「見失ったようですね。不思議なものです。」ため息混じりで黒服は呟いた。「感服しました。」
ゲームにおいて、
最後に校舎を発った便利屋68は通信アンテナを攻撃して、三局全てを驚異的な速さで再設定した。そして現在帰路に就いている。
このことが意味すること、それはシャーレが便利屋68を雇用した。だが攻撃を仕掛けた黒幕を特定する過程の中、どうすれば通信アンテナに気を掛けられる?
当然のことではあるが、黒幕はカイザーだとマテオは把握していることについては、黒服にとっては何の疑いもないことだった。しかし、純真で希望に盲目な生徒たちは──それがカイザーではないと望んでいる。ならばどうして己が為すべき仕事を他の者に任せて、何もしていない?
理解に苦しむ。
それでもなお、便利屋を雇用した──そんな行為で、新たな機会は開かれた。問題が正しく把握しているのならば、絶大な効果になる。そして正しく活かせられるのであれば、ゲヘナの行動と合致していく。
機会が、機会が重なっている────研究に研究を重ね、思慮に思慮を重ねよ。
「ただいま!作戦は成功したわ!」対策委員会の部室に一歩入り、アルが威勢よく言えば、アヤネが振り向く。
「おかえりなさい。こちらでも通信が改善し始めましたが、どうでしたか?」アヤネが尋ねれば、ムツキが口を開く。
「それがねーメガネっ娘ちゃん…」ムツキはムッとなり、机にもたれかかる。「何も爆破できなくてつまらなかったの…」
「でも、これで全員のスマホに電波が入るようになった。」カヨコが言えば、アヤネが意見を添える。
「自治区の方には爆弾を…設置していませんよね。」暗い口調で言い残せば、アヤネは再びノートパソコンに向き直る。
一方、アルはアヤネの背後に座り、肩越しから作戦状況を確認しようとしていた。カヨコは恥じらい、ムツキは愉快になり、ハルカは困惑していた。アヤネはドローンに集中しすぎていたため、特に気に留める様子はなかった。
サンクトゥムタワーの何処か、シャーレの制服の製作依頼に目を通したリンは困惑していた。シャーレの制服は連邦生徒会の制服を男性用にしたものではあるが、素材や細かな意匠については変更点があった。
そうして読み進めていくうちに、リンは合点がいくしかなかった。結局は、マテオ先生は普通通りの調査をするようなタイプには見えず、身を守る装備が必要だったからだ。
最終的には承認をして、仕立て屋に依頼することになった。
幸いにも、事は上手く運びそうだ。
“これで終わりか…”
振り返ってぼやく。誰も追ってないことを確認する。
“振り切れたようだな。”
"振り切れた"という表現は少々大げさだが、どちらにしろ俺たちはヒフミが"グレーゾーン"と呼ぶ路地裏から離れて大通りを出ただけだ。ヒフミの言う通りだった。
法律や、そして何よりも"違法"とみなされる物品まで、キヴォトスはドルインフル前のアメリカとそっくりそのままで変な場所だ。まだ確認していないが、ここにも権利章典*1のようなものはあるのか?
このことは初めて考えついてからずっと温めているものだ。一度確認する必要がある。
それはそれとして、笑顔を浮かべてヒフミに振り向く。
“ありがとう。本当に助かった。”
「いえ、大丈夫です。」ヒフミも笑顔を浮かべる。「助けて頂いたのにも関わらず見捨てるなんて出来ませんから。」
“それで。”
俺はヒフミを観察し始めて、顎に手を当てる。
“君みたいな生徒でもトリニティで買えないものは何がある?”
話を切り出すと、全員の視線は俺から気まずい感じでひきつった笑顔を浮かべているヒフミに向かう。
“要は、トリニティやシェアゾーンでも買えるようなものの半数は、ここだと二、三倍の価格で買えるが、そのぐらい欠陥品の可能性もあるということだ。”
皆考え込む中、ホシノが明るくなる。「へぇ~面白いね。トリニティっていえば榴弾砲だよね?」榴弾砲という言葉で俺は目を見開き、唇を吸い込んで身体が硬直するが、誰にも気付かれなかった。
まあ、考えるのはここまでにしておこう。
「で、ですね…ナギサ様が指揮を執っていて演習の成績は常にトップで…」ヒフミは言葉を濁す。そう、ナギサは俺の"出来るだけ関わるな"リストか、"どんな手を使ってでも必ず排除しろ"リストのどちらかに入りかねない人物だ。キャピトル・ビル、キャッスルコミュニティ…駄目だ心がグチャグチャにされている。コニーアイランド遊園地もだ…
榴弾砲は恐ろしいものだ。
「違法なものよね、どんなのを買おうとしてたの?」セリカが尋ねる。「戦車ならトリニティので大丈夫そうだし…」そう言いながら、セリカは自身の横腹をさする。恐らくFlak41のことを思い出していたのだろう。「もう売られてないものでも探しにきてたの?」
「あ、いえ──」
「機密情報?」と興味深そうにシロコが尋ねる。
「そうじゃなくて──」
「まあまあ、一息つかせてあげてって。」とホシノは自分よりも大きな少女の肩を優しく叩きながら、微笑む。「人畜無害っぽく見せかけて本性隠してるパターンだから、化学兵器でしょ。」
「はいっ!?」
ノノミは両手を叩き、頬に当てる。「おぉ~確かに言われてみればそうですね。学園の偉い人と仲良くしているみたいですし。」
「私は──」
「ん、賢い。相手に取り入って、演習用の戦車に化学兵器をセットして、起動して、その偉い人を人質に取る。効率的。」とシロコが言えば、ヒフミは恥じらっていき反論しようとする。
「違います!決して──」
「うわひっど…」顔を歪めながら、セリカはヒフミと距離を取る。「人は見かけによらないのね…」
「あの、話を聞いてください!」
「これが外の世界…私たち、過保護な環境で過ごしてたみたい。」とシロコが呟く。
「へーきへーき。」シロコの腕を撫でながら、ホシノが言う。「なんとかなるよ。」
「そんなのじゃないですからぁ!」ようやくヒフミが言い返せた。大きく息を吸って、変なニワトリの形をしたバックパッ──もう取り出したのか。
水入りのボトル、医薬品、道具類、包帯、医薬品、弾薬、他の武器の銃弾、マガジン。着替えの服と思われるものもあった。
こんなにたくさんの物を持ち歩いている人は俺を除いて他に一人だけだ。少し多すぎてスペースを取り過ぎている気がするが。
俺のバックパックにぶら下げている物は、水筒とハンターからくすねた斧──武器にもなるし、サバイバルナイフと一緒にサバイバルツールにもなるし、懐にはカランビットを隠している。もちろん沢山の物を詰め込んでいてもバックパックを軽くできるように、服とバックパックには改造を施してある。
バックパックを極め尽くした────それは過言ではない。エージェントとして、いきなり数日間連絡が取れない状況におかしくないように常に備えていた。物の良し悪しを一瞬で見極めるようになって、ISACの有無にかかわらずに弾数を把握できるようになって、そうして生き延びてきた。
唯一俺よりも上だったのがパッチー、パトリシアだ。サバイバリストで、誰よりもずっと一緒で仕事をして、俺に訓練を施してくれた。パッチーは凄い。"ゴーバッグ無しで、持ち物が何も無くても一週間は生き延びた"レベルの凄さだったから、自分よりも彼女が上というのは、ある意味パトリシアに対する侮辱だ。
サバイバルの分野となれば、たとえ一人でも複数人でも、パッチーの右に出る者はいない。だがパッチーを知らない人からすれば俺が一番だと思われている。
それはそれとして、ヒフミが取り出したプレゼントに目を──
“すまない、それは何だ?”
ヒフミの"違法"なものを目にして、思考が完了する前に俺はそう尋ねる。
くちばしにアイスクリームが突っ込まれた鳥で、目はパニックか困惑で飛び出しそうなほど見開かれ、そして翼が…
ヒフミの二層のヘイローに視線を上げる。そして人生で初めて見た醜いすぎるものに視線を戻し、見つめる。
ヒ、ヒフミのヘイローにある翼は小さなクリーチャーからなのか?
ヒフミは頬をふくらませ、視線を俺に送り、
ドルインフルに見舞われたアメリカのように、何もかも滅茶苦茶になった状況下にでは、人はストレス解消の為に奇怪な趣味に走る傾向がある。例えばマスコット関連の殺人事件を調査している時、ハローキティ殺人事件*2のような、確か韓国で、ハローキティの衣装を無理矢理着せられた女性が長期間、毎日のように暴行を受けて…その状態のまま遺体が発見された事件のように…
詳細が思い出せない。というよりかは思い出したくない。
少なくとも、ハローキティの生みの親は自分が生み出したマスコットを虐待するようなことはしなかった、よな?
“モ、モモ?”
困惑しながら尋ねる。
“こ、これのどこにモモが?というかフレンズ要素が無くないか?”
「えっ!?」ヒフミが飛び上がる。「分かりませんか?」そして俺にバックパックを見せてくる。「ニコニコ笑顔のまんまるおめめに…」そう言いながら、甘美なる死の解放を求める死人の瞳を指差す。「なんでもパクパクたべちゃうくちばしに…」ちょっと待った「とってもかわいい翼!飛べませんけど、とってもかわいいんです!」
“す、すまないが、ただ…”
驚きのあまりついどもってしまう。
“雑食──鳥は雑食性じゃないはずだろ!それにそれのどこが"フレンズ"なんだ?むしろ威嚇しているようにしか見えない!”
「モモフレンズ博士じゃないのにどうして知ったようなことを言うんですか!」ヒフミが頬を膨らませる。対策委員会は面白がって、お互い意味ありげに向き合う。「ペロロ様は環境に悪いものを食べるからフレンズです。」
“毒でも食べるのか?これみたいに。”
ヒフミは絶句して、睨みつけた。
「取り消してください今の言葉!一回だけなんです汚いものを食べたのは!番組内では一番かわいいんですペロロ様は!」
“そうなのか?何を──”
「まあまあ。」ノノミが間に入る。「ヒフミちゃんもモモフレンズが好きなんですね。」
「ノノミさんもですか!」目を輝かせながらヒフミが言えば、二人は意気投合していった。俺とホシノとセリカは困惑していた。
「…先生、あれって暗号?それとも年を取りすぎたからついていけないだけ?」ホシノが聞けば、俺は肩をすくめる。
“シネマティックユニバースとかパラレルワールドとかもしもの世界とかの概念にはもうついてこれなくなった。”
そう認める。後ろにいたセリカは複雑な表情を浮かべ、ノノミでさえもすっかり熱中しきったヒフミの対処に苦戦しているようだった。
「まあ…こういう可愛いのにホシノ先輩はハマったことはないし、先生はそもそもそういうのに惹かれるタイプじゃなさそうね。」セリカがそう呟けば俺は目を逸らす。
俺はこういうのには熱中したことはない。だがいとこはマイリトルポニーが大好きで、俺が遊びに来たときはいつも一緒に見ていた。だが、大人になってもパワーレンジャーに熱中していた。いつもオープニングで盛り上がっていた。
“さて、ここについては物知りなようだ。案内してくれるか?”
「確実に黙らせる方法がある。」とシロコが銃に手を伸ばせば、ホシノの目が危険に感じるようなぎらつき方をする。
「頭いいねシロコちゃん。」
「トリニティ生を誘拐するために来ていませんよ。」とアヤネがすぐに止めされば、二人は落ち込む。
「えー?」とへたれこむホシノ。「つまんなーいの。」
一方シロコは、「ヒフミ、これを銃に巻いて。」と汚れた包帯を手渡す。「ぱっと見は汚いけど、実際は綺麗。」シロコが言えば、ヒフミは仕方なく受け取る。
「あ、はい。どうしてですか?」ヒフミが尋ねれば、シロコはうなずく。
「ヒフミの助けがいるから。ある場所を探しているけどそこへの手掛かりが分からない。」漠然とした説明をシロコがすれば、ヒフミはうなずき、微笑む。
「分かりました。手伝いますね。でもどうして包帯を?」そう聞きながら、ヒフミは自身のエンフィールドL85A2アサルトライフルに包帯を巻き付けていく。その武器は多分、M4やM16よりも信頼性があると思うが、イギリスの武器だ。だからエージェント時代では一度も見たことがない。学園名と特定に繋がる恐れがある校章を隠し終えると、シロコはうなずく。
「ん、これで仲間か人質になった。」
「はいぃ!?」とヒフミは驚いて叫べば、アヤネのドローンが近づいてくる。
「つまりはですね…私たちはある情報を探しているのですが、この辺りのことをよく知らなくて、それでヒフミさんの力が必要という訳です。」
「あっ!」とヒフミは笑顔を浮かべる「そういうことだったんですね、では、喜んで!」
シロコが垂れるが、恥を持っているわけではない。アヤネはヒフミとの無線の接続を開始した。対策委員会らは自分と同じような生徒だけどここに無理矢理連れてこられて、俺は保険としての存在であると──今のところヒフミはそう思っている。状況が一変するまではそう思ったままだろう。
“よし、別々に動くぞ。”
そう言って皆に向けてうなずく。
“やることは分かるな?”
「分かってるよ~。」ホシノが言えば、ヒフミは案内し始めるが、背後に心配の眼差しを送る様子が見えた。
「あ…この人は大丈夫なんですかね?」と俺のことを案ずる声が聞こえる。
「あんだけ言い争ってたのに今になって心配するの…?」セリカが尋ねるが、皮肉で言っているつもりではない。
「そんな、別に傷つけるつもりはなかったんです。」ヒフミはどこか照れくさそうに認めます。「それに悪い人じゃない気がしたので、でもちょっとアグレッシブといいますか…それでも…」言葉を探すかのように、言葉を切らす。「…信じられそうでした。」
鼻で笑うホシノ。「なら心配しなくていいよ。何かあったとしても、逆にこの人を止めようとした方を心配しちゃうからね。」
聞き入るのを止めて、マスクの下で微笑んだあとに、俺は自分の方の行き先へと向かう。ショッカーパンチに手を乗せる。邪魔しようとする奴らがいれば──頭にショッキングな事実か、銃弾を撃ち込まれることになる。
俺が選んだバーはこれといった特徴はない店だったが、ブラックマーケット基準では驚くほどに綺麗だった。そしてそれ以上に、盗聴される心配がなかった。
中に入り、少しリラックスする。癖で一歩一歩静かに踏み込めばカウンター席に腰を下ろす。バーテンダー──ロボットだ、俺を見て「ご注文は?」と尋ねた。
“セブンアンドセブン。”
ここにもあるといいのだが。
ありがたいことに、バリスタは何も聞かずにウイスキーと7UPか、もしくは7UPだと俺が思い込んでいるものを取り出した。
そうして、息を潜めてこう呟く。
“ISAC、カメラにアクセス出来るか?”
| A 了解。 |
ISACが答えると、バーのセキュリティシステムを簡単に突破した。スキャンテックがISACブリックと連携すると、アロナが姿を現して興味深そうに前のめりになるが、一瞬アロナの服装を見過ごしそうになった。
いつもの青い制服を着ているが、眼鏡をかけていて、首にはバンダナを巻き、SCHALEと書かれた青い帽子をかぶっていた。
一体どこで…
| A ECHO検出。イベントを再構築中。 |
ISACが言えば、バーテンダーがドリンクを出して、俺がマスクを動かして顔の下半分だけを露出すれば、バーテンダーは驚いた。そしてカクテルを一口飲む。
味わいとアルコールの風味をしばらく楽しむ。ビールやワインをそのまま飲むのは好みではないが、酒の味が全く感じないカクテルはどうだ?格別だ。
それはさておき、周囲に注意を払えば、ISACは日付と出来事のリストを作成している──"怪しげな取引"のリストを、特にカイザー関連のものを。
もう既に取引されていたのなら、俺が取引場所に足を運んで調査する。だが今日明日行われるとなれば…そうだな、便利屋の仕事がまた増えることになる。
しかし、アビドス砂漠では依然として数多くの武器取引が行われている。情報を精査してカイザーに脅しをかけれたが、俺のスタイルじゃない。ニューヨークや、D.Cや他の場所でも、こういった状況では説得を通して穏便に事を進めて、俺が持つ強みと合理性を以て、向こうの考えの方が良いと相手に納得させる方が好きだ。大人のように、外交で進めていく。
だがカイザーのような奴らはどうする?
気付かれることなく追い込ませて、そして報復をするとなれば、自身の立場が崩れてしまうような状況にさせる。
そうすればこちらの善意を飲み込むか、被害者になるかの二択を迫られる。
侵略側でも、兵士でも、傭兵でも、自衛を試みる者でも敵でもない──被害者だ。
カクテルを口に運ばせ、口元に浮かびそうになる冷酷無比な笑みを隠す。
結局のところ、俺が出来ることとしては、犠牲になった者たちの跡を残すしかない。
アビドスにて、ムツキは興味深そうに身体を前に乗り出す。「それにしても…トリニティのいい子ちゃんの方がうちらよりもよっぽどブラックマーケットに詳しいなんてね…」
「それに加えてティーパーティーしか知り得ないようなことにも…」カヨコも同じく、興味深そうに身を乗り出していた。「精通していた。」
アルとハルカは食べ物の買い出しで出かけているため、部屋の中は二人だけだ。ほどなくして、刻一刻と合流する時間が近づけばカヨコのスマホが鳴る。彼女の目は画面に向けられると、大きく見開かれ、スマホを顔の前に運んだ。
「ん?どしたのー?」とムツキも画面を見れば、ある種の楽しげな笑みを浮かべる。「わーなんか場所がたくさん出てるけど何?」
「今日の仕事の続き。」カヨコの説明にムツキの笑顔は眩しくなる。「先生が帰ってきたら一度相談しよう。」
そうして、合流する時間となった。