The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.15-02 シャーレ

翌朝、ヒビキの作品を着て鏡の前に立つ。

“とってもいいぞ。”

そう言うとヒビキはうなずく。

 

まずはスーツのトップ──普通のスリーピーススーツに連邦生徒会と同じ配色で右肩とコートの左下にシャーレの徽章が施されている。その下には黒い襟付きシャツ、さらにその上に白いベストを重ね、白いスラックスと黒いブーツを合わせている。

 

だがこれは追加の装備を加えていない場合の話。青のアクセントが目の周りにも続くマスク。ウオッチをタップすればそれに内蔵されたガラスが青みがかり、目を覆う。もう一度タップすれば中に収納され、胴体の金属部分を見る。「ターディクレイド」アーマーシステムに似ている。好奇心から触れてみる。

 

「説明しましょう!そのコートの素材は大多数の小口径の弾を防ぎ、同時に通気性と機動性も両立しています。ベストは改良型ケブラーを使用したプレートキャリアで、先生の『ターディクレイド』アーマーシステムをこちらで試作したものでカバーしています。コートの内ポケットは弾薬やマガジンが入るように設計しておりニーパッド、そしてグローブは衝撃吸収とともにフィットするようにしています。エンジニア部的には最新技術とは言えませんがヒビキの推──しーぃっ!?」

 

混乱した金髪の子に振り向くと、ヒビキが説明を止めさせていて俺は困惑した視線を向ける。

“あー…”

 

「まあ気にしないで。」とウタハが満足げに俺を見つめる。「とても似合ってる、先生。」

 

“ありがとう。”

よそよそしくうなずきながら目を逸らす。

“この依頼で迷惑をかけてしまったらすまない。”

 

「全然問題ないよ。むしろ非常に興味深い内容だったし、ヒビキも楽しんでいたよ。特に支障もなかったどころかお釣りも貰えたからね。」そう呟いて、再びウタハは俺を見つめる。「そうだ、今日の先生の予定は?」

 

今朝、近いうちに会う必要があるとアヤネからのメッセージが来た。土地関係のことだと思ったから俺抜きで先に進めておいてくれと送った。どのみち俺の方で対応するつもりだ。

 

ミレニアムのエンジニア部と別れた後、シャーレに戻って武器庫に行く前にふと立ち止まって、窓に映った俺の姿を見る。

 

悪くない。ゴーバッグで不格好になっているが、レーザーポインター、フラッシュハイダー、可変式スコープを付けたホワイトデスがアタッチメント含めて配色に合っている。ゴーバッグにはバックアップブームスティックを入れたホルスターを縫い付けていて、太ももにはロングコートで隠れたアダムの鍵がある。

 

何か視界に入りすぐにさっきのものを隠す。準備したサプライズもとい不思議なお役立ちツールが見られないように身だしなみを再度確認する。

 

そうしていくつか手を加えた後、ISACから来訪者を伝えられて、メインオフィスに向かう。「先生。」と誰かから呼びかけられて振り向けばフォルダを持ったリンが入ってきた。「少し渡したいものが。」

 

“ありがとうリニー。”

そう呼べばリンの眉がひそめられる。

 

「そのように呼ばないでください。」と言い返されて俺は近づく。リンは俺の姿を見つけると胸部に止まり、目が狭まる。「シャツのボタンは全て留めてください。ネクタイはどうしましたか?」

 

俺はため息をつき、ぐったりとして、唇から漏れる呻き声を止められなかった。

“いらない気がした。”

そう答えると再びリンの眉がひそめられ、ため息をつく。

 

「シャツぐらいは入れてください。」そう言われて俺は目を回す。母に叱られているような気分になってシャツを入れる。

 

“これでいいか?”

皮肉を隠さずに言って、頭からつま先までリンが見れば、うなずく。

 

「これでいいです。」そう言ってリンの口角が上がり、リラックスする。「似合っています。」と言えばいつもの表情に戻ってフォルダを出す。「こちら、依頼されたものです。」そしてフォルダを受け取り、ざっと見ればうなずく。満足感と期待感が全身を駆け巡る。

 

“ここまでしてくれてありがとう。”

そう言ってリンはうなずく。

 

「先生、健闘をお祈りします。」そう言ってリンは歩いて去る。

 

“リンの健闘も祈ってるぞ~!”

リンの背に向けてそう叫ぶとこれ以上叱られないように俺も去る。

 

こうして一日目が終わり、二日目が来る。では、社会科や勉強会で学んだことの実践といこうか。

 


 

カイザーコーポレーションプレジデントは抜け目のないビジネスマンである。冷酷さ、競争心、忍耐強さにより、今の地位にまで上り詰めた。

 

「これは何だ?」彼はシャーレの顧問に問いかける。その顧問の姿は太ももにピストルを携え、所属を示す徽章を見せ、バックパックに手を置きながら、周囲を警戒し、一瞬の合図で動けるよう身構えている。

 

“命令だ。シャーレが連邦生徒会の支援を受けて発したものだ。”

彼は前のめりになり、プレジデントを驚かせながらファイルを押し付けた。プレジデントはそれを開き、しばらく黙読して内容を確認した後、ただ絶句した。

“即時効力発効。アビドス自治区内においてカイザー系列企業が保有するすべての土地は、シャーレに所有権を譲渡するものとする。”

 

「言語道断!」プレジデントは冷静ながらも厳格な声で言い放ち、大人に恥をかかせて服従させようとした「これはシャーレの超法規的権限の濫用だ。こんなものに署名するわけがないだろう!」

 

“発効が出来たのは──”

その顧問は胸が締め付けられるような感覚と共に紙を動かせば、プレジデントは見ていたそれに気が付く。

“最近、シャーレとアビドスは非常に…不思議な怪物に遭遇したからだ。その怪物はカイザーに多大な損害を与えた──ビナーが。”

 

それは対策委員会がビナーと交戦している写真の一枚だった。そこには弾幕を放つノノミ、狙いをつけるセリカ、マイクロミサイルを放つシロコのドローン、セリカを助けようと動くホシノが写っていた。

“もちろん、これほど大規模な問題は連邦捜査部シャーレの管轄内だ。存在自体は公になっておらず、アビドス自治区は多大な損失を受けている。”

 

プレジデントは悟る──自分は罠にかかってしまった。シャーレの超法規的権限とは先生が"行わなければならない"ものではない。彼は指示を発令するだけでよく、相手がそれを"聞かなければならない"ものだ。とはいえ、実際に発令された場合、非難の的となり先生の評判に傷が入ってしまう。

 

そうしてプレジデントが書類に目を通していく──何一つ間違いはなく、全て合法、"ただ一つの事項を除けば"規則の範囲内である。これが適用されるとならば──

 

“当然だが──”

プレジデントの思考はその言葉で止まり、マテオは更なるファイルを渡す。

“俺はまともな補填も用意せずに奪うだけ奪っていくような暴君ではない。”

気が引ける中、プレジデントはそれを開く。表情に変化はなかったが、内心では驚き、放心していた。

“セミナー所属の会計等、専門家複数人と協議した結果、アビドス内にあるカイザー及びその子会社が所有する土地の価格は、この額が妥当であると判断した。”

 

この額は雀の涙──所有当時の時価からしてもほんの僅かで、実際は多いが…

 

これを──土地の価値が記録に記された以上のものであると認めた場合、現地でのカイザーの活動に対する調査が行なわれる。その結果、非合法かつ無認可の事業が発覚してしまい、連邦生徒会は更なる法的措置に繋がる証拠を得ることになる。

 

だがそれ以上に、これでどうなってしまうのかをプレジデントははっきりと分かっていた。他に選択肢はない。PMCの精鋭達は現在訓練中である。唯一の機会も消えてしまった彼に出来ることは何もない。

 

ゆっくりと息を吐き出し、彼は尋ねる。「既に自治区にある子会社についての対応は?」

 

“所有権が移るだけだ。ただし、契約書に記載されていないものが見つかった場合、すぐに然るべき対応を取らせてもらう。”

 

自分にはどうすることもできず、ただ理事長の命運を見守るしかないとプレジデントは悟った。

 

重いため息をつき、彼は署名をして、内心では知恵比べで勝った大人を侮蔑する。少なくとも得られたものはあった。

 

カイザーPMC理事長との関係を切る準備をしなければならない。

 

だが彼には知る由もなかった──マスクの下で微笑みながらこの場を去るマテオの背後では、"虫"が盗聴していたことを。

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