The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.16-06 アビドス自治区 カイザーPMC野営地 研究所

研究所内部、そこには厳重な警備が敷かれていた研究所へ侵入したとは思えないような、楽しげな様子で口ずさみながら歩く人影があった。「儚さ」という言葉の代名詞である花を模るヘイローは一歩踏み出すごとに小気味良く揺れ、ぴくりと動く茶色の狐耳、そして腰に合わせてゆらりゆらりと揺れ動く尻尾。

 

彼女はまるで母校の、ずらりと並んだ屋台を見るかの如く、机を見回していた。表情は狐の面に覆い隠されてはいたが、口ずさみ、そしてその動きからは喜びが隠せていなかった。

 

「すみませーん!」まるで買い物をする新婚夫婦のように、彼女は店主を呼ぶ。「あちらは一個だけでしょうか?それとも…」と机の上にある赤い円が入った球状の物体──追尾マインを指差す。

 

彼女の前にある椅子には、音声ボックスから火花が上がるロボットがテープと鎖で縛り付けられていた。叫ぼうとするものの、雑音で籠った悲鳴が上がるのであった。

 

「そうですか…残念です。」狐面を被った狐の少女は首を振る。「てっきりあなた様の道具かと…」と興奮した様子で言葉を発する。「まるでそれそのもののような…」暗闇の中、面の奥の双眸が妖しく光る。「そう、"そのもの"ですよね?」

 

悶える機械。笑う狐の少女。「いえ、そんなはずがございませんよね。なのでここは私がもらっておきましょう。」

 

それに彼女の手が伸びる。形、素材──金属や溝、ゴム製の車輪に至るまであらゆる箇所を愛撫する。そして職人のように、彼女はその爆発物についての特徴を一から十まで脳裏に深く刻み込む。そうして先ほどの鋭い態度から一変して、それを手に取る。「あらまあ大変おかわいいこと。あなた様もきっと喜んでくださるのですね。」

 

追尾マインを袋にしまい、再びテーブルにあるSHDテックを見やる。「うふふふ…他にお気に召れそうなものは…」独り言を呟く狐。「いつか値切りの練習もしないといけませんね。あの件で必要になることですし…」途中で言葉を途切れさせ、両手を頬に当てたまま、無邪気に笑った。「さて…どーれーに──」

 

天の神様の言う通り、災厄の狐は正解を当てる。「二個とは、今日はついてますね~!」と彼女は喜ぶ。「すみませーん!」と武器を持ち上げながら、オートマタに声をかける。「こちらはいくらでしょうか?」

 

彼女は縛られたロボットの音声ボックスを傷つけないようしながら、声を遮る要因となっていたテープを剥がす。「ここで何をしている災厄の狐めぇ…」

 

「違いまーす!」狐坂ワカモは高らかに声を上げ、銃で薙ぎ払う。銃剣が音声ボックスを切り裂き、そもそも声を奪っていないかのように彼女はため息をつく。断線からは火花が上がっていた。「そうではなくて、まずは商品のこととお値段について教えてください。そして私が値切りを行うのです──あの女のように。」と小さく唸るようにワカモは言う。「さて、これ以上のお話は望めそうにないので、ただで頂きますね。」

 

ドローンとファイアフライをしまい、そのまま歩き去れば、ふとぴくりと耳が動く。「あら、これは…」

 

粘着爆弾が装填されたケミランチャーだ。彼女からしても、この組み合わせはおかしかった。パニックに陥ったロボットを無視して机に目をやると、ケミキャニスターが装填された粘着爆弾のランチャーが目に留まり、狐面の下では目が輝いていた。

 

「すみません。」と彼女は声をかけ、テープを剥がしながら尋ねる。「お値段をお聞きしても?」

 

「えっと…」ロボットは答え始める。「千円?でも使えませんよ…」

 

ワカモは答えず、ロボットが必死に抜け出そうとしている様子をただ眺めていた

 

「…千円?」ワカモは小声で唸り、ロボットの動きは止まる。「先生の武器が…たったの…千円!」ライフルのバットストックでロボットをかちあげて後方へ吹き飛ばした後、机を飛び越えてロボットの上に立つと、銃身を掴んで頭上に掲げる。

 

「この愚か者!」そして振り下ろす。「管見な物言いを!」もう一度。「白痴!」もう一度。そして息を荒げて動きを止めると、痙攣したロボットを睨みつける。「その目でしっかりと!先生のご勇姿をご覧になっていたのなら!あの擲弾器に適した弾薬ぐらい分かるでしょう!」顔は踏み潰されて、定期的にブルースクリーンが表示されていた。「それに千円!?先生の道具はそんな陳腐なものではありません!」

 

ロボットを蹴り飛ばされ、その衝撃に耐えきれず壁はひび割れる。彼女は嘲笑いながら怒りで肩を震わせるが、すぐに気を取り直す。「あら大変。お買い得な価格になっていたのに…先生の懐事情も限られていますし…でも安物買いの銭失いと言いますし…もう…」狐面の下で不満げに頬を膨らませる。「困っちゃいます。」

 

粘着爆弾のキャニスターとランチャーのキャニスターを袋に入れて、彼女は頬に指を当てる。「気を取り直して、もう一度いきましょう。」

 

今度は小さな窪みのある半球状の物体を見つけ、手を伸ばしてロボットのテープを引き剥がす。「こちらは──おっと、あれはどこに──」

 

「十万え──」

 

銃剣で斬りつけるワカモ。目には怒りで溢れ、ロボットの音声ボックスが切断されると同時に、火花が飛び散りながら奇怪な音が響き渡る。「人の話を最後まで聞きなさい!」と机を飛び越え、倒れたオートマタの上にかがみ込む。「それに何ですかこのぼったくり価格は!先生を路頭に迷わせるつもりですか!?もしも…」と言葉を濁した後、急に鼻歌交じりにこう続ける。「いえ、森の奥で暮らすのも悪くないですね…一緒に小屋を作ってあんなことやこんなことを…」そして邪な笑みを浮かべた後に…「きゃー!いけませんあなた様―!」

 

まるで興奮した女子高生のようにワカモは何度も蹴るが、その度にオートマタの損傷は激しくなっていった。

 

そうしてまた壁へと蹴り飛ばし、微かな唸り声が途切れる中、彼女はハイヴと他のパーツも袋に入れる。

 

そして最後から二番目のテーブルに歩み寄る。奇妙な造形をした物体がずらりと並び、彼女は握り拳に咳をする。「すみませーん。」とオートマタの音声ボックスに貼ってあったテープを剥す。「こちらはおいくらでしょうか?」

 

「えー…」と言葉を濁すオートマタ。ただ待つワカモ。「先生のだから…あなたの…ものですかね?」怖気づいて出たあやふやな答えに、ワカモは目をぱちくりとさせる。

 

「ん~」とうっとりとした声を上げ、頬を赤らめながら身をよじる。「ああなんと…!やはり先生の赤い糸はあの子ネズミ共でなくてこのワカモと…!」

 

彼女は鼻歌を歌いながら、トラップを手に取って、オートマタに銃を向ける。オートマタの目が大きく表示され、トリガーが引かれると同時に反動を利用して最後の机へ軽やかに転がる。銃弾を置き土産として、スクリーンに穴が空いたオートマタはやがてブルースクリーンへと変わった。

 

そして尋ねることもなく、彼女はただ銃剣を力任せに最後のオートマタのスクリーンに突き刺し、息を荒げる。「こ…これは…」言葉を途切れると、手は震えていた。「先生を…拝顔できる…ホログラム…」

 

ゆっくりと、デコイの周囲に手を動かし、起動方法を探る。「あくまでこれはお邪魔虫共に手垢がつけられていないかどうかのための確認…でももしかすると、もしかしなくても──」と何かしらの部分を起動すると、彼女の目は大きく見開かれ、狐面に反射した光が輝く。

 

それはマテオ・ヴェルネス──彼女の先生(Her teacher)であり、彼女の先生(Her sensei)であり、あなた様(Her darling)の姿だった。

 

彼女に向けられたその端正な顔立ち、無骨な表情、集中すれば細くなる丸くて茶色の瞳、軽々とワカモを抱きかかえられそうな広い肩幅、似合う服装──とはいえそのスタイルはワカモからすればシンプルなものだったが、それでも十分魅力的だった。むしろ連邦生徒会のマークがない、この粗削りな姿が好みだった。鍛え上げられた前腕にある傷跡も、傷つけた者がいると思うと怒りがこみ上がってくるが、むしろその傷が彼女の目には魅力として映っていた。そして武器の細やかな傷と、扱い方も見事なものだった。

 

だが彼の親切心──暴がありながらも彼の中にあるそれにワカモは惹かれていた。机の上に飛び乗り、ゆっくりと手を伸ばす。「あぁ…先生、あなた様。アビドスの女たちのせいで追い詰めるなんて…ですがご安心を、あなた様なら一人だけで切り抜けられると確信しています。ですがもしも、(ひとり)ではなく(だれか)とならば…素敵だと、お思いでしょう?」

 

ちらつくホログラム、彼女はマスクで覆われた顔に手を置いて戻せばホログラムは安定し始めた。ミレニアムのものよりも一歩劣るが、どこよりも一歩先を行く出来栄えだった。

 

そういえば、ミレニアム生は先生のASMRを作るのだろうかと彼女は思っている。是非とも実現して欲しいプロジェクトであり、聞く価値も十分ありそうだ。

 

ゆっくりと彼女は前のめりになり、面とマスク──それぞれで覆われた二人の顔が次第に近づき、耳に響くほどに胸の鼓動は激しく打ち鳴らされる。「はしたない行為とはいえ、出来るのは今だけ…それに先生本人に行うわけではないですし…なら…その…」

 

彼女は震えた身体を乗り出す。トマトのように真っ赤になった顔と興奮で震える体──ホログラムに映るマテオの無表情な顔にじっと見つめる。

 

息を大きく吸い、近く、近く、さらに近づき、そしてついに、ついに…

 

鼻先が触れ合う。ガスマスクと張り子の狐面──鼻先が触れ合った瞬間、彼女は後ずさる。頬に手を当て、真紅に染ったその笑顔は震え、飛び跳ねて歓喜の声を上げた。

 

「ほ、本当に…本当にやってしまいました…!」と一瞬動きを止め、「きゃー!」と黄色い声を上げて体をくねらせる。

 

ゆるりとデコイを袋に入れると、浮足立ちながら研究所を出ていく。くるくると回りながら、ミサイルランチャーとその弾薬を手にすると、施設内外での混沌は目もくれずに、メインオフィスへと向かう。

 

武器の備蓄場に立ち寄った時、先生のスナイパーライフルを見つけて手に取った後、施設を爆破した。

 

砂漠────灼熱の太陽が照りつける中、彼女はただふふっと笑った。

 




[訳者あとがき]
サプライズワカモ理論
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