今度は異世界転生じゃなくて異世界転移かよ ※リメイク版   作:にゃすぱ@梨

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静かな夜と届く声

「神様、そろそろリムルさんと合流しましょうか」

「……あ、うん。そうだね」

 

何とか、神様のおかげでシルバーバックを倒すことが出来た。

けれど、どうしてあいつは、あそこまで執拗に神様だけを狙っていたんだろう。

考えてみても、その理由はさっぱり分からない。

 

──それでも。

 

「……このナイフ」

手の中の漆黒の刃を、そっと握りしめる。

神様から渡された、新しい武器。

まるで前からずっと持っていたみたいに、手にも、腕にも、体の動きにも自然に馴染む。

自分の一部になったみたいな、不思議な感覚。

 

(これがあれば……もっと強くなれる)

 

ベルは、明日からのダンジョン探索を、今まで以上に頑張ると心に決めた。

 

「リムルさん、どこにいるんですかね?」

「さぁ、それはボクにも分からないけど……あ、こういう時こそ思念伝達じゃないか!」

 

《リムル君! 聞こえるかい?》

《ヘスティアか? 何かあったのか?》

《いや、こっちは無事にベル君が倒して終わったよ!》

《おー! 分かった、今そっち向かってるから、そこで待っててくれ》

《はーい》

 

「ベル君、リムル君は今こっちに向かってるってさ。だから、ここで待ってていいよって」

「そうですか……分かりました!」

 

二人は近くの、崩れかけた石壁のそばにある岩に腰をおろし、リムルが来るのを待つことにした。

 

(そういえば、シルさん……結局見つけられなかったなぁ)

 

アーニャから預かった財布の重みを思い出しながら、ベルは小さくため息をついた。

 

 

───

 

 

無事にベルはシルバーバックを倒したようだな。

やっぱり、しっかり成長してる。

 

《いえ、ベルは自分の長所である「足の速さ」を、最初は殺して戦っていました》

 

え、まじ?

 

《はい。なので私が一言、助言しました》

 

なるほど。

それで動きが変わったわけか。

 

《助言してからの動きは、最初とは別人でした》

 

まあ、自分の長所を潰して戦ってたら、そりゃ苦戦するよな。

これはまた、朝の修行の時にきっちり言っておかないとな。

 

 

触手モンスターを倒した後、俺はロキたちと別れ、ベルのいる方向へ向かっていた。

人混みもだいぶマシになってきてはいるが、細い路地に入ると、さっきまでの祭りの賑やかさが嘘みたいに雰囲気が変わる。

 

「……治安、悪すぎない?」

 

ちょっと横道に入っただけで、人気が一気に減る。

建物も妙に密集していて、初見だと迷路みたいだ。

 

《ベルさんのいる場所も、似たような構造ですね》

 

《ベル、周りに人いるか?》

《あ、リムルさん! いえ、今は居ませんよ?》

《分かった。ありがと》

 

人目がないなら、話は早い。

 

俺はその場で足を止め、ベルのいる場所に「転移」した。

 

 

「よっ! 大丈夫だったか?」

 

「リムルさん!」

 

振り向いたベルは、服も泥だらけで、ところどころ破れていた。

だけど、その顔は晴れやかで、どこか誇らしげだ。

 

「無事に倒せました! 神様からもらった武器のおかげです!」

 

「ふむ? あー、ヘスティアが前に言ってたやつか! 良かったな!」

 

「はい! あ、それと……」

 

ベルは少しだけ言い淀んでから、続けた。

 

「ボクが戦ってる最中に、誰だか分からない声が聞こえたんですよね」

 

「誰だか分からない声?」

 

「はい。『足を止めるな』みたいなことを言われて……。なんというか、頭の中に直接響くような感じで」

 

(……確定でシエルだな)

 

心の中の声は相変わらず涼しい。

けれど、ベルにはまだ話さない方がいいだろう。

 

「戦ってるときってさ、いろいろ研ぎ澄まされるからな」

 

「研ぎ澄まされる、ですか?」

 

「そうそう。普段なら気づかないことに気づいたり、自分で自分にツッコミ入れたり」

 

「え、自分でツッコミ……」

 

「『足止めてどうすんだよ俺!』って、心の中で叫んだりしなかったか?」

 

ベルは少し考えてから、はっとした顔になった。

 

「……あ、確かに。『足を止めちゃダメだ』って、自分でも思ってました」

 

「じゃあ、それが混ざって聞こえたんじゃないか? まあ、ダンジョンってのは不思議なことも多いしな」

 

「なるほど……」

 

ベルは完全には納得してなさそうだったが、「変な怖いもの」ではないと理解できたのか、どこかホッとした表情になった。

 

(シエルの事はやっぱり秘匿にすべきだよな例え異世界でも)

 

《そうですね。現状、主様以外に私の存在を知られる必要性はありません》

 

 

話題を切り替えるように、ベルが手にしたナイフを見下ろした。

 

「それに、このナイフのおかげです。本当にすごいんですよ。握った瞬間、勝手に体に馴染むというか……」

 

「それは武器との相性がいいってことだな。神様に感謝しないとな」

 

「はい!」

 

 

一通り話が落ち着いたところで、俺は空を見上げる。

煙と土埃に混じって、うっすらと夕焼けの色が見えた。

 

「とりあえず、今日は帰るか」

 

そう言って歩き出そうとしたところで、ベルに服の裾をつままれた。

 

「待ってください!」

 

「ん?」

 

「シルさんのお財布、結局渡せなかったので……お店に行きませんか?」

 

「あっ」

 

完全に頭から抜けていた目的を、ベルの一言で思い出す。

 

「そういえばそうだったな。……よし、じゃあ返すついでに、そこで飯も食ってくか」

 

「はい!」

 

ヘスティアも賛成し、俺たちは三人で「豊穣の女主人」へ向かうことにした。

 

 

───

 

 

「すみません、リューさん。シルさんを見つけられなくて、お財布渡せなかったです」

 

「いえ、気にしないでください。忘れたのはシルの落ち度ですし……それに――」

 

静かに答えたリューの背後から、ひょこっと顔を出す影。

 

「あ、ベルさんにリムルさん! そしてヘスティア様も! わざわざありがとうございます!」

 

「い、いえ、気にしないでください」

 

シルが慌ててカウンターから飛び出してきて、深々と頭を下げてくる。

財布は無事返却。せっかくなので、そのままここで夕食を取ることにした。

 

「じゃあ今日は、特別にサービスしますね!」

 

「え、いいんですか?」

 

「はい。……その、私が忘れたせいで、ご迷惑をおかけしましたから」

 

にこっと笑ったシルに押し切られる形で、俺たちは席に案内された。

 

 

豊穣の女主人の料理は、どれも本当に美味い。

量もたっぷり、その分お値段もそれなりだが、満足度は間違いなく高い。

……の、だが。

 

「……あの、これ、量おかしくないですか?」

 

ベルが恐る恐る口を開く。

テーブルの上には、通常の倍はありそうな大皿料理がどっさりと並び、そのうえ食べきれるか不安になるほどの肉料理まで追加されていた。

 

「さっき言っただろ? 礼をするって。うちの娘が迷惑かけたみたいだからね」

 

カウンターから出てきたミアが、腕を組んでベルたちの席の前に立つ。

 

「い、いや、でも……」

 

「なんだい。文句でもあるのかい?」

 

ぐいっと顔を寄せられ、ベルはビクリと縮こまる。

 

「ミアさん、ありがと! 全部食べていいんでしょ?」

 

「もちろんさ」

 

「ほら、ベル。ご好意はちゃんと受け取らないとダメだぞ?」

 

「ついでに、ほらこれも飲みな! 美味い飯には美味い酒だよ!」

 

ドンッ、と豪快な音を立てて、ジョッキがテーブルに並べられる。

 

「おー! 飲んで食べるぞー!」

 

リムルのテンションと勢いに押されて、ベルもおずおずとジョッキを手に取り、ヘスティアもにこにこと笑いながらそれに続く。

 

「「「かんぱ〜い!!」」」

 

 

───

 

 

一方その頃、ロキ・ファミリアの面々は、リムルが去ったあと、ひとまずホームへと戻っていた。

ロキ本人は「ガネーシャに文句言ってくるわ!」と言い残し、そのままどこかへ消えていった。

 

「それにしても、あの変なモンスターなんだったんだろうね。すっごく硬かったしさ」

 

「見たことないやつだったわね。アイズの剣ですら歯が立たなかったし、なにより魔法に反応してた」

 

「それに、あの再生力」

 

「謎が多いわね……」

 

ティオネ、ティオナ、アイズの三人が、今日の戦いを振り返る。

 

「それよりもさ、リムル君だっけ? あの子、すっごい強いんだね! あたし、彼が戦ってるとこ見てて、すっごいドキドキしちゃった!」

 

「彼……謎が多いわよね。あんな冒険者、見たことないわ」

 

「リムルは……すごく強い」

 

アイズの短い言葉に、二人は顔を見合わせる。

 

「あ、アイズはリムル君と知り合いっぽかったよね?」

 

「うん」

 

「どうして仲良くなったの?」

 

アイズは、ロキとともにヘスティアのホームを訪れたこと、そしてリムルとの模擬戦のこと、朝の特訓に混ざるようになったことを、つっかえながらも説明した。

 

「……本気で戦ったのよね?」

 

「うん。最後、全部出し切った攻撃は、リムルに簡単に止められちゃった」

 

「本当に何者なの……」

 

「アイズでも全く歯が立たないなんて……リムル君すごい! アイズは、明日も行くの?」

 

「うん。その予定」

 

「じゃあ、あたしも連れてってよ!」

 

「え?」

 

「ティオナ?」

 

「あたしも、リムル君と戦ってみたい!」

 

「珍しいわね、あんたがそんなに言うなんて」

 

「え? そう? 強い相手とは戦ってみたいじゃん! ……で、どうなの? アイズ!」

 

「……まあ、ついてきても文句は言われないと思うから、いいんじゃない?」

 

「やったー!」

 

こうして、リムルの許可を待つ前に、ティオナの朝練参加が決まってしまった。

 

「でも、ティオナ。起きてなかったら置いて行くからね」

 

「分かってるって!」

 

「ならいいけど……」

 

 

───

 

 

俺たちは、豊穣の女主人の美味しい料理をたっぷり堪能したあと、そろそろ帰ろうと席を立った。

……のだが。

 

「うぅ……無理、気持ち悪い……」

 

ヘスティアが、路地裏の壁に手をつき、うずくまっていた。

 

「あんなに調子乗って飲みすぎるから……」

 

「リムル君だって飲んでたじゃない! うっ……」

 

「いや、俺は大丈夫なんだよなぁ(シエルがアルコールを強制分解してくるからな……トホホ)」

 

「不公平だ! うっぷ……おえぇぇえ……」

 

「はぁ……」

 

俺はヘスティアの背中をさすりながら、ひたすら介抱を続ける。

ベルには先に帰ってもらい、お風呂を沸かして、いつでも寝られるように準備をお願いしておいた。

 

しばらくすると、ヘスティアの顔色もほんの少しマシになってきた。

 

「本当に大丈夫か?」

 

「だいぶ楽になったよ……」

 

「じゃあ、もう帰るぞ?」

 

「うん……」

 

俺はヘスティアの肩を支えながら、二人まとめて転移でホームへ戻った。

 

「ただいまー」

 

「あ、おかえりなさい。お風呂の準備できてますよ!」

 

「お、ありがとな。ちょっとヘスティア放り込んでくるわ」

 

俺はそのままヘスティアを風呂場まで連れて行き、「シャワー浴びて、さっぱりしてこい」とだけ伝えて扉を閉める。

自分たちも、もう夜も遅いので、寝る準備を進める。

 

ちょうど終わったころ、ガチャ、と扉の開く音がした。

 

「リムル君……」

 

「ヘスティア、どうだ? 少しは調子良くなったか?」

 

「だいぶね……」

 

「もう、このまま寝な」

 

「そうする……おやすみ……」

 

そう言うと、そのままヘスティアはふらふらと俺の部屋に入り、俺のベッドに倒れ込んで、そのまま気持ちよさそうに寝息を立て始めた。

 

……俺のベッドで。

 

「……まあ、いっか」

 

寝床を奪われた俺は、そのまま大広間に出てソファに横になった。

 

(そういえば、しばらくベルのステータス見せてもらってないな)

今日の戦闘と、これまでの鍛錬で、どれくらい伸びているのか。

明日の朝、更新してもらうついでに、今日の反省も一緒に整理するか……。

場合によっては、もう一度アイズと戦わせるのもアリかもしれない。

 

そんなことを考えていると、また扉の開く音がした。

 

「あ、リムルさん。起きていたんですね」

 

「まあな。ヘスティアが何故か俺の部屋で寝ちゃったからな」

 

ベルは苦笑いを浮かべながら、俺の向かいの椅子に腰掛ける。

 

「どうしたんだ?」

 

「いえ、ちょっと……眠れなくて」

 

二人の間に、しばらく静かな時間が流れる。

 

「今日の戦いは、どうだったんだ?」

 

「……相手を倒すことに必死で、自分の戦い方を忘れていたなって思いました」

 

ベルは手の中のナイフを見つめながら、ぽつりと呟いた。

 

「きっかけはあったのか?」

 

「きっかけ……?」

 

「途中から、動きが変わったろ。あれだよ」

 

ベルは少し考えてから、小さく頷いた。

 

「……頭の中で『足を止めるな』って言われて。それで、今までの特訓を思い出して……」

 

(つまりシエルの一言+今までの積み重ねってわけか)

 

「なるほどな。自分で気づけたなら上出来だ」

 

「気づいたのは……その声があったおかげです」

 

「まあ、そういうのも含めてベルの実力ってことでいいんじゃないか?」

 

ベルは少しだけ考え、それから、ふっと肩の力を抜いた。

 

「自分の長所が足の速さなのに、それを活かさずに正面から受け止めようとして……。自分の長所を潰して戦うと、あんなに苦戦するんだって、すごく実感しました」

 

それを思い出したのか、ベルは少しだけ悔しそうに顔を歪め、俯いてしまう。

 

「確かに、それは致命的だな」

 

「……」

 

「でも、シルバーバックをベル一人で倒したんだろ? それは普通にすごいぞ」

 

顔を上げさせるように、軽く言葉を乗せる。

 

ベルは今、第7階層まで探索範囲を広げている。

第7階層といえば、キラーアントが出現し始める階層だ。

シルバーバックは、そのさらに先――本来なら第12階層あたりから出てくるモンスターで、まともに戦っても、ましてやソロで勝てる相手ではない。

 

「そのシルバーバックを一人で倒したってことは、確実に成長してる証拠だろ?」

 

「……」

 

「ただ、『こうすれば、もっと楽に戦えたよね』っていう反省とアドバイスは必要だ。次に同じような状況になったとき、今回の経験を活かせばいいんだよ」

 

「そう……ですよね」

 

ベルは少しだけ考えてから、ふっと肩の力を抜いた。

 

「リムルさん、ありがとうございます!」

 

さっきよりずっと、晴れやかな笑顔で頭を下げてくる。

その後は他愛のない話をしながら、ベルが眠くなるまで二人で談笑を続けた。

 

ベルがソファでこくりと寝落ちしてしまったのを確認してから、俺は彼をベッドまで運び、自分はそっと外に出た。

 

 

「……ちょっと、ダンジョンにでも行こうかな」

 

まだ夜中の二時くらい。

人通りもほとんどなく、空は月の光だけが頼りだ。

俺はゆっくりとバベルへ向かい、そのまま一階層に降りた。

 

最近は夜になると、こうしてこっそりダンジョンに潜り、自分のスキルの確認や実験をしている。

 

「さて、今日は……あっちの世界から、こっちの世界に仲間を召喚できるか、だな」

 

もし俺の世界と、この世界の空間が繋がっていれば、ランガを呼び出せるはずだ。

……ただ、もし呼び出しに成功した場合、なんて説明しようか。

「どこに行ってたんだ」とか、絶対聞かれるよな。

むむむ。そこは、うまく誤魔化すしかないか。

 

少なくとも、今も俺のスキルは普通に使えているし、シエルも「向こうの世界にはいつでも戻れます」と言っていた。

完全に空間が切り離されているわけじゃないってことだ。

 

でも、それならそれで。

なぜ向こうから思念連絡が飛んでこないのか。

俺が居なくなったら、絶対誰かが連絡してくるはずだし……。

謎は多い。

 

「とりあえず、試すかどうか……」

 

《主様》

 

どうしたシエル?

 

《ランガを呼び出して、一度向こうの世界の状況を確認するのは有りだと思います。確実に『戻らないのか』と尋ねられるとは思いますが、ランガであれば簡単に丸め込めますので大丈夫かと》

 

丸め込めるって……。

でも、呼べたら呼べたで「お供します!」とか言って、絶対ついてくるよなあ。

……まあ、そのときはそのときか。

 

「よし、やってみるか」

 

俺は深く息を吸い込み、手を前に出した。

 

「来い、ランガ!」

 

 

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