The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.10-04 アビドス砂漠

頭上にレーザーが飛び、背後から古びた建物が軋む音が聞こえれば、マテオはホシノにタックルを仕掛けるかのように担ぎ上げる。「うぅうえぇっ!?」とホシノが驚き、炎が宿ったセリカがビナーを撃つも、ビナーの大砲の射程内に入ってしまい、悲鳴を上げて後ずさる。何度も落ちていった後、マスクは地面に落ちていき、音を立てながら割れて、砕ける。呼吸を乱しながら立ち上がろうとするも、建物が今にも押しつぶさんばかりに迫っている。

 

「ひゃあっ!」と叫べば、何かが彼女の首元を掴み、道路へ横断して引きずっていく。倒壊する建物と共に塵と砂が巻き上がれば、自身の力が抜けそうになるのを感じて、深く、疲労でこもりきった息を吐き出す。「ありがとう…シロコ先輩。」

 

「ん。」そう返せば、シロコは片足を舗装に打ち付け、もう片方は古びた自転車のペダルに乗せていた。何カ月にも渡る猛練習によって鍛え上げられた桁外れのスタミナを持つとはいえ、マスク越しからでも彼女の息は大きく乱れていた。「だい…じょうぶ。」

 

ビナーとの戦闘から約一時間が経過している。砂に埋もれていない地区からここまでの所要時間は早くても約三十分。帰りも同様だ。つまりは現在のアヤネは増援を連れて向かっていることになる。だが悲しいことに…

 

皆、摩耗しきっている。弾も、体力も、考えも…ビナーを一箇所に抑えようと試みているが、すぐに逃げ出してしまい、追いかける羽目になっている。

 

「ああもう…アヤネは?」セリカが尋ねる。

 

「追加の弾薬と助けと共に来てる。」シロコが答える。

 

「良かった。」と視線を銃に挿された錆びたマガジンに嫌悪感たっぷりの視線を向ける。「ちょうどこれにうんざりしてたところ…銃の中綺麗にするのに何日かかるんだろ…」

 

調べてみると、この街にはまだマガジンや弾薬が残っている場所がいくつかあり、それらをカスミが漁り、渡していた。確かに武器の内部は汚くて、入念な手入れが必要な状態だったが、それでも大助かりであった。だがしかし…

 

辺りを見渡し、シロコは空気を吐き出す。「これ以上の弾はもう見つからないみたい。」

 

「ああもう!」と悪態をつき頭を振るセリカ。

 

A 状況は?

無線が入り、これまで長く持ちこたえてきた最大の要因である、マテオの震え乾ききった声が響く。指揮や驚異的なスタミナ、果てにはガジェットまで──作戦開始からずっと彼女たちといた彼だが、成果は果たしてどのくらいのものだろうか?

 

予測ではビナーのヘルスは残り六割程度。

 

戦闘開始から約一時間経過している。

 

メグはもう動けそうにない。申し訳ない先生、これ以上の無理はさせられない。

カスミが報告する。声からは疲れと少しの悔いが滲んでいた。

 

"先の展開を決める言葉"を放った張本人でありながら、メグは揺動を担うことに何一つ文句を言わず、それどころかむしろ嬉々としてビナーを燃やし、使わざるを得ない古くなった爆発物──不発に終わったものや不具合があったもの──を起爆させた。そんなメグの行動に、セリカはついきつく当たってしまったことに少しの罪悪感を持ち、対策委員会たちにはメグへの敬意が芽生え始めていた。

 

A メグは十二分に頑張ってくれた。俺は配置についたぞ。セリカ、シロコ、ノノミは?

 

「シロコ先輩と一緒にいるから大丈夫。ちょっと疲れてるだけ。ホシノ先輩は?」

 

A うえぇ~、可愛い後輩からこんなに心配されちゃうなんてなんだか若返った気分…

冗談を言うホシノ。だがこの戦闘によって苦しめられているのは明確だった。だが何か、もう一つの何かをセリカは聞き逃さなかった。これは…動揺?

 

きっと暑さのせいだ。

 

A 大丈夫です。

ノノミの元気な声。とはいえ疲れきっていた様子は明らかだった。

A 先生、弾幕はもう残り一回しか張れそうにないです。ごめんなさい。

 

「この自転車も長くは持たなそう。」とシロコが伝えれば、その隣には走るセリカ。その猫耳の少女は怪訝そうに自転車を見つめていた。

 

A さっき言ったように、俺は配置についた。ビナーは今ちょうどいて欲しい位置にいる。

マテオがそう言えば、シロコとセリカは何かに気が付き、目を見開く。

 

「私たちもそこに行く。」とシロコが伝えれば、マテオの安堵のため息が皆に聞こえる。

 

ビナーのすぐ隣の壁の陰に身を隠し、手と膝を休めて息を整えるマテオ。マスクはまだある。側には息を大きく荒げながら壁にもたれかかってへたり込むホシノ。「先生の…スタミナってどれだけあるの?」と信じられないといった様子で尋ねる。

 

“必要なだけ動き続けられるだけのスタミナを。”

そう答えれば背中から水筒を取り出して、一口飲んで息を吐き出す。

“ほら、ホシノ、これを。最高の状態でいてほしいんだ。”

 

「ありがと。」マスクは下げられ、そして彼女は疑いを持つが、水筒を目を向けて見開き、頭を少し振る。ゆっくりと口につけて一口大の水を飲みこんで離せば、顔が赤く染まり、マスクを上げてそれを隠す。「何回も…私を助けてくれて。」

 

“気にするな。”

そう手で軽く払い、バックアップブームスティックをリロードすると、手首を捻って閉じる彼。

“こいつを使う時は遠くには行けれない。”

 

想定よりも多い弾数で最初にビナーをスタンさせた後、マテオはメインウェポンの使用が限られており、代わりとして古くて錆び付いた武器を何度も使い潰していき、最終的に自身のソードオフダブルバレルショットガンを使わざるを得ない状況になった。そのせいでビナーとの距離を詰めなければならず──それも少女たちが近すぎると思える程までに──その心配と極度の疲労も相まって間違いを犯し続け、それを彼が補い、何度も助けていった。しかしその代償は大きかった。

 

まただ。出血している。そしてボディアーマーは穴だらけで擦り切れ、凹んでいた。

“マジか、プレートがもう無くなったか。”

声に出して言う。

 

アロナがすぐに防弾プレートが壊れてしまわないようにしてくたことは周りに伝えていない。だがしかし長くは持たず、残るはボディアーマーとアロナのバリアだけとなった。

 

「そうだ。」と口を開き、マテオの意識を引けば冷笑を向けるホシノ。「こういうのって初めてなんだ。」怪訝そうに、そう伝える。「後輩が今のおじさんの顔見たらなんて言うんだろうね。」

 

“とっとと働け?”

マテオの言葉で大笑いをして、無理矢理身体を起こすホシノ。

 

「かもね。」とうなずき伸びをしながら立ち上がる。「じゃ、いこっか。」

 

配置についたぞ先生。

うなずくマテオ。

 

“よし、判断は任せたぞ。”

 

少し後退させてくれ。

カスミのリクエストにマテオは首を縦に振る。

 

“ああ、そうだな。じゃああのサイバーチックな怪物を後退させるぞ。”

懐疑に言うマテオ。

”どうやらノノミが必要そうだな。”

 

「プレゼント~」とマスクをしまったノノミが周りに知らせれば、シロコとセリカが並び、一同は備える。

 

ヘイローのおかげで身体は守られているが、それでもこれまで受けたダメージのせいか揺らぎ始めている。また、服装も酷く、セリカのブレザーはどこもかしこも裂かれており、ノノミのカーディガンは風に飛ばされ、シャツもいくつか裂かれており、シロコのブレザーは半分が消え去っていただがブリックとISACは残っていた。吉だ。

 

とりわけ酷かったのがマテオだった。服装は血が染められ、パーカーはボロボロで、わずかに足を引きずっていた。だがそれでも、戦闘への意思はあった。

“これでみんな揃ったな。後退させるぞ。”

 

「ええ、そうね!」と確かな憤慨と苛立ちを見せながらセリカは口を挟む。「それと今のうちに自治区の砂全部払うってのもどうかしら。」

 

“まあ、それはどうしようもできないな。”

ブルースクリーンを掴みマガジンを確認する。幸い、今のところそして後に必要となっても、ひとまずこれで十分だろう。

“やるぞ。”

 

全員、疲労困憊な為か誰も不満を言わなかった。「まずは私が。」

 

Iron Horusを展開して、ホシノも加わる。「いこっか。」

 

二人は走り出し、緑の炎がノノミに収束していき、ヘイローが燃え上がると共にビナーを睨みつける。「あっちに!行ってください!」と叫べば、ミニガンの怒涛の連射がビナーを襲い掛かり、二人は徐々に怪物へと近づいていく。

 

一秒遅れて他も加わり、『ただ後退しろ』と願うのみだった。

 

ノノミが連射を止めれば、ビナーは力に押されていて、皆は緊張した面持ちで結果を見守っている。

 

何も言わないカスミ。だが少し経った後に無線が響く

 

ふむ、良い感じだな。

 

皆の尽力が軽視されてセリカの怒りが今にも爆発しようとした時、どこよりも大きなビルが連鎖爆発を起こしながら、破片という破片が飛散すると共に巨大な機械のソレを押さえつける。マテオと対策委員会は前腕を目で覆えば、ビナーが音無き咆哮を上げ、ビルが倒れ尽くす。

 

「ちょっと、まさか──」セリカが言い切る前にホシノは前に立ち、展開したIron Horusを深く突き刺した瞬間、更なる爆発が連載する。

 

それを単に"爆発"と言うのは控えめな表現だった。それはまさしく"完璧な爆発"と言えるもので、それが起こる度に塵と破片が舞い上がり、辺りの砂が吹き飛ばされていく。爆発の衝撃で地面がひび割れていくも、空は青く澄んだままのアビドスは久方ぶりの光景であった。

 

爆発の衝撃で危うく全員吹き飛ばされそうになるも、瞬時に察知してホシノの後ろに集まれば、Iron Horusに塵と破片が打ちつけ、彼女のマスクは吹き飛ばされる。ビナーのヘルスは爆発するごとに減少していき、いつまでも発生していくかのような衝撃と比べれば、爆発音などつまらないものだった。

 

そうして、次第に止んでいった。砂塵が落ち着くまではイヤーピースが遮音してくれたものの、シロコとセリカには耳鳴りが発生しており、二人以外は耳鳴りが発生していないが、十全とは言えない。だがすぐにでも動き出せる意思はある。

 

ホシノは少し握り方を変え、盾を傾ければ側部の切れ込みにショットガンを載せう。皆は気乗りしないが、彼女が支えるIron Horusを飛び越えていく。誰も言葉を発さずに静寂が続く中、各々の胸中では今にも飛び出しそうになるほど心臓が激しく胎動している。

 

その時、皆それを感じた──どこからか吹いてきた強風と共に揺れ動く砂の感覚を。

「早く私の後ろに!」ホシノは必死に叫ぶ。

 

誰も拒まず動き出す。そして何かからPulseが放たれ、砂煙の中からビナーの姿が写し出される。その瞬間、全員の心が絶望に沈む。

 

シロコは自転車に乗ったままホシノを乗せようとするも、次の瞬間には壊れてしまい地面へと投げ出される。衝撃を受けるセリカとノノミ。ホシノが助けに行こうとした矢先、自分の背後にはノノミとセリカがいることを思い出す──だが、ビナーは更なる砂嵐が溜め終わり、今にも解き放たれたることは…

 

迅速果断、シロコを担ぎ上げ、すぐさまノノミに投げ込むマテオ。彼女が受け止めれば周りは衝撃的な目で彼を見る。

砂が速さと力を持って舞い上がれば、皆の心が崩れ落ちていく。だが彼は恐怖を見せず、ブラウンの目は決意と共にただオレンジに輝いていた。そして無線から、彼の言葉が耳に入る。

“対策委員会、向こうでまた会おう。健闘を祈る。”

 

たった一つの動きで、盾を展開する彼。盾とマテオ、その両方に砂の波が襲い掛かる。辛うじて持ちこたえるホシノ、ただ歯を食いしばり、怒り、恐怖、不安──それら感情の根源にある力を引き出してでも、地面をかち割ってでも、自然災害に抗っていた。

 

────不十分だった。力不足だった。

 

その力に屈してしまう地面。砂が皆を叩き付けていき、防御の手も意識も──次第に遠のいてしまった。

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