ため息をつき、背もたれに身体を数秒間預けるリン。連邦生徒会長の失踪から数日経った今、彼女は眉間を揉む。「まったく…一体どこへ行ってしまったのでしょうか?」
事態は既に地獄といった様子。隠蔽に死力を尽くしているものの、いつ綻びが出てしまうのかは不明。残されたメモもまた忘れてはならないものだ。
「…どうして事前にお伝えしなかったのでしょうか?どうして大人を信用出来たのでしょうか?」
答えなどなかった。だから彼女はため息を吐き、立ち上がって向かいの書類棚を開ける。
マニラフォルダの海の中、ひときわ目立つオレンジを初めて開く。他よりも分厚いことに戸惑いながらも、手を伸ばし引き上げようとする。ちょうど書類が手から滑り落ちそうになった瞬間、表紙に貼られた大きな赤い"
「これは…?」とデスクに置くリン。
これがマテちゃんの履歴書だよリンちゃん!マテちゃんって本当にズボラで履歴書も無しにいきなり面接を受けたんだよ!すごいよね!分からないことがあったらとりあえずこの書類を見ればなんとかなるよ!あとSRTほど多くないから読みやすいはず!
「どうやってこれを…?」自問するリン。頭を振り、"
これを…?」
フォルダーを開けば、眉は探しものへとひそめられる。「SHD?」
SRTの校章が盾の背景にした雄羊であるのに対し、SHDの徽章は円の中央に
それを開けば、彼女の眉が動き、口がかすかに動く。「…機密記録を履歴書代わりに提出するのならせめて機密の解除ぐらいはしてください…!」
黒塗りされた大量の書類が姿を表し、それらに示されていたタトゥーや傷跡などといった特徴的な容姿はすべてぼかされていた。写真の目元は黒塗りに、顔の下半分はマスクによって隠され、髪の色は辛うじて見える茶色以外は帽子で隠されていた。
残りのページをざっと見たが、思わず眉をひそめずにはいられなかった。
ようやく、彼女は一枚の書類に手を伸ばした。それは機密が不完全で、半分が黒、もう半分が白で、右側には"SHD人事ファイル"と記載されており、左側には不死鳥のマークと共に説明が記載されていた。
「ふむ、これが…」眉をひそめてそう呟く。やはり、写真は検閲済みだった。
先生
年齢:21
職業:エンジニアおよび教師
居住地:ヴァージニア州マーティンズビル
学歴・経歴:【削除済み】
人種:ラテン系
宗教:カトリック(宗教的慣習は従わない)
人事メモ:適応力、鋭い直感、恐怖を覚えるような命中精度、驚異的な耐久力、そして強い忠誠心と不思議なカリスマが広く知られている最年少SHDエージェント
ざっと見渡して眉をしかめるリン。大部分は黒塗りになっていたが、読み進めると二ページ目が存在することに気づいた。
マテオは幼い頃からカリスマ性とリーダーシップ、時折起こる喧嘩では力強さを発揮し、成長してもそれらは続いていった。彼の観察力はその若さにも関わらずSHDに加入出来た要因である
マテオの若さのおかげで、子供たちや同年代の人々と繋がり、慰め、関わりを持ちながら、彼らのカリキュラムは続けられて、頼れる存在になることが出来ている。これが通常は距離を取るSHDエージェントとの雲泥の差である。当初、アナリストを担当し、後方で指示の伝達や情報収集を行い、年下のコミュニティのメンバーたちにも指導・育成を施した。時折、現地調査や地図からは得られない情報を集めていた
偶然にも、マテオ・ヴェルネスはハンターの目撃情報を最初に報告した人物の一人であったが、情報は何らかの形で失われてしまった
にもかかわらず、初めはコーディネーターへと降格されたものの、若さだけではなく、その能力にある観察力や直感で多くの問題を解決していった
観察力や直感力によって発言力を大きく高め、なんのためらいもなく政治家や政府当局を批判していった。また、議論においては譲歩することや、相手の主張の穴を指摘することを恐れなかった。政府への信頼は薄く、ただ彼の家族や友人のために任務を全うしている
エージェントとして過ごした時間の中、全ては生徒たちのために彼は大量の技術や情報を得た。にも関わらず、彼の技術屋、プログラマーもしくはエンジニアとしての技術は基礎を超えることはなかった。電化製品の修理やソフトウェアのベーシックファイアウォールのセットアップ?簡単なことだ。故障した電化製品をありあわせのもので修理?これも可能だ。だが設計図以上のものを実際に作り出すことや、保存していないまた簡単に直せないプログラムは?前者は他者に任せ、後者はISACに任せていた
ある時から、現場において恐怖を覚えるような効率と残酷さで活動するようになった。まるでそのために生まれてきたかのように
リンは呻く。削除された情報が更に現れる。
戦闘が最も激しかった3年間が経過して、ヴェルネスの心境の変化は顕著であり、アナリストとコーディネーターとしての原点へと立ち戻り、コミュニティからコミュニティへと移動し、輸送ルートの確立とパトロールを行った。彼は細分化された活動を結びつけ、統合し、取引や契約が成立するにつれ、何らかの形でのコネクションやコミュニケーションを再構築した。それは異国にいるエージェントたちについても同様であった
マテオは現地でのエージェント、コミュニケーションアナリスト、そして先生として政府の再建に不可欠な存在だった
リンは唸った。削除された学歴などといった詳細もいくつか目を留めていたが、これといった証拠もなく、また見落としたものもなかった。
「成程、先生がいらしたらまた確認してみましょう。」数少ない未削除の情報を読み進めるうちに、頭は既に痛くなっていた。
[作者あとがき]
皆さんがこの内容を気に入ってくださったら嬉しいです。最近、ディビジョン関連でいくつか興味深い情報を耳にしましたが、残念ながらブルーアーカイブのアニメを字幕付きで視聴する機会がありません。本当に残念です。笑いと涙を同時に誘われました。素晴らしかったです。
さて、今回は新たな章が始まります。次回の更新は少し先になるかもしれませんが、もしかしたらアニメの第7話まで公開できるかもしれません。そうすれば他の作品にも集中できますが、これについては確約できませんのでご了承ください。
最後にちょっとしたおまけも用意しました。楽しんでいただければ幸いです。
[訳者あとがき]
次回は17日に投稿します。
人事メモはディビジョンの文体をかなり意識して訳しました。
ブルアカのプロフィール(Xじゃなくてゲーム内の方)っぽくすると多分こうなります。
高い適応力と直感の鋭さや、畏敬の念を抱く程の射撃の腕前や非常に頑丈な身体に加え、それ以外にも揺るぎなき忠誠心と不思議なカリスマをも兼ね備えている最年少のSHDエージェント。
幼い頃からカリスマやリーダーシップを発揮していき、時々起こる喧嘩では自分自身の力強さを見せつけ、成長するにつれて更に磨きがかかっていったようだ。また、あの若さでSHDに加入出来たのも持ち前の観察力があってからこそだった。
普通なら距離感を取りがちなエージェントとは違って、マテオはその若さ故に同年代の人たちや子供たちと関わり合い、支えていった。その結果、皆は勉学を続けられるようになり、信頼が置ける存在になった。
活動当初はアナリストとして後方で指示の伝達や情報収集に務めており、それに加えてコミュニティにいる年下のメンバーたちにも教え、同時に世話焼きさんにもなっていた。そして時々、現場に出て地図だけでは分からないような情報も集めていたようだ。
ある日、ひょんなことからハンターを初めて目撃して報告することになってしまったが、どういうわけかその報告内容は失ってしまった。
そのせいでコーディネーターに降格されてしまったが、若さだけでなく、その内に秘められた観察力や直感で様々な事件を解決していった。
更にはスピーチ力も身につけていき、空気に圧倒されずに政治家や政府当局を批判していった模様。また、議論の場でも譲歩や相手の矛盾の指摘もガンガン行っていたようだ。ただし政府への信頼は申し訳程度で、家族や友達の為に任務を遂行していたのだとか。
エージェント時代では多種多様なスキルや情報を身につけていき、そして生徒たちのためにフル活用していったが、エンジニアやプログラマーといった技術方面のスキルは基礎の域を出なかった。
家電の修理やソフトウェアに簡易的なファイアウォールを立ち上げるようなことは簡単に出来て、かつありあわせのものだけでも家電は直す腕前はある。ただし設計図がない物の組み立ては他の人に任せ、簡単に直せそうにないか、あるいは消えてしまったプログラムについてはISACに任せていたようだ。
そしてある時を境に、まるでそのために生まれてきたかのように、畏怖を覚える程の手際のよさと獰猛さを現場で見せつけていくようになった。
三年間も続いた苛烈な死闘の後、マテオの心境には変化の兆しが現れ、アナリストとコーディネーターという原点に立ち戻って、活動するようになっていった。コミュニティからコミュニティへと歩き渡れば、輸送ルートの確立とパトロールを行い、細々とした活動を繋ぎ合わせて一つにまとめ上げた。そして取引や契約が繋がるようになっていけば、コネクションやコミュニケーションの手段も再び作り上げていき、異国の地に立つエージェントたちとも繋がれるようになっていった。
そうしてマテオは政府の再建に必要不可欠な一員になっていった。ある時は現場で活動するエージェントとして、またある時はコミュニケーションアナリストとして、そしてまたある時は……先生として。