The Divide   作:粋刺@翻訳

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[訳者まえがき]
作者の501ar氏が拙訳を読んでいる読者の皆様のことを大変感謝しています。
改めて、拙訳を読んでいただきありがとうございます。


Chapter 10: オペレーション:ワイルドカード
Chap.10-01 アビドス砂漠


"それ"を見る前に、"それ"を俺たちは感じ取った。物理的に感じたのではなく、あくまで比喩としてだ。ここで長く暮らしているアビドスの皆は、俺よりもずっと"それ"を感じ取ったはずだ。

 

アヤネが最初からずっと運転をしており、俺はというとLMGを持ったままドアの端へと腰かけて、何か出てこないかと…見回していた。車内では誰も口を開けようとせず、縮んだバネのようにただ身を固くしてこれから襲い掛かるであろう苦難に待ち構えていた。メグでさえもこの緊張が伝わっていたようで、ただ砂の上を、車が揺れ動くだけだった。

 

その時、ホシノが口を開く。「先生」と一切の誤解が生まれないように簡潔に話し始める。「探して欲しいファイルがあるんだ。内容はね──」だがその言葉は、車が荒れた地面に乗り上げた衝撃で遮られた。

 

ホシノが言い切る前からISACは検索していて、後輩は皆、困惑しながらホシノを見つめる。

「先輩?」とシロコが。

 

「ここですね。」とノノミが、トラックの後ろでホシノと立ちながら確認する。「ですよね?」

 

「かもね。」と胸に手を当てて応じるホシノ。「先生、ISACが見つけてくれたよ。」

 

アイツがやった。

 

やりやがった。

 

//違いを痛感する静観の理解者

 

読めば読む程、合衆国に帰りたくなってきた。

“だ、だな。”

その言葉だけで精一杯だった。

 

少なくともアメリカにいた頃、俺が相手にしてきたのは無謀なPMCや危険な兵器の試作型、ローグエージェント、そして補強部隊の到着が間に合わないために、俺一人だけで解放しなければならなかった敵対勢力で満ちた都市くらいだった。

 

俺がブルースクリーンをチェックしている中、「なら──」とホシノが口を開く。

 

“全員準備しろ。奴が姿を現せば、戦うぞ。”

ホシノは驚き、全員俺の手本に続く。

 

「正気なの先生!?無理だよ!せいぜい追い払うぐらいが限界だよ!?」

だが俺はホシノを見て、頭を振る。

 

“奴に捕まるか、こちらが追い払うかの二択だ。後者の方だけが生き残れる。俺は誰も、一人たりとも見捨てない。二人も手を貸してくれるか?”

カスミとメグにそう尋ねる。二人共、失うものと得られるものがあまりにも釣り合っていない。

 

「そうだな…いいぞ。」とうなずく。「ある意味では我々のミスであるからな。だがその見返りとして…」と不敵に微笑む。「また温泉をいくつか掘らせて頂こう。」

 

「分かった。」と少し不安げに言うホシノ。「何とか勝てたら、掘らせてあげるからね。」

 

「準備OK!」

 

「そっちのせいなんだからね!」苛立ちながら武器を点検するセリカ、マガジン底部から叩き込み、チャージングハンドルを引く。

 

「えーっ!?」とメグが叫けば俺はある考えを閃く。

 

“アヤネ、ストップ!”

そう叫び、車が止まればグローブを外しながら降りる。

 

「ちょっと何やってるの先生!?衛星とかで追跡は出来ないんだよ!?」と驚くホシノ。

 

“そうかもしれない。だがそいつは音を立てているんだ。”

裾を捲り上げ、手を砂の中へと突っ込む。考えは正しかったようで、思わず微笑んでしまう。

 

振動だ。振動を感じる。だが笑顔はすぐに消えてしまう。

“…全員降りろ。”

そう伝えれば全員降りる。

“ここだ。”

 

一瞬立ち止まって周囲を見回す。荒廃した建物が並ぶ街──砂に埋もれきったアビドスの一部だったもの。道路だけがくっきりと残っていて、そうして対策委員会はマスクをしっかりと付け直して、全員集まった。

深呼吸をして、エージェント時代の俺を慰めてくれた、唯一の詩篇を小さく呟く。

 

たとい、死の陰の谷を歩くことがあっても、私はわざわいを恐れません。あなたが私とともにおられますから。あなたのむちとあなたの杖、それが私の慰めです。

 

まるで待ち続けていたかのように、何かが大地を吹き飛ばす。アスファルト、建物、車、ありとあらゆるものが舞い上がり、すぐさまひび割れていく大地へと落ちる。そして皆の視線は──リヴァイアサンの姿をした冒涜的な"それ"に奪われた。

 

"それ"は白色にオレンジのアクセントが加わったもので、これまで見てきた中では最も、あまりにも大きすぎるものだった。

俺を真っ二つに裂く牙、俺を撃ち尽くす砲撃、俺に向けて放たれるレーザー、筋肉から皮膚を剝がす程に凄惨な砂嵐──ISACはいつも通りのトーンで説明をしてくれた。

蛇の形をした"それ"は、体を揺らして、まるで眠気を振り払い、備えていた。オレンジ色の瞳が見据えられ、全員釘付けにされたかのように身動きが取れなくなる──特に俺が。

 

ヘイローがあるからだ。生徒にしかなかったものがあるからだ。どうしてあれが?

 

色はオレンジで、両側に突起が伸びており、中心には球体が浮かんでいた。

 

「こんなに大きかったっけ…先生、撤退しなくて大丈夫そう?」とホシノが気にかけてくる。

 

 

「先生?」ホシノが呼びかけてくる。だが本当に何も耳に入ってこなかった。NOAの任務以来──いや、それ以上に、初めて恐怖以外何も感じなかった。

 

NOAの時はその後にも恐怖が続いた。ピストルと壊れたアーマーだけでグレネードランチャーを持った奴に立ち向かわなければならなかった。あの戦いの恐怖と絶望──それ以上のものだった。

 

確かに俺は無謀な戦いに直面していった。ダイタルベイズンやCDC、キーナーやその部下たちとの戦いは困難を極め、そしてハンターの追跡と交戦は厳しい任務だったが、それでも生き延びた。その後に起きたブラックタスクの侵攻と、奴らが使ってきた新たな戦術と戦略への適応には疲弊してしまったが、それでもD.C.は残った。そしてこれは…

 

これまで一人で、もしくは僅かに残ったSHDテックと市民軍数人と共に軍隊を退けてきたことがある。世界やブラックタスクが送り込んできた最強最悪の敵にも立ち向かったし、海兵隊、元CIA工作員、デルタフォース、その他特殊部隊といった世界最強の部隊に壊され、再構築された人々から学び、その技術で戦ってきた。だが同時に、詐欺師、広告屋、外交官たちから、対立する者たちの間に入って交渉を行う技術も会得した。特に後者はエージェント時代の晩年で特に活用していた。

 

こんなものに備えるなんて無理だ。遠隔操作ではないからコントロールパネルを撃って止めることも出来ないし、ISACにハッキングさせるのもできない。ましてや乗り物でもないから乗務員を撃って止めるなんことも出来ない。重迫撃砲や途轍もなく強力な武器なんかも持っていなかった。

 

こんなのは今まで一度も戦ったことがない。

 

「うわぁ~先生ダメそう。」とホシノが呟き、その一言で我に返る。

 

何をボサッとしている?頬を叩いて瞬き。"物"に視線を向け、見かけよりも小さいものだと思い込もうとする。

 

“ほんっとうに、ここから逃げ出したい。”

そう認め、頭を振る。

 

「おじさんも…でも、目の前のことに集中しないとね、先生。」と言ってくれるホシノ。

 

「そ、そうよ!デ、デカいだけの蛇なだけよ!」虚勢を張るセリカ。

 

「倒そう。」簡潔に言うシロコ。

 

「ここだと活躍出来ないから、後ろに下がっておくぞ。」と走り去っていくカスミ。

 

メグに向いて、俺は眉を上げる。

“部長に付いていかなくていいのか?”

 

「うん!大丈夫!」と輝かく目にゴーグルをかけて不敵に笑えば、炎を数回噴き出す。「こっちが一番アツくなれるから!」

 

とっても"ホット"な笑顔だった。噓じゃないぞ。

 

頭を振って、俺は息を吐く。

“よし、俺たちは今ビナーに近づいている。”

そう切り出せば、ISACが輪郭を表示して、全員遮蔽物に隠れる。

“装甲は分厚く、俺やISACでも分からないような技術が使われている。前部には開いて砲撃出来る砲台が六門ある。そして俺たちのアーマーや防御を木端微塵にする砂嵐も起こせる。レーザーもあるぞ。”

 

「うぇぇぇ~…滅茶苦茶キツそう…」

 

俺は答えず、代わりにネメシスを握る。

“大丈夫だ。装甲といってもただの装甲だ。壊れるまで撃てばいい。”

 

背筋に何かが走ったかと思えばビナーが現れた時の砂埃は消えていた。音、咆哮、他の何か…何か来ると予測していたが何も来なくて、ただこちらを見据えていた。

 

戦略と戦術は似て非なるものだ。あの視線と強大な力に晒されている中、取れる戦術はただ一つ────後退だ。

銃弾が何とかしてくれることを祈り、建物を倒壊できる威力がある炸裂弾を十二分に持っているホシノや、予備の弾薬がゴーバッグにあることを考慮すれば何とかなる。とはいえ、こんなのと戦うとは到底思っておらず、かつ弾薬のほとんどは少女たちの分なので、かなり心許ないといったところだ。

そして感じる痛みが今現在置かれた状況を嫌でも認識させてくれる。だがいつものように、歯を食いしばる。

 

“俺を信じてくれるか?”

対策委員会、カスミ、メグに問いかける。

 

「もちろん!」

 

「ん。」

 

「はい~!」

 

「馬鹿にしないでよね!」

 

『温泉のために!』とカスミとメグは同時に言って俺はため息を吐く。それで十分だ。

 

“メグ、陽動を仕掛けて奴をヒートアップさせろ。カスミは支援を!アヤネは都市部へ行け。”

そう言ってスマホを確認し、顔をしかめる。

“信号妨害を受けている。連邦生徒会に連絡して、誰か雇ってこい!状況が好転さえすれば何をしてもいい!”

 

A ですが──!

 

「行って。」とホシノが静かに言う。その声には諦めの色が滲んでいた。「そんなに長くは持ちこたえられないし、どのみちビナーは動くだろうから、こっちから追うか、ビナーが都市部に行くかのどっちかになるね。」

 

“時間がない!行け!”

腕を大きく振ってそう命令する。

“俺たちがここを持ちこたえる。必要になったらこっちから合流するし、費用は連邦生徒会が工面してくれる。”

 

「シャーレじゃなくて?」セリカが尋ねるが、俺は首を横に振る。暗い衝動がこみ上げ、唸るような低い声でこう言う。

 

“それだと連邦生徒会がでっち上げにいくのか、俺直々に首を絞めにいくかのどっちかになる。こいつは比喩じゃなくて本気だぞ。”

そう言えば、対策委員会の皆は驚く。

“クソデカい蛇がいる。そんなことを見落とすわけがない。官僚制が引き起こしたミスであれば、それすなわち単なる無能だ。そして俺はその無能に罰するのに容赦はしない人のようでな。”

 

ネメシスのグリップが良くなかったら、強く握りすぎたせいで今頃壊れていたのだろう。ビナーを見るたびに言葉では表せない程の怒りの炎が激しく燃え上がっていく。

 

アヤネは何も言わず、その後に荒い息を吐き出した。

A …分かりました。ですが皆さんお気を付けて!

ほぼ命令に近い言い方だった。その声からは皆を心配している様子だった。

 

「最善を尽くしましょう~!」とノノミが陽気に応えた、無線を切る。

 

“なら、あれが移動するか増援が来るまで対策委員会は攻撃し続けろ。同じ場所に留まらずに常に動き続けて、全力をぶちかませ。”

 

全員うなずく。

“皆やることは分かるか?”

 

どんな支援をすればいい?

 

“撹乱しろ。爆薬を投げろ。建物を倒してもいい。ただし、事前に警告は出せ。”

そう命令した後、カスミの姿を捉える。

 

了解!

 

“3でいくぞ。メグ!心から暖まるような歓迎を頼む!”

 

「了解!」

 

“よし…3!”

俺は走り出す。背後の巨大なものから逃げているような感覚が一瞬だけある。普段の自分からは考えられない思考だった。とはいえそう長くは続かないが…まあ、こんな状況ならそう思っても許されるだろう。

 

嫌というほど聞いた音と共にナパームを燃料とした火炎放射器が火を噴き、銃声も混ざる。俺はバリケードを跳び越え、身を伏せる。ネメシスのデジタルスコープを覗き込み、肩にストックを当て。イヤーピースからは会話でひっきりなしだった。

 

息を吐き出し、俺はトリガーにゆびをかけ、そのまま引き続ける。内部から微かに駆動していく音が聞こえ、耳を澄ませば、微細な機械音が感じ取れる。何せネメシスは生半可な改造をしたスナイパーではない。スコープには数値が表示され、0から徐々に上昇して、電磁アクセラレータがチャージされていく。

 

側面をこんがりと焼き始めるメグ、ミニガンを唸らせるノノミ、頭部を狙うシロコ、回り込むセリカ。二方向からビナーの集中力を鈍らせていけば、背中のハッチが開かれ、砲口はメグへと向けられる。しかしその直前、ミサイルが飛び交い、目の近くで炸裂。照準が僅かに逸れて、着弾寸前のところをメグは間一髪で回避する。

 

スコープの数値が100と表示され、奴の右目に照準を合わせる。

 

バチンッという銃声が響けば、強磁性徹甲弾が頭部に命中。装甲の一部を剝がし、内部が少しだけ露出すれば、笑みがこぼれる。ネメシスはアンチマテリアルライフルではないが、電磁アクセラレータのおかげでそれに匹敵する火力を誇る。

 

だが予想出来なかったことが──奴が自分自身を"修復"し始めた。

 

奴の目はボルトを回す俺を捉える。強磁性徹甲弾の空薬莢が宙を舞い、地面に音を鳴らして転がれば、すぐに動かなければいけないと察知した。

 

バックパックに手を伸ばし、ブースターハイヴを起動する。ナノマシンが身体に着弾し、興奮剤と戦闘強化剤が血流に注入されていけば、その効果をひしひしと実感する。

 

とんでもない負担が身体に襲い掛かるぞ、これは。




[訳者あとがき]
ko-fiを開設しました。ブルアカに限らない英→日翻訳を募集中です。チップをぶち込んでくださるとありがたいです。
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