The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.15-06 アビドス自治区 廃墟

エージェントとしての活動を重ねていくうちに、俺はある種の…雰囲気に対する特別な感覚が育っていった。それは拠点となる建物やキャンプを設置する場所に関するものだ。廃墟となった高層ビルの屋上や、ホテルの屋上やバルコニーなどは社会に連なった巨塔を見下ろし、崩れ具合や威容さを見れる。もし使えないのなら、小さな芝生の広場でも結構だ。

 

だからヒナと会う予定の廃墟ビルの上層階に入るのは経験したことがない。ヒナが会いたがっている理由が分からないからだ。計画の最終確認だろうか。シッテムの箱を操作して、配置が全部正しいことを確認する。今は比較的落ち着いている。カイザーPMC理事に復讐したいと激昂していないが、ある程度…個人的な行動を取ってくれることを期待している。

 

やり残したままになるのは誰にとっても好ましくない。俺は寛大さを示すこともあれば、容赦なく切り捨てることもある。

 

それでも、この静けさの裏に潜む混乱のおかげで、初めてじっくりと考えることができた。ゲマトリア、ホシノ、神秘…考えることが多すぎる…

 

それにシャーレ…

 

それは…

 

どこから説明すればいいか全然分からない。

 

一日中、子供たちと話をしたり、落ち着かせていたり、次の攻撃に備えていた。黒服がシャーレを明確な敵と言った時までは、財務以外ではシャーレについてじっくり考える時間すらなかった。

 

まず、シャーレと連邦捜査局(FBI)を比較した。なぜなら、まともな判断力があれば、そんな正体不明の組織にこれほどの資金と権限を与え、自由に活動させるはずがないからだ。そうだろ?

 

その通りだ。

 

シャーレはそれ以上にタチが悪い。

 

明確な目的が存在せず、唯一となる手掛かりは名前──Independent Federal Investigation Club(連邦捜査部)

シャーレ名義で登録されている膨大な数の武器や装備品から Independent(独立)しているのは明らかだ。ただし使うのは俺だが。シャーレ所有の巨額の現金も同様だ。ただしリンの考えが違う場合なら、話をしないと俺のものにはならない。予算の使い方も、一定額を超えない限りは誰も疑問を呈することはない。

 

SHDは政府の最終手段であり、社会のあらゆる場所で潜む人々で運用される、緊急時に即時発動が可能なシステムだった。

 

世間や政府から見れば、俺はシャーレという存在だ。組織と構成員──たとえ最低限の人数であっても、全員俺の指示を聞き、他の誰かの指示は聞かない。

 

俺が…

 

子供たち──それぞれが属している場所の神々を元にしているかもしれない存在──皆、俺の指示に従わなければならない。

 

そうだった。忘れるところだった。

“エジプト…エジプトと関連するものは…”

 

ホシノがホルスなら、セリカは…バステトなのか?シロコは…思い浮かぶのはせいぜいアヌビスぐらいだが、あの例えはしっくりとこない。ノノミは…イーリス?違うか。アヤネはトートだ。

 

だが…妙だ。ミレニアムは…記憶違いでなければ堕天使は人類に道具の使い方を教えていたはず。それらしいのはトリニティのハスミとツルギだが、悪魔らしくて角がある生徒が多いゲヘナにはチナツとアコがいる…

 

さて、ヘイローが神の断片かどうかはどっちでもいい。

 

ゲマトリア…

 

大人…余所者…

 

かつて倫理的に問題がある科学者たちと一緒に活動をしたことがあった。

 

道徳的な観点からすぐに殺したかったが、その科学者たちのおかげで生き延びてきた現実があるのは間違いない。もちろん、やり取りは全て正式な手続きを経て行われ、全員がその危険性を認識していた。協力をする気はあったが、一線を越えた場合には躊躇なく排除する覚悟も持っていた。

 

だがゲマトリア…

 

特に理由もなく、ただ知りたい、生徒を犠牲にしてもキヴォトスの秘密を明かしたいだけだった。

 

そんな理屈が通ると思ってるのか?

 

本当に反吐が出る。

 

煙草には依存していないが、流石に今回は…

 

必要だ。

 

箱から一本を少し出して、軽く振ってから勢いよく引き上げる。するとタバコが一本飛び出し、唇でそれを挟む。3回目だ。これで4本無くなった。初めて吸ったときはNOA任務後、ケルソと一緒に吸っていた。その時の俺は医療施設内で怪我が起因して心停止になっていた。ケルソがいなかったらもっと精神的に追い詰められていたはずだ。あの率直で攻撃的な性格はああいった状況では助かった。

 

二回目はキヴォトスに来る前の数日間だ。政府の監視下にあるコミュニティを確認した後、月を眺めていた。久しぶりにどのコミュニティも平和で、同様の報告が各地で上がっていた。ただ俺をここに送り込んだ前哨基地だけは例外だが。

 

それはさておき、ライターを取り出して端に火をつける。「まさか、先生が喫煙家だったとはね。」と、背後から声がして振り返る。屋根でできた影の中からはヒナが現れ、紫色の瞳が非難をするかのように輝いている。

 

“いや。”

口の中に広がったまずさは気にしないようにする。

“味自体が嫌いだし、影響も嫌いだ。はっきり言って全部最悪だ。”

 

「ならどうして捨てないの?」と聞かれ、俺はもう一度吸えば、顔をしかめる。

 

“故郷を思い出せるのはこれだけしかないんだ。”

ある意味では悲しいが、この臭いは…落ち着く。実際喫煙家に囲まれて育ったし、エージェントの間でも喫煙は普通のことだった。ため息をつきながら、タバコの先端をつまんで消し、煙をヒナの方に向けないようにして肺から吐き出す

“ところで、一体どうした?寝ないのか?”

 

「明日の作戦での風紀委員会の配置の確認に来たの。本当は昼間にしたいけど、先生と一緒にいる姿を見られたらむしろ足を引っ張りかねないわ。」

 

“有名人みたいに?”

 

「有名人じゃないけど…まあ概ねそんな感じね。」ヒナはそう答えて視線を逸らす。「別に私は可愛いとか魅力的とか言われるようなタイプじゃないの。自分の時間が全く取れない中でも、常に周囲のことも考えないといけないタイプよ。」

 

俺は鼻で笑い、古びた手すりにもたれかかる。

“分かるぞ。”

ため息混じりで呟き、ヒナがそれに顔を上げる。

“信じてくれ、ヒナには十分魅力がある。”

 

「口は災いの元という諺を知らないの!?」その言葉で俺は驚かされて困惑をヒナに向ける。

 

“何か変なことでも言ったか?”

そう尋ねると、ヒナは眉をひそめて俺を睨む。

 

「大人だから好き放題言っていいと思ってるの?」そう言われて俺は眉をひそめる。「身の程をわきまえて。」

 

“まずは最後まで話を聞く!”

そう言い返し、ヒナは驚く。

“ファッションの専門家ではないが、それでもセンスは分かる。君はとてもスタイリッシュで本当に素敵だ。”

 

彼女は黙り込んでしまい、息を吐き出し、頭を振る。

“マジか…”

言葉を濁して自分の姿を見る。

“俺がファッションを理解してるのって信じられないようなものなのか?”

 

「ご、ごめんなさい。」と頬を赤くしてグローブを少しいじくる。「別に噓つきと呼ぶつもりじゃないの。ただ自分が可愛くないって自覚しているだけだから…」

 

“うっそだー”

 

「もういい。」とヒナは話を止めさせ、にらみつける。思わず俺は小さな声で笑ってしまいそうになるが、ヒナはため息をつく。「こんな下らないことで呼んだわけじゃないから!」

 

“だな。俺たちは非常に真剣にやらなければならない任務がある。”

うなずき、少し周囲を見てから近くにあったテーブルにうなずき、ヒナも続いていく。真ん中にシッテムの箱を置き、説明を始める。

“よし、計画に変更はない。砂漠には監視装置を設置済みで後はカイザーの動きを確認するだけだ。”

ホログラムが現れる。最近になってようやく理解できた。

“相手が動けば、最長で1時間、少なくとも30分以内には何らかの行動を起こすか、あるいは即座に攻撃を仕掛けてくる。恐らく後者の方をやってくると思う。その場合、目的はもう達成しているのかすでに到着している。移動が完了してから五分経った時点で、俺は表に出て引き付ける。”

ウェイポイントが表示され、ポイントを説明し、ヒナもうなずく。

“この時点で10分経っているはずだ。主要の補給拠点の人手も薄くなっているだろう。この時に便利屋が爆破する。妨害されるかもしれないが、様子見だ。”

肩をすくめる。

“カイザーが移動して石油掘削施設が爆破された後、ファウストが動けばこのエリアが攻撃されるだろう。”

ファウスト用にFとマークされた建物を指差す。

“こっちも──”

中央にMと表示された覆面水着団を指差す。

“同様に阻止される。カイザーは逃走か反撃をしてくるはずだ。この場合──”

Sと表示されたサンドマンを指差す。

“ここが勝負の分かれ目になる。対策委員会と風紀委員会はここに配置される。”

マーカーが表示され、風紀委員会と対策委員会の位置が表示される。その背後には補給拠点のマーカーが現れる。

“撤退すれば罠にかかることになるが、しなければファウストとヘルメット団がいる方へ追い込むことになる。”

 

そうして、ホログラムをスワイプして消す。

“これが君がやれることだ。これ以上介入すれば万一の場合になったとしても何も知らないと言い逃れができなくなってしまう。覆面水着団の逮捕の協力を対策委員会が風紀委員会に要請しただけだ。偶然そこに居合わせたカイザーは自治区を守ろうとする生徒たちの部活動に巻き込まれるだけだ。何か質問は?”

 

「いくつかあるわ。」ヒナが前のめりになりながら尋ねる。「妨害を受けた場合はどうするのかしら?」

 

“出来る限り続けろ。”

肩を回す。

“風紀委員会は全員、対策委員会と一緒にここに配置される。だからやり方を聞くか、お祝い用に留まっててくれ。妨害を主に受けるのはアコとアヤネだが、俺がいるであろう本部にはジャマーの発信源があるはずだ。それを壊せば大丈夫だ。駄目なら便利屋が主要拠点を調査して対処させる。”

 

ヒナはうなずき、俺の方に向く。「先生はどうなの?誰よりも危険な役割に就いているけど。」

 

“バックアップはいくつか用意してある。チナツがついている。”

 

「でも到着にかかる時間は分からないわよ。」ヒナがそう言えば、俺は一瞬だけ間を置いてマスクの下で微笑む。

 

“時間は充分にある。その後は奴が逃げ出す。”

あるいは借金を盾にしてくる。個人的にはそうしてくれるといいが。

 

特別な武器などは持っていないが、必要な時はいつも静かに行動していた。衰えてないといいが。

 

「…大丈夫そうね。」ヒナはようやく納得したという様子で、俺もマスクの下で思わず微笑む。

 

“ああ。結局のところ、俺の本分はPMCの牙をへし折ることにある。”

ついブラックタスクとの戦闘を思い出す。勝った時のだ。とにかく、ヒナに振り向き、微笑む。

“心配してくれて嬉しい。”

 

「当たり前よ。あなたの行動や世論はさておき、先生は生徒、そしてキヴォトスのことを考えているのだから。」

 

“まあ否定はしない。さて──”

ヒナの髪を撫でおろして微笑む。ヒナはというと目を見開き、口を開けたままだ。

“しっかり休んでくれ。明日は皆忙しい一日になる。”

 

ヒナが我に返る前に、俺は既に建物から出てカイザーから"差し押さえた"バイクに向かう。シャーレで改造を施していて、元の灰色と緑はシャーレのマークが入った青と白に変えている。

 

バイクを走らせ、ヒナに手を振りながらアビドスの校舎に戻る。

 

そして校舎へこっそりと侵入し、安堵の息をつく。

“寝るか。”

 

「だね。」とホシノが横から現れて、のんびりとした笑みを浮かべて俺を見つめる。

 

“…え?”

 

「生徒に手を出すようなタイプじゃないと思っていたけどな~」とからかうような笑顔になり、目を細める。「風紀委員長?それとも秘書~?」

 

長いため息をついて、そんなことは気にせずにシャワー室に向かう。

“おやすみホシノ。”

 

「おやすみ先生。」

 


 

翌朝、全員が起床、そして準備を整える。

“よし。”

部屋にて、マテオが説明を開始する。

“すでに風紀委員会には説明したが、もう一度おさらいしておこう。”

 

全員がうなずき、マテオはタブレットをテーブルに置くと、ホログラムが起動する。

“まず、重要地点について説明する。ポイントF──”

Fと記されたタグが表示される。

“ポイントM──”

Mと記されたタグが表示される。

“そしてポイントSだ。”

 

これら三地点は直線上に配置されており、西の端に位置するのがポイントF、中央がポイントM、東の端に位置するのがポイントS。ポイントSはこの地域の補給拠点が集中するエリアに近く、主要基地は"上空"、つまり北西方向に位置している。

 

ヒフミは指示を受けているが、その事実を知っているのは対策委員会のみ。そこでマテオは大袈裟に振る舞う必要がある。

“ここで会議が開催される。やることは現行犯で逮捕じゃない。カイザーの行動を証拠付きで捉えることだ。そのため俺たちは兵がこれら三ヶ所のいずれかに集まるのを待つ。それが終われば、俺と68、つまり便利屋が移動を始める。俺の任務自治区で起きている変化を理事に報告することで、便利屋は周囲の補給拠点の破壊だ。

 

「なんでそれやるの?」と足をぶらぶらさせているムツキが尋ねる

 

“風紀委員会とアビドスが合流した際に形成される防衛ラインを突破しようとする敵を阻止するためだ。”

彼はポイントSと補給拠点から一定の距離を置いた位置に弧状の防御ラインを図示する。

“このラインで敵は撤退するか、別の地点を支援するかの選択を迫られる。その後の対策委員会の任務は敵を西へ追いやってアビドスから追い出すことだ。ポイントFの確保が終わる頃には既に撤退命令が発せられており、風紀委員会も加わっているはずだ。他に質問は?”

 

シロコが挙手をする。「先生はどうするの?」

 

“俺は相手の主要拠点に向かい、事態を説明する。事が予想通りに進めば、戦い抜く。大丈夫だ。”

彼は片手を上げる。

“この戦闘ではシャーレからの支援も受けられる。”

 

今度はアヤネが挙手し、マテオはうなずく。「後方にある各種拠点で、歩兵や重装備をすべて送り出していないところはどのような対処をしますか?」

 

“風紀委員会がやることだ。別働隊を送って対処するだろう。便利屋──”

彼はアルを向く。

“補給拠点が終わったら支援に向かってくれ。”

 

「分かったわ先生。」

 

“他には?”

そして彼は振り返るが、誰も質問はしなかったため、彼はうなずく。

“よしじゃあやるぞ。皆を信じているぞ。気を引き締めてこの自治区からPMCを追い出すぞ!”

 

「はい!」と全員が返事をし、必要な物資を補給する。

 

マテオは最後に武器の点検を行い、ミサイルランチャーを肩に担いでバイクへ向かい、エンジンを始動させる。

 

風を顔に受けながら、自身の配置へと走り出す。カイザーに何を仕掛けられてもいいと、覚悟は出来た。

 

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