アルベド姿のモモンガ様が至高の四十二人目をナザリックに閉じ込めて終わる話 作:シャリ
ユグドラシル最後の日。
プレアデスや守護者が揃った玉座の間で、モモンガはギルド長の証《スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン》を掲げながら、隣にいる黒目黒髪で高身長のアバターを横目で見る。
彼の名はリオ。モモンガにとって一番の親友。
リオはギルドが立ち上がってすぐに加入してきた。前向きでメンバー達によく話しかけており、モモンガにも積極的に関わってきた。
他のギルドメンバーが去っていく中でも、リオは変わらずログインを続けてユグドラシルをモモンガと謳歌していた。
「リオさんと二人きりが普通になっているような……」
「だなー。これはもう実質上の夫婦でしょ」
「見た目はサキュバスでも、中身は男なんですが」
「中身も含めて可愛いから自信を持っていいよ!」
「どんな自信ですかそれ」
公式からユグドラシルのサービス終了のお知らせがあっても、腐ることなく楽しそうにモモンガへ笑いかけていた。ゲーム内では細かい表情の表現は無くても、モモンガの目には貫通して幻視できる程である。
「モモンガさん! プレイヤーが減った機会を活かして、人気だった桜エリアで花見をしましょうよ。皆でエンジョイ!」
「皆? 長いことギルドには二人しかいないのに……」
「ギルドのNPCと一緒にって意味ですよ。彼女たちは話せなくても大事な仲間ですしおすし」
「彼女たちも仲間か……そうですね。いっぱいスクショしますね」
リオがいたからモモンガは孤独ではなく、寂しさを募らせることもなかった。しかし、モモンガからリオに対して一つだけ不満があるとすれば。
「リオさんがいなくなったら泣きますからね」
「大丈夫。ちゃんと俺は最後までいるからさ。涙用のハンカチは捨てていいぞ!」
──リオさんからは、いなくならないで欲しいと遠回しや冗談気味も含めて一度も言われたことが無い。こっちばかりが固執している。
モモンガは知らないことだが、リオは原作知識によりモモンガがユグドラシルから離れる可能性すら頭に無かっただけでしかない。ギリギリのタイミングで原作展開と違って転移しないかもと焦るくらいの男である。
ただ、そのせいでモモンガの心の内は稀に湿気っていた。
遂にやってきてしまったサービス終了日。
モモンガとリオ以外のギルドメンバーでやってきたのはヘロヘロひとりのみ。そのヘロヘロも、リオから最後まで付き合わないかという誘いを断ってログアウトしていた。モモンガは残念に思う部分はあれど「リオさんいるし、別にいいや」と無理に引き留める気がそもそも無かったので気持ちは軽い。
23:59:31
玉座の間でスタッフを握るモモンガに哀愁は無く、ただ感慨深さがあった。
ユグドラシルが終わってもリオとは別のゲームで一緒に遊ぼうと約束済み。物言わぬNPCたちとも思い出を作れて、気持ち良く終わりを受け入れる準備はずっと前に終えている。
「アインズ・ウール・ゴウンよ! 永久に栄光あれ!」
00:00:06
サービス終了したのにログアウトが起きない。サーバーダウンが延期になった?
と考え出したモモンガの横でリオが勢いよく倒れ伏す。
「リオさん!?」
突然の事態にモモンガは焦り、思考を加速させる。
攻撃を受けたわけでもない。ならば問題は本人に起きているはず。まさかサービス終了時の処理でなにか悪影響が起きたのか。だが具合が悪くなったなら強制ログアウトされるはず。いや待て、それも含めて不具合ではないか。ならば対処できるのは運営、つまりゲームマスター(GM)くらいだ。自分がGMコールしなければ。
「GMコールが繋がらないだと!? 誰か、リオさんを」
声に出したところで誰も反応するはずもない。NPCを除けば二人しかいないのだから、なんて考えは打ち破られた。
「任せるっす!」
「えっ」
飛び出してきたのは六人姉妹のメイドチーム『プレアデス』の次女ルプスレギナ。
モモンガが驚き硬直している間、彼女はリオに〈
NPCが話し、自ら魔法を使用した?
魔法を行使されたリオはゆっくりと立ち上がり、元気そうに声をかける。
「心配させてスマンな、モモンガさん。もう平気だよ。ルプちゃんも〈
リオさん受け入れ早くない?
まぁ、そういう人ではあるけども。
調子よさそうに彼女の頬をモチモチとさせたり、頭を撫でくり回したりする。
「ほぉらよーし、よし、よし。良い子で悪い子め!」
「ふれしいっふ!」
リオさんからあんなにも撫でられて羨ましい……じゃなくて。ユグドラシルでは有り得ない触れ合いに反応。
刺すような視線を感じて、跪くNPCに目を向ければ嫉妬の表情で彼女を見ていた。
作り物ではない。生命を感じさせる彼女たちの雰囲気と感情を読み取れて、ゲームが現実になったのだと不思議と納得する。
「リオさん、ちょっと二人で話しましょう」
「皆、そのまま待機でお願いねー」
NPCから転移で離れ、今後のためにも会話する。
「最初になんですがね……リオさん受け入れ早くないですか?」
「なっちまったものは仕方ないからな。切り替えて行こうぜ!」
「うーん……まぁそうですね」
悩んだところで現実は変わらない。受け入れなければ前に進めないし、仕方ない。
「NPCたちは明確に意思を持っていました。彼女たちに失望されて見放されてしまう可能性もあります。そんなことにならないように、皆の前では威厳がある姿勢をしようと思うのですが、いいですか?」
リオさんは頷いて同意し、狼男に変身。
闇が毛先まで溶けたかのような漆黒の姿に惚れ惚れする。あぁいや、変身前の方も舌なめずりしたくなるような……って何を考え出しているんだ。サキュバスの身体に精神が引っ張られている気がする。
打ち合わせを終え、彼女たちの元に戻り重々しい雰囲気を意識して声を出す。
「皆の者、顔を上げよ」
顔を上げた皆の視線が集中し、少し緊張する。
一呼吸し、言葉を続ける──前にリオさんが声をあげた。
「俺とモモンガさんから皆に確認したい! ナザリック内で何かが起きて、これまでとは変わっているんだ。皆は昨日までのことを覚えているか?」
想定していた流れと違っていて、目でリオさんに抗議してみるも涼しく流される。
「至高の方々と過ごした麗しい日々、この体と心に全て焼き付いております」
一人が答えると、他の者も口々に同じような内容で答えた。
リオさんがセバスの呼びかける。
「セバス、三人でランダムダンジョンに行ったことは覚えているかな? 昨日の話ね」
「はい、勿論でございます。どんなに些細な事柄でも振り返り、お伝えできます」
「モモンガさんに道を任せたら迷うし行き止まりに当たるしで、モモンガさんが少しへこんだ姿も?」
「……何もかもが大切な思い出です」
「オーケー、把握した」
二人の会話の内容に、思わず口元をキュッと締める。
なにを聞いているの!?
「アウラちゃんさ~、ちょっと前に大森林エリアを三人で探索中にシークレット宝箱を見つけた時のことは覚えているかい」
「覚えています!」
「モモンガさんと一緒にバンザイの動きをしたことも?」
「はい! 一緒に喜ぶことが出来て幸せでした!」
気恥ずかしさから、流石に口を挟む。
「リオさん? ちょっと、あの? 待ってくれません?」
「まぁまぁ大事なことなんで」
止まることなく、リオさんが別の者に問いかける。
「シャルティアちゃんって、皆で花畑に行ったことは覚えているよね? モモンガさんがはしゃぐ様子も含めて」
「当然でありんす。とても甘美で愛しき時間でありんした」
リオさんは満足感いっぱいの笑みを浮かべて、こちらを向く。
「モモンガさん! これで分かったでしょう! 今からみんなに威厳のある姿を取り作っても、今更もう遅い!」
「なっ……!」
「さっきのやり取りで分かったと思うけど、皆はモモンガさんの可愛い姿も含めて好ましく思っているよ。だから、ムリして演技をする必要なんてない。そんなことを続けていたら心が摩耗しちゃいますしね」
何も言えないでいると、真剣な顔つきで見つめられる。
「俺は目の前にいるモモンガさんが好きです」
一瞬、呼吸が止まる。
「モモンガさんは、モモンガさんのままでいて欲しい。モモンガさんとして幸せになって欲しい。あっ、今の無し。ちょい訂正。俺がモモンガさんを幸せにする」
「幸せにするって」
プロポーズされた?
問題は……ない。喜びだけがある。
元々、同じ時間を重ねてきた深い仲の友として、この先も一緒にいたい相手と考えていた。
今は、身体が変わっているから男女として繋がることができる。できてしまう。
そう考えた時点で、サキュバスとなった身体が熱を帯びる。昂ぶりを覚え、浮かれ気味になる気持ちを抑えれそうにない。
ただ単に、精神がサキュバスの身体に引っ張られているのではなく、本心から身も心も受け入れる準備を整えていて。
「共に時間を重ねてきた親友として!」
スゥー……。
ふぅぅぅ……。
ハァ。
モモンガはこの世界ではアルベドの姿であり、ジョブレベルも該当するものになっている。つまりは戦士系。
その溢れるパワーで、弱い鼻先ごとマズル部分を掴まれたらどうなるか?
答えはシンプル。超痛い。
「痛っ! いだだだだ!! 恥ずかしい思いをさせたからって、マズル鷲掴みはルール違反だろ!」
◆ ◆ ◆
時が経ち、リオはリザードマンの集落で過ごしていた。そしてモモンガは毎晩、経過報告を〈
最初は寝る前にする恋人同士の夜電話みたいだなとひっそり考えたりしたのだが。
「ザリュースがさ~」
「ゼンベルがさ~」
リオさんが自分じゃない誰かと楽しく過ごしている腹立たしさから会話中に何度も下唇を噛んでしまうようになっていた。
ナザリック内の誰かなら別に構わなかった。羨ましく感じたとしても嫉妬はしない。ユグドラシル時代にリオさんと二人になってからNPCを連れてよく出かけたこともあり、仲間として認識しているからだ。しかし、ナザリックの者ではない相手だと、どうにも嫉妬心がグツグツと煮えてくる。
モモンガはその不満は口には出さず、リオとの会話を終えてモヤモヤした気持ちを抱えて眠りにつく。
因みに淫魔なので寝る必要が無い身体ではある。なので寝ずに働くつもりだったが、転移初日の夜にリオから「そういうところから人間性が消えていくんだぞ!」と言われて素直に寝るようにしていた。
◇ ◇ ◇
"私"がこの世界に来てから、もう何年も経つ。
世界の隅々まで探させても、"四十一人"のギルドメンバーは私以外におらず、今も見つからない。
だが……いつかは見つかるかもしれない。百年周期で起こるらしいプレイヤーの来襲で出会えるかもしれない。
私がこの世界に来てから百年目。
ギルドメンバーどころかプレイヤーそのものが来なかった。
二百年目。
誰も来なかった。
三百年目。
涙の出し方を忘れているらしい。
数えたくない程の時が経ったが、私は一人きりだ。
玉座と接着されているかのような重い腰を上げて、転移する。転移先はギルドメンバーの私室がある第九階層。
一番目の私室を開けた。当然、誰もいない。
二番目の私室を開けた。気配なんてない。
三番目の私室を開けた。生活感がない。
次々と私室を開けていき、四十一番目の私室を開ける。私の部屋だ。
幾年ぶりにベッドに倒れこむ。この世界を拒絶するようにシーツを被り丸くなる。
流し方を忘れていた涙が自然と頬を伝わっていることに気付く。
「寂しい」
どうしようもない。気持ちを呟き、言葉にしても何も変わらない。
悲しいままジッとしていると、ふと頭にあるアイテムが思い浮かんだ。
そのアイテムを取り出し、握ると頭に情報が浮かんだ。
【
【望んだ願いを実現する】
【残り使用回数:3】
どんな願いも叶えるという夢のようなアイテム。
もったいなくて、使う機会もなく、一度も使用していなかった。
自分の柔らかな胸に押し付けて、つい願ってしまう。
願いを叶えるといっても流石にムダだと思っていても……。
たった一人だけでもいい。私の傍にいてくれる誰かが欲しい。一人はイヤ。
やり直したい。
◇ ◇ ◇
「あああああああああああああああああ!!!!」
跳ね起きて〈
「リオ! リオ! 聞こえる!? 返事をして!」
「どわぁあああ! 朝からなんだ!? 緊急事態か!?」
愛しい声を聞けて、動揺が収まっていく。
「あっ…………ごめん、なんでもないの」
「そうなのか? まぁいいけど。なにかあったら、すぐに言ってくれよなー」
〈
「よかったぁ」
なんとなく、夢で見たアイテムを出して確認してみた。
【
【望んだ願いを実現する】
【残り使用回数:1】
背筋に冷たいものが走った。
まるで氷水を流し込まれたみたいに、体の芯からゾクッと震えると共に全てを思い出した。
「そうだった。夢じゃない。私が願って……リオと巡り合えた」
ベッドから離れてフラフラと歩く。
とある私室を開けた。
やり直し前は存在しなかった四十二番目の私室。
この世界に来てからリオが使っている生活感がある部屋。
他の四十人の私室と違って冷たさがなく、暖かさがある部屋。
ベッドに倒れこむとリオの匂いがした。
「ふふふっ……」
サキュバスの身体を熱くさせる残り香に包まれたまま考える。
今は寂しさはなく、満たされている。
でも、リオを失ったら……なんて考えるだけで恐ろしい。耐えられない。許せない。ヤダ。
ナザリックの外には危険がある。やり直し前には起きなかった何かがあるかもしれない。
あと、もしも外の誰かと深い仲になったら相手を殺すしかない。
「私のリオがどこかに行かないようにしないと……」
今日はリオがリザードマンの集落からナザリックに戻ってくる。
リオはもう外には出さない。
そのために、守護者たちに連絡をした。
玉座の間に来たリオに対して、守護者たちが魔法やアイテムを使い、動きを止めさせた。
何もかも私が事前に指示していた通り。
今ならリオが避けたり無効化したりできない。
〈
これが私の最後の願い。
「リオはナザリックの外に出られなくなる」
【解説】
・モモンガ
この世界ではアバターの姿がアルベド。
やり直し前はナザリックと共に転移していたが、他のギルドメンバーはいなかった。
長いことサキュバスの身体で過ごした記憶を取り戻したのもあり、口調が変化している。
リオをナザリックから出られなくした後で、やり直しも含め何もかも告白してリオと夫婦になる。
・
モモンガ様の幾年分の想いも受けて頑張った。メチャクチャ頑張った。
それでも41人の中だと孤独に残る運命を変えれないので、42人目を他の世界から連れてきた。
持ち主のモモンガ様が幸せになれて何よりです。
運が原因でリオは持っていないため、最後の願いは解除できない。
リオ本人は、モモンガが望まないならそのままでいいやと気にしていない。
・リオ
モモンガを愛している