あの子たちが対物ライフルの弾を受けても平気なのを見てきた。それなのに、リンは俺がその対物スナイパーライフルを持てる権限があることに驚いていた。マジか…
そういえば、ゴーバッグをチェックして、M4のマガジンとM870のショットシェルを点検したときに、思わず顔をしかめた。 いつもよりダメージが少なかったからだ。
確かに、どちらも最上級のモノだし、ほとんどの装備もそうだ。だがそれでもまだ…何か物足りなさを感じている。地面に落ちてある武器やハイエナから漁った武器で、エリートの兵士を殺そうとしているような感じだ。 もっとも、俺のM4とM870はどちらも、どんな敵でもズタズタにできるほど、内部も外部も改造されている。
ヘイローがあるせいからか?
まばたきをしながら、俺は大きく深呼吸をしていたユウカを見た。何か言おうとしたが、深く考えすぎてしまい忘れてしまった。荷物の中から水筒を取り出し、ユウカの頬に当て、ユウカが放った叫び声が、その場の空気を壊した。
“ほら、もうすぐラストスパートに入るから少し休んで体力を回復しておけ。”
ユウカはしぶしぶうなずき、「は、はい」と、水筒を手に取ってひとくち飲みながらそう言った。
他の子にも向かい、こう聞く。
“皆もどうだ? 必要なら食べ物もあるぞ。”
チナツとスズミが手を伸ばしてきたので、グラノーラバーを数本渡した。そしてハスミにも渡した。
“ほら、この先エネルギーがいるから、ハスミも。”
「わ、私は大丈夫です…先生。」ハスミは顔を赤くして目をそらし、俺の手にあるバーをちらっと見てから言った。
俺は顔をしかめて、彼女の手をつかみ、グラノーラバーを手に置く。
“そういうことじゃなくて、時間が限られてるんだ。自分の能力以外のことに気を取られると、周りの不安を煽るし、判断を誤ることになりかねない。 それに、肝心なときにスナイパーがミスるようなことはあってはならないんだ。”
彼女の手をちらっと見て、少し顔を赤らめながら、「分かりました。」とうなずいた。
俺は微笑みながら、彼女の肩をたたいた。
“今のうちに休んでおいてくれ。”
ユウカにグラノーラバーを渡し、装備の点検を再開した。しかし、そこであることに気がついた。
“なあユウカ、銃を渡してくれないか?”
そう聞くと、ユウカは首を傾げた。
「はい、いいですよ」黒地に青のアクセントが入ったMPXを渡して、こう言った。「理由をお聞きしても?」
“いくつか確認しておきたいことがある”
マガジンを外し、チャージングハンドルを引く。弾が排莢され、キャッチしてマガジンに挿入して横に置いておく。
“それにしても “
と銃を点検しながら言う。
“美しい銃だ、手入れもしっかりと行き届いている。”
「あ…!」ユウカは顔を紅潮させながら、握りこぶしに咳をして胸を張って言う、「もちろんです!ミレニアムの生徒は最高のものしか持ちませんので!」俺が銃をフィールドストリップし始めたのを見なければ、そのまま喋り続けただろう。
それから1分近くして、ユウカのMPXを分解しながら、自分の昔のMPXのパーツを思い出そうとした。
いくつか目立つ点があるが、どちらかというと個人的に工夫したことのように思える。ただ、その強みは素材に由来しているのか?それとも他のか?
それでも、この銃は美しく、手入れがよく行き届いており、美的感覚的にも美しい。 とはいえ、俺自身のセンスがひどく偏っていることを考えると、そんなことを言うのはおそらくこれで最後だ。
皆に見られながらも、慣れた手つきで銃を組み立て直した。1分後、ユウカのMPXを見ながら、マガジンに手を伸ばし、弾をつかむ。 9mmで、それ自体には何も異常はない。凝視した後にそれを戻し、ユウカに返した。
“すまない”
「えーと…いえ、大丈夫です。」ユウカはそう言いながら、俺が何かやらかしたわけではないことを確認するため、銃をざっとチェックした。
「どうかなされましたか?」壁にもたれかかる俺の横を歩きながら、チナツが聞いた。
“ただなんとなく”
そう返した
“銃がいつもよりも弱く感じたんだ。”
チナツが俺のゴーバッグに固定された銃のほうを向き、俺はそう言った。そして何か呟いたチナツの方を見ると、その目はぼんやりとしていた。
「つまりそれって」チナツは眉間をつまんで言う。「いつもなら先生の銃は…強いということですか?」
俺は自分の発言を修正する。
“それか、ここのみんなは俺が相手してきた奴らよりもずっとタフなんだろう。どちらにしろ思っていたよりも効いてなかった”
「先生」とユウカが俺の銃を見つめながら言った、「こちら側の感覚としては、先生の銃はキヴォトス製ではないものにしては妙に強いんです。」
“そうか?”
俺は肩をすくめながら、銃のほうを向いて答えた。
“まあ確かに、最上級のものだし、それに改造もしてるしで強さについては言うまでもない。信頼出来るものなのは確かだ。”
ユウカの視線がISACブリックに向けられると、俺はそれをバックパックのストラップにつけた。「先生、ずっと気になっていたんですが、これって何ですか?」
俺は顔をしかめながら、それを2回叩き、唇を噛んだ。一瞬沈黙した後、俺はこう答えた、
“ ISACブリックだ。だが今のところ、何かが足りてないから使えない。これが終わったらもう少し詳しく話せると思う。それまでは、こいつはそのままにしておく。”
ユウカはもっと聞きたそうにしていたが、止めて、場は穏やかな沈黙に包まれた。その間に、俺は彼女の隣に置いてあった水筒をさりげなく手に取り、なぜかユウカは慌て始める。俺は一口飲む。するとユウカは顔をトマトのように真っ赤にし、目を大きく見開いて動揺しているだが、俺は気にせず壁際に座り、グラノーラバーにかじりつく。
時計を確認し、時刻を見てため息を吐く。 計画を立てる時間だ。
現在地からHUDを見ると、道はシャーレの部室へと直行しているようだが、ここからは近くにいる敵の野次はもちろん、戦車の轟音がぼんやりと聞こえてくる。今のところ地図にアクセスできないので、大した計画は立てられないが、それでもやるしかない。
今のフォーメーションを変えるのはあまりにも愚かだ。ユウカはバリアのおかげで打たれ強く、前衛にはうってつけだ。スズミはアサルトライフルと閃光弾の扱いに長けており、中央にいる俺にとって欠かせない戦力だ。ハスミの狙撃能力は圧巻の一言で、後衛のポジションとしては揺るぎない。だからといってチナツの役割は軽視するべきものではない。俺が運良く軽傷で済んだことや、皆の負傷のことを考えると、チナツの回復能力はチームの支えとなっている。
あの子たちの銃の腕前と知識は卓越しているが、俺のM4とM870の腕前では、俺は前衛と中衛をシームレスに行き来できる。
SHDネットワークが稼働していればな……足りない情報が多すぎて、世界が見えていないような気がする。 ガジェットについては言うまでもない。
Pulseが恋しい、戻って来てくれ。
目を閉じ、息を吐き出す。 フォーメーションが確立した以上、角度が必要だ。ほとんどの建物は壊れているから、建物の中を通ることはできない。 だから、俺たちは危険な位置にいる。
俺は血と肉でできたただの人間だ。大事なのは、今持っている最上級の武器、運、そして技術だけ。だから戦車に突撃することに対して、身体は当然拒否反応を示す。だが今のところ、他に打開策がない。もし俺がガジェットやSHDネットワーク、対物ライフルを使えたなら話は違っただろう。スキャナーPulseを使って索敵し、リモートPulseを投げて、戦車の装甲を撃ち抜き、弾薬か搭乗員を狙うだけで済むのだから。残念なことに、今はそれがないのだが。
正面から突撃することしか、この状況を打開できないようだ。
後ろにもたれかかり、帽子をずらして頭を掻く。 もしケルソがここにいてくれたら……いつも、最悪のときには頼りになっていた。あるいはマニーでもいい、計画を建てるのがいつも得意だった。
ともかく、時間が迫っている。 俺は立ち上がって手を叩き、部屋にいる全員の視線が集まる。
“よし!みんなここまでよくやった。ラストスパートに入るぞ。”
微笑みながらそう賞賛すると、少女たちもそれぞれ笑顔を返す。
“とはいえ、まだ戦車とギャングが片付いていない。だから改めて言うぞ、ここからラストスパートだ。”
そう言いながら肩を回し、背中のリュックを軽く揺らしながら準備を整える。
“作戦に変更はない。フォーメーションはそのままで、連邦生徒会との通信ができるのはリンだけだから、リンはここに残ってくれ。唯一想定すべきは最悪の事態————つまりは戦車に追い詰められた場合だ。”
ポケットに手を入れ、スマホを取り出して特定のアプリを開くと、コンパスが表示される。
“もしそうなったら、スズミはこれが示す場所まで運ぶ役目になる。”
そう言いながらスマホをスズミに渡すと、スズミは細部までしっかりと頭に入れていく。”俺の予想が正しければ、起動できるはずだ。”
「わかりました。ですが他の皆さんは?」彼女は心配そうな口調で尋ねる。
“他の皆は俺と戦う。俺はすでにアサルトライフルを持っているから、真ん中で戦えられる。ユウカに任せようかと思っていたが——”
と遮られる前に説明。
「ですが先生、そうしなくても…!」皆と一緒に心配し、不安になりながら、ユウカが口を挟む。
“つまりだ、俺は————”
俺は言いかけたが、ユウカはすぐに割り込んだ。
「駄目です!」俺が両手を上げ、下ろすと、ユウカがそう叫ぶ。
“まあ、それはそれとして。”
背中に隠された円形の物体に手を伸ばし、そっと叩いた、
“そのスマホで、状況はどう動くのかは分からない。だが、ちょっとしたお祈りこそが、状況を好転させる鍵になるかもしれない。”
「私はここで待機します。」リンは眼鏡を直しながら言う。
“分かった。”
俺はうなずいた。
“よし、この辺りに助けがいる生徒はいるか?”
「今はいないようです。」リンがそう言い、俺はうなずく。
“よし。”
少女たちに向き直り、話し始める。
“何度も言っているが、ここからがラストスパートだ!夕飯を食べてベッドで安眠するという平穏な一日を迎えるまでに立ちはだかっているのは、30人ぐらいの敵と戦車だ!”
“だから何か言いたいことがあるなら今のうちに言ってくれ。リンが近くに俺達の助けが必要な生徒がいると言わない限り、俺たちはそのまま敵のど真ん中に突っ込むことになる。”
“もし事態が悪化するか、予測外の展開……たとえば脱走者がとんでもなく強い場合、スズミは俺たちから離れて行動することになる。俺たちが陽動を仕掛ける間にスズミがSHDネットワークを起動して、そして閃光弾を使って内部から奇襲をかける。”
“つまりは、突っ込んで、一気に叩き潰す。それが作戦だ。みんな、理解したか?”
少女たちは皆、銃のセーフティーを操作してうなずく。
俺もうなずいて、M4のセーフティーを外して後を追う。
“よし、弾薬は大丈夫か? 漁れるチャンスは少ないぞ。”
俺がドアを開ける前に、皆はもう一度うなずいた。
“よし、外で待つから、銃の確認が出来たら来てくれ。”
外で待っている間、しゃがんで親指を伸ばし、ゴーバッグを揺らしながら期待に胸を膨らませた。 SHDネットワークを復旧するために宇宙局本部に行ったときのような気分だ。
あの任務の記憶が背筋を震わせた。ため息をつき、震えを抑えようと両手に身を預けた。
俺に影響を与えた任務は、あれ以外にはなかった。
アウトキャストの奴が俺もろとも自爆しようとして、赤い霧になったのを見たときはどうだ?
恐ろしかったが、乗り越えた。
ハンターは?
僅差で2位ではあるが、なんとか乗り越えた。
ローグエージェントは?
俺の守備範囲ではないから、必要に迫られない限り対峙することはなかった。
アーロン・キーナーとその仲間たちは?
まあ、ある程度…軽いものではあった。
だが、あの任務は別格だった。俺の人生で最も重要な任務のひとつだった。最も死に近づいた瞬間でもあった。その経験は、まるで焼けた傷跡となって肩に刻み込まれている。
あの任務が達成されたのは奇跡と言っても過言ではなかった。グレネードは尽きて、SHDテックは使えなくなり、ボディアーマーキットも底をつき、アーマーはボロボロ、ショットガンのスラグ弾もゼロ、アサルトライフルの弾もゼロだった。それに加え…出血もしていた。そのことについては間違いなかった。
書類上では、驚くべき効率と技術を以て任務は遂行されたとなっているが、実際にはケルソが血まみれの俺をホワイトハウスへ引きずり戻さなければならなかった。医師によると、俺は脈がなく、最低限の輸血を施された後、エージェントとしての任務を遂行しながら、世紀末の社会で移動しながら療養しなければならなかったという。
あの日、俺は自分の死すべき運命を痛感した。まるでハンマーで殴られたかのような…
…数日後に本当にハンマーで殴られることになるが。
とはいえ、あの任務は一生忘れられないだろう。ただ無力だったからではなく、負った傷のせいでもある。
段々と近づいていく複数人の足音を聞きながら、姿勢を正し、少女たちに向き直り頷く。
”準備はいいか?”
うなずく。俺は微笑んだ。
”よし、行こう!”