「先生…流石に長くかかりすぎでは…」カイザーPMC主要拠点を取り囲んでいるシャーレのヘリコプターにて、ユウカは腕を組ながら足を踏み鳴らしていた。「兵士は本館をぐるっと囲むように動いているし、それに他の拠点から増援や大型車までも…!」
「ですが数は多くありません。」スズミが指摘する。「恐らく主力部隊のおかげですね。」
「もちろん──」チナツが口を開く。「風紀委員会もですよ。」
「ただの杞憂でしかありませんわ。」得物のスコープを覗きながら、ハルナは言う。「風紀委員長のように防衛し続けられる方はそうそうおられませんし、イオリさんの圧を受けながら冷静沈着のままでいられるのは難しいことです。」
「まあ、把握していますよね。」と平たい口調でチナツが言えばハルナはくすっと笑う。
「あのアパッチ…最上階にいる?」とヒビキが言えば、ユウカは皆と一緒に振り向いてそれを見ようとした。
「そんな!早く降ろしなさいパイロット!」とユウカが叫ぶ。
「ごめんなさい無理です。」とパイロットが答えるが、彼女もまた心配していた。「フレアが出てから降ろせと先生にきつく言われてるので。」
「でも先生の危険があぶ──」
「アパッチダウン。」とヒビキが呟けばユウカの動きが止まる。
「まあ~…」と興味深く唸るハルナ、チナツはヘリの縁にしゃがみ込んで建物へ墜落していくアパッチを見ていた。
「うそでしょ!?」とユウカは叫び、同様に墜落していくアパッチを見つめる。
「コックピットを直接撃ったのでしょう。」と伝えるスズミ。
彼が三階あたりまでを次々と滅茶苦茶にしていく様子を見守っていれば、ついにそれが見えた。
「フレア確認!」パイロットが叫ぶ。「
「いいから降ろしなさい!」と叫ぶユウカ、そして全員は動き出す。
監視するヒフミはヘルメット団を使ってPMCたちをポイントMに誘導する。「状況はどうですか?」と無線で指示を出す。だが返事は無理というものばかりで、奇襲は出来ないようだ。弾薬が不足しつつあることを目を細めて確認したヒフミは、ポイントSから接近するカイザーの部隊を発見すると、砲撃を止めさせる。
「ラブさん!すぐに離脱してください!風紀委員会が向かっています!」
「えっ!?」とラブは叫んだ後部下に命じる。「皆、逃げるよ!風紀委員会が来る!」
「分かりました!」
「またムショ暮らしは御免だぁ!」
返事が飛び交い、離脱し始める。ヒフミは腰をかがめながら、皆が開けてくれた突破口を援護射撃で守りつつ、他の生徒たちにも指示を出す。「援軍は見えますか?」
「はい!」という返事が返る。「私の指示に従って、あの辺り一帯に全火力を投入してください!」
更に返事が続く中、ヘルメット団の歩兵部隊が接近しすぎた敵部隊への攻撃を続ける。やがてトラックがラブの部隊の元に来る。互いに協力しながら彼女たちはトラックをよじ登るようにして乗り込み、他の団員がいる位置に向かって走り出す。
「ファウスト!」ラブはトラックの荷台から明るい笑顔で手を振る。「爆発いけるよ!」
「起爆してください!」ヒフミが命じ、ラブはマテオから教わった防御戦術を頭に浮かべながら、手に持った起爆装置のスイッチを押す。
部隊が通過した建物という建物が連鎖爆発を起こし、揺れ、軋み、すでに脆くなっていた基礎が更に脆くなり、PMCの頭上に降りかかる。数人は爆風に巻き込まれ、下敷きになる。次第に到達する援軍。そして遠くからはヒナの圧倒的な圧が放たれ、ヒフミも一息ついて手を挙げて、振り下ろす。「撃てー!」
砲撃音、銃声──多種多様な武器の交響曲。
砲撃の反動で舞い上がる砂塵、歓声を上げるヘルメット団──ヒフミも否定し難い満足感を覚える。カイザーもろとも一帯が砲撃の炎に包まれ、ありとあらゆる所に砂塵と破片が飛散していった。
そんなファウスト──最近頭角を現した危険極まりない犯罪組織「覆面水着団」の一員を遠くから見るヒナ。彼女はヘルメット団を扇動し、災厄の狐に強奪されたと思しきトリニティの砲弾や火砲を用いて、カイザーPMCの部隊を撃破していた。
追跡したい気持ちは山々だが、彼女とその部隊にはまだ果たさなければならないことが残っている。ヘルメット団の砲撃によってカイザーの部隊は大打撃を受けてしまい、残存兵も散り散りになっていた。事はマテオの計画通りに進んでおり、まるで彼は教育以外の分野の経験も積んできたかのようだった。
この作戦に制限時間は設けられていない。しかしカイザーPMC理事は慎重さよりも欲深さが勝っていたせいで、彼は紙切れ1枚だけで罰則など気にせずに好き放題動かせると過信していた。そのせいで"罠かもしれない"という考えよりも彼自身のプライドが上回っていた。そのため先生は自らを囮役として買って出た。
一見すれば計画は一つだけのようだが、実際は三つの計画が同時進行していた。風紀委員会と対策委員会が陽動をしている間、便利屋は破壊工作を仕掛けて敵部隊及びその通信網を麻痺させる。そして最後に、残ったカイザーの部隊を主要基地に合流させて、先生率いる部隊がカイザーの部隊に罠をかける──先生を囮として。
ヒナの視線はヘルメット団の撤退を指揮するファウストを追った後、再び目標に向く。
この計画はあることを念頭に置いている。それは世界へ、そしてカイザーへ、先生を中心としてこの惨状を知らしめることだった。だがそれでも、リーダーが囮と中核を兼ねることにヒナはアコに同意出来なかった。
彼女はグローブを身につけた自分の手を見やり、頭を撫でられた記憶に頬を赤らめながらそれを押し殺す。先生は大丈夫だ。
どのみち、ヒナに共感ができるような世界で過ごしてきたというのなら、あの言葉に彼女は待ったをかける気にはなれない。彼は大丈夫だ。
そんな彼女の横で、ノノミが歩き出す。「いっきま~す!」
弾幕を放ち、残存兵は遮蔽物へ追いやられる。イオリはスナイパー達と共に包囲するように走り出して側面から攻撃を仕掛け、動く動かないは関係なくただ見えるもの全てを狙い撃っていく。
一方、ヒナは自分たちに迫るアパッチを凝視していた。「面倒くさい…」と不満を漏らしながらMG42を向けるが、ヘリの機銃が彼女へと向き、発射されようとした瞬間、突如として影に覆われ、アパッチは発砲するも、命中したのは別の何かだった。
「あれー風紀委員長ちゃ~ん?」とIron Horusを展開して弾幕の暴力を難無く受け止め、振り返るホシノ。「ちょっと鈍くな~い?」
「そんなことないわ。」とヒナはアコからの力を実感し、弾幕が収まる共にホシノの横を通り過ぎながら、再びアパッチへ武器を構える。ホシノはIron Horusを下げ、横向きにしてEye of Horusを載せ、三発撃てばその三発で兵士たちは次々と倒れる。
その瞬間、銃声が響き渡ると共に一束の紫色のビームがアパッチを穿ち、弾幕が少し続きながらアパッチは墜落していく。
「わぁ~」とホシノはニヤリと笑う。「さっすが~」
兵士が隠れていた遮蔽物を飛び越えるシロコ、気が動転する兵士の顔に蹴りつけ、マテオの教えを実践していく。
────喉、関節、目といった弱点を狙え。
喉を殴る──相手は白目を剥き、むせび咳き込む。
────必要に応じて、次に繋がるような初撃を叩き込め。
襟首を掴んで引き込み、足払いで転ばせる。
────素早く終わらせろ。
マテオの手本に習い、脚を大きく下げて頭部へ蹴りつける。兵士の顔は微かに動くが、そのヘイローは消えてしまった。
振り向き、顔には満足感が現れながら他の兵士を撃ち続け、時折ドローンも活用した。
一方のセリカはマガジンを押し込み、彼女から青い炎が噴き出していた。「そこね!」
弧を描くように走った後、遮蔽物に隠れた敵を撃って追い出し、イオリとスナイパー達が敵の姿を捉えたところで仕留める。ショットガンナーはヘルメット団がいた方向から囲い込み、敵には撤退という選択肢だけに限定させる。
アヤネは心配そうに見守りながら、依然としてマテオの無線が反応していないことを確認する。