FAIRY TAIL 〜Back to the Beginning〜 作:NAGI
原作:FAIRY TAIL
タグ:R-15 オリ主 残酷な描写 アンチ・ヘイト クロスオーバー FAIRY TAIL 七つの大罪 黙示録の四騎士 オリジナルヒロイン Fate
それに対処するべく、評議院が派遣したのは一人の騎士だった。
その者の名はルーサー。
X789年5月 フィオーレ王国東方の街——マグノリア。
この街の中央にあるカルディア大聖堂を抜けた先には魔導士ギルド——妖精の尻尾《フェアリーテイル》のギルド施設が建っている。とはいえ、現在ここは差押えになっており、誰もいない筈であった。
だが、建物の中には二人の男がいた。モノクルを着けた小柄な男——名をソルという。かつて幽鬼の支配者の魔導士だった男だ。
「んー!
宙に浮かぶ紫色の文字が踊る。時間が経つ毎に文字は増える。やがてそれはソルが持つ黒い本に吸い込まれ、白紙だったページを埋めていく。最後のページまで埋まると、ソルは邪悪な笑みを浮かべた。
「漸くこの魔本が完成しましたか」
ソルが手にしているそれは魔本。ある儀式の核となるもの。人々の恐怖、憎悪といった負の感情を糧に生み出されるもの。
「儀式の準備はまだですか……魔導士も粘りますな」
外に出て、街を見る。そこはモンスターが跋扈する街になっていた。禍々しい、悪魔のような風貌をした100体以上のモンスターが、街中の人間を根絶やしにするべく散らばっている。
それに対抗するのは評議院の強行検束部隊・ルーンナイトと
「しかし、派手に暴れていますなぁ。妖精の
ソルが呆れとも関心ともつかぬ息を吐く。するとそこに現れたのは、目を包帯で覆った大男だ。彼は涙を流し、横笛を吹く。
「だが悲しい‼︎ 彼女は勝てぬ。モンスターなどいくらでも呼び出せるのだから」
笛の音が鳴った次の瞬間、宙に巨大な黒い孔が開く。そこから現れるのは10体のモンスターたち。どれだけ数を減らそうと関係ない。幾つかの制約はあれど、笛がある限り永遠にモンスターは増え続ける。さらに街を囲う術式魔法陣は、ただ一人の出入りも許さない。
「妖精に幽鬼の怒りを思い知らせてやりましょう‼︎」
幽鬼の怒りが街を焼く。ソルはその光景を目にしながら、下卑た笑い声を出し続けていた。
その頃。魔法評議院本部・ERAでは上級議員9名の会議が行われていた。議題は無論、マグノリアの事件であった。
「幽鬼の支配者の残党か……これまた派手な事をしよる」
「数は分かっているのか?」
「は、はい!アリア、ソルの2名の他、未確認種のモンスターを100体以上確認しております!」
質問に答える蛙の議員の言葉に皆が一様に苦い表情を浮かべる。あの街に100体以上。それだけで街中の状況が良くない事は想像できた。
「街の者たちは?避難出来ているのか?」
「死傷者多数。殆どの住民が街に取り残されており、第四・第八強行検束部隊、妖精の尻尾、黄昏の鬼が対応中との事!」
机を叩く音とともに議員の一人が声を上げる。それは怒りよりも焦りからきた行動であった。
「増援部隊はどうなっている⁉︎」
「第一部隊は怪我人の手当てで手一杯となっており……第六部隊はまだ到着に時間がかかるとの事」
近隣の魔導士ギルドには既に要請を出している。だが、それだけでは足りない。
「部隊を編成し、すぐに向かわせろ‼︎」
評議院議長——グラン・ドマの怒号にも近い号令が飛ぶ。すぐ様、議員は会場を出て、部隊の編成に動き出した。
「よろしいですかな?議長……一人、増援に適任の者に心当たりが」
上級議員の一人、オーグ老師が手を挙げて発言する。彼がグラン・ドマに促され、一人の男の名を挙げた途端、議長以外の7名は嘲り笑った。だが、グラン・ドマは睨みつけるように険しい表情で彼を見る。そこには確かな勝算があるとグラン・ドマは理解した。
「良かろう。許可する」
「議長‼︎ 正気ですか⁉︎」
議員たちが反対の声を上げてもグラン・ドマは揺るがない。彼は一瞥して皆を黙らせるとオーグ老師に連絡するように促した。
「すぐに依頼してくれ」
マグノリア郊外の丘の上。そこには妖精の尻尾の本拠地である古い酒場が建っている。第四強行検束部隊隊長のラハールは、酒場に対策本部を設置し、事の対処にあたっていた。議員たちに指示を飛ばす。しかし、状況は悪くなる一方だ。妖精の尻尾、黄昏の鬼の魔導士は殆どが怪我で動けなくなっている。増援の魔導士を現場に送ったが、多勢に無勢。数の差を覆すには至らない。早急に元凶を叩かなくてはならないが、彼らの居場所が分からないでいる。
「ドランバルト! 戻ったか……! 状況は?」
何もない場所に彼の相棒とも言うべき議員のドランバルトが怪我人を連れて現れた。彼の魔法——
「ダメだ。敵を倒しても倒してもキリがねぇ。オレもあと3往復もすれば魔力切れだ」
「まずいな」
早急に術式を解除する必要があるが、その進捗も芳しくない。術式の解除さえ行えれば、魔導飛行艇に乗ってくる増援部隊を直接送り込めるのだが、それが難しい。ラハールは歯痒さを隠すように眼鏡の縁に触れる。
「増援はどうなんだ?」
「ああ。今、評議院から連絡があった。第七、第九、第十二部隊がこちらへ来るとの事だ。だが、
「青い天馬のクリスティーナなら1時間で来れるんじゃねーのか?」
「今、あれは国中を駆け回っている。連絡を受けて戻ったとしても燃料の問題がある。あまり期待は出来ないな」
天狼島にいた妖精の尻尾の主力メンバーが、アクノロギアの咆哮で島諸共消息不明になってから5年。青い天馬の一夜、ヒビキ、レン、イヴの4名は天狼島が残っている可能性を見出し、王国中のエーテルナノ数値を調べ回っているのだ。魔導爆撃艇・クリスティーナ改はその足として使われている。
ラハールもドランバルトも天狼島の顛末を知る当事者として、クリスティーナがない事を嘆きはしても文句を言う事は出来なかった。
「それとは別に一人。騎士出身の男が送られてくるそうだが」
「騎士が一人いたぐらいで変わるか!」
「オレはもう一度街に戻る」
ドランバルトは呆れたように溜め息を吐くと魔法を使ってマグノリアに飛ぶ。
「術式の解析を急ぐように伝えてくれ‼︎」
ラハールも気を取り直し、指示を飛ばす。人々を救う為に今、出来る事をしなくては。使命が彼を駆り立てる。
一方のマグノリア・カルディア大聖堂前。
白金の長髪を靡かせた少女が単身、戦っていた。モンスターは10を超える。だが、それに全く臆する事なく少女は魔法を行使する。
「このっ!サラマンダー!」
巨大な炎が舞い上がる。炎は龍を形取り、モンスターに突撃する。火の精霊——サラマンダーの炎。それは触れたものを燃やし尽くす。モンスターはたちまち炎に焼かれ、灰となった。
「ありがと。戻っていいわよ」
少女の呼び声に応え、サラマンダーは姿を消した。
彼女が扱うのは精霊魔法と呼ばれるものだ。精霊は元来、自然に宿る霊的な存在とされる。そして、彼女は精霊を召喚し、その力を行使する事が出来るという訳だ。
彼女の名はエレナ・ベネット。妖精の尻尾に所属する魔導士だ。彼女は事件発生してから今まで戦いながらアリア、ソルの2名を探していた。あらゆる場所を探して回ったが彼らの居場所は見つけられなかった。
「カルディア大聖堂にもいなかった……ってなると考えたくないけど、残るのはあそこしかないか」
未だ探していない場所はただ一つ。今は差し押さえられてしまっている、妖精の尻尾のギルド施設しかなかった。怒りを噛み殺しながら、エレナは風の魔法を足に付加《エンチャント》し、跳躍する。凄まじい速度で街中を駆ける。
階段を駆け上がる。その先にはモンスターたちが壁のように立ち塞がる。しかし、エレナは足を緩めない。代わりに喚び出したのは、サラマンダーとは異なる精霊。風の精霊——ジンだ。
「ジン‼︎ 切り刻みなさい‼︎」
風が巨人の上半身を形取る。ジンから放たれたのは突風。しかし、それは刃の如くモンスターの肉体を切り裂き、一つの肉片も残さずに消し去った。
もはや障害はない。エレナはジンを背後に従え、ギルドの扉を開ける。刹那、眼前に迫るのは無数の石礫。しかし、エレナは身じろぎ一つせずにその全てをジンが消し去る。
ギルド内に灯りが灯る。そこにいたのはソルただ一人。近くに魔力は感じられない。エレナはアリアが別の場所にいると判断し、ソルと相対する。
「あんまりな挨拶じゃない。大地のソル?」
「これはこれは……申し訳ありません」
「私、
その名を聞いたエレナの目が細まる。悪魔の心臓は闇ギルド、バラム同盟の一つ。そして、天狼島で当時、妖精の尻尾を襲い、敗れたギルドの名だ。知らない筈がない。
「そう。ファントムが解散してから闇ギルドに堕ちた訳ね」
「それもこれも、全てはあなた方の責任! 身をもって償っていただきましょう!」
あまりにも身勝手なソルの言い分にエレナが動く。
「何言ってんのよ! 自業自得でしょ!」
「
「これは……‼︎」
エレナの装いが変わり、緑色のロングドレスを身に纏う。ジンの姿はない。しかし、今の彼女はジンの力を自由に扱える。それが霊装という魔法の能力だ。
《霊装》
それは精霊とエレナの魂と肉体を一体化させる魔法だ。エレナのみが扱える、精霊魔法の一つである。この状態は魔力消費量が高くなるが、代わりに身体能力は向上し、一体化した精霊の持つ力を直接扱えるという利点がある。精霊の力をより強く、より精密に扱えるのだ。
「さっさとあんたを倒してもう一人も探し出して、ぶっ潰してあげるわ!」
「
エレナが右手をソルへと翳す。放たれたのは十字の風——無数の斬撃だ。ソルが砂を固め、壁にしようとも関係ない。一撃目が壁を破壊し、二撃目でソルの体を切り裂く。壁の精製が追いつかず、たちまち無数の切り傷が、ソルの肉体を彩っていた。
「これで終わりよ」
エレナが魔力を一つにまとめる。元より生かすつもりなどなかった。
巨大な十字の刃が精製され、そして放たれる事なく霧散する。
「(あいつ、気配が……いえ、魔力も意識しないと感じ取れない⁉︎)」
霊装が解ける。体は上空から地面へと叩きつけられた。
《空域・滅》
それは空域に触れた相手の魔力を空にする魔法だ。ジンという風に耐性を持つ精霊の加護もあり魔力はまだ残っているが、今のでそのほとんどが消えてしまった。ジンのような上位精霊を呼び出すだけの魔力は残っていない。
エレナはソルの背後に突如現れた大男を見る。アリアは目元を包帯で覆い隠している。それによって魔力を抑えているというが、それがこの異質さを生み出しているのか。目の前にいても魔力を感じ取りにくい。そこにいるがそこにいない。そんな異質さを感じさせる。
「助かりました。アリア様」
「悲しい!ここで優れた魔導士の命が消えるとは‼︎」
涙を流し、嘆くアリアを睨みながらエレナは立ち上がる。
「まだ、よ」
「アリア様の魔法……空域・滅をくらったのです。今のでもう魔力はほとんど空でしょう」
「そこで大人しく見ていなさい。儀式の
「儀式ですって⁉︎」
「ふふふ。特別に教えてさしあげましょう。これから行われるのは
ソルの言葉を聞いたエレナの目が見開かれる。何があっても阻止しなければならない。例え、今ここで差し違えようともだ。決死の決意を固めたエレナが行動に移ろうとしたその時。
世界を隔てる壁が崩れる音がした。
術式結界のすぐ外で評議院から派遣された
「まだ術式は解除出来ないか⁉︎」
瞬間移動で現れたドランバルトが問いかける。もう3分もしない内に増援の部隊が到着する。状況を確認し、報告する必要があった。
「すみません!あと10分はかかります‼︎」
そうかとドランバルトは呟き、瞬間移動で移動しようとした時だ。一人の青年が現れた。白髪に金の瞳が目を引く顔立ちをしていて、腰には金の装飾が施された鞘に納刀された剣を提げている。
正体も分からない不審な人物にドランバルトは声を掛ける。
「今、この先に行く事はできない。引き返せ」
「知っている。退いてくれ」
彼はドランバルトの静止も構わず前に進み、術式の壁に触れる。
「おい⁉︎ 何を‼︎」
「破壊」
刹那、まるではじめから存在しなかったかのように結界が消える。
「なっ⁉︎ 君は一体……」
だが、そこには既に青年の姿はない。目視出来る範囲から青年の姿は消えていた。
同時刻、術式結界が消えた事をソルとアリアも感知していた。
「
「術式が消えた⁉︎」
「打ち破られたのとは明らかに異なる! これは……‼︎」
術式を書き換えられ、解除されたのではない。未知の魔法。しかし、考えている暇はなかった。アリアは何かに気付いたように上空を見上げ、ソルを抱えて後ろに退避する。
上空から屋根を突き破って現れたのは左手に武骨な剣を携えた青年であった。瓦礫が青年とともにアリアたちがいた場所へ落ちる。
術式を破壊されてすぐにやってきたタイミングの良さから、破壊したのはこの青年だとアリアは考え、警戒する。元よりあの日から剣を持つ者は嫌いなのだ。そうでなくとも油断する筈がない。
「何者だ‼︎」
「評議院の要請を受けて来た、ただの騎士だ」
エレナは青年を見る。細身ながらも鍛えられた肉体。おそらくはさして自分と変わらない年頃の男だ。腰に携えた剣ではなく、他の剣を使っているのは何らかの理由で使えないからか。そして、彼は魔導士ではなく騎士と名乗った。だが、体に内包する魔力は強大だ。魔法を使えないとは考えにくい。どういう事なのか。エレナは思考する。
だが、その考察はソルの耳障りな笑い声で中断された。
「騎士⁉︎ そんなものが来て役に立つとお思いで⁉︎」
「侮るな。奴はおそらく術式を破壊し、ここへ来たのだ。甘く見てはならないしかし、騎士。騎士か……ああ!騎士と聞くだけで5年前の屈辱が蘇る‼︎」
嘲るソルをアリアが諌める。アリアは包帯を解き、その両目を開いた。それだけで体中から魔力が溢れ出しているのを感知する。希薄だった存在は強く感じ取れる。先程のような不意打ちをする事は不可能だろう。だが、その利点を捨てても問題ないだけの魔力を事実、彼は有している。
「すごい魔力……あんた、大丈夫なの?」
「心配いらないさ」
不安になり、青年に話しかけるが彼は落ち着いていた。その様に安心感を覚えたエレナは静観する事にした。青年は剣を構え、アリアの動きに神経を集中させていた。
「さあ、死ぬがいい! 死の空域・零‼︎」
空域に触れた相手の生命力を奪う魔法が二人に向けて放たれた。しかし、二人が触れる事はない。エレナは確かに見た。魔力を帯びた剣が空域をアリア諸共横に切り裂いたのを確認した。
「なっ⁉︎ 空域を斬り裂いただと⁉︎ よもや、また同じ手で……」
力なくアリアは倒れる。同時に振るわれた剣の刀身が砕け散るが、青年は構わない。砕けた剣を捨て、ソルに標的を移した。
「さて、次はお前だな」
絶対絶命のピンチだというのにソルは余裕のある様子を見せる。
「
その態度には確かな根拠があるのではない。既に武器はないという推測に基づく慢心であった。
青年は溜息をつくと鞘から剣を抜き、銀色に輝く身が露わになる。
「残念だが本命の剣は別にある」
一目見ただけでただの剣ではないと感じ取る。どんな名剣なのか。剣士でないエレナでも興味がそそられた。
「この
「聖剣ですと⁉︎ まさか……しかし、その剣の輝きは本物!ならば、貴方様は選定の剣に選ばれた……」
エレナにとっては過剰なまでの反応だった。ソルの顔から笑みは消え、冷や汗がこぼれている。その態度に訝しむ間もなく、ソルは次の手を打つ。懐から、先端に禍々しい顔の飾りがついた杖を取り出した。
「我が肉体と一つになれ!」
杖から強い力を感じた瞬間、ソルの体が変貌する。小柄だった体は肥大化し、巨大化する。アリアや街中のモンスターたちを取り込み、その肉体は醜く、巨大なモンスターと化した。
「融合か……」
「この一撃で倒してさしあげましょう‼︎」
ソルは両手を合わせ、拳を振り下ろす。エレナは静観する。彼女は青年が負ける事はないと、強い確信を抱いていた。
「この程度か」
ソルの腕は二の腕から先が断ち切られる。再生しようとしているのか、斬られた箇所から少しずつ腕が伸びている。しかし、再生するよりも早く、青年が動く。
「聖剣解放」
その詠唱をトリガーとしてカリバーンの刀身が眩い光を放つ。強大な魔力を秘めた光だ。その力をソルへと振るうべく、青年は柄を両手で握り、頭上に振り上げる。
「さあ、喰らうがいい! 聖剣の輝きは星をも砕く」
「
カリバーンが振り下ろされ、ソルの体を両断した。光の奔流はソルの肉体が現世に残る事を許さない。断末魔を上げるソルを、容赦なく焼き尽くす。
「ギャァァアァアアアァァァァァァァァ‼︎!!!」
光が収まる頃には、彼の肉体はただの一片も残らなかった。
「討伐完了」
聖剣が鞘に収まる。既に辺りは静かだ。壊れた建物と体の痛みだけが、戦闘があった事を証明していた。
「助かったわ。ええと、あなたの名前は?」
「…オレはルーサー。ルーサー・ロードナイトだ」
エレナは青年の名前を復唱する。忘れないように、その名前を噛み締める。
「ルーサーね!私はエレナよ。エレナ・ベネット!よろしくね!」
壊れた屋根から漏れた月明かりが、二人を照らしていた。