エリア内部、そこには張り詰めた静寂だけが漂っている。マテオは1階に続く階段の壁際に腰を下ろし、彼のゴーバッグは明らかに軽くなっていた。トリガーに指を掛けたまま臨戦態勢になり、無線機に向かって話しかける。
“監視役、状況は?”
| なんもないです。監視カメラには特にないし変な音とかも聞こえないです。 |
ヘルメット団の一人が報告する。
“よし。ハルナは?”
「配置に着きました。」ホテルの1階にて、ハルナは応答する。ホテルはL字状の構造で階段は一つしかない。部屋に繋がるドアがある壁に、彼女は背を預けていた。「エレベーター周りは完全に抑えましたわ。」
| A いいぞ。 |
静寂がマテオの声で切り裂かれ、ハルナは自身の得物のスコープを覗いて監視する。
別の部屋では、ラブとヘルメット団二名がクローゼットから大型のハンマーを見つけ、それを使って壁に人が通れる大きさの穴をいくらか開けていた。「あー…しんどい…どうしてうちらが穴を開けるの…?」
| A 風紀委員会は罠が仕掛けられたホテルに突入する前提で動いている。だから俺たちがわざと物を壊すようなことはせずに、好き勝手に動くのではなくて纏まって反撃してくると向こうは考えている。ガレージの方はどうだ? |
ラブがうなずきながら壁を壊し、ヘルメットをずらして汗を拭う。「はいはい…」
そして水道設備が彼女により全部作動されると、ショックトラップとマテオが呼称する奇妙な形をした装置を設置する。
“よし、次!”
一方のマテオは、ガレージに潜んでいた団員たちに、鍵を使わずに車の配線を操作してエンジンを始動させる方法を教えていた。
やるか殺られるか────殺られるには丁度いい日かもしれないが、マテオはそう簡単には殺られない。
そうして、時が来た。
アサルトタレットとスナイパータレットの銃声が聞こえれば、マテオはM4のセーフティを解除する。
| A 配置に着いた。 |
数秒後、銃声と足音が響く中、マテオがいたロビーや客室の照明が消え、彼は足音を極力立てずに階段を駆け下りていく。そして粘着爆弾ランチャーを持ってエクスプローシブ粘着爆弾を装填して入口横に発射。風紀委員たちの足音が耳に入ると彼はソファの下に潜り込み、気配を殺して待機する。
タレットを破壊した風紀委員たちはようやく突入する。「入りま──うわあっ!」だがすぐにエクスプローシブ粘着爆弾が起爆する。後ろに下がってしまうが、痛手を負わなかった者は状況を把握するべく真っ暗闇の室内へと突入した。
一方、他の入口は地雷と爆弾付きの罠が仕掛けられていたが、特に滞りなく突入された。だがそこから移動しようにも、封鎖もしくは倒壊、もしくは元から使えない状態だった。そのため初めに戦闘が発生した入り口から突入せざるを得なかった。
マテオが潜り込んだソファの下で無線からヘルメット団の一人の囁き声が無線に入る。
| 先生、敵めっちゃ近いです。もうやっちゃっていいです? |
“いや。”
彼は息を潜めて答える。
“まだだ。タイミングは言ったはずだ。”
そうして、2つのグループが話し始める。「見つかった?」
「いや。罠ばっかだしで入り口酷すぎ。でもここだけはなんか綺麗なままなんだよね。」
「まぁ…行くか。」
そうしてそのグループは階段を昇り、マテオはニヤリと笑みを浮かべる。
| A 今だ。 |
鋭い声を出して一番遠くの風紀委員に狙い、バースト射撃を放って頭部に命中すれば他は音の在りかに振り返る。
その時遠隔操作で爆発が続く。これによりそのグループもしくは入り口にいた大多数が意識を失っていた──それはもしもマテオが中央にスティンガーハイヴを投げていなかったのならばの話ではあるが。マイクロドローンが一斉に飛び出して全風紀委員を攻撃すれば混乱状態に陥り、マテオはソファから身を滑り出して風紀委員の足を掴み、転倒させる。一瞬だけその方向を見れた彼女だったが、大きく振りかぶられた強烈な拳を叩き込まれ、気絶した。
更に彼は別の委員に足払いを掛け、彼女が倒れ込むと同時に飛び掛かって盾にする。一人が撃とうとするが人質に誤射してしまう。彼女を盾にしながら、マテオはアダムの鍵をその一人に狙い、そのM45は発砲。4発目が頭部に命中すればその少女は倒れる。
人質を押し退ければ、彼は閃光弾を投げて目を閉じる。
そして爆発した瞬間、状況把握を試みる風紀委員とは反対側にある部屋へ逃げ込む。
別の部隊が追いかけるが見つかったのは1階へアクセスできる天井に繋がった穴と取り付けられたロープのみ。直後にマテオは手榴弾を投げ込み、爆発。
「まさか先生は壁と床を壊すように命じたのですか?」眉をひそめながら尋ねるアコ。破片をやりすごそうとする風紀委員たちの騒ぎには気にも留めていなかった。「先生は今どこですか?」
「分かんな──あ゛ぁーっ!」一人が叫ぶ。彼女の頭部の真ん中に銃弾が命中した瞬間、場は静まり返り、うめき声が上がる。
「1階の廊下にスナイパー!」また一人が叫び、もう一人がエレベーターへと向かう。
「エレベーター乗るよ。」ドアが開いた瞬間、顔面は一気に変わる──その中からタレットのレーザーが当てられていたのだ。「ねえどうして──」
タレットが弾幕を放てば、彼女は後退。ドアは閉じてエレベーターは"動き"始める。
数秒後、エレベーターのドアは全て一斉に破壊される──まるで蝶番がテルミット反応によって焼き切られたかのように。
そしてハルナの狙撃や他の要因によって、風紀委員は余儀なく後退させられることとなった。
「穴から向かってください!」アコは眉間をつまみながら、指示を出す。「そこにロープがありますよね?いきなり先生が大ジャンプで移動しだすのはあり得ませんから!」
スローペースながらも次から次に部隊が移動する。
バキッと音と共に、倒されているテーブルにハルナは身を隠し、リロードをする。「攻撃は落ち着いています。ですが私はスナイパー故に弾がもうすぐ尽きてしまいそうで…」
“ペースを落とせ。”
肩にTAC-50Cを当てて、マテオはそう伝える。
“ヘルメット団は配置についた。そっちに任せればいい。”
そう言いながら、遮蔽物の隙間から狙いをつけて、タクティシャンドローンが表示した場所に発射。大きな銃声がアンチマテリアルライフルから放たれ、スナイパーの一人を倒す。ボルトを回し、空薬莢が音を立てて床に転がると、次の標的に移る。
狙撃のペースを落とすハルナ、マガジン内の弾数が半分になった時点で手を止め、閃光弾のピンを抜く。その時に風紀委員の一人が狙撃されないことに気付き他の廊下に目もくれずに突撃する。だがハルナの背後にある部屋からヘルメット団のペアが現れて、マガジンが空になるまでサブマシンガンを連射すれば更に廊下からはショットガンを持ったペアが、そしてハルナが閃光弾を投げる。「ちょっとした一芸をお見せいたしましょう!」
彼女らの前にエレベーターが停止すれば、団員らは遮蔽物に隠れ、側部の壁と部屋から予め用意しておいたロープで登る。他の団員の力を借りて、濡れた靴には気にせず二階にある次の配置地点に着く。
一方、閃光弾が爆発し、エレベーターから追尾マインが転がり出す。エレベーターが離れた瞬間、爆発。
ラブの助力と共にロープで登ったハルナは部屋に入る。ラブは口をニヤリとサメのように鋭く尖った歯を見せつけ、追いつかれる前にロープを切って彼女たちは移動する。
すぐさま風紀委員の無線にアコの声が響く。「部屋から出て2階に行ってください!」
銃声が響き、配置したスナイパーが全滅したと分かった彼女はたじろぐ。
一方のマテオは最奥の部屋にて、脱出準備としてテーブルの脚や他の物を折って、ダクトテープを巻いて即席の橋を作っていた。
| 脱出準備出来ました! |
ヘルメット団二人がエンジンを掛けたのか、彼の無線から駆動音が聞こえる。
| 場所って変わってないです? |
“ない。路地に行って待機してくれ。”
| 了解。 |
ヘルメット団が答えると、マテオは作業に戻る。
| あと…ごめんなさい…あのことは…知って… |
“アビドスを奪おうと俺を砲撃して、装備や色々と奪ったことだろ。"
| はい。それです。隊長は関わってないから謝らないと思うんですが… |
“大丈夫だ。”
マテオがその言葉で一安心させると、少しだけ自分自身について考える。
あの時──怖気付いた子供がワシントンD.C.に初めて足を踏み入れた時、そこから比べ物にならない程までに彼は成長した。最悪と最善から多くのことを学び、人格と戦闘技術の両方が育った。元デルタフォース隊員から武器を奪われたあの屈辱から、対話で平和でもたらした時や外国で孤立しているエージェントに支援物資を供給し、さらにはそのエージェントたちを導き、その国独自のエージェント機関をも指導した。
国々が外交を再開し始めたとしても、彼としては特に驚くようなことではなかった。どこか認めたくはないものの、あの出来事の一翼を担っていたという気持ちは少なからず彼にはあった。とはいえ中心人物だったと捉えるのは少し大袈裟だと彼は思う。
D.C.へ支援に向かった時の彼は怒り、獰猛で、孤独だった。だが時と共にそれらは研ぎ澄まされていき、怒りは集中に、獰猛は自信に、そして孤独は協力を求む意志となった。
彼が19歳、もしくはワシントンD.C.にいた彼ならば、怒りに怒り狂っていただろう。だが…
“それはそれ。今は俺が生きてることに喜ぶんだ。”
その言葉にヘルメット団はしばらく黙り込んだ。
| はい。 |
その返事と共に無線は切られる。
しかしアコにとってこれは、杞憂が現実に変わるような瞬間だった。作戦の一部始終は高性能カメラが記録しており、部屋から部屋へと移動する風紀委員への対策が報告されていた。エレベーター内にタレットが設置されたせいで予測がつかなくなり、浸水した部屋はドアを開けると電撃を用いた罠が起動して、ハルナのホログラムとクローゼットの中ではスナイパータレットと待ち構えていた。まだ2階だというのにも関わらずあの様で、ヘルメット団の団員たちとの交戦を確認し、報告を受け取る度に風紀委員の人数が次第に減っていたのであった。
アコの眉はひそめられ、機会をうかがえば、風紀委員たちも同様に待機していた。初めは手際よく進んでいたが、今では慎重な足取りで進んでいたのである。これ以上の罠は設置されておらず、代わりに爆発物が散発的に見つかるだけだった。
一方、スナイパーが一人も監視していない状況で、マテオは即席の橋を作り終えた。窓を割ってそれを架ければ、路地には人影がないことを確認して橋の一端をしっかりと握り、もう一端は向こう側の建物に固定する。
“よし、先に行け。”
ラブは不安げな様子だった。「こんなので本当に渡れるの…?」と尋ねればマテオは首を振る。
“これでも一応ベストを尽くした方だ。行け、時間がない。"アレ"が起爆する前に早く。”
ハルナとマテオが仕掛けた"アレ"を思い出した団員たちは素直になって先に行った。そしてラブとハルナはドアを確認するために後方で待機する。
| A 敵が3階に到達。エレベーターが無効化。 |
マテオの耳にISACの報告が入れば彼は唇を吸い込む。3階──罠や使える爆発物やSHDテックさえも尽きていたが、それ以外の方法で足止めが出来るのは不幸中の幸いだった。
建物が数秒間揺れ動けば階段が爆破された。風紀委員数人は互いにぶつかり合いながらの移動を余儀なくされた。
そうして、残るはマテオ、ハルナ、ラブとなった。
“ハルナ、先に行って狙撃で援護してくれ。”
「かしこまりました。」どこか危なっかしい足取りでハルナはちょっとばかりの障害物を飛び越え、向こう側に到達する。
“ラブ──”
「ああもう!どこにいる!」聞き覚えのある声が響けば、マテオは悪態をつく。
“イオリが戻ってきたか。”
マテオは顔をしかめ、背中からクエレブレを手に取る。
“ラブ!早く行け!”
「いいのボス?」彼女が尋ねるとマテオはうなずく。「なら分かった。」歩き出そうとした瞬間、彼女はあることを思い出す。「そうだ、ボスのヘルメット?超かっこいいよ!」
そして彼女が歩き出せば、マテオは先ほどの意味を理解しようとしていた。
“ヘルメット?もしかしてマスクのことか?”
首を振って、そんな不思議な少女を見送れば部屋を出る。だかそこでちょうど怒りに燃えるイオリと目が合う。その後ろには分隊規模の風紀委員たちの姿もあった。「この──!」
だが間髪入れずに彼はクエレブレを構え、イオリが言い終える前に射撃。彼女以外にも散弾のペレットの何発かは後方の数人にも当たり、フォアエンドをポンピングすれば何度も撃つ。だが肩に銃弾が命中すれば止まり、フードを破いたもののボディアーマーに防がれていた。そしてよろめきながら後退すると、同時に地面に何かが落ちる音がした。発煙手榴弾が分厚い煙を噴射する。
だが彼が反撃を行う前に、イオリが飛び出す。手にはクラックショットのバレルを持ち、大きく振りかぶろうとしていた。マテオの目は見開かれ、そして狭まる。カランビットやサバイバルナイフ、ましてやハンターの斧も取り出せない。咄嗟に撃つのも簡単にはいかない。だから…
一歩踏み出すと共にそのM870のグリップの握り方を変え、構える。クラックショットのバットストックとクエレブレがぶつかり、マテオがそれを振り払ってクエレブレのバットストックがイオリの顔に迫る。だがイオリが後ろに躱せば再び振りかぶり、マテオが防ぐ。だが後ろによろめくと同時に横腹にはイオリのハイヒールのかかとがめり込まれた。なぜ彼女はハイヒールを履いている?確かにエージェントは戦闘のためならおかしなものを身に着けることもあるが、だがハイヒールは戦闘の邪魔にならないのだろうか?
それはさておき、距離が生まれた。マテオは反射的にサバイバルナイフを抜けば、切り上げようとする──自分の行動に気が付いたのはその時だった。
つまりそれは──
シュッ!
彼の腕は上に伸び、刃先は外側に向けられていた。イオリのヘイローは銃弾や爆発以外にも鋭利な物体も防ぐ。だがマテオが切り裂いた衣服は例外──両者の目は大きく見開かれる。大きく裂かれてはいなかったが、見たいと思えばしばらくは目が離せないようなものだった。つまりは腰から襟元にかけて出来たそれからは彼女のチョコレート色の素肌が露わになった。
「えっ──きゃあ!?」と身を屈めて悲鳴を上げるイオリ。銃は床に落ちて両腕で両肩を抑えると、恥ずかしさで両目は大きく開かれ、狭まると視線はマテオに向く。
だがそこあったのはクエレブレの銃口。すぐにトリガーが引かれ、イオリが気絶すれば他の委員たちは衝撃で呆然としていた。
彼女らが反応する前に彼は手榴弾を投げ、部屋から走って橋へ飛び乗った。ヘルメット団の団員、ラブ、ハルナが彼に向けて手を振っている。「こっち!」
重みに耐え切れなかったせいか橋は崩れ始め、マテオは前へと跳ぶ。橋は完全に崩れ落ち、彼は少しよろめきながらも建物の中へと着地すればハルナと目が合う。
“今だ!”
ハルナはうなずき、起爆装置を取り出し、押す。
すぐに1階で爆発が発生し、そして2階の一部と3階の大部分に続く。マテオは窓から一歩出れば、目を閉じ、息を大きく吸い込めば、達成感が身体全身に駆け巡る。
────カタルシス…久しぶりに味わった。
しばらく余韻に浸った後、彼はうなずく。
“さて、脱出用の車がここにあるはずだ。”
彼らは階段を歩いて降りる。
数分後、数両の車がガレージで見つかり、風紀委員会の混乱をよそに発進する。
加速し続け、やがては街の外に繋がる橋──中継地点に到着し、マテオはうなずく。
“よし、正面突破だ!”
「待ってましたよその言葉ァ!」ドライバーが応じれば、さらに加速して難なく突破していく。マテオは窓の外に身を乗り出して、M4を構え、ハルナもスナイパーライフルを構えてターゲット向けて射撃。十二分に陽動すれば無事に逃げ出せた。
しかし一方で、虚ろな目をしたままアコは額を机に乗せていた。おわった。もうどうしようもできない。自治区内で起きた戦闘に敗れ、それに加えて風紀委員会の管轄外へ逃げられてしまったせいで結果は更に悪化してしまった。
彼は自身の防御にある弱みを強みに変え、生徒にあるヘイローとそれに起因する防御力がなかろうとも銃の腕前、筋力等、全てを圧倒していた。
疑うだけでは足りない。危険だ。
「どうして…」と呟き、起き上がる。「どうして大人一人に対してここまで手こずるんですか…」
「その大人というのは誰?」背後からその声が聞こえ、彼女は息をはっと吐く。
「シャーレの顧問です。チナツの報告書からエデン条約の危険因子になり得ると判断しました。今もこうしてハルナとヘルメット団数人と共に抵抗していますので危険なのは明らかです。」彼女は無意識に答える。その声を認識したからだ。「ですのでここは一度待機して風紀委員長の──」
自身の行動に気付き、止まる。
自身の話し相手に気付き、目が虚ろになる。
ゆっくりと後ろを振り返る──風紀委員長本人がいた。神秘と形容していい輝きを放つ瞳に、角のひびからも同様のそれ、頭上のヘイローは確固とした存在感を放ちながら、3層に分かれたそれと対極方向に伸びる石のような物体とともに緩やかに動いている。淡い白の髪は額の上で分けられ、ジャケットの後ろと肩にかけた軍服の裾から広がっていた。太もものスリットが華奢な体格にもかかわらず大人びた印象を与え、背後には暗い色の翼が広がっていた。
何気なく彼女は手を上げ、グローブを引っ張る──アコはすぐに分かる。これは無意識のうちにやる癖。万魔殿と話をする時に足をとんとんと叩くようなものだった。
他の者からすれば、彼女は事を急かしているように見えるが、アコは違う。その一つ一つが、ミレニアム生の机にあったおもちゃを思い出させるものだった。それはニュートンのゆりかご。曰く運動量とエネルギー保存の法則を示す装置とのこと。一つ一つが生きている証。だがその足が止まれば…
心の底から反省文を書きたくはなかった。
「ねえアコ、この作戦による影響──本当に理解している?」空崎ヒナが尋ね、アコは固唾を飲む。「万魔殿の議長が自治区の一部を封鎖した理由を尋ねてくるのかしら?」手を頬に当て、彼女は考えながら呟いていく。一歩踏み出すたびに、角とヘイローの光がさらに強まっていくが、顔は一切変わらない。
「それとも正義実現委員会の委員長か副委員長から先生と連絡が取れないと伝えられて、ここの扉を叩きにくるのか、それとも先生と連絡を取れなかった連邦生徒会長代理か防衛室長が?それとも同様のことでシャーレの警備主任が来るのかしら?それに警備主任にはシャーレ所属の生徒に支援を要請する権限がある。そしてその所属生徒はミレニアムのセミナーにエンジニア部、トリニティ自警団、もちろんチナツだってそこにいるし、このことを包み隠そうとはしないと思うわ。もしかして私が優位に立てると思っているの?」
そこでヒナは言葉を切り、うつむいているアコを見やる。「一つ聞きたいことがあるの──行政官。」まるで他人事のように言い放ち、アコはひどく動揺する。「私がしなければならないこと──直接言わないといけないのかしら?」
視線は下がったまま、アコは首を振る。「いえ。」
ヒナはうなずき、安堵する。先ほどまでの重圧は消え、ようやくアコは一安心できた。「良かった。なら報告書と反省文を明日の朝までに私のデスクにお願い。」彼女はそう言いながら歩き始めるが、振り返ればその足を止める。「それとアコ、いくらやり過ぎとはいえ、エデン条約のことを真剣に考えてくれて──うれしい。」そうして彼女は部屋を後にする。自身の行動によって生じた結果の重さと共に酷く叱責されたような気分ではあったが、それでも『うれしい』という言葉のおかげで気分は軽くなっていた。