そこで、メンバーでMCをすることを提案するが……。
様々な思惑の中始まる単独ライブ。
毛色の違ったマスカレードを観客席から見守る椎名立希は分かれ道を行くかつての仲間、そして隣にいる今の仲間に何を思うのか。
Ave mujicaのドラム、アモーリスこと
「なんか最近マンネリじゃない?」
「そんなことはないと思いますが」
ベースのティモリスこと
思うに、このバンドのメンバーはそういったことに疎い人が多いのだ。
昨日好きでも、今日飽きた。
自分たちがエンターテイナーである限り、飽きられることは何より避けなければならない。
特に今はまだ立ち位置を確立したとは言いずらい駆け出しなのだから、多少無理をしてでも、観客を惹かなければならない。
これが若麦の主張だ。
「劇は好評だけどさ、祥子の本、全部暗いんだよ。たまにはお客さんも力を抜いて観てられるような感じにしてみるのもありなんじゃないかなって」
「なるほど。一理ありますね」
「それでさ、もっと私達の素でMCをやってみるとかどう?」
「MCですか。……ですが、若葉さんの負担を考えると現実的ではないと思います」
リードギターのモーティスこと
見た目が美しいだけでなく、女優としての演技も本物、いや、化物レベルと言っても過言ではない。
Ave mujicaのファン層の多くは若葉睦や、アイドルとしての活動もしているギターボーカルのドロリスこと
しかし、若葉睦は喋ることは得意じゃない。
『素のMC』で若葉睦を喋らせないわけにはいかない。
確かに懸念はある。でも。
「ムー子は確かに心配だけど、もう安定してるみたいだし、大丈夫でしょ」
「今後のことを考えても少しづつでも慣れてもらわないといけませんし……。慎重に、ならいいんじゃないでしょうか」
「やった! んじゃ、祥子に話しつけに行ってくるわ」
海鈴が同意するのであれば、後は祥子だけだ。
キーボードでバンドのリーダー、オブリビオニス、
というより祥子の言いなりだろう。
祥子の説得は骨が折れるだろうけど、理屈は間違っていないはずだ。
いざとなれば言い負かしてしまえばいい。
祥子に会いに楽屋を出ようとすると、ちょうど祥子が入ってきた。
「お、ちょうどよかった♪ ちょっと相談があるんだけど」
「何か私に用が? でしたら手短にお願いいたします」
「今度やる単独あるじゃん? それでさ、劇のパートを削ってMCパート作ろうよ。祥子も台本考えるの大変でしょ」
一瞬、若麦の提案を聞いた祥子の眼差しが鋭くなる。
それに反応し若麦もムッとなる。
「ってかさ、マンネリなんだよ。いい加減……」
「いいですわよ」
「は?」
「ですから、良い。と申しました」
思わぬ返事に若麦は唖然とする。
後ろで様子を見ていた海鈴も呆然とした。
祥子はAve mujicaの世界観にこだわる。
名前を名乗るどころか素顔を晒すことすら禁止されていたこともあった。
正直、ぶつかることは必至であると若麦は考えていた。
事実、先ほどの視線から反抗の意思を感じられた。
祥子のそういう態度に若麦の頭に血が昇り、語調を強めてしまったのだ。
「そ、そう。それなら……」
「ただし、条件があります。次回の単独ライブのMCは私に任せてください。そして、プロデューサーにはあなたから伝えてください。もちろん、メンバー全員で決めたこと、と伝えて下さって構いませんわ」
「分かった。それくらいお安い御用。なんだ、正直反対させると思ってた。いいMC考えなよ。一回きりにならないようにさ」
「ええ。よく考えておきます。それでは、ごきげんよう」
まさか最初の一回に祥子が自ら名乗り出るとは思わなかった。
こうもうまくいくなんて。
リーダーとして最初は任せてほしいということだろうか。
いや、ムー子への負担を考えてことなのだろうか。
どちらにせよ、お手並み拝見としますか。
などと悠長なことをこの時の若麦は考えていた。
後にこのことを後悔することになるとは知らずに。
「立希さん、土曜日の夕方頃空いてますか」
「空いてるけど、なに」
海鈴がクラスメイトの
立希は棘のある返事をするが、いつも通りなので気にされない。
「今度のライブ、私達としては初めての試みをするのです。なので、良ければ来てください」
「は?」
「何をするのかはまだ言えませんが」
「何それ」
あまりに突拍子もなく立希は呆れてしまう。
でも、よく考えてみれば海鈴が誘ってくるのは珍しい。
新しい試み……?
一体何をするつもりなのだろう。
立希は少し不思議に思う。
「椎名さん、私も、来てほしいな」
「え? 三角さんまで」
Ave mujicaのメンバーの一人である三角初華もクラスメイトだ。
ただ、立希はあまり喋ったことがない為、驚いてしまった。
アイドルをやっている有名人なのだからもっと堂々としてればいいのに、最近妙におどおどしているように見えるように立希は感じられた。
立希自身、愛想がよくないのは理解しているが。
「じゃ、じゃあ受け取っておく。二人とも、ありがとう」
せっかく誘ってもらっているのだ。受け取るしかない。
そう思い立希は受け取る。
「三角さんからは受け取るんですね」
海鈴と初華から受け取ってしまったチケット2枚。
これの扱いに立希は困っていた。
自分は仕方がなく行くとして、あと一人誰を誘おう。
Ave mujicaには祥子と睦がいる。
立希はこの2人と、同じバンドのボーカル高松燈、ベースの長崎そよの5人でバンドを組んでいたことがある。
そのバンドは色々あって解散してしまったし、もう一度再結成することはないだろう。
でも、
じゃあ、野良猫。
いや、当日ドタキャンされたら用意してくれた海鈴と三角さんに失礼だ。
……仕方がない。
『Ave mujicaのチケット貰ったんだけど、来る?』
最後まで送るかどうか迷い、結局送信ボタンを押してしまった数秒後に返事が来る。
『え!? もしかして八幡さんから? 関係者席!?』
はあ。と立希は大きなため息をつく。
なんでも良いだろ。だから誘うか迷ったんだ。
大げさに反応するのは立希と同じバンドのメンバー、
『で、来るの? 来ないの?』
『もちろん行くよ! ありがとー!』
了解。とスタンプを送る。
こんな調子じゃ当日は疲れて仕方がないんじゃないか。と立希は不安になる。
何にせよ、チケットを無駄にすることはなさそうでよかった。
「Ave mujicaのライブ2回目だー。あ、ライブじゃなくてマスカレードって呼ぶんだった」
「何それ。ミサみたいな?」
「? ミサ?」
「いや、分からないならいい」
ライブの当日、愛音と合流して会場に向かう。
「前回はそよりんと行ったんだよね。あの時は大変だったー」
「私にすぐ電話してきたんだから知ってる」
「そうだったね」
そういえば愛音とそよでライブに行っていたんだ。
そこでずっとつけていた仮面を外した。
まさか祥子や睦がメンバーだったとは思わなかった。
それまでは曲調が好みじゃなかったし、ライブなのに劇をやるスタイルがどうにも合わないと感じていた。
そういえば祥子が曲を作ってたんだっけ。
「……祥子は元気そう?」
愛音が祥子と同じ学校だったことを思い出し、なんとなく聞いてみる。
「しばらくは学校でも忙しそうだったけど、最近は普通……? あんまり一緒にならないからよくわかんない」
「まあそんな喋ったりもしないか」
「そんなとこかな。それにしてもすごい人。お客さんたくさんだね」
「うん」
「やっぱり人気なんだね。私達も劇とかやる?」
「やらない。……人気とバンドの良さは関係ないから」
少し、機嫌が悪くなるのを立希は感じる。
愛音に当たることにならないように代わりに歩みを早める。
「待ってよりっきー」
少し高めのヒールを履いた愛音が歩きずらそうにしながら追ってくるのを見て少し気分が晴れる。
「なんでさっさと行っちゃうの! 待ってくれてもいいじゃん」
「悪かった。でも、ライブにヒールなんて履いてくる奴も悪い」
「激しい感じのライブじゃないからいいんですー。それに人がこんなに集まってるんだからおしゃれしたいじゃん」
音楽を聴きに来てるんだから見た目に気を使う必要ないだろと思ったが、自分の格好を見て実は気にしていたのかもしれないと思い否定しきれなくなってしまう。
「あれ以来観に行ってなかったから、楽しみ。今日はありがとね」
「何、急に」
「いやー、りっきーが私を誘ってくれるなんて思わなくてさ。苦手でしょ? 私のこと」
「別に苦手じゃない。そりゃムカつくことはあるけど。……お前のことも信頼してる。大切な仲間だと思ってる」
「あはは! りっきーがデレた」
愛音に笑われ、頭に血が上るのを感じる。
「でもよかった。りっきーのこと私も大切な仲間だと思ってるから安心した。……あ、始まるよ」
なんなんだこいつは。と呆れながらも茶化されたわけじゃないと立希は安心した。
前のバンド、クライシックでは出来なかった。本心でしゃべることや、ちゃんと相手のことを思うこと。
それが愛音がきっかけで今のバンドでは出来ている気がする。
……無神経だっただろうか。
と立希は今更ながら思い返す。
愛音は立希達のバンドがどんなバンドだったのかは知らない。
でも、どれくらい大切なものだったのかを理解してくれている。
私だったら疎外感みたいなのを感じてしまうんじゃないだろうか。
そよを誘えばよかったかな。
「キャー!!! ドロリスー! モーティスー!」
いや、愛音でよかった。
すぐに立希は先ほど考えてきたことを否定した。
バンドの演奏が始まる。
曲調が好みじゃない。
そう思ってまともに聴いてこなかったけど、なかなかいいかもしれない。
演奏技術が高い。
海鈴のベースがうまいのは知っていたが、ドラムが器用だ。
メタルを形成する音の数と迫力がしっかりと出せている。
思わず立希は見入ってしまう。
あっという間に1曲目、2曲目、3曲目と終わる。
「いつもは劇から始まるのに珍しい」
「そういえば初めての試みがどうとか言ってた」
「えー、なんだろう」
そんなことを話していると、オブリビオニスがステージの真ん中に立つ。
「皆様、今宵のマスカレードへようこそお越し下さいました」
5人で揃いお辞儀をする。
「今宵は、私たちのことをもっと知ってもらうため、MCをさせていただくこととなりました」
おお、という歓声が上がる
「いつもはそんなことしないのに」
「へえ」
なんでやる気になったんだろう。
祥子はともかく、睦は得意じゃないだろ。
まあ、海鈴が何を話しだすのか興味がなくはない。
「いつも来て下さる方にも、初めて来られた方にも楽しんでいただけるように、アモーリスが企画しました」
客席からは拍手が起こる。
「にゃむち! 流石!」
「……」
立希はオブリビオニスの、祥子の笑顔に違和感を感じる。
祥子との付き合いが長い訳ではないが、楽しそうな、何かを企んでそうな笑みなように感じられた。
……何かしでかすんじゃないか。
そんな不安を感じていたのは観客席の立希だけではなかった。
え? なんで?
ステージ上の祐天寺若麦だ。
なんで祥子がわざわざ私を立てるようなことをステージ上で。
そんなにいい提案だっただろうか。
いや、誰でも思いつくでしょ。
何考えてんだか……。
「此度はこのくらいに、次の曲を始めます。アモーリス、合図を」
突然の指名にはっとしながら、次の曲の準備を開始する。
祥子が何考えてるんだか知らないけど、気張ってやらんとね!
その後は立希と若麦の不安をよそに順調にライブは続けられた。
途中、睦と目が合うことが妙に多かったような気がするが、そんな程度だ。
考えすぎだったかと立希が結論付けようとしていたところ、舞台が暗転する。
次の曲の準備だろう。
再びライトが舞台を照らすと、祥子がリンゴを持ってステージ真ん中に立っていた。
「アモーリス、これは何か答えてご覧なさい」
「……リンゴ」
突然振られ、若麦は特に何も思いつかずにそのまま答えてしまう。
「ええ。リンゴです。中でも、『紅玉』という品種のリンゴですわ」
はあ? と口に出してしまいそうだったが若麦は我慢する。
観客に困惑を悟られるわけにはいかない。
しかし、なにを考えて……。
「青森県南部地方および岩手県の一部の地域でこの紅玉を何というか、ドロリス、ご存知でして?」
「知らない。なんて言うの?」
「なら教えて差し上げますわ。『まんこう』と呼びますの」
は?
今度は口に出してしまった。
マイクが拾わなかったのは幸いだ。
若麦は表情をすぐに作り直す。
客席がざわつく。
「えー、うそー、知らなーい、やだー、ばかー」
初華が白々しく棒読みな演技をする。
初華、仕込まれてたな。
若麦が睨み付けるが、背中を向かれていてはどうしようもない。
「皆様にお伺いします。青森県南部地方および岩手県の一部の地域でこれのことを何と呼びますの?」
客席がざわつく。
「まんこうー!」
睦と初華が代わりにレスポンスする。
「もう一度お伺いします。青森県南部地方および岩手県の一部の地域でこれのことを何と呼びますの?」
「まんこうー!」
睦と初華のレスポンスに合わせ、客席からも少しだけ返ってくる。
客席のレスポンスに満足げに頷き、手に持っていたリンゴを齧る。
「この甘くて美味しい、皆様が欲してやまないこれは?」
「まんこうー!」
「農家の皆様が大切に育てあげ、今私に口をつけられたこれは?」
「まんこうー!」
「しかし、皆様、どうしてこれを呼ぶ声が控えめなんでしょう……それはこれが悪魔の果実だからですわ!」
睦がギターをかき鳴らすのと同時に祥子がリンゴを客席へ投げ入れ、客席は阿鼻叫喚だ。
客席の熱のままバンドが音を情熱的に奏でる。
そこからはこの熱の中ノンストップで演奏する。
ドラムが曲の間をできるだけ作らないようにしていたように客席の立希には感じられたが。
そして、祥子が手を上げ、演奏が停止する。
「今宵のマスカレードは次で最後。その前に少しだけお話をさせていただきます」
再度舞台の真ん中に立つ。
「私たちのマスカレードにお越しいただき、誠にありがとうございます。皆様はかけがえのない大切なお客様です。少し、毛色を変えたマスカレードとなりましたが、お楽しみいただけましたでしょうか」
客席から拍手が返ってくる。
「ありがとうございます。しかし、わたくし達のことをよく思っていない方々もいらっしゃいます。しかたがありませんわ。愚かな人間なのですから、好みがあるのは当然のこと。ですが」
一呼吸置く。
「この期に及んで、わたくしたちの活動を『お嬢様のバンドごっこ』揶揄する方がおります」
少しざわつく。
「私を『豊川グループのご令嬢』、モーティスを『有名女優と人気芸人の娘』、我々をレッテルでしか見られないお方がおります」
よりどよめきが多くなる。
流石にマズイ。そう思い若麦が止めようと思った途端。
「モーティス、そういった方、どうすればよろしいのでしょう」
睦が微笑む。
「コロセ!」
あまりの迫力に客席が静まり返る。
「ドロリス! どうすれば」
「コロセ!」
初華も応える。
「ティモリス!」
「コロセ!」
海鈴まで。
「アモーリス!」
呼びかけられた若麦は祥子を見る。
祥子が若麦に笑いかける。
今回は完全にやられてしまった。
私の完敗だ。
ここまで尖ったパフォーマンスをされるとは思わなかった。
「コロセー!」
若麦も祥子に乗り、応える。
「皆様のことも、勝手に張られたレッテルでしか見ていない方がいらっしゃるかもしれません。どうすれば!」
「コロセー!」
若麦の力強いドラムから最後の曲は始まり饗宴は終わる。
「今宵は私達のマスカレードにお集まりいただき、また、遊戯にお付き合いいただきありがとうございました」
オブリビオニスの挨拶が終えると幕が下がり終演となる。
「すごかったね! ……りっきー、すごい疲れてない?」
「……」
立希は愛音に返すこともできない。
ハラハラやら、くすぐったさやら、不覚にも感動やら色んな感情に立希ははっきりと疲れていた。
「あー、楽しかった。私達も……なんでもない」
立希の鋭い視線に刺され、愛音は軽率な発言を引っ込める。
多くの客に押されながら二人は帰路に就く。
立希が疲れていたのもあったが、二人に会話はない。
なんとなく愛音は寂しい気持ちになる。
せっかくなんのわだかまりもなく、二人で出かけられたのに。
普段あまり二人きりで話さない立希とのせっかくの機会なのに。
愛音は、半ば茶化すような形になったが、立希の信頼できる仲間という言葉がうれしかった。
立希はいつも愛音に厳しく当たる。
それは仲間としての信頼があってのものだが、やはり偶には口に出してほしいものだ。
いつだか、立希が認めてくれるような発言を愛音にしたのはそういえば二人っきりの時だった。
「あっ、いたっ……」
愛音が少し物思いに耽りながら歩いていると、ちょっとした段差に躓いてしまう。
躓いたが、転ぶことはなかった。
しかし、慣れていない靴を履いていたせいか、靴擦れを起こしてしまっていた足に痛みが走り、立ち止まってしまう。
「大丈夫?」
立希が駆け寄る。
「大丈夫大丈夫。ちょっと躓いただけ」
「靴擦れしてるじゃん。……そこの喫茶店で休んでく?」
行きしな、いたずらに早足で会場に向かったせいではないかと少し申し訳なく思ったのもあり、立希は優しく声をかける。
「……うん」
愛音は優しい立希の声掛けに少し驚くが、その言葉に甘えることにした。
「コーヒーと、アールグレイお願いします」
「かしこまりました」
立希が店員に注文を頼む。
「ありがとね、りっきー」
愛音はご機嫌な様子だ。
「なんか嬉しそうじゃん」
「そんなことないよ。そっちこそなんか満喫した感じしてる」
「満喫というよりは……あいつらが元気そうでよかった」
「あぁ。祥子ちゃん?」
「あいつもそうだけど睦も」
睦は生き生きとしていた。
私達とバンドをしていた時もうまかったが、より腕を上げたと思う。
前の状態を見たときはすごく驚いたし、ショックも受けたが、今幸せそうに振舞う睦の姿を見られて立希自身も嬉しかった。
「あ」
そんなことを考えていたらメッセージアプリの通知が来た。
睦からだ。
『どうだった』
……あいつ、やっぱりこっち見てたのか。
『良かったよ』
既読だけつく。
「ねえ、誰からだったの」
「秘密」
「えー、教えてくれないのー」
愛音が唇を尖らせる。
「なんか今日、ホントに随分ご機嫌じゃない?」
「りっきーと出かけるなんて中々ないじゃん? 新鮮でいいなって」
「そう?」
立希自身も思っていたことだが、なんとなくはぐらかす。
「そうだよ。りっきーも素直なこと言ってくれたし」
「……うるさい」
「でも、偶には言葉に出してくれないと寂しいよ。仲間なんだし」
確かにちょっと当たりが強すぎるかもしれない。
最初に会った時から、愛音は気に食わないやつだった。
何も知らないくせに燈をバンドに誘ったり、真面目に取り組んでいないように見えたり、なのにちゃんとついてきたり、私のことを追いかけてきたり。
「……お前がいないとバンドできなかったと思う。感謝はしてる」
「えー、なんか欲しかった言葉と違うなー」
「……チッ」
思わず立希は舌打ちをしてしまう。
私も思ってた反応と違うんだよ! っと叫びたい。
叫ばないけど。
「あ」
「え、何? どうしたの」
「いや、別に」
『欲しかった言葉』に引っかかり思い立つ。
メッセージアプリを開き、文字を打ち、送信する。
「教えてよー、仲間でしょ」
「仲間にも明かせない秘密があってもいいだろ」
「そうかな」
「そうだよ」
「そういえば今日の祥子ちゃん、ていうかオブリビオニスすごくなかった? なんかいつもと違う感じがしたというか」
思わず立希は笑ってしまう。
「あいつはそういうやつなんだよ」
今は別の道を進むかつての仲間を立希は思い返す。
あいつは、周りを引っ張るというよりは振り回す方が得意な奴だ。
今日は、かつての仲間が息災であることを十二分に感じられた。
今の仲間とかつての仲間、根っこのところを変えられない私達の不器用っぷりが立希には誇らしく感じられた。
「睦、見まして? 若麦の顔!」
「見た。傑作だった」
マスカレードを終えた後逃げるように現場を離れ、会場から離れた喫茶店で腰を落ち着かせた睦と祥子は二人で笑う。
「初華や海鈴には悪いことをしましたが、偶にはこういう日があってもいいはずですわ」
紅茶を嗜みながら、ライブ後を思い返す。
楽屋に戻ると鬼の形相をしたプロデューサーが待ち構えていた。
が、全く気にせずに睦の手を握り逃げてきたのだ。
残された他のメンバーは呆然としていた。
特に若麦の顔は良かった。
この企画者は若麦だとハッキリさせていたのが効いた。
……これでおあいこですわ。
となんの断りもなしに仮面をとったことを根に持っていた祥子は思う。
SNSを見ると、まさに賛否両論といった今回のライブの反響が騒がせていた。
『紅玉』のくだりももちろん、
多くの敵を作り出す今回のようなパフォーマンスにプロデューサーは当然カンカンだった。
もちろん若麦にすべての責任を取らせるつもりはないが、偶には鏃に立たされてもいいだろう。
「でも、ホントに良かったの?」
「……ええ。明日には責められる立場になったとしても構いませんわ。でも、今この時だけでも、そんなことを忘れて楽しみたい。そんな気分ですの」
そんなものかと睦は思う。
サキがいいなら私もそれで構わない。
それに、若麦の表情だけでなく、良いものも見れた。
自分の演奏を見るかつての仲間、椎名立希の姿が見られたのだ。
立希は、間違いなく自分を見てくれた。
まだ演りたい演奏ができたとはいいがたいが、良いパフォーマンスができたということだろう。
そうだ。せっかくだし、感想を聞こう。
睦は椎名立希にメッセージを送る。
『どうだった』
するとすぐに反応が返ってくる。
『良かったよ』
立希らしい良い反応に思わず表情が緩む。
「どうしましたの? 睦」
「立希が、『良かった』って」
睦はスマホの画面を立希に見せる。
「……そう」
祥子の反応を見て、睦は不思議に思う。
思っていた反応が得られなかったということなのだろう。
サキはやっぱりよく分からない。
祥子はやはり不満であった。
若麦に一泡吹かせる第1の目的は達成した。
少し不安だったが、観客に『レッテルで評価される現状』に対してのアンチテーゼに賛同を得ることができ、第2の目的は達成できたと言えよう。
しかし、第3の目的が達成できなかった、
何のために初音を差し向けたのか。
……立希なら分かってくれたと思ったのに。
不意に香った隣の客の頼んだコーヒーの匂いに思わず顔をしかめる。
嫌いな香りだ。
少しだけ下を見ると、多くの着信通知の残る祥子の携帯画面に新たな通知が表示された。
見るつもりのないノイズの中から祥子が欲しかったものがそこにはあった。
祥子の表情が晴れるのを睦は見た。
良かった。
何かはよく分からないけどサキが少しでも晴れやかな気分になれるのであれば協力した甲斐があったというものだ。
「睦、もうしばらく二人でいましょう。……そうしたい気分ですの」
二人はしばらくそのままだった。
会話はなく、目の前の人と、別れた人と、馴染みの飲み物の味に懐かしさ、あるいは希望、あるいは寂しさ、それらに馳せる。
オレンジジュースにはまだ氷が残っている。
『今日、ライブ観に行った』
『楽しかったよ』
『蝋人形にされるかと思った』
Ave Mujicaも面白かったですね。
個人的には豊川祥子ちゃんがかなり好きになりました。
サキタキはあると思います。
対バンライブの前に投稿したかったので、毎度のことながら拙い部分が目立つかもしれませんが、見て見ぬふりをしていただければ幸いです。
豊川祥子ちゃんは悪魔がやられている某バンドのパフォーマンスに憧れているに違いないと勝手に思っています。
そのため、このような内容になっています。
まあ、ネタが分からない人も、きっと通じると自分が思った人にネタが通じたら嬉しいですよね。くらいに思ってもらえればと思います。
もちろん、この後初音の家に帰るのですが、偶には祥子と睦が昔を懐かしみながら二人の時間を過ごすことがあれば嬉しいですよね。
いろんなものを背負わざるを得ない祥子ちゃんに肩の力を抜いて付き合えるのが睦であってほしい。
サキが壊れそうだから寄り添ってくれる友達想いの睦は確かにいるはずなんですよ(大声)
そして味方になってくれる睦ちゃんに気を許す祥子ちゃんだって……!
続編やるみたいですけど戸山香澄ちゃんの出番はありますか?(場違い厄介オタク)
続編の前にまた、バンドリで何か書ければと思います。
MyGO!!!!!かもしれませんしポピパかもしれませんが、その時には再度お付き合いください。