The Divide   作:粋刺@翻訳

90 / 132
Chapter 16:オペレーション:ウェーニー・ウィーディー・ウィーキー
Chap.16-01 アビドス自治区


“ファウスト、何が見える?”

カイザーのPMCの理事が位置するキャンプ地から遠く離れた所、マテオはバイクにもたれかかりながら尋ねる。ホワイトデスのスコープで見回し、レーザーポインターで敵の輪郭を表示していき、HUD左上のミニマップにはその場に留まっている敵の姿が映り、次の場所へ向かう。

 

一方、ヘルメット団を榴弾砲の位置へ連れていっているヒフミは道中で止まらざるを得ず、敷地内にて双眼鏡でターゲットを見渡していた。「えーっと…敵を視認しました。9時30分、ポイントFにてカイザーPMCの部隊を確認しました。ラブさん、ポイントMはどうですか?」彼女は無線で報告をする。

 

「うん、ウチらからも確認できる。」廃墟の中、ラブ達は潜伏しており、ラブはスペースブランケットから顔を出す。「カメラも回っている。それにしても…」途中で言葉を濁せば、信じられないといったように団員を見やる。「あんたとサンドマンが覆面水着団を裏切るつもりで計画を立ててたなんてね…流石ファウスト、血も涙もないわね。」

 

「ですねぇ。」

 

「大胆すぎ!」

 

「おお。」と数人の団員が賑やかせばヒフミは小さなうめき声を上げ、身体をもじもじと動かして恥ずかしさを隠す。

 

「ナギサ様にどう伝えたら…」と意気消沈するヒフミだが、マテオは笑い声を上げる。

 

“こういうのが楽しいんだ。これは俺たちだけの秘密だ。友達と秘密を共有するのは楽しいだろ?”

マテオはそう言いながら敵をPulseし続ける。

 

ホシノ──対策委員会が使用しているトラックの上にて、彼女は口を挟む。「そそ。ヒフミちゃんが言わないのならおじさんたちも言わないからね。」

 

「別にやましいことじゃないから──」とセリカは自身の銃のチャージングハンドルを引っ張る。「そんなに後ろめたく感じなくていいわよ。」

 

「ん、ただのゴミ出し。」

 

「自治区内にいる悪質な人たちへの攻撃をゴミ出しとは言いませんよシロコ先輩…」とため息をつくアヤネ。「私は配置に着きました。対策委員会は現在ポイントAに向かっています。」

 

「ゴミを出すぞ。」イオリは不機嫌に言いながら、銃のボルトを閉じて肩に掛ける。彼女の後ろには風紀委員会のスナイパーとショットガンナーが続いていた。「G1、ポイントBに移動中。」とイオリは無線で報告した。

 

続いてトラックに乗ったヒナの報告が入る。「G2、ポイントAにて対策委員会と合流。」彼女が乗るトラックにはマシンガンナーやライフルマンが同伴している。

 

「カイザーの部隊に対する監視体制が設立されました。」最後にアコが秘書の声色で報告する。「皆さんと一緒に行動が出来て光栄です。」

 

「68、ターゲットを補足。」アルが伝え、他の便利屋は石油掘削施設を注視している。「いつでも行けるわ。」

 

「おお~」と興味をそそられて、興奮したムツキが口を開く。「結構良さそうなとこだね。新しいおもちゃなら全部まとめてどっかーん!ってなりそう!」

 

マテオは自分の位置からうなずきながら、ほぼ独り言のように話しながらスキャンテックで既にPulseになった兵士たちの動向を監視している。

“よし、カイザーは集合を待っている。アコ、アヤネ、随時報告を頼む。”

 

「了解しました。」

 

「分かりました。」

 

嵐の前の静けさ──風が砂を彼の顔に吹き付けようとするが、顔の下半分ではなく全体を覆うマスクを着用しているため、砂が入ることはない。背後には太陽が昇り、スコープの反射光による位置の特定はされない。砂上での伏せは安定しないが、問題ない。

 

マテオは側にいる腹這いで横たわるホログラム姿のアロナを横目に見ていた。

S 確認しました。シャーレチーム、すぐに動けます。

 

“よし、では待機だ。相手の作戦が始まったら、こっちは自己紹介だ。”

 

無線はアコとアヤネが出す指示のみ。ベースキャンプでは様々な車両が往来しており、ISACはその車両の内部を識別していた。一部は違法武器もあれば、契約を終えて帰投している兵士もいた。マテオはホワイトデスのグリップをきつく握り、ゆっくりと静かな呼吸をしながら、いつもの仕事前のトランス状態に入るが、すぐに意識を現実に戻す。細心の注意を払う必要があるからだ。

 

気付けば全ての敵と主要地点が表示されており、自身の背後から敵が近づいていないかを確認していた。

 

内部にジャマーが設置されているようだ。本来は便利屋が再設定した通信アンテナに取り付けるもので、アビドス全域で携帯機器の通信障害を引き起こす。残念ながら、現在はISACによって固定されているため、アンテナの破壊もしくは通常のジャマーを使用して自前の通信機器に頼るしかない。この場合、干渉は受けないが通信速度は遅くなる。

 

「全部隊移動しました。」アコの報告が入る。

 

「こちらも移動しました。移動には約十分掛かります。」アヤネも報告すれば、マテオは録画を見ながら口笛を吹く。

 

“かなり力を注いでいるな。”

彼はそう呟き、主要拠点内での活動が最高潮に達する様子を見守った。オートマタや宛がわれた生徒たちが効率良く動いているが、規律は欠けていた。

 

「当たり前です。」

アコが反応する。

「カイザーがブラックマーケットと繋がっていたのが事実であれば、向こうは便利屋68が加担した銀行強盗によって7億円のも損失が発生したことになります。それにカヨコさんの──」その名前を口に出せば、彼女の複雑な表情になる。「情報が正しければ、現金が詰めこまれた五つのバッグのうち三つが既に取引されており、少なくとも一つ一つが一億円相当です。カイザーにとっては大金ではありませんが、それでも無視はできない額です。それに加えて、先生が土地を全て買収したので、それに対する報復も考えています。」

 

“厳密にはアビドスのものだが。”

マテオは息をひそめて答える。土地の所有権に関する書類をホシノが署名したからだ。

“でもまあ分かった。なら二十分以内で全員配置に着くな。だが視認はされるな。俺は最後に動く。68は数分以内に移動して、次の十分後までには爆破準備が終わる。”

 

「くっふふ~先生ったらわがままなんだから~」

 

「が、頑張ります!」

 

“よし。”

ホワイトデスのスコープを覗きながら、マテオは待機する。ホワイトデスの白がマテオの制服に溶け込んでいる。

 

時間を潰すと共に、彼は野営地の構造を観察することに決めた。

 

タイダルベイズンを拠点へと作り変えてD.C.に紛争の炎を巻き起こし続けたブラックタスクと比較すれば、カイザーPMCのキャンプは完全に別物である。野営地よりも本格的な軍事基地そのものであり、末端部ではなく心臓部のように、カイザーコーポレーションの意志を体現した存在である。撤退を余儀なくされた場合、移動はより困難となるだろう。だからマテオは鼻で笑う。奴は過信しているに違いない。頭は錆びつき、鈍く、根拠のない自尊心だけは大きいのだろう。

 

監視塔から防御施設の配置、さらには部隊の展開位置に至るまで、全てが似通っている。監視を続ける中、アパッチヘリコプターやクルセイダーなどの車両が動き回っているのが確認でき、彼は眉をひそめる。たかが金のためにこれほどの戦力が動いているのだ。

 

6階建てのオフィスビル風の建物で、各フロアには約20人ずつの警備員が配置されている。にもかかわらず活動の様子は比較的落ち着いている。恐らく単なる作戦拠点以上の場所として想定されているようだ。アビドスを手にしようとしているのだから、この建物を学校の中枢施設として使おうとしているのかもしれない。

 

いつもの活動範囲からかなり離れた所に移動して怖くないのか?

 

確かにそうだ。SHDネットワークのような侵入型ネットワークはISAC以外には扱えない。ISACが通信を監視しているのはマテオとアロナのみ。通常、アビドスのような広さを持つ地域を調査目的のために網羅するのは不可能に近いが、カイザーが通信機器を操作し、特定地域の位置情報を隠す装置を展開している状況では、さらに困難を極める。ただし、使用するネットワークが正規の経路を通さない場合はこの限りではない。SHDネットワークのメインハブはシャーレにあるが、キヴォトスには複数の中継ノードが設置されており、これらは信号を増幅する役割や、万が一メインハブが機能しなくなった場合のバックアップとして機能している。それに加えて、シャーレには連邦生徒会やサンクトゥムタワー等に接続された独自の衛星システムも保有している。

 

この場合、通常は膨大なデータ解析に悪夢を見せられることになるが、件の人物たちはアロナやISACのような存在がいない。闇銀行に接続後、ISACはカイザーのシステムにも侵入し、記録データや一部の監視カメラ映像へのアクセス権を獲得した。ただし、ISACが更なる詳細を必要とする場合、カヨコはカイザーの主要通信塔にあるメインコンピュータへのISACのアクセス許可をしなければならない。

 

だがそれでも、ISACが収集した情報は十分なものであり、カイザーの戦力及びその詳細を地図に表示可能である。

 

マテオはただ、これもまたトゥルーサンズやラストマンバタリオン(LMB)といった準軍事組織(パラミリタリー)、ブラックタスクといったPMCを叩き出すものに入るのかと疑問に感じていた。

 

再び意識をキャンプに向け、オートマタや兵士は移動を開始していた。

 

つまり、建物内には約100名の兵士がおり、キャンプ内にはドローンや生徒、オートマタなどを含め200名弱の敵が散在している。

 

この数でアビドスに大きな痛手を与えられるのだろうか。報復が出来ない程の損害を与えられるだろうか。

 

結局のところ、彼はアビドスに対する債権者である。そしてその債務を負っているのはアビドスだ。それを理由として、マテオは徹底的に破壊するつもりである。キャンプは最初から壁で囲まれており、戦車部隊が歩兵支援のために移動を開始し、後方に残るのはごく少数のみ。アパッチ数機も同行しており、重装備のオートマタや生徒も一部加わっている。

 

マテオはゆっくりと観察を続けながら、視界に入るあらゆる対象をPulseしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。