転生・異世界転生と言う概念にかねてから納得がいかなかったので、

科学的・化学的に考えてみた結果、思い付いたものを書き連ねたもの


ほぼ酔歩する男

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精神の宿所不定

 

最初に違和感を持ったのはいつだっただろうか。

 

物心ついた頃なので、4歳か5歳位だったと思う。

自分が確かに成し遂げたはずの砂の城が少し寝ている間に消えてしまった。

 

両親に公園に連れて行ってもらって、そこの砂場で一人で砂で城を作っていたのだった。

城…と言っても幼児の作る城なんて大それたものでは無かったが、その時の自分にとっては紛れもなく城だった…が完成したので、母のいるベンチまで行って少し寝たのだ。

 

目が覚めると、城は無かった。

それだけなら、幼児期の記憶違いだけで済む話だったが、父も母も城など作っていなかったと言った。

俺はブランコで遊んでいたのだと。

 

俺は何度も城を作っていたと訴えたが、夢でも見ていたのだと言われた。

 

こう言った事が昔から多かった。

俺の記憶と明らかに違う事象が発生していた。寝たり気絶したりすると起きた時、必ず違和感があった。

怪我していた場所が違うとか、周りの人間と記憶が違うとか。

幼い頃は大人が言う様に気のせいか、夢だと思っていた。

 

小学生になると真剣に悩みだして親に相談したりしたが、妄想癖だとか思春期特有のものだとか言われてまともに相手にされなかった。

実際、怪我の場所が違うというのは俺の記憶以外に証拠がないが、記憶なんてものは客観的でないし物的証拠でもないので、俺の記憶、あるいは頭がおかしいのだとしか他人には思われない。

 

中学生以降になると、俺はもうすっかり学習してしまって記憶と現実の乖離についてもう何も言わないようになった。学校の図書館で精神疾患や脳の記憶障害について調べたりもしたが有益な情報は得られなかった。

 

高校時代にもなると、一人でこっそり精神科や脳外科に行ったりして医師にも相談したが、具体的な解決策を提示しては貰えなかった。

 

大学では心理学等の知識を得ながら、自分で自身の異常を解明したいと医師を目指した。

その過程で波動関数の存在を知った。

 

波動関数とは、量子力学の用語である意味ではこの世すべてを構成する存在でもある。

波動関数は粒子の状態を記述するための数学的な関数だ。

電子や光がどれくらい広がって存在しているかを表しており、量子力学の最も基礎的な方程式であるシュレディンガー方程式と深い関係がある。

 

量子力学の世界では、電子は波であり粒子である。

この為、波動関数は収束すると言う表現が用いられる。

 

俺は医者を目指す方向から学者を目指す方向へシフトした。

波動関数を研究する理由は、測定するたびに得られる位置や運動量などの結果が変わる事だ。

即ち、物理的状況は観測の度に、観測するという行為によって結果が影響されると言う事だ。

世間的には、シュレディンガーの猫として知られている。

これが俺の異常を証明するのではないかと思った。

 

結果として、俺の異常に波動関数が関係しているのは確定したが、現状に知識では説明のつかない点があり、そこがネックになった。

何かと言うと、一度収束した波動関数は再発散しないと言う点だ。

つまり、一度観測する事で存在が確定した右腕の怪我が、時間経過と共に別の場所に移ったり、怪我そのものが無くなったりはしないと言う事だ。

 

悩んだ末に俺は気づいた。

異常なのは常に俺の主観の記憶だ。現実と記憶の中の事実の乖離。

これは常に俺が寝たり気を失った後、つまり脳が活動を休止した状態になると発生していた。

問題があるのは俺の脳だとすると、波動関数に関する機能が人間の脳にはあり、俺はその機能に問題があることになる。

 

事実、脳に異常をきたして病院に長期入院している人間の中には、昨日と置かれている環境が違うと言う人間が存在する。

殆どの場合、精神又は脳に異常がる為に錯乱しているのだと思われてきた。

これは波動関数の収束に関する機能が損なわれた為に、俺と同じ状況になっているのではと考えた。

 

俺は何か恐ろしい真実に近づいているような気がしてきた。

 

理論物理学には多元宇宙論ーマルチバースーと呼ばれる理論がある。

可能性の数だけ一つの世界から分岐した枝葉のような世界線が存在すると言う理論だ。

量子力学にも、波動関数の収縮を想定せず、すべての解に対応した世界があるとする解釈が存在する。

 

俺は何故一度確定したはずの事象が異なる状況が毎日のように起きるのか。

 

何故毎朝目が覚めると部屋の中の置物の位置が変わっているのか。

 

俺の精神は一つの世界線の肉体に留まる事が出来ず、異なる可能性から分岐した世界線の俺の肉体に宿り、離れ、また別の俺のに宿る事を繰り返していたのではないか?

 

そうでないと信じたかったが、研究すれば研究する程自分の仮説を否定できなくなっていった。

脳には、未だ解析が完了していない器官が存在している。

記憶が曖昧な患者はこの器官に疾患、欠損があった。

そしてそれは俺の脳にも。

CTによって抽出された画像はその事実をどうしようもない程裏付けていた。

 

俺は毎日、違う世界を生きていたのだ。

 

母も父も、友も毎日別人だった。

いや、勿論世界が違うだけで同一の存在である事には違いない。

だが心情的には受け付けない。毎日、昨日までの彼らではない彼らと生活していたのだ。

 

俺はその事実を否定できないと悟った時、ショックのあまり外へ飛び出し、衝動のままに走り続けた。

 

信号も無視して飛び出した俺は全身に衝撃を受けて気を失った。

 

 

目が覚めた時、知らない天井の下で俺は俺ではない誰かになっていた。

 

 


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