The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chapter 13:給料日
Chap.13-01 ブラックマーケット 闇銀行


様々な世界にいた連邦所属のエージェントとして、これだけは自信を持って言える──たとえ全てが地獄に堕ちたとしても、銀行強盗はやめろ。経済が崩壊したとしても、他にいくらでもやりようがある。

 

ただし、D.C.、ニューヨーク、シルバークリーク、その他多くの地域で生き延びた人としてならこうだ──クソくらえ。

 

エージェント時代、俺は多くのことから教訓を得た。システムが崩壊していく様を目にして、今まで信頼していたそれがどれだけ薄っぺらかったものだったのか。本来は社会の再建のために働くべき人々が、実際には真逆の存在だったことを。そして上層部が現場を全く気にかけていなかったという衝撃の事実にも、いつ間にか慣れてしまった。だからこそアビドスの少女たちには共感出来る──特にあの事実を体験したらからこそ。

 

とはいえ、シロコと共にホール内に潜入してから、俺の笑顔は一度も消えなかった。

“カメラ。”

そう言いながら指差すと、シロコの視線がそれに続く。

 

配置に着きました。

ヒフミが言う。マスク代わりの紙袋で声が籠っていて、スキャンテックにはブレーカールームにいるヒフミが表示される。

ワイヤーはどれを切ればいいですか?

 

“アヤネに聞いてくれ。”

曲がり角に身を隠し、カメラが通り過ぎるのを待つ。

“アル、着いたか?”

 

着いたわよ、先生。

アルの声は緊張で張り詰めていたが、同時に興奮と期待が滲んでいた。目を輝かせている様が想像できる。

試しに何か言ってくれないかしら?

 

A アンクル、スリー、レッド、聞こえるか?

無線端末に向けて呟く。

 

先生~クリスティーナって言ったじゃ──

 

やめて。

セリカが割り込む。初めて出会った時を思い出す声色だ。時が経つのは早いな。

 

うへ~配置に着いたよ。

 

シロコの後に続いていき、セキュリティルームにたどり着く。ショッカーパンチを起動し、静かにドアを開ける。微かにきしむ音がすれば、テーザーの準備をする。

 

警備員二人、楽勝だ。

 

スイッチを動かして、一人目の首筋にテーザーを当てる。ヘイローが点滅して、身体が硬直していく。音の正体を見ようと二人目が身体を向けようとする。

 

だが完全に振り向く前に、後ろから脚を蹴って一人目が気絶して倒れると、すぐに二人目に飛びかかってヘルメットを力づくで無理矢理外し、それで頭をぶん殴ってよろめかせる。頭を掴み、机に叩きつければ、気絶して倒れ込んだ。

 

やりすぎだって?ああそうだ。

 

息をついてシロコにうなずく。部屋に入った狼耳の少女が結束バンドで拘束すれば、俺は無線で喋る。

“よし、サンドマンとウルフは配置に着いた。待機しろ。”

 

銀行強盗の計画を立てる才能がシロコにはある。数少ない情報からあそこまで爽快で感動するようなものに仕上げて、こうして実行出来た。「サンドマン、準備は?」

 

“ちょっと待ってくれ。”

そう言ってカメラを通り抜ける。

“さてと…見つけた。”

 

サーバールーム──情報の宝庫、それだけで微笑んでしまう。

“いいか、選んだ名前には全て意味がある。明かりが消えたら、ヒフミとシロコはバッグに金を詰めて、ノノミとホシノは人の動きを制御して、セリカは捨てさせた銃を拾う。”

 

"徹底的に盗み尽くしたい"は冗談だと思ってたよ。

ホシノが呟けば、俺は軽く笑う。

 

“便利屋68は揺動を、アヤネは作戦指揮だ。皆分かったか?”

 

皆、確認すれば、俺はうなずく。

“よし。”

マーシレスを取り出して、セーフティを解除する。

“セーフティを解除しろ。いいか、暗くなったら名前は呼ぶな。ヒフミ、君に任せるぞ。”

 


 

銀行の外、屋上にてアルは闇銀行の周囲を見渡して、偽札が詰まったバッグを隠した。「カヨコ、ハルカはどこ?」不安も隠そうとする。この作戦が失敗すれば、ブラックマーケット全体を敵に回すことになるからだ。間違いは許さない。

 

身が震え上がるようなことだ。だが…

 

ほんっっっっとうにかっこよすぎるわ先生!どうすればあれだけのことを怖がらずに出来るのかしら!後悔もしてないなんて本当に信じられないわ…

 

そう、彼の風貌は彼女がアウトローと思うようなものではないかもしれないが、そんなことはどうでもよかった。やる事なす事全て、存在自体そのものが求めていたものだったからだ。

 

「い、います。アル様。」友人が口を開き、ムツキは耳まで裂けるような悪魔のような笑みを浮かべる。

 

「今までどこにいってたの?」アルの質問に、ハルカの恥ずかしそうな表情は影がかった歪み切った笑顔に変わった。

 

「ただアル様の命令通りに動いていました…今しかないと思ったので。」

 

アルはただ瞬きをして、その言葉の意味を理解しようとしていた。「わか──」

 

明かり、落とします。

ヒフミが声をかけると、全員が静まり返り、舞台の幕開けに期待して待つ。

 


 

商売は常に銀行の中で繰り広げられる。客は現金の引き出しや預け入れを行い、ローンの金利に嘆き、様々な手続きを行う。

 

それは何の変哲もない、いつもの一日だった。

 

瞬間────スピーカーからアナウンスが流れる。「お客様の皆様へ、大変ご不便おかけして申し訳ございませんが──」その時、消灯し始める。

 

「なんだあっ。」

 

「おい、どうなってんだ?」

 

スモークキャニスターがぶつかり合えば、空気が破裂するような音が響く。気を取られた者たちは閃光弾に視聴覚を奪われる。

 

その時、銃身が回り出す音が混沌を切り裂き、四方八方に銃弾の雨が降り注ぐ。煙が立ち込める中、マスクやヘルメットを装備していない者は中央に、装備している者は外部に追いやられて、ものの一分足らずで制圧された。

 

予備電源が起動して電灯が復旧する。依然として部屋全体はキャニスターから噴出された煙で充満されているが、入口の様子は目視できる。言い換えるとなれば、そこには額に数字が示された色とりどりのバラクラバを着用した五人組の姿があった。

 

未だに意識が残っていた者は事態に気付き、ただ呆然としていた。

 

青い"2"のバラクラバの少女はおもむろに天井に銃口を向け、発砲する。「強盗!武器を捨てて床に伏せて!」

 

「ここはウルフちゃんの言うことを聞いた方がいいよ。」ホシノ、またの名を"アンクル"。包帯が巻かれた武器で一人の客の顔に突き付けて、床に伏せさせる。「今はワンワン吠えてるけど、下手したらガブっと痛い目にあっちゃうよ~」

 

「何がウルフだ──!」意識を失っていなかったマーケットガードの一人が言い返そうとする。

 

だが何の躊躇いもなく、シロコは銃口をガードに向け、トリガーを引く。すぐさま他も撃ち始め、一秒足らずで哀れにもマーケットガードは銃弾の波に呑まれてしまい、ヘイローは消えて気絶してしまう。

 

「早く床に伏せなさい!」セリカ、またの名を"レッド"の叫び声が響く。

 

「皆さ~ん?」ノノミ、またの名を"スリー"が問いかける。「レッドちゃんの名前の由来、分かりますか?それはですね…顔を真っ赤にしている時に見ている"もの"からきているんです。ほら、今もお顔は真っ赤っかになってますよ~」

 

「それ今やる話じゃないでしょスリー!」レッドがツッコミを入れて、スリーはくすりと笑う。

 

「スリーは三年間も逃げ続けていることからつけた。アンクルはおじさんから。」シロコが言う。

 

「うへ~」と、逃げようとするロボットにアンクルはショットガンを向ける。「どこ行くの?」

 

「ひえぇぇぇ~」と叫ぶ人質たち。水着団らは顔を見合わせて、うなずく。

 

「怖いでしょ。でもうちらのリーダーたちはもーっと凄いよ。」アンクルが言えば、突然煙の向こうからいくつもの銃声が響く。「一人は極悪非道の悪逆無道、全ては血で喉を癒すため。」まるで語り部にでもなったかのように、ショットガンを手に持ちながら歩き回る。「瞳の灯火が揺れ動き、消え去り、悶え苦しむ姿にしか悦を見出せない…」靴音が聞こえ、ホシノは大きな笑みを浮かべる。

 

「生気すらも消え失せた視線の前には、激励などただ無力。」スリーに代わる。「その歩みには、ただ痛みと苦しみが残るのみ。お菓子を頬張る子供のように心の底から享楽すれば、敵う者はいない。」と言うと共に決めポーズをする。

 

戦々恐々、紙袋の穴からは霧散する煙。それは純真無垢な姿の靴に切り裂かれ────遂にリーダーの姿が現れる。

その黄色の瞳からは光が鈍く放たれ、血を渇望しきっていた。その一挙一動には、悔恨などなかった。

 

「それがファウスト────今から皆さんの元に苦しみが訪れます☆」笑顔と共に、スリーが締めくくる。

 

ヒフミ──"ファウスト"の目は群衆を見定め、銀行員に留まる。追われると考えていた彼は身を固くしていた。

 

その時、それが聞こえた──激しい戦闘と銃声が。「暴虐に耽る一方で…」ウルフに代わる。彼女の目は興奮でぎらついていた。「他のリーダーと比べて動きに無駄がある。ファウストが力任せで溺死させるとするなら、彼は死にゆく者たちの涙で息を詰まらせる。」その情景が、僅かに残った者たちの心が揺れ動く。

 

「それは存在自体が血を欲しているようなもの。彼自身は欲していない。」微笑むアンクルに代わる。「夢にも悪夢にも現れて、監視して、夢を知れば、"もたらす"ためにどこからともなくやってくる。」

 

その時、重々しい足音が響き渡り、煙の中から大柄な人影が現れる。迷彩柄のパーカーにタンのパンツにブーツ。包帯が巻かれ、サプレッサーが装着されたAK-Mを背負い、目元が白く塗られた防弾マスクで顔は完全に覆われており、人々は震え上がった。彼は店長の身体を引きずっており、意識はまだ残っていたものの彼は気にも留めずに金庫室に直行する。誰も目を合わせようとせず、恐怖で人質の一人が悲鳴を上げる。

 

「それがサンドマン────誰にも悟られずに、砂のように風と共に消え去ります♧」スリーが締めくくれば、ウルフとファウストがサンドマンの後を追う。銀行員は必死に何度も何度も警報器を叩きつけていたが何も起こらなかった。他も同じように警報器を叩きつけるも、やはり何も起きなかった。

 

「お~い。」とアンクルが気だるげに声をかける。銀行員たちが見上げると、そこには末恐ろしいスリーのミニガンが回り、身体は芯の底まで凍り付く。「そういうのいらないから。」

 

恐怖が伝播し、弾丸を撃ち込まれる銀行員たち。彼らの叫び声はぴたりと止んだ。

 

一方、店長を引きずっていたサンドマンは無理矢理彼の身体を起こさせる。

“ここで合ってるか?輸送記録と現金両方、全部ここにあるな?”

すすり泣く店長を見下しながら、マテオは尋ねる。

 

「はい!わた──」必死に声を上げるも、金庫に頭を叩きつけられてしまう。金属が激しくぶつかり合う音と凹んだオートマタの頭部に、マスクの下、ヒフミは顔を歪めた。

 

“開けろ。”

眉をひそめながら、冷酷に命じるサンドマン。店長は指示に従い、扉を開ける。そして振り返れば、サンドマンの姿は消えて、代わりに銃をつきつけたファウストとウルフがいた。

 

「開けて。」銃口で背中を押し付けながらウルフが命令すると、店長は弱々しく泣き崩れた。

 

一方、サンドマンはマスクの下、興奮からニヤリと微笑みながらサーバールームへ向かっていた。

“レディ?”

ISACがうなずき、彼は部屋に入る。

 

A 了解。

マテオはサーバー内の情報をアップロードし始め、ISACはダウンロードしていく。

 

Eメール一つ見ても、カイザーを徹頭徹尾調査しても損はないような内容だった。

 

これが世に出れば、間違いなくカイザーは報復をする。だがアヤネとISACが監視システムを掌握している以上、カイザーは証拠を掴めない。彼の手に更なる情報が渡れば、カイザーをより止めやすくなる。

 

何度も何度もブラックタスクに壊滅状態にまで追い込まれ、どんなに奮起しようが常に後手に回るディビジョンのように。

 

彼は許すはずがなかった。結局いつものように、机上でも、戦場でも、頂点に立つのだ。

 

マネージャーはその間、ウルフとファウストがバッグに現金に詰め込んでいる手伝いをしていた。「私ってああいう風に見られてます…?」

 

「あれはアンクルとスリーが提案した。」平然としながら指を指すウルフ。「サンドマンは関わっていない。」

 

「でも──」とファウストが言い切る前に、突然ウルフが店長を撃る。ファウストの言葉は遮られ、店長は床に倒れ伏してしまい、彼の逃亡計画は失敗に終わった。「あっ!」と店長を助けようと、ファウストは不格好な動きで札束の山を倒して、床一面に広がってしまう。

ファウストの冷酷無比な視線が見上げた店長を突き刺し、侮蔑するように札束を投げつけ、バッグに入れろと手で合図した──彼が泣き出す様に楽しさを見出すかのように。「流石ファウスト、血も涙もない。」ウルフがうなずき、確認を取るために一杯になったバッグをレッドに投げる。「店長を急かして。」

 

「まあ…いいですか…」ファウストの言葉に、身も心も凍り付く店長。「もうすぐ終わりますからね。」

 

哀れなほどに、店長の咽び泣く声は激しくなり、震えた手でバッグを詰め込んで、ファウストに差し出す。「これは差し上げます!だからどうか命だけは!命だけはうばわないでくらさぁい!!」

 

懇願が終わる前に、サンドマンが間に入り、バッグを一つ取って詰め込み始める。誰にも気付かれないように細心の注意を取りながら──彼は自分のバッグにも札束をいくつか忍び込ませて、ヒフミにも手渡す。

“お前の分だ。”

そう言い残し、出ていく。ウルフが続いていき、ファウストも後を追う。店長の咽び泣く声を気にせずに歩けば、奇妙な物音が聞こえ、全員振り向けば、店長が取り残されたまま閉じる金庫の扉にたじろぐ。

 

「…本来のプランじゃないけど。」とシロコが呟く。

 

“これでプラスマイナスゼロだ。”

そう指摘するサンドマン、視線の先は現金で一杯になったバッグ複数個──そのうちの一つはかつてアビドスでの作戦で使用したダッフルバッグだった。

“行くぞ。”

 

ファウスト及びウルフから別れるサンドマン。三人共にバッグを手にして外に出る。「イーグル、着陸した。」とウルフはホシノ、ノノミ、セリカにバッグを渡す。

 

「これで全部ね?なら行くわよ!」とセリカはそそくさと歩き出そうとする。

 

「これにて終わり!」とアンクルが言えば、スリーが現れる。

 

「以上!覆面水着団のクリスティーナでしたお♧」そしてウルフが人質に銃を向ける。

 

「妙な真似はしないで。」そう命じてウルフは後退していく。

 

最後にファウストが残った。「本当にごめんなさい!」と人質に頭を下げて、後退していく。「どうか良い一日を過ごしてください!ありがとうございました!」

 

その時、照明が消える。

 

バッグを持っていたサンドマンは裏口から出て走ってそう遠くない位置にある屋上へ向かい、そこで監視していたアルの目が輝いているのを見て思わずくすっと笑ってしまう。

“楽勝だったぞ。さあ。”

ダッフルバッグを手渡す。

“偽札と混ぜろ。早く。”

 

「え、ええ!」とアルはうなずく。

 

「くふふふ~おっけ~」とムツキは口元を隠していた。「面白くなりそう~」

 

“よし、あそこで落ち合うぞ。それじゃ。”

彼は屋上を降りていき、便利屋は言われた通りに混ぜていく。

 

対策委員会の元へ走るマテオを凝視していたハルカ。彼が離れていくと、彼女は笑い始め、作業をしていた便利屋三人が彼女に振り向く。「これで…」

 

「ハルカ?どうしたの?」アルが気にかける。

 

「あの銀行が存在しているせいで先生は怒りました。」振り返りながら、ハルカは歪んだ笑みを浮かべ、手には起爆装置を持っていた。「なので二度とそんな真似をさせないようにします。」

 

アルの瞳孔、ムツキの笑み、カヨコの目の開き──いずれも大きくなる。

 

「ハルカ、ダメ──」

 

起爆装置が押された。

 

大爆発でブラックマーケット中が揺れ動く。マテオと対策委員会は不意を突かれ、目の前に光景とは裏腹に不思議と心が満ち足りた。

 

マテオは膝をつき、両手を掲げて勝ち誇れば、腹の底から笑い声を出した。

“っしゃあ!フゥゥゥゥゥゥ!ざまぁみろ!地獄に落ちろ!アーハッハッハッハッハッ!”

 

「先生!」とマテオを睨んで、ホシノが叫ぶ。「爆破しちゃダメって──」

 

“俺じゃないぞ。”

そう答え、マテオの笑い声が溢れ、腕を広げる

“やっぱりこの手に限るな!やった奴にキスしたいぞ!”

 

笑い声で皆の気が引かれるが、アヤネの声が響く。

マーケットガードが接近中です、早く移動を!

 

“心配ご無用。”

マーシレスを準備しながら、マテオは答える。

“便利屋がなんとかしてくれる。”

 

さてその便利屋、瓦礫の山と化した闇銀行からほど近い場所にて、人混みが目立つ場所を眺めており、カヨコがため息をつく。「今回ばかりはハルカが正しいけど、でも爆発で周りに強盗が知られた。」

 

「すみませんすみませんすみませんすみません」と配置に着いたハルカはただ同じ言葉を繰り返していた。

 

「だ、大丈夫よ。」とアルは息を吞みながら、混雑していた箇所を見渡していた。

 

「わお~マーケットガードもバタバタしてるね。そろそろうちらの番?」とダッフルバッグを準備しながらムツキが言う。

 

「そ、そうよ。」アルも配置に着き、現在混雑している闇銀行行の道路の向こうにある建物の屋上で全員待機する。「1、2の…」

 

「おっと!」紙幣が数枚はみ出て、爆発物が取り付けられたダッフルバッグを狙って、Love & Violenceと書かれたバッグを放り投げてしまうムツキ。「ごめーんもう投げちゃった。」

 

「なんですって!?」

 

「マーケットガードを確認。投げるよ。」チャックが開かれたままのダッフルバッグを投げるカヨコ。一発一発、ピストルの咆哮と共に射撃すれば、骨の髄まで凍り付く爆発が轟く。

必死の形相で逃げ惑う者もいれば、訳も分からずにただ後ろを振り向くだけの者もいた。

 

「ア、 アル様?」と困惑した様子でハルカは尋ねる。「マーケットガー──」

 

「投げるわよ!」とアルも投げれば、得物のスナイパーライフルから耳をつんざく音と共にバッグを切り裂けば、札束が無造作に舞い散っていく。

 

アルの無線からは、ただひたすらに連鎖していく爆発音が響き渡る。アルが賭け金を持っていれば、全てムツキに賭けていたのだろう。彼女が群衆の方を見やれば、道路には何一つまとまりがない混沌が巻き起こっていた。

 

「金を拾うな!」とマーケットガードの一人が命令する。だが雨のようにお金が降り注ぐ中、"狂喜"乱舞となった群衆は拾い集め、一部の者は死に物狂いになりすぎた果てに銃撃戦へと発展した。

 

「うっわ偽札やん!」と一人が気付いて叫べば、困惑した視線が集まった。

 

「何言ってんだよおめぇ現ナマだぞ!」と誰かが叫べば、次から次へと叫び声が続いていく。

 

無法地帯になったことを確認したムツキとカヨコ。二人は高所から乱射してこのお祭り騒ぎの火に油を注いでいく。「くふふふふ~たっのしー!」

 

自分の配置地点にある遮蔽物に身を隠し、カヨコはピストルにサプレッサーを取り付ける。「私は後退しておく。」

 

「アル様、私はどうすれば…?」とショットガンを抱きしめるハルカ。

 

「えーと…そうね…」何とかしてアルは答えを出そうとするも、重圧に押されて先程までの勇敢な姿は一瞬にして崩れ去ってしまった。

 

「いたぞ!あそこだ!」その声に驚いたアルが振り向けば、そこには彼女たちを指差しているマーケットガードたちいた。「捕まえろ!」

 

“便利屋、再集合だ。”

 

“君たちの任務はこれで終わった。これ以上留まるのは危ない。”

 

「分かった。」とカヨコはうなずく。

 

「待ってくださいアル様!」

 

「あーあ。これで終わりかー…まあ楽しかったからいいけど。」不満そうにムツキは呟き、〆の手榴弾を投げ捨てて無邪気に笑いながら移動していった。

 

「やれるものならやってみなさい!」と叫ぶアル。迫りくるマーケットガードに自信たっぷりの笑顔と共にスナイパーライフルを向けていたが、心の中では悲鳴を上げていた。

 

一方、マテオ、ヒフミ、対策委員会は橋に近づいていた──自由まであと一歩だ。

“よし!揺動の準備はできたぞ!”

 

「現在ブラックマーケットは混乱状態です。サンドマン、一体何をしましたか…?」アヤネが尋ねる。

 

“軽い頭の運動をさせただけだ、アンナ。”

平然と答えるマテオ。アンナという名に、ISACはつい眉をひそめる。元々、ANNA(アンナ)はISACのオリジナルバージョンのAIだったが…1と0の二元論的なISACの思考プロセスとは違い、ANNAはより柔軟な思考プロセスだった。

だがそれによって、引き続き指令を継続しようとしたエージェントの多くがローグとみなされる事態を起こすことになった──アロナのようにチューリングテストを難なく通過しかねないAIが、それを引き起こしたのだ。

“敵部隊はどんな感じだ?”

 

「動きが鈍くなっていますが、敵部隊の一部が突破しましたので長くは続きません!」

 

“分かった。全員道具は使うな。銃だけでやるぞ。”

マテオが指示すれば、全員うなずく。

 

そうして、車やヘリコプターが次々と彼らの視界に入っていく。

 

ヘリコプターのコックピットに向けて、マテオはマーシレスのドットサイトで狙いを定め続ける。

 

トリガーを引いて放せば、AK-Mのストックが彼の肩を二度叩き、静かな銃声が二度響き、二発共に命中。窓が割れ、パイロットに当たる。ヘリコプターが急旋回する中、マテオは何度も撃ち続ける。

アサルトライフル並の装弾数、ライフル並の威力、それに加えてマテオのようなシャープシューターが持つ射撃精度──この三つが融合した瞬間だった。

 

やがて、なすすべもなく川に墜落するヘリコプター。少女たちは皆、驚いた様子で彼を見つめる。「おぉ…」とヒフミは感嘆の声を漏らした。

 

「凄いね。」と顎に手を当てるホシノ。「後ろの敵は任せたよ、先生。」

 

“分かった!”

返事をするマテオ。

マーケットガード──オートマタにヘイローが浮かんだ生徒──明らかに動きが乱れていた。そんな光景にピッタリなセリフをマテオは声を荒げるように言うしかなかった。

“これは何だ?地元の抵抗か”

そんなセリフを吐けば、スナイパー達を狙う。

“痛い所突いてやるぞ!”

 

静かな銃声が二発鳴る。オートマタスナイパーが無慈悲に貫かれる。

“エナジーシールド!?どうしてエナジーシールドがあるんだ!?”

マスクの下では驚愕し、ひどく困惑した表情を浮かべていた。

 

ノノミのミニガンによる情け無用の猛攻を受けるマーケットガードたち。身をかがめざるを得なくなり、完全に制圧されていた。彼女がリロードに入れば、挽回を狙おうとするミニガンナーが姿を現すが、マテオの正確無比な射撃が襲う。トリガーが三回放された時点でヘイローは点滅し、あっけなく倒される。

「マーケットガードです!」と頭を抑えて銃撃をやり過ごしながら、叫び声を上げるファウスト。彼女を狙っていた者は見境なくセリカに撃たれた。「最新鋭の装備で武装しています!」

 

“最新鋭とは冗談じゃねえ!目を離した瞬間にエナジーシールドが貼られたぞ!”

不満を漏らすマテオ。シールドを撃とうとするも咄嗟に身を隠し、銃弾が掠める。

 

S 先生、オートマタのバッテリーは連続使用で一分間しか持ちません。また弾を受けると更に時間が短くなっていきます。

アロナが現れる。

 

“なら良かった。それでもクソはクソのままだが。”

 

「なんだか年相応の喋り方になってきたねサンドマン。」マーケットガードの一人を吹き飛ばすホシノ。遮蔽物に隠れ、身を乗り出して、距離を詰めすぎたショットガンナーを撃つ。

 

マテオと共に遮蔽物からヒフミの姿が現れ、セリカとシロコの援護射撃を受けながら、自分たちを狙う敵を次々と倒す。「ん。」

 

サンドマンの胸部に弾丸が命中するが、アーマーに弾かれると共に甲高い音が鳴る。すぐに彼はヘイローが浮かんでいるマーケットガードを撃ち返し、倒れる様子を視認すると残るはオートマタのみ。HUDにはアーマーに軽微な損傷が表示されていた。

“俺は前に進む!スリーはそのまま注意を集めろ!他は全員後退!後退!”

彼は手を振りながら大声で叫ぶ。

 

「は~い。」と車上にはノノミが現れる。「覆面水着団が遊びに来ましたよ~!」意気揚々と容赦なき弾幕をばら撒き、他も同様に続く。ただしマテオと一緒に前進していたシロコは加らなかった。

 

マーシレスをバックパックに固定して、車の下に身をひそめるマテオ。手には93Rを持ち、シールド型オートマタが通り過ぎるまで待機する。

 

前進するオートマタ。ノノミは余儀なく射撃を中断される。シールドは未だに展開されているが、ISAC曰く残り20%──銃口を前に向けたままオートマタは進み続け、サンドマンが隠れている場所を通り過ぎる。彼が車体下部を持って身体を引きずり出すとオートマタは驚愕した。ピストルでオートマタを狙い、綺麗に三発、オートマタのスクリーンを貫き、瞬きするかのように黒と青に点滅すればオートマタは止まり、倒れ伏す。マテオはアキレスPulseを放ち、ISACはシールド型オートマタの背後に持続時間を表示する。

 

そこに狙いをつけて、彼はトリガーを一回引く。バッテリーは撃ち抜かれ、爆発を起こす。シールドはあっけなく消えて、次に、次に、また次に、更に次にと、シールドで築かれた壁はマテオの手により完全に無用の長物となった。そして彼は車の下に隠れて、弾切れになった93Rをリロードする。

 

他の車の下からシロコが側面に姿を現し、大型オートマタの頭を狙えば、壁に弾幕を浴びせ、他も一斉に放って敵を薙ぎ倒していく。

 

オートマタが前進し、車体の下へ身をかがめて、大量のロボットの残骸の前で最優先目標──ファウスト、ヒフミを狙う。

 

違和感に気づく間もなく、重い何かがオートマタの足に絡みつく感覚がする。すぐに撃ち返そうとするも、足は引きあげられてしまって銃弾は何処にも当たらない。更に背後からは何かがぶつかり、姿勢が崩れる。

何者かが這い上がり、それに引きずられるオートマタはもがこうとする。腕は膝で押さえつけられ、頭は手で引っ張られて喉元がさらけ出される中でも、味方へ連絡を取ろうと試みる。だがしかし、鋭い何かが喉元に突き刺さり、音声ボックスと内蔵無線が搔っ切られる。突き刺した者がナイフを引き抜けば、切断されたワイヤーやシステムからは火花が飛び散り、ブルースクリーンが表示される。

 

たった今手にかけたオートマタを興味深く見て、今まで相手にしてきたウォーハウンドと比較しながら、カランビットをしまうマテオ。喉を切られたら倒れてしまう──人間なら当然のことだが、オートマタがそうなったのはどこか矛盾していると、マテオは思った。

 

彼が問いかける前に、無線が入る。「オートマタとマーケットガードの増援が大型車両と共に接近中!」

 

“連中が俺の予想通りだったら、どっかの誰かさんの首を絞めてやるか。”

唸るように言いながら、死角に入るように進み続けるサンドマン。車両の輪郭をISACが表示する。

 

数秒後、走行音が響くとタレットが搭載されたトラックが更なるオートマタを引き連れて連なっていく。「搭載型のタレット!?噓でしょ!?」セリカの叫び声がマテオの思考に間に入る。

 

“遮蔽物に隠れろ!”

マテオが命令すれば、全員身を隠してタレットの十字砲火をやり過ごし、マーケットガードがじりじりと距離を詰めていく。マテオが顔を出せば、タレットには誰もいないことに気がつく。

“AI?”

 

「これじゃ進めない!」弱音を吐くホシノ。「盾を使いたいけど、それだと──」

 

“正体を晒してしまう。”

マーシレスのトリガーガードを軽く叩きながら呟くマテオ。

“やめよう。だが…”

 

今の状況を打破できる物がない。バンシーPulseを使おうとしたがタレットとの距離は近くない、ましてやジャマーPulseなどは論外。シールドも無いが、たとえあったとしてもD.C.よりも進んだ技術の前では有効かどうか疑わしい。

ドローン、ファイアフライ、ケミランチャー──いずれも事実上マテオ・ヴェルネス専用であり、それらを使うためにシャーレの権限を行使したくはなかった。

 

「あの!こういうのはどうでしょうか!」ヒフミが言う。彼女の手には円盤──デコイトラップ似たそれはサンドマンにとっては大きな親近感を覚えるものだが、それとは違い洗練されきったデザインで商品たらしめる外見となっている。「これで敵の注意をそらせます!」

 

彼女を見つめるマテオ。声には不安が聞こえるも、紙袋の穴からは決意に満ちた視線が見えた。まるで先祖代々続く家宝を扱うかのように円盤を強く握りしめ──その姿は危機的状況の中、馬鹿げた案で仲間を導かなければならないマテオと重なっていた。彼は小さくため息をつき、苦々しい表情でうなずく。

“分かった。俺の予想通りにいくなら、きっとなんとかなる。さあいけ!”

 

ヒフミはうなずき、前に進み出て、タレットがマーケットガードと共に彼女の方へ旋回する中、ディスクを投げようと構える。

 

「はああっ!」と叫び声を上げながらジャンプした時に足がもつれるが、円盤を投げる。頭上に銃弾が掠めるが、円盤は集団の中央に落ちる。彼女は頭から地面に倒れ込み、真っ二つ折れ曲がりそうな姿勢になれば、元に戻る。

 

“なんだあれは!?”

照明に照らされ、音楽と共に小気味よく踊るペロロが現れる姿にマテオは叫ぶ。マーケットガードや挙句の果てにはタレットでさえも気を取られて移動して、彼のデコイのように攻撃を加える。相違点を一つ挙げるとすれば音楽の有無だ。

どんなにプレゼントが醜くとも、マテオはケチをつけるようなことは一切せずに前を見据えていた。

“今のうちに撃て!”

 

「いっきま~す!」とノノミが叫ぶと同時に銃弾の波が押し寄せて、ホシノは走りながら、少しばかりの慈悲と共にオートマタやヘイローが浮かぶ生徒たちを次々と撃ち倒し、シロコとセリカも続き、ヒフミもその銃撃に加わる。

一方、マテオは窓が開いたままの車に手を伸ばして、経験と知識を活用してエンジン素早く始動させ、それは力強く唸り始める。

 

運転席に飛び乗り、目一杯にアクセルを踏み込み、音を立てながらタイヤがアスファルトを激しく擦りつける。そして彼は腕を巧みに使って、ぶつかった衝撃を車体に分散させた。痛みをこらえて、シロコと共にトラックの上に飛び乗れば、二人はトラックの開口部に手榴弾を二発投げ込みすぐに飛び退く。シロコは受け身を取れなかったが、マテオは回りながら着地。内部のタイマーがカウントダウンする中、必死に離れる。

 

悪態をつきながらマテオがシロコに体当たりをすれば、タイマーは0になりトラックは大爆発。すぐ側には大小の破片が飛散し、呼吸音のみが聞こえていた。マテオはウォッチを確認すれば、視界にはホログラム上のマップが展開される。大人数のマーケットガードの集団をSHDネットワークが表示するが近くにはいなかった。ゆっくりと身体を起こし、シロコも起き上がらせる。

 

全員がそこにたどり着けば、さっきまでの静寂は破られた。「撃退に成功しました!」とアヤネが歓声を上げる。

 

マテオは頭を振る。

“便利屋?”

無線で呼びかければ、適当な車に駆け寄り、ドアを開けてエンジンを始動させる作業に取りかかる。

 

「大丈夫よ。」と盗んだトラックの上から自信満々に応答するアル。ホログラムには掠り傷がついた彼女の姿と運転席にいるカヨコ、楽しそうにハミングをしているムツキ、ハルカも機嫌が良く、危ない笑顔を浮かべながらショットガンをしっかりと握りしめていた。

 

“よし、向こうで落ち合うぞ。”

マテオが選んだ車が唸り始め、ライトが点けば彼は満足げにうなずく。

“皆、入れ。”

 

特に異論もなく、車に乗り込めばここを後にする────ブラックマーケットの住民たちには、彼らが生み出した混沌が深く刻み込まれていた。




[訳者あとがき]
ファウスト!ファウスト!ファウスト!ファウスト!ファウスト!
ちなみにこれは何だ?地元の抵抗か(What's this? Local resistance?)の元ネタはGTA5とのことです。
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