The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.10-06 アビドス砂漠

一番目に動き出したのはムツキだった。クフフと笑えば奇妙な手榴弾を投げて、爆音が響くEMPグレネードだった。「おぉ~!たーのしー!」ビナーの身体に電流が一瞬だけ流れ、身震いする。

 

続いて二つの轟音が響く。一つは輸送コンテナの上から、もう一つはドラム缶の後ろからだった。マテオのネメシスをビナーの装甲を穿つもすぐさま修復されて、後部のハッチが開かれる。

 

カヨコの目が狭まれると、ピストルからサプレッサーを外し、狙いをつける。

 

次の瞬間、咆哮(ロア)が上がる。マテオの背筋に戦慄が走り、目に見えるオーラが周囲に放たれ、残留する。ビナーの砲台が動きに支障が出れば、カヨコは動き出す。

“何だ…”

 

S 先程のカヨコさんのは、神秘による技です。セリカさんの炎や、アルさんの弾丸もそれですね。

アロナが現れる。

 

“つまり幻覚じゃなか──くそっ。”

ネメシスの弾丸が放たれるも、何も当たらず、空気を裂くだけ。ビナーは動く。

“じっとしてろ。”

ため息交じりで呟けば、彼はボルトを操作しながら便利屋68に目を向ける。

 

「死んでください。」とどこか暗く、ショットガンのトリガーを引くことでその言葉を強調する。「死んでください。死んでください。死んでください。死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください!アル様と先生の為に死んでください!」とハルカも咆哮を上げれば、脅かすかのように睨んで、腰だめで撃ち続ける。

カチッとショットガンから弾切れを示す音が鳴れば、巨大な怪物が彼女を嚙み砕かんとする。だがハルカは意に介さず、バットのように銃を握り、ガァァァン!とホームランを打つようにビナーの頭部を強打すれば、横に逸れて砂が巻き上がる。それでも銃に傷は入っていなかった。

 

(なんてショットガンだ。あんなとんでもない強打でも壊れないしハルカ凄いぞ!)

 

少々面白がりながらもそう思い、目を見開くマテオ。

“危ない!”

警告すればハルカの元へ走り、横からタックルを仕掛ける。ビナーのレーザーが先程までいた場所を切り裂き、マテオはネメシスを完全にチャージして、顎に撃ち込む。

 

「うわあっ!せん──」と反応しようとするハルカ、だがマテオに横を引っ張られて、彼は遮蔽物に隠れる。アルの炸裂弾が再び命中。瞬間、爆発。揺動すれば、カヨコはまた咆哮を放つ。マテオはため息をつく。

 

“気を付けろ。ズタボロになった生徒は見たくないんだ。特にあのレーザーを喰らうとなれば…”

 

「あ、あっはい!」とハルカはショットガンをリロードして、再び湧きあがった活力と怒り共にビナーにありったけのものを放つ。

 

「おぉ~先生ってばハルカちゃんを引き抜こうとしてる~」と伝えるムツキ。

 

「何ですって!?」とアルが叫び、カヨコはため息をつく。

 

その時、ビナーが再びあの身の揺らし方を披露する。「伏せて!」

 

ハッチが三つ開かれ、砲台が顔を覗けばビナーはマテオ、アル、ムツキ、ハルカにロックオンする。

 

幸い、マテオは早めに警告していたおかげで三人は動けたものの、射程圏内から出られたのはマテオだけだった。他は爆発の範囲内だったため叫ぶことになるが、憤りを少し溜まっただけで、すぐさま立ち直った。「よくも──!」とハルカが口を開くが、マテオの命令の下、アヤネは救急箱を投下し、皆を癒せばネメシスがもう一度バチンッと音を鳴らす。

 

瞬間、連鎖爆発の音鳴り響く。ビナーの側面にて煙と破片が飛び散る中、マテオは遠くを見つめた。

”シロコ!”

 

「ん、対策委員会、入ったよ。」

 

更なる銃声が響き渡り、ビナーに銃弾が集中していくと共に"ヘルス"が更に減少していく

 

そして遂に、マテオのネメシスが放たれば、ビナーはよろめいたようで倒れ込み、時折身震いしだす。それを察知したマテオは目を細め、マスクの下でニヤリと笑みを浮かべる。

 

A スタンしました!攻撃を!

 

ハルカはビナーの側部に怒涛の攻撃を放ち、カヨコと共にアルは頭部に狙いを付け、ムツキがバッグを投げれば、それごと頭部を撃ち抜く。中の爆薬が炸裂し爆発が何度も続いて響いていく。ノノミのミニガン、シロコとセリカの銃撃、ホシノのピストルも後に続けば、ビナーの頭部の中が明確に見え始め、修復しようとするも、マテオはブルースクリーンを装備して狙う。

 

トリガーを引き、おびただしい数の銃弾がビナーの頭部が露出した部分を襲い、"Pulse"状態になる。

 

たとえ先進技術を駆使しようが、頑強だろうが、完璧なソフトウェア・ハードウェアだろうが────

 

ビナーの身体に電流が走り、マテオはマスクの下でニヤリと笑う。遂に妨害弾(ディスラプターラウンド)のおかげでビナーは"妨害"されたとISACはマークした。

 

────これほどまでの火力ならば、どんな防御も崩れ、これほどまでの漏れ電流ならばどんなハードウェアもショートしてしまう。

 

修復機能が作動し始めたものの身体が痙攣し、痛みで悶えて体を捻じ曲げる。

“気を抜くな!”

 

ハーッハッハッハッハッー!さあぶっ壊すぞ!

 

対策委員らは射撃を止めて、好奇心が止められないマテオは眺め、射撃をほぼ止めかける。

 

空を回り舞うカスミのドリル。暗くなっていく空を背に紅蓮の機体と白銀のドリルが煌めき、マテオの視界にはターゲットが収められていた。

 

ビナーだ。

 

スタンから立ち直り、動き出そうとした瞬間──ドリルが当たる。金属同士が削り合い叫び合い、共に亀裂が入り込む。

 

幸運にも、ビナーが後ろに少しのけぞったため、ゆっくりと押されていき砂へ押し付けられる。対策委員会が射撃を再開し、一瞬たりとも攻撃の手を緩めずに砂の中へと引きずり込ませる。不可思議なまでに長い身体や鯨の尻尾が見えたとしても手を緩めずに──それは砂漠に消えた。

 

ビナーの"ヘルス"はゼロになった。

 

それでも彼女たちは待った。銃口はビナーが最後にいた地点に向け、対策委員会が近づくも何も起きなかった。マテオが息を吞む音が聞こえ、便利屋がピクリとすれば、マテオは銃を下げ、肩を落として周囲を見やる。

 

A ビナーがエリアを離脱。

ISACが対策委員会とマテオに知らせれば、マテオは安堵の息をつく。身体を崩れ落とせばうめき声を上げ、背後にバリケードが当たって身を起こし、ため息をついてその上に座る。静かな笑い声が次第に重なり合い、彼は背もたれに寄りかかるように体を預けた。

 

無線を開くマテオ。

“皆、おわった。”

安心して言えば、身体をリラックスさせる。

“ビナーは逃げ出した。つまりこれで、作戦は成功した。”

 

皆疲れ果てていたのか、歓喜の声は一切上がらなかった。しかし安堵と達成感は確かにあった。マテオはチャンネルを切り替え、全員に繋げる。

“まさに有終の美だ。アビドスのファイルの一部をアクセス出来て、内部にある大半のデータも回収できた。これで…以上だ。俺は──うおわっ!”

マテオはシロコにバリケードごとタックルされ、砂に背中を打ち付けられる。傷跡が再び痛みを訴える。

“ちょっとまっ──ああっ!”

更にセリカが加わってくることに気付かなかった。

 

「ばか!」と叫ぶセリカ。目には涙を浮かべて弱々しく横腹を叩いていた。「ほんっとバッカじゃないの!?」

 

「無茶すぎる」と非難するシロコ、あまり人のことは言えるとは思えないが、ホシノがよろめきながら近づき、ノノミも後を追ってくる。二人とも疲労困憊の笑顔を浮かべていた。

 

「先生。」とホシノは犬──いや動物たちの柱を見れば、盾とショットガンを地面に振り落とす。「つかれた。」と言えば、ゆっくりと、前のめりになり倒れ込んだ。彼女の体重でマテオは押しつぶされる。

“おしおきか…”

 

ノノミは微笑みながら座り込み、マテオの上にもたれかかり、再び彼はうめき声を上げる。

“皆、頼むよ、せめて学校に帰ってからやってくれないか。”

 

「忙しそうだね先生~」と彼に身体を傾けるムツキ。彼は肩をすくめる。「楽しんで。」

 

“楽しめないさ。身体中アザだらけで傷もまた開き出して、おまけに新しいのした方がいいぐらいにアーマーも滅茶苦茶だ。ブルースクリーンは砂だらけでネメシスもそうだし、アヤネもカンカンだ。”

皆アヤネを見れば、腕を組んで頬を膨らませたまま待っていた。ため息をつき、彼は便利屋68に後悔の目線を送る。

“報酬を支払うのは無理そうだ。この件でリンにこっぴどく叱られないといけないし、アヤネの作戦本部設置を手伝ったり、ファイルのチェックをしてウイルスがないか確認したり、サーバールームをアップグレードしたり…やるべきことが山積みなんでな。”

身体を傾けば、寝落ち寸前だったセリカとシロコにホシノを押しのけて、ゴーバッグを手繰り寄せる。

“確か持ってきてたはず──あったあった。”

 

マガジンを取り出し、ムツキに投げ渡す。

“これを社長に、俺がしっかりと支払うまで取っておけと伝えてくれ。”

ムツキは興味を示した。

 

「ふぅんなるほどね~…じゃ──」マガジンを見れば、目は大きく見開き、口をあんぐりと開けて凍り付いた。マテオは起き上がり、対策委員会を車内へと引きずっていく。

 

“乗るか?”

そう聞けば、便利屋の少女たちはお互いを見つめ合っていた。

 

「出来れば。」とカヨコが車のボックス席に腰を下ろすと、妙に静かなムツキの隣で立ち止まった。

 

「どうかした──」とピストルマガジンにある銃弾を見ればカヨコもまた凍り付いた。「これって──!?」

 

金。純金の弾頭に真鍮の薬莢だった。

 

「こ…これは流石に受け取れない…」

 

「報酬が貰うまで取っておけばいいよ。」とありふれたピストルマガジンを握りしめてムツキは呟く。

 

ゆっくりと、ハルカとアルもトラックの後ろに入れば、それぞれが異なる理由で、先生の方をじっと見つめていた。

 

やがて車はアビドスへ走っていく。疲れていたものの、全体的には気分は上々だった。

 

車内では、何も音が発せられなかったが、シロコがとても頭のいい質問をする。「スマートウォッチ、持って帰ってもいい?」

 

「今までずーっと欲しかったんだよねスマートウォッチ。」とホシノが呟けばマテオはため息をつく。

 

S 持って帰らせてください。

マテオの膝に上に姿を構築しながらアロナは言う。

S ISAC先輩と私に関われないようにすることが出来ますし、スキャンテックも使えないように出来ます。ですが!

元気な声で付け足していく。

S 先生が助けてもらいたい場合いつでも再起動出来ます!何しろこれはサンクトゥムタワーのものではなくSHDネットワークを使っているので、仕掛けたバックドアが見つかって消されたり、何かしらの問題が起きて助けが必要になった場合でも、再起動すればすぐに生徒さんたちが対応できます!

 

何か反論になりそうなものを探ろとするも、特に何の問題も見つけられなかったマテオ。

S プレゼントとしても送れますよ!

 

最後に言った言葉は違ったが。

“分かった。”

声に出せば、少女らは喜んだ。

“ブリックとレンズは返してもらえば、それを持ってもいいぞ。それに、色も変えてもらおう。これで見た目はほぼ普通のスマートウォッチと同じになるがいいか?”

 

「いいよ~」と呟けばホシノは笑顔と共に後ろに倒れ込む。「寝させて~」

 

「ん、ありがとう。」とシロコは目を輝かせながらウォッチを見てそう言った。

 

セリカも自分のウォッチを見て微笑み、ノノミは興奮した様子で口ずさんでいた

 

さて、これからは休む時間だ。

 


 

「本来ならば敵対する生徒たちが先生の救援に向かい、彼を信頼する生徒たちと協力した、と。」黒服は呟いた。顔に浮かべた笑みとは打って変わって、その声には明らかな戸惑いが滲んでいた。「実に興味深い。」

 

黒服に質問も何もなかった。彼は"大人"だった。結局のところ、"大人"しか生徒を導けず、彼もそうした。支援でも戦闘でも、神秘を持つ生徒たちを──キヴォトス最高の神秘を持つホシノでさえをも凌駕していた。

 

そして、彼は何回も生徒たちのために自ら身を危険に晒した。

 

なぜ?

 

黒服は理解出来なかった。だが理解はどうでもよかった。今やアビドスは舞台の中心、大衆の視線がそれに注がれている。黒服はそれをチェスや将棋で例えたいが、それだとあらゆる戦線で発生している複雑な状況を矮小化してしまう。実際には何人もの"プレイヤー"が参加しているが、二人の"プレイヤー"に限定してしまうのだから。

 

ポーカー。これも正確ではないが、それでもゴルコンダがこの比喩を気に入ってくれると黒服は確信している。

 

長年にわたり、彼は望むものを手に入れるために必要となる手札を全て持ち、全プレイヤーは何らかの形で彼の手中に収められていた。プレイヤーたちは牽制し合い、アビドスは生き残り、次の月を乗り切ることに必死で、参加すらもままならなかった。その間、ディーラーはコミュニティカードをすべて自分に有利な方向に操作していた。そして今、新たなプレイヤーが参加した。

 

シャーレ。マテオ・ヴェルネス。先生。

 

その第一手は、ヘルメット団を追い出した──手を見せ技を見せ能を見せ、他者と協力する姿勢、適応力を。そして言わずもがな、実力もだ。

 

続く第二手は、アビドスの情報(ファイル)を目的とした作戦を実施した。ジョーカーを──切り札(ワイルドカード)を引いた。温泉開発部が現れ、爆発で預言者を目覚めさせ、その後には敵対しうる存在と協力して追い払った。そして手札は全て紙くずと化し、ゲームはリセットされカードは全てシャフルされ、確実だった勝利は微妙な状況に一変した。

 

今や全プレイヤーは自身の立場を再評価するべく、情報収集に躍起している。アビドスの事態に対応出来るリソースを持つ学園は、経緯の把握と、そして対応を模索している。カイザーは兵を動かし、情報収集以外にもこちらを圧倒しかねない敵に対しての陣地を固めている。そしてシャーレはその"彼ら"を見張り、アビドスはシャーレを支援している。

 

ヘルメット団との戦闘で負った怪我──戦闘不能になってもおかしくないほどのそれを彼は抱えている。なのに問題はすぐに現れる。だがそれでも戦闘への意志を見せていた。それだけでなく、シャーレは視界に映る敵以上の存在を見張っていたようだと黒服は実感していた。

 

苦笑せざるを得なかった。何年もの間、カイザーは兵器技術、大量生産能力、複数の系列企業による圧倒的な勢力を背景に、学園や連邦生徒会が官僚主義や戦略で互いに争っている間隙を縫うように、常に優位に立ってきた。両者共々自らが正しいと確信して、これを根拠としてこちらが優れていると信じている。

 

『力は正義なり』と、圧倒的な権力と影響力を以て行動を起こせると──一方は信じている。そしてもう一方は信念や個性が入り乱れた混沌で、最悪の状況下でさえも団結の意志すら示せない。

 

生徒数名と共にビナーを退けた男を目前にして、彼らはじきに真実を見つけ出す────それは真の支配者である"大人たち"は、知識と権力を以て統治することを。

 

あまねく可能性が崩れ落ちても、黒服は興奮していた。「さて、先生、次の一手は何でしょうか?ご教授ください。」




[訳者あとがき]
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