通りが揺れる。身を隠している路地の角からそっと覗き込み、目の前の建物の前にいる敵の集団と戦車を確認する。その建物はどう見ても「部室」と呼ぶには不適切だ。
轟音とともに砲弾が放たれ、周囲が震える。咄嗟に身を引き、爆発音が響くのを聞きながら、互いに顔を合わせる。
“…後悔しても遅いか。”
そう呟くと、ユウカがこちらを向いた。
「えっ?でもこれが先生の作戦では?」ユウカはそう指摘する。俺はその事実に肩を落とさないよう必死にこらえた。
“だからといって、好きでやってる訳ではない。”
俺は角を覗き込み、こう言う
“戦車だ。”
「はい、巡航戦車ですね。」ユウカは確認しながら続ける。「装甲は…」
すまないユウカ、情報量が多すぎる。腕を吹き飛ばせる弾の大きさを知る必要はあるか?アサルトライフルで撃つのはどれだけ無駄であるのかを知る必要はあるか?
正直なところ、M4で戦車に勝てる見込みがあるだろうか?
…
あっ。
そうだ。
俺は音を立てながら、ゴーバッグを振り落とし、バッグを開けてあるものを探しながら、こうつぶやいた。
”この中にマガジンが1つか2つあったはずだ。”
少し探した後、ようやく見つけた。
「それって何ですか?」ユウカは興味深そうに聞く。手を伸ばして、底に赤いテープが貼られた黒いマガジンと青いショットシェルを取り出し、M870のシェルホルダーに入れてあるシェルを青いショットシェルに入れ替えた。
“ちょっとしたスパイスを加えた弾だ。”
俺はまた角から顔を出し、新たな人物を見つけて目を見開いた。
“あれは誰だ?”
凝視しながらそう聞いた。
ISACのおかげで、いつも便利なコンタクトレンズが作動して擬似的な写真を撮ってくれた。ぼやけた画像が鮮明になり、とても魅力的な女性の姿が現れるのを見ながら、後ろにもたれかかった。
「誰でしょうか?」 ハスミは俺の横に座りながら訊ねる。
“どれどれ…”
と呟き凝視。コンタクトレンズに埋め込まれたスキャンテックがオレンジ色に光り、俺の茶色の目と混ざり合い、視界から自分を見失いそうになりながらも、そしてハスミが俺の目を見つめているのに気づかず、俺はこう言う。
“髪は黒で、キツネの仮面をつけていて…キモノ?…着物だ。で、その着物は黒地で花の模様がある。銃はKar98K かType
チナツ、スズミ、そしてユウカも皆、様々な表情を浮かべているが、そのどれもが同じではない。
“何だ~その顔は。”
もう1度覗こうとしてそうつぶやいた。
本能と全身が即座に動けと叫び、反射的に身をかわす。俺の頭があった場所を弾丸がかすめていき、思わず息をのむ。「先生!」少女たちが叫び、戦車の動力音が響く。
「まあなんと!連邦生徒会ほどの組織が、ここに直接来る力をお持ちでないとは!信じられませんわね~!」皮肉と愉快さが混じった彼女の声に、俺たちは凍りついた。「連邦生徒会が大事にするものを爆破する瞬間を、是非素晴らしい場所でお見せしたかったのですが。」
俺たち全員が顔を見合わせ、何も言わずとも理解する。
“スズミ、隙を見せるぞ。”
そう言うと銀髪の子はうなずき、ハスミも振り向く前に同じようにうなずいた。
“今だユウカ!”
「いくわよ!」ユウカはそう叫びながらバリアを展開し、先陣を切る。その後、俺も後へと続き、ハスミが角から顔を出し、一発撃ち込む。弾丸が俺のすぐそばをかすめ、身を隠すために車の陰へと飛び込む。
ユウカは立ち上がり、もう一丁のMPXを取り出すと、驚くぐらい高精度な弾幕を浴びせる。敵は慌てて遮蔽物に身を隠し、一部が応戦する。弾丸がバリアに弾かれ、地面に転がるが、それが長く持つ保証はない。
M4を持って顔を出し、サイトを覗き、ホロサイトのクロスヘアに敵の頭を合わせて、連続射撃を行う。弾が命中し、頭が跳ねる。さらにもう一度連続で弾を放った瞬間、敵の動きが止まり、ヘイローが消えた。
銃声が俺の位置の近くで鳴る。「アイツヘイローねえじゃん!」と、敵の一人が、誰にも気がつかなかったことに気がつき指摘する。俺たちが戦うときはいつも、素早く静かで、撃つ前に俺の姿を見られないようにするのが常だった。
ヘイローがないことを示すため、顔をのぞかせたとき、場はふと静かになった。
そして、俺はヘイローがないからといって危険な戦闘員でなくなるわけではないことを示す。距離が離れているにもかかわらず、敵の頭、首、胴体に銃弾を正確に撃ち込み、M4のマガジンが空になるまで撃ち続けてから身を隠した。 マガジンを交換し、唇を噛み締めながら、敵が再び集中砲火を浴びせている音を集中して聞く。
アイデアとしてはあまり良いものではなかった。
「どこを狙っているつもりなの?」 ユウカは俺がいる遮蔽物の前に出て、標的として、また戦闘員として、身を隠そうとする敵に向かって身を引き締めながらサブマシンガンを撃ち、そう叫んだ。
どもるような音が俺の注意を引いた。ハスミが敵を睨みつけ、弾を取り出し、回転させてからキャッチする様子を俺は見た。「手間がかかりますね。」彼女はそう呟き、ライフルの周りに影を作りながら狙いを定め、それが砲煙のようになるまで待ってから発射した。
弾丸は空気を切り裂き、敵数人が隠れている遮蔽物を突き破って命中し、気絶させた。
俺は口笛を吹いて感心してから、首を振った。
“押し上げるぞ! ハスミははぐれた敵を狙え!! ユウカは中央に移動して敵を右から遠ざけろ!!”
銃声が絶え間なく響く中、距離に関係なく確実に聞こえるように、俺は大声で叫んで指示を伝える。
「了解しました。」
「分かりました先生!」
グレネードを取り出し、ピンを抜いてから投げる。
“グレネード!”
身を隠せられる前に弾が発射され、俺は地面へと叩きつけられた。HUDを確認し、ボディーアーマーの一部が壊れていることに気づくまでは、少しめまいがしたが、怪我はなかった。当たったのは心臓に近い部分だ。
だが既に、ターディグレイドはダメージを修復していた。アブラティブナノプレートが破損箇所を修復していき、アーマーの下のプレートがぎこちなく動いていた。
「あらら~?別に誰も”やるな”とは言っておりませんでしたが~?」 仮面を被った女性は皮肉たっぷりに問いかける。おそらく、ユウカ、ハスミ、チナツが慌てている様を楽しんでいるのだろう。
「こんっのー!」ユウカが叫び始めたが、俺は咳き込みながら立ち上がる。「先生!」
「まだ意識はあります。」茶髪の子がそうつぶやくのを聞きながら、割れたプレートを出し、新しいプレートに入れ替える。
“行け!俺は平気だ!”
M4をM870に持ち替えながら叫ぶ。 セーフティーを解除して狙いを合わせ、バックショット弾を放ち、フォアエンドをポンピングして空薬莢を地面に叩きつける。
遮蔽物の内外にいる複数の敵を狙いながら、横へと動く。俺の視線は、先ほどまで興味なさげだった仮面の狐に向けられる。だが今は、彼女の視線が俺に向いている。武器はまだ構えていない。そして俺は身を隠す。
まだ何も起きてない。スズミがまだ着いていないのか、それとも何かが起きているのか。
“ISAC、俺のスマホの位置は?”
SHDネットワークがなければ、こんなのは出来なかっただろう。だが俺のスマホには、スマートウォッチ、スキャンテック、ISACブリックと連動するセンサーが搭載されている。
ウェイポイントが表示され、スズミは入口の近くにいるが、まだ到達していない。だが銃撃戦が起きてる所から離れた位置ではあった。俺は唇を噛み締め、ワカモを少し見て、ため息をつく。
“くそっ…”
ここで注意を引く必要がある。特にワカモの目を俺の方へと向けないと。戦車がすぐ近くにある状況を考えれば、俺がやるべきことは明確だ。
M870からM4に替えて、底に青いテープが貼られたマガジンを取り出す。現在のマガジンと交換し、遮蔽物からそっと覗き込む。
銃声が響き、弾丸が敵に命中する。
悲鳴を上げながら痙攣し、電流が全身を駆け巡る。その様子に周囲の敵が息を呑む。さらに一発、そしてもう一発撃ち込む。ハスミとユウカが一瞬固まる。敵も驚きを隠せなかったが、すぐさまその隙を突いて、次々と倒していく。
スズミが建物内へと入る。俺たちも前線を押し上げるが、チナツに肩を掴まれ俺を止めさせる。「大丈夫ですか!?」心配そうに目を大きく見開きながら聞き、俺は頷いた。
“大丈夫、ただのアザになるだけだ。”
彼女が遮蔽物の上から覗き込むと、俺はうなずきながらため息をついた。
「よかったです。ですが巡航戦車が近づいているので気をつけてください。」彼女がそう指摘するのを聞きながら、俺は歯を食いしばる。そうだ、戦車だ。「照準はAIで合わせていますので無人でも使えますが、それでも操縦する人は必要です。先生の弾薬なら少しは有利にはなるかもしれませんが、まずはワカモと戦車の装甲をどうにかしないといけません。」
俺はうなずき、ハスミとユウカが残りの敵を倒すのを横目に覗き込んで戦車を見た。周りを見回し、ワカモを探すが、どこにもいない。スズミが中に入れたのならいいのだが。
“そうか…”
チナツに俺が心配していたことを指摘されて、俺は唇を噛んだ。
「ですがワカモの位置が分かりません。」 彼女はそういい、俺がうなずくと、ハスミは最後の敵を倒した。計画を建てる時間はもう残ってない。
“よし、やるぞ。 ハスミは装甲が薄い所を狙え。露出させたら俺が撃つから、ユウカは注意を引きつけておいてくれ。”
そう指示を出し、彼女たちはうなずく。
「はい!」
前進し、戦車が旋回して狙いを定めるのを見て、咄嗟に身を伏せる。俺は身を低くして、ハスミは影を纏った弾丸を撃ち込む。ユウカはバリアを展開し、戦車に向けて動きながら撃ち続けて、注意を引き付ける。
EMPグレネードを持ってないという事実に悔やみながら、俺は射撃の機会をうかがう。
その瞬間が訪れる。ハスミが装甲に穴を開けるのを確認し、狙いを定めて撃つ。ショック弾が装甲を撃ち抜き、雷光が走る。俺はすぐさま走り出す。少女たちは驚いているが、俺は気にせずグレネードのピンを抜き、戦車へと飛び乗る。
ハッチを掴みながら機を伺い、そして中で何かが動く音が聞こえ、ハッチが開いた。
“はいどうぞ!”
そう言い放ち、グレネードを落としてから飛び降りて、身を隠した。
数秒後、グレネードが爆発し、戦車の動きは止まった。その衝撃で俺たちは鳥肌が立った。
何も起こらなかったので、ユウカは「…やったの?」とこぼした。
“ワカモは?”
そう周囲を見回しながら、切実な疑問を投げかける。
緊迫した沈黙が辺りを覆う。
何かが動く音が聞こえる。振り向くが、反応をするにはもう遅い。ワカモの仮面越しの視線が俺を嘲笑うかのように映る。銃剣の刃をアスファルトに引きずりながら走り、それを上へと振り上げた。俺は咄嗟に頭を引き、刃が俺のガスマスクと顎の一部を切り裂き、破片が宙を舞った。
彼女はそのまま弧を描きながら後ろに回転し、低く身をかがめて銃を構える。
「先生!」とユウカ、ハスミ、チナツが叫んだ。
…彼女のヘイローが無政府主義の象徴のように見えるのが気になるのは仕方ないか。
| A SHDネットワークがオンラインへ復帰しました。お帰りなさい。エージェントヴェルネス。 |
スズミは、接続されたスマホの電源が落ちるのを見届ける。サーバールームにある唯一のモニターが点灯し、オレンジ色の不死鳥が映し出され、画面には、見慣れない文字や単語が流れ始めた。
スズミはほとんど分からなかったが、それでもいくつかの名前や単語は読めた。
そして、”Activated”と”Online”の単語が見えた。
スズミは頷き、来た道を駆け戻っていく。戦闘の準備は整っている。
間一髪で展開したバリスティックシールドの裏から笑い声を漏らす。同時にアキレスPulseを起動し、敵の弱点が浮かび上がり、マップと他のガジェットもオンラインになった。チナツの名前には十字、ハスミにはクロスヘア、ユウカには盾、ワカモにはクロスヘア───というようにスキャンテックから生成されたHUDには少女たちの名前とアイコンが頭上に表示された。
そして彼女の銃弾が俺に命中したのと同時に俺のM9が仮面を撃ち抜き、遠くへと地面に転がっていった。
その瞬間、仮面の下の素顔が、皆の視界にさらされた。
それがうら若き女の子の顔つきであったことに少し驚いた。こう…もっと強面だと思っていたが、まあ…DCでの経験したことのせいでそう思い込んでいただけなのかもしれない。
とにかく、バリスティックシールドを畳み、元の位置に戻してM9を両手で低く構えながら彼女に向く。頭は真っ白になっていた。
待て…その表情はなんだ?
どうして顔を赤らめているんだ?
普段の俺の表情は、目と体の動きに限られている。そのため、俺はとても表情豊かな人間だと、少なくとも周りからはそう言われてきた。射撃場で兵士を指導するのと、学校の記憶を頼りに子どもに教えるのでは、似て非なるものだ。前者では、まだまだ若者である俺が舐められないような、厳格な雰囲気と規律が求められた。それにガスマスクが一役買ってくれた。しかし、後者では幼い子供たちに安心感を与えるような存在でなければならず、それに対するガスマスクの役割なんてのはなかった。
そのため、マスクで口を隠しながら、体で感情を表現することには慣れていた。だから、政府なんてくそくらえなテロリストのような振る舞いではなく、学生のように顔を赤らめ、そわそわしている若い女の子に、思わず目を奪われそうになったのは、許されてもいいと思う。
「あなた…さまが…」と優しく語りかけてくるが、その目は危険な光を放っており、思わず息を呑む。ようやく、仮面がないことに気づいたようで、あわてて拾い上げ、付け直して、渋々ピストルをホルスターに収めた俺に向き直る。
静寂が広がり、俺の手はM9を握ったままどちらも動かない。
「し…」
“ん?” そうつぶやくと、キツネ耳の少女が後ろに振りかぶった。
「失礼いたしましたーーーーっ!」そう叫び、逃げる。 本能的にホルスターからピストルを取り出したが、止めた。ISACによってHUDに輪郭が描かれた少女の姿を目で追いながらため息をついた。
ピストルをホルスターに収めて、キツネ耳の少女については後回しにすると決めた。もしまた姿を現すようなら、その時に対処すればいいが、とんでもない厄介ごとになるのは間違いないだろう。
その時は、将来の俺が後悔すればいい。現在の俺は3人の女の子の上に目を向け、伸びをしながらホログラムで表示されている名前も一緒に動くのを見る。
“戻ってくれてうれしいぞISAC”
| A ... |
| A 同じ…気持ちです…エージェント |
オッケーISAC、そんな人間味のある声ではなかったはずだが、今は彼女たちのことを優先しよう。だから彼女たちに向いて、安堵の笑みを浮かべる。
”よし! みんなよくやった! これで任務は終了した。ご褒美をあげたいが…今はそんな金は持ち合わせてないな…”
後頭部を掻きながらそう言った。
「いえ、大丈夫です先生。光栄です。」 ハスミは頭を下げて言う。
「まあ、ワカモは逃してしまいましたが、それでもシャーレの部室の破壊は防げました。ありがとうございます、先生。」 ユウカは少し顔を赤らめながらも、満足そうな笑みを浮かべて言う。
「あとはリンさんとスズミさんが来るのを待つだけですね」とチナツはうなずいて言った。
「ごめんなさい!」 スズミが顔をしかめながら現れた。 「遅くなってしまいました、スマホを入れる場所が中々見つからなかったので…」 彼女は下を向きながら、地面をにらみつけながら恥をかいて言った。
ただ、そっと頭を置き、彼女は驚いて、撫でながら言った、
“いいんだ、任務は無事に終わったし、明日になればみんなは学校へ行ける。中で待ってくれないか?”
鍵がかかってないドアを開けて、こう言う。
“ついてきてくれ”
「それは出来ません、先生」ハスミはとても残念そうに口を開いた、「まだ、それぞれの部の方で責任を果たさなければならないことが残っていますので。」
ため息をつき、暗くて誰もいない建物を見つめる。
“それなら、俺は中でリンを待つよ。皆は責任を果たしてきてくれ”
「もしよろしければ」と、俺がスズミの方を向くと、「地下室への行き方を教えましょうか?」とスズミが口を開いた。
“ありがとう、でもここからは俺だけでなんとかする。”
そう言って建物に入り、視界の隅に目をやると、HUDに新しいウェイポイントが追加され、三次元コンパスの針が動いた。