四十六室の老害(自称)   作:スターリー

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暗翳尊び老いさらばえよ

 

 刳屋敷剣八の卍解は中央四十六室の決定によって禁止される筈だった。

 だが、剣八にそのような制限を強制するのは如何なものかと源蔵が掛け合い、長い話し合いの末に定めた条件を満たせば卍解の使用が許されることになった。

 

 その条件とは別に裏コマンド的なオモテには隠された特例措置がある。その一つが源蔵の卍解との併用である。

 当然、源蔵は迷わず刳屋敷に卍解を教えた。

 

「源蔵の爺さん…………コイツは……」

「これが儂の卍解だよ。それじゃあ修行をしようか。とりあえず君の卍解を見せてくれるかい?」

「おいおい、そう簡単に言うんじゃねぇって。こっちは一度でも卍解すれば半年も始解すらまともに出来なくなんだぜ?」

「そう聞いているよ。なーに、心配はいらない。ちゃんと重國に話は通しているとも」

「そういう問題じゃねーよ! 仮にも隊長が始解も出来ねぇ状態なのはまずいだろ!」

 

「でも、強くなりたいのだろう?」

 

 剣八にとってその言葉は卑怯だ。

 そんなことを言われてしまえば嫌でも無視が出来なくなる。刳屋敷は少したじろいで悩む。社会で生きる隊長としての責任と責務。個人的な強さへの憧れと執着。そこに揺れているのだ。

 

 そこに源蔵は力を抜きなさいと肩を叩く。

 

「君が強くなることは護廷十三隊の為にもなるんだぞい?」

 

 ダメ押しである。あーったく、と唸りながら目を逸らして、髪を掻いてはため息を吐く。本心を誤魔化すように弱々しい反論をする。

 

「いいのかよ。敵に塩を送るようなマネして」

「いやいや、君は敵じゃないでしょうに」

 

 そもそも源蔵は何か行動するとき、関係がある者たちにあらかじめこうするよと説明している。

 しっかり話すべきことを話してから行動すること。

 源蔵が人付き合いの上で大切にしていることの一つだ。誤解や人間関係のトラブルのタネになるものはなるべく全部潰すスタイルである。

 

 それもそのはず。何を隠そう、それらを怠って失敗しまくった過去が沢山あるのである。源蔵は過去から学べる生き物なのだ。

 

「それにちゃんと双也殿にも目をかけてるとも!」

 

 そう言って豪快に笑う。

 そんなあっけらかんとした源蔵に少し呆けて、「……そうかい」と頷いた。どうやら悩むのも馬鹿らしいと気付いたようだ。ふっと笑うと次に源蔵と真っ直ぐに向き合ったときには覚悟を決めた目をしていた。

 

「ああ、いいぜ。やってやろうじゃねぇか!」

 

 その後、使えるようになるたびに何度も鍛錬することになった。これまで全力で卍解が出来るのは数えるほどしかなく、使っていく内に餓樂廻廊の把握と理解を深めていく。

 

 間違いなく刳屋敷剣八は以前より増して強くなった。

 あの時鍛えておいて本当に良かった、と刳屋敷剣八は心の底から思った。

 

 全てはこの瞬間の為だったのだ。

 

 

 

 むき出しの感情に、むき出しの本能。

 その一瞬、その愉悦、その刹那、その快楽。

 此処には偽物は存在できず、誰しもが求める本物がある。

 

 

「「卍解」」

 

 斬って斬られて斬り返して、砕かれても潰されても血飛沫を撒き散らしても、普通ならとっくに死んでいるような傷でさえ強者故に、その霊格の高さ故に死ねず、死ねないならば戦う為に立ち上がる。

 

「雨露柘榴!」

 

 霊圧で傷口を押さえて塞いで無理やりにでも身体を動かす。何度だって立ち上がる。立ち上がってみせる。それが剣八だからだ。

 

「餓樂廻廊ォ!」

 

 もう既に限界は越えている。

 互いに必殺。ただ眼前の敵を屠る為だけに己の存在のすべてをかける。霊圧が爆発してはぶつかり合い、衝突の轟音と共に砂埃が辺り一面を覆い隠す。

 

 その二つの卍解は戦いの最中に成長し、初撃とは比べものにならないほど洗練され最適化されたものになっていた。速く、そして的確に。無駄を削ぎ、ありったけを込めて。

 

 その威力は絶大。

 二人同時に血溜まりに沈む。

 

 両者のその手には刀の姿に戻った斬魄刀が握られていた。卍解が維持できず、勝手に解かれて斬魄刀の姿に戻っているのだ。自身の意思に反しての卍解の消滅。それは持ち主の死期が近いことの表れである。

 

 それでも刀を握るその手に力が入る。

 遠ざかろうとする意識を意志の力で引きずり出す。

 

 まだ、終わっていない。そう魂が叫ぶのだ。

 

 

 

 その様子に黙っていられずに源蔵が卯ノ花四番隊隊長に声をかける。

 

「卯ノ花殿!」

「いいえ、まだです」

「そんな訳ないでしょう! 今すぐ救命処置を!」

「お待ちなさい!」

 

 二人を助けるために飛び出そうとする源蔵を制したのは卯ノ花八千流だった。

 

「あのふたりはまだ、折れていません」

 

 本人たちですら今何故生きていられるのか不思議なくらいのダメージを負っている。

 途切れ途切れで朦朧としている意識。散漫でおぼろげな思考。鈍くて重くてはっきりしない頭の中で、それでも身体が勝手に立ち上がろうとする。ふらつきながらも斬魄刀を杖代わりにゆっくりと立ち上がっていく。

 

 そして、その目にはしっかりと同じ様に立ち上がる敵を捉えている。

 

 その心に鳴りやまぬ声が絶叫している。

 立て、立って戦え、そして打ち勝て、とそう声が響くのだ。勝ちたい。負けたくない。この強敵を倒して、自分は強くなったと証明するのだ、と。

 

「この戦いに水を差す。そのような無粋な真似は誰であろうと許しません。どうしても助けに行くというのなら、この私が相手になりましょう」

 

 そう言って立ち塞がる。

 

 源蔵と重國の心配は最初から杞憂だった。

 この場にいる誰よりも彼らの心を理解しているのは彼女だったのだ。この決闘を、この一騎打ちを、この戦いを邪魔することなどあり得ない。

 

 初代十一番隊隊長、卯ノ花八千流は、ただ一人だけこの戦いの意味を知っている。

 

 

 

 死にかけの体を引きずって、絶え絶えな息を整える。

 肩で息をしながらも剣を構える痣城双也を刳屋敷剣八は眩しそうに見つめる。

 

 刳屋敷剣八は知っている。

 

 自分は誰よりも強いという自負がある。それでも、『剣八』にはなり得なかった、と。

 

 いずれ痣城双也もそれを理解する時が来るだろう。

 

 あの卯ノ花八千流がそうであったように。

 

 戦いこそすべて。そんな風に生きようとして生きられなかった。

 

 虚には死の形があって、その形に沿うようでしか世界と関われず、誰かと触れ合えない。

 

 最強の称号を求める者たちもまた同じだ。

 戦いの中でしか己を表現出来ず、戦いの中でしか己を語れない。戦ってでしか分かり合えず、戦ってでしか譲り渡せないモノがある。

 

 十一番隊隊長というその席を、剣八というその名を一騎打ちで決めることが多いのは、きっと次の世代にそれを継承する為だ。文字でも言葉でもなく、戦って伝えるのだ。

 

 その心と剣八の名を。

 

 

 

 余力はない。血が足りない。霊圧もからっきし。立っていられるだけでも奇跡である。

 

 つまり、これが最後。これからが本当の一騎打ち。

 

 正対する二人は覚悟を決める。

 

「十一番隊隊長、刳屋敷剣八だ」

 

 その名乗りにはいくつもの意味が込められている。もはや語らう必要はない。幾百の言葉より、次の一太刀がすべてを雄弁に語るだろう。

 

「源蔵一派……痣城双也だ」

 

 

 構え、駆け出し、そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痣城双也は目覚めると、そこは知っている天井だった。

 間違いなく四番隊救護室である。

 

「おや、起きたのかい?」

 

 視線を横に向けると源蔵がお見舞いに来ていた。

 挨拶しようと起き上がろうとするが身体が思うように動かないし、おまけに声も出ない。それに気づいた源蔵は「いいよいいよ。安静にしてなさいな」と布団をかけ直す。

 

「そういえばさっき刳屋敷殿に会ってね。彼はもう退院するそうだよ。いや、ホントはもっと休んでなきゃいけないんだけど無理やり出て行ったって。色々やることがあるってさ」

 

 こんな時くらいゆっくりすればいいのに、と穏やかに笑う。

 痣城双也よりも比較的に体力がある刳屋敷剣八は回復も早く、先に目を覚まして色々決めていった。そして、その決めていった一つがこれである。

 

「さて、双也殿にこれを上げよう」

 

 渡されたのは、十一番隊の隊長羽織だった。

 

「…………あり、がとう……ございま、す」

 

 どうにか声を出して感謝をするが、痣城双也はあまり良い顔はしなかった。

 

 

 あの一騎討ちの行方、その勝負の結果は引き分けだった。

 

 痣城双也は胴に横薙ぎの一閃を、刳屋敷剣八は肩から斜めに振り下ろす。だが、その刃は死覇装も斬れず、両者の斬魄刀が折れて、そのまま立ったまま気絶した。

 

 では何がどう決まったのか。

 それは案外あっさりとしていて揉めることはなかった。

 目覚めた刳屋敷剣八が開口一番こう言ったのだ。

 

「俺の負けだ。剣八がその座を争って引き分けなんざ、負けも同然だぜ」

 

 実に潔く気持ちの良い快男児である。

 もう本人的には満足したとのこと。何の後腐れもなく、引きずるものもないらしい。

 

「なあ、源蔵の爺さん。零番隊に行けば俺はもっと強く成れると思うか?」

「成れるとも。君なら」

「そうか。なら、それも悪くねぇな」

 

 自分の進退ももう既に腹を決めていた。どうやら零番隊の誘いを受けることにしたそうだ。まだ身体が回復しきっていないのに引き継ぎに移動に大忙しである。タフな野郎である。

 

「刳屋敷殿から伝言だよ。いつか降りる機会があったらその時に本当の決着をつける。それまでその羽織を預けて置く、だそうだ」

 

 その言葉を聞いて呑み込んで深く頷くと良い目をして源蔵を見た。

 

「源蔵……様。次こそ、勝つ……のは……私、です」

 

 それをお見せしましょう。きっとそう続いたはずだ。

 

 二人はどちらも負けたと考えている。だが、きっとそれで良いのだろう。時に敗北は勝利よりも得難い教訓を与えてくれる。

 

 刳屋敷剣八も痣城剣八も今よりもずっと強くなる。きっと未来の剣八を孤独にはしないだろう。

 

 こうして、新しい十一番隊隊長が就任することになったのだった。




痣城双也殿は痣城剣八殿に進化しました。
彼の独り立ちと入れ替わる形で藍染様が源蔵の懐に入り込み始めます。

痣城双也殿の姉をオリキャラにして出して良いですか?

  • ええよ
  • 駄目だね
  • …もぅ…んッ、…好き、にっ……してぇ♡
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