【完結】ひまわり in ヘンダーランド   作:nosky

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最終話:グッバイ・ナイトメア

 

 倒れたカンタムの手の甲からは、遠くの地平線がよく見えた。

 地上と夜空の境目から、じわりじわりと新しい夜明けが生まれてくるのがとても神秘的だった。

 

 しんのすけとひまわりは、その手の甲部分から、遠くの景色をひたすら眺めていた。

 

 手の甲から少し下を覗き込むと、湖が見えた。

 ひまわりは背負っていたライフルのストラップを外して、少し名残惜しそうにそれを眺めた後に、ライフルを湖の中へと捨てた。

 

 ドボンと水が跳ねた後に、水面が波打つ。その光景に、ようやく安堵を覚えた。

 

 空が、だんだんと茜色に染まっていく。ひまわりは続いて、懐からトランプを取り出す。ダイヤのクイーン。そこには既に、魔力はない。

 

 赤く染まる産まれたての太陽にそのトランプを翳すと、トランプはまるで蒸発するように、空の中へと散って消えて行った。

 

「あーあ、私も本物のトッペマに会ってみたかったなぁ」

 

 そう深い意味もなく呟いて、ひまわりはその場に座り込む。リュックサックに入れてあった、すっかりとぬるくなったスプライトの缶を開けてくいっと傾ける。

 

「……ぷっはぁ!  ボブ・サップに染みわたるって?」

 

 それでも、傍らに居るしんのすけは、崩壊したヘンダーランドを前にまた黄昏ていた。

 

 そんなしんのすけの頬に、ひまわりは缶ジュースを当てる。

 

「飲む? アタシの飲みかけだけど!」

 

 ひまわりがそう笑うと、しんのすけは缶を受け取り、あぐらをかいて一気にジュースを飲み干し、ぷはぁとオヤジくさい唸り声をあげる。

 

「あーあ! 全部飲んじゃって!……どう? ボブ・サップにしみた?」

「それを言うなら五臓六腑だゾ。何言ってんの?」

「なッ!? お兄ちゃんに付き合ってあげただけでしょ! まったく……」

 

 ひまわりが拗ねてそっぽを向いて腕を組むと、視界の隅をオンボロマイカーがトコトコと走ってくるのが見えた。

 

 ビィビィとクラクションを鳴らしながら、ひろしとみさえが手を振っている。

 

 ひまわりは後ろ手を組んで、もういちどしんのすけの方へ。

 

 また、にこりと笑って。

 

「私お腹すいちゃった。帰ろ。お兄ちゃん」

 

 そう言った。

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

「ひまわり~? いつまで寝てるの、あんた学校でしょ! 早く起きてきなさい!」

 

 台所からみさえの声。そして数秒後にドカドカドカと階段を急いで駆け降りる忙しない音。

 

「嘘! 今何時!? やっばー!!」

 

「もうパパもしんのすけも出て行ったわよ。まったく夜更かししなさんなってあれだけ言ったのに」

 

「ええ~~アタシビリッケツなわけ!? もう~~」

 

 寝癖のついたブロンドカールを水で縛る。ヘアオイルを塗ってる暇はない。

 急いで制服に身を包み、鞄を拾い、お弁当をしっかり入れたことだけはちゃっかり確認。リビングですっかり室内犬になったシロを少し撫でて、玄関で学校指定のローファーに履き替える。

 

 靴箱の上に目を向ける。そこには、二枚のトランプカード。

 ヘンダーランド事件での余りのトランプ。ひまわりお手製の簡易神棚にそれを飾っている。

 

 彼女はそのトランプ二枚にそっと「行ってきます」と声を掛け、勢いよく玄関を駆けだした。

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

「あ! おにいちゃ~ん!」

 

 午前7時の春日部駅。ラップに包まれた母お手製の爆弾おにぎりを頬張りながらひまわりはホームへ。そこでいつもながらに気の抜けた顔の兄を見つける。

 

「おー、ひま。食べて走って忙しいですなぁ」

 

「もぉひゃひひふはらひっへほ!」

 

「飲んでから喋れば?」

 

「……んぐ。もぉ、先行くんなら言ってよ! 寝過ごしちゃったじゃん!」

 

 そう言い終わった後にもう一口口に運ぶ。

 

 やれやれ、こんなはしたない女子高生がオラの妹か、としんのすけは掌を上に向けて首を振る。

 

 そして、おにぎりをぺろりとたいらげた時に、ひまわりは一枚のお札をしんのすけへ。

 

「はいこれ、前に借りてた5千円。しっかり返しましたとさ!」

 

「おお、ひまのお小遣い一か月分じゃん」

 

「えへへ、実はこの間部屋の掃除してたら、おじいちゃんに貰ってたお年玉出てきちゃってさ」

 

 舌を出しながらひまわりは笑う。

 

「あーあ。これですっきりした。……そういえば、お金借りて1カ月は経っちゃってたのね。……もうあの時からそのくらい経ってたのかぁ。……お兄ちゃん、私ね、あの時もうちょっとしっかりお兄ちゃんの言うコト聞いとけばって思ったの。お兄ちゃんのこと、全然信じてなくて、ゴメン」

 

「ふんふん、要反省ですなぁ」

 

 しんのすけは腕を組んで得意に言う。

 ちょっとムカっとするひまわりは、そのままぷいとそっぽを向く。

 

「ちぇ、人が折角反省してるのに。謝ってソンしちゃった」

 

 ひまわりがそう言った時。

 

「きゃああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 と、女性の金切り声。

 連鎖するようにあちこちからパニックめいた悲鳴が。

 

「な、なんなの!?」

 

 四方八方、パニック連鎖で逃げ惑う人々。

 混乱に乗じて二人は駅の外へ。そこに、元凶は居た。

 

 

「はーっはっはっはっは! この俺、カケ・ウ・ドン様が、この埼玉のソウルフードをうどんにするときがようやく来たとばい! この俺に逆らうやつらは、天かすにしちゃる! この国のソウルフードは、コシのない九州うどんばい!」

 

 不安定な二足歩行兵器で闊歩する3メートル級のロボット。

 その頭部には眼鏡を掛けた小太りの男が操縦桿を握ってる。

 

「うわぁ……まーたヘンなのが出て来たよ……」

 

 ひまわりはあきれ顔でそう零す。

 

 対するしんのすけは、頭の後ろで手を組んだまま、奴の方へ歩いていく。

 

「どうするのお兄ちゃん?」

「んー? オラ、うどんよりソバ派ですからなぁ」

 

 その言葉に、ひまわりの口端がくっと吊り上がる。

 

「アタシも行く!」そういってしんのすけの背中に妹が続く。

 

「ひまも?」

 

「モチロン……だってあたし達、かすかべ防衛隊なんでしょ?」

 

「おお、なつかしい響きぃ」

 

「そんじゃ、一発いっとく?」

 

 そしてしんのすけとひまわりは二人並んで、天高く拳を突き上げて――

 

 

「「かすかべ防衛隊アンド、野原兄妹、ファイアー!!」」

 

 

 そして、敵の方へと駆け出した。

 

 

 

 ー終わりー

 












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