが真実だった。それを訓練されてきた。最悪な時期に訓練を施され、人に教え教わった生半可なエージェント。俺の行いは全てただ一つ──地獄へと繋がっている。まあ、

地獄行きになるのなら天国があるということになる。俺よりも良い人間はみんな天国に行けるはずだ。

 

それでも…

 

“アロナ、聞いてくれ。”

アロナが身を引いた瞬間、俺は言う。

“その能力は俺が使えと言うまでは使わないでくれ。”

 

S でも…

 

“アロナ、このアーマーはショットガンのスラグ弾やスナイパーライフルの弾でも耐えられるし、中に防弾プレートでさらに強度はある。だから守ってほしい。攻撃を全部防いでしまったら本当に必要な時に、俺は動けなくなる。だから……頼む。それだけは守ってくれ。”

 

お互い、視線をそらさず見つめ合い、アロナがうなずき、俺は微笑む。

“ありがとう。”

安堵の息をつく。

 

ベッドにもたれながら、ふと手首にある違和感に目をやる。長年身につけていたもの──より高性能のモデルへと換えられたはずのものがあった。そして高性能のそれを失ったときに初めて、奴の声が脳裏に響いた。

 

キーナー…

 

名前を思い浮かべた瞬間、頭が真っ白になり、息を吐き出す。そして感情の混濁からとりわけ際立つ──尊敬と嫌悪。他の誰よりも早く事態を看破し、死してなおも己の遺産を以てアメリカを救う手段を仕込んだあの男。

 

真のエージェントだった。

 

今や俺のものになった奴のスマートウォッチ──それが力を持つ奴が求めるものの遠さと力の代償を思い起こさせてくれる。アビドスの生徒たちを追い出そうとする黒幕…カイザーのように。

 

もし奴らが今回の黒幕じゃないのなら、舌を噛み切って血まみれのまま死んでやる。越権行為はすべきじゃない。だがPMCが俺の周囲で動いてるとなれば…

 

妙にそわそわする。だがここはドルインフル後のアメリカじゃない。ここはキヴォトス──法律と規則がある場所だ。それでも簡単にはいかないが。

 

自分の怪我を見ながら、昨夜の振る舞いを思い返す。

“午後の突入作戦は…参加させてもらえないか。”

 

それを肯定する声が複数、同時に響き、アヤネがカーテンを開ける──安心したようで、でも腹が立っているようだ。「作戦の延期を考えているところです。」

 

“延期は無理だ。”

過去の経験が脳裏をよぎる。

“時間をかければかけるほど、成功率が下がる。ただでさえ──いだっ!”

立ち上がろうとして激しくよろける。思っていた以上に脚の怪我は深刻だった

 

「ですが怪我が完治しきっていない今の状態では無理です。」と落ち着いて論理的に反論する。だが当然、俺は拒む。

 

“無理じゃない。とにかく俺のバッグを──”

その時、床に縛り付けられるかのような鋭い視線が飛ぶ。アヤネはゴーバッグを持ち上げるが、その重さに一瞬手が止まる。それでも、俺を見つめる視線は変わらない。

 

「意地を張るのはもうやめてください!」

アヤネの声が震える。

「本当に…酷い怪我で…私も皆さんも…心配していたんですよ…本当に…本当に酷かったから…だから──だから私──」

 

まずい、本当に泣いてしまう。まずい。

“わ、分かった!今回は支援に回る!”

 

「休んでください先生っ!」と強く言い放つ。その言葉は非常に重く、到底断れるものではなかった。アヤネの眼差しは、再び動けば今度こそ死ぬような怪我を負ったエージェントへと向けるものではなく、一人の少女として──ただただ大切な人の身を案じる眼差しだった。でも俺は、どうしようもない頑固頭の馬鹿野郎なんだが。

 

“作戦基地の準備が出来たら今度こそ、必ず休む。誓うよ。だからお願いだ、アヤネ。”

手を取りながら、懇願するように言った。

“君たちが命懸けでやっているのに俺だけ何もせずじっと立つだけなのは耐えられないんだ。だから今回は支援として動く。”

 

「せん──」

 

「もう諦めた方がいいよ。」とホシノが保健室に入ってくる。「何回言ってもどうせ現場に来ちゃうのはもう分かりきってるからさ。」

 

“おはよう”

ホシノに挨拶すると、笑顔で返してくる。

 

「やっほ~朝から元気そ~?」

 

“おかげさまで。アヤネみたいな子に心配されるなんて…”

肩をすくめて言葉を切り、視線をアヤネに向けたあと、くだけた笑みを浮かべてこう言う。

“願ったり叶ったりだ。”

 

「先生!」と叫びながら、アヤネが慌てて俺の腕を叩いてすぐに手を引く。「あっごめんなさ──」

 

“もういいって。何年も災害に揉みくちゃにされて、今さらこれぐらいでやられるほどヤワじゃない。”

手を振りながら、ため息をつく。

“で、どっちにしろ俺は無理ってことか?”

 

時計を見れば、意外なことに午前十時だった。こんな時間まで寝てたのはドルインフル前か、元カノとの…お熱い夜以来かもしれない。

 

なんにせよ残り時間は…

“七時間後か…”

 

さて…

 

どのみち皆には後でアレを明かすことになる。

“ヘリを呼んでくる。”

そう伝える。

“買い出しと必要な資材集めに行ってくる。三十分後に全員集合して、そこで作戦の説明を行う。”

 

「うへ~ブラックぅ~」とホシノがため息混じりにぼやく。「ま、分かった。他にいるのってある?」

 

“お祝いは後にしよう。”

小さく笑みを浮かべ、答える。

“それと、ホットチョコレートをもらえたらありがたい。”

 


 

柴関ラーメンにセリカの無事を伝えてから約三十分後。着替えも済ませ、対策委員会の前に立つ。

“アヤネの指示により、今夜の作戦には参加出来なくなった。そのためアヤネと一緒に後方から指揮を執る。”

 

「昨日も夜遅くまでとても頑張っていたから、先生は休むべき。」と案ずるシロコ。

 

「そうね。」と同意して、俺の怪我を見て目を逸らすセリカ。「あんなのがあってまたすぐにやるのは…」

 

“その心配、本当にありがたい。とっても嬉しいんだ。”

そう言って、ホットチョコレートを一口すする。

“でもそれでも何も変わらない。必要なのは作戦基地だ。そこから始めなきゃいけない。ヘルメット団は以前持っていなかった重火器を入手していた。そして、アビドスの土地の一部を所有しているのは──”

 

「カイザー」──その言葉を呟くホシノ。「そう…」

 

“最低最悪のシナリオだ。”

言葉を遮る。カイザー以外には思えない。

“でも今は、それが問題ではない。本校跡に残っていたデータの中に、アビドスの借金を解決できるかもしれない手がかりがある。”

みんなの目がこちらに向く。

“あくまでも「かもしれない」であることは強調しておくぞ。とはいえ、これは命令だ。アビドスで待機して休息を取れ。昨日は…本当に大変だった。”

セリカへと視線を向ける。

“特に何人かにとってはな。宿題をしたり、ちょっとした作業をしてもいい。でも、絶対に無理はしないこと。午後に向けてエネルギーを残しておく必要がある。作戦は七時間後の午後五時に開始する。必要なら弾薬を買いに行って、請求はシャーレに回せ。アヤネが戦利品の出所を調べ終わるまでは、誰も手を付けないこと。以上をもって、対策委員会は解散。”

そう伝えれば、皆目に見えて緊張をほどいていった。

 

“そうだ、マスクのデザイン、まだ答えてもらってなかったな。”

そう言うと、何人かが楽しそうに反応する。

 

そうして、ヘリパッドへ歩き出そうとした矢先。「ね…ねえ、先生?」と顔がほんのり赤くなったセリカが声をかけてきた。「ちょっと…今話せる…?」

 

“いいぞ。”

そう答え、視線を教室のほうへ向けて首を傾ける。

“話すなら個室か…”

 

「ごめんなさい!」と深々と頭を下げるセリカ。その行動には驚かされた。「私のせいで怪我をしたし…それに──」

 

“やめろ。”

そう命令し、セリカはぴたりと動きを止める。滅多に使わない"指揮官"の声。主に市民軍を訓練する時や、事態を一気に動かしたい時だけ使う声だ。そっと彼女の肩に手を置き、少し屈んで目線を合わせる。痛みはあったが、気にせず続ける。

“セリカ、俺を見ろ。”

 

ゆっくりと、彼女の瞳が俺を捉える。

“最初に銃を手に取ったとき、これから先、自分が何をしていくは分かっていた。怪我はこの仕事の"常"だ。原因が何であれ、避けられない。だがそれでも、俺は自分でこの仕事を選んだ。君を助けるように…失敗したが。”

セリカが何か言いかけるが、それを制止する。

“自分を責めても、一歩も進めない。君が大丈夫なだけで俺は嬉しいんだ。だからこそ、君の気持ちを、エネルギーを、作戦にぶつけてくれ。”

 

「でも脚が──」

 

“治る。切り傷が塞ぐまでもって一週間といったところだ。”

そう言って首を振る。

“まだ付いてるし、まだ動いてる。ちょっと不便といったくらいだ。”

 

「な、なら一緒に行ってもいい?」と予想外の申し出が。「まだ足引きずってるし、さらわれる前も全然感謝できていなかったから、だから手伝わせてほしいの。」

 

“いいのか?”

そう問いながら、彼女の背後を見ると、ノノミ、アヤネ、シロコ、ホシノの四人がそれぞれ違った表情で見守っていた。

 

「大丈夫ですよ~」とノノミがにっこり笑い、セリカは驚いて振り返る。

 

「お~アオハルぅ~」というホシノの言葉でトマトのようにセリカの顔は赤くなっていく。

 

「ずるい、私も。」とシロコが宣言、他のみんなを引き連れて歩み寄り、俺の前で満足げに息をつく。

 

「ちょ、ちょっと何──」とセリカが言いかけたが、俺はそれを遮る。

 

“さすがに多くないか?というより──”

 

「だいじょぶだいじょぶ!」とホシノが手をひらひらさせる。「弾はこっちで何とかするから、二人は先生と一緒に楽しんできてね~」

 

「た、楽しむって!?」と叫べば、セリカの顔は真っ赤になっていた。俺はため息をつく。

 

「行こう先生。」シロコが俺の腕を引っ張る。

 

「ちょっと待って急すぎ!」そして焦りながら後ろをついてくるセリカ。

 

その一方で、ノノミは手を振り、アヤネはため息をつきながら頭を振る。「先生…よろしくお願いします。それではまた後でお会いしましょう!」

 

“分かった…すぐ戻るから心配しなくていい。”

少しあきれた様子でそう返す。

 

そうしてシロコとセリカは俺と新しく手に入れたバイクをヘリコプターに載せるのを手伝ってくれた。二人は一歩でも誤ればすぐに倒れてしまうと心配しながら、俺のありとあらゆる動きに気を配っていた。

先生、何かぎこちないけど大丈夫?

 

“ああ大丈夫だ。今日はシャーレに行く。寄り道はなしだ。”

 

了解。進路設定。天気は悪くならないけど、一応シートベルトは締めて。

パイロットがそう言う中、俺はいつもとは違って横窓を見ず、セリカとシロコの間に座る。

 

“分かった。”

そう言いながらセリカに手を伸ばすと、悲鳴を上げた。

 

「スケベ──何よいきなり!?」俺は困惑しながらセリカを見る。

 

“ちゃんと締まってるか確認しただけだ。”

だが顔を赤らめて、じっと睨みながら黙ってしまった。

“本当だって。”

 

「ん、先生、私のも確認して。」シロコが胸を張り、戸惑いながらも俺は体を向けようとする。変なところに触れないように気を付けないと…

 

「ってちょっと!先に私の方を確認するんじゃなかったの?!」混乱しながらセリカを見る俺。

 

「チャンスを手放した。」セリカに睨み返すシロコ。

 

「何ですって?」とセリカは静かに詰め寄り、俺は二人の間でため息をつく。火花が散りそうな雰囲気だ。

 

楽しんでますかー?

パイロットがそう言えば、カチカチというクリック音が無線越しから聞こえる。

ちょっと待ってて。

 

数秒後、副パイロットと思しき人物が現れ、セリカとシロコのシートベルトをチェックして整えてくれる。最後に俺に親指を立てて合図をくれたので、俺も同じように返す。だがセリカとシロコの二人はどこか不満げな様子だった。

 

全員ヨシ!そういえばあのバイクはどこから?

 

“砂漠から。それはさておき、シャーレへ戻ってくれ。”

 

了解。怪我についてはクロノスに撮られたくない感じで合ってます?

 

“それで合ってる。ありがとう。”

 

こうして、シャーレに戻ることになった。




[訳者あとがき]
「目だけが光っていた」ヘルメット団が語るシャーレの先生。(シノンのバトルパスの一番下で流れてるテロップ)オウムにレスバ負けするマコト弱すぎない?
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