盲目少女は蟲で踊る ~ダンジョンでおとりにされて死にかけましたが、蟲使いに覚醒したので復讐に参ります。~   作:千田伊織

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第19話 約束をする

 ミアは真っ先にハイポーションの接種を疑われた。

 ポーションはギルドでしか購入していないので、そんなはずはない。けれど疑われても仕方がないくらいには、ミアの成長は著しかった。

 

 

【ミア・グーテンベルク】Lv.4

 職業:蟲操師

 スキル:蟲生

 筋力F 耐久F 魔力F 俊敏F 幸運F 器用F

 

 

「わたしが血を渡せば解決しますか?」

 

 エリシアの腰に差さっている短剣を引き抜き指先にあてがうと、男性のギルド職員は青ざめ慌て始めた。

 

「い、いえ、その必要は!」

「でもわたしは潔癖を証明したいんです。ここで不明瞭な結果を残したせいで、今後あらぬ噂を立てられるのは避けたいので」

 

 勇ましくもミアは言い放つ。

 

 ハイポーションの使用は犯罪だ。ギルドの認可の下りていない場所で製造された超強力なポーション。なぜ使ってはいけないのかは「使えばわかる」というもの。つまるところ、使ってしまった時点で人生終わりなドラッグというわけだ。

 これは人の信頼を落とす。

 

「大丈夫です、ミア様。一年間という短期間でLv.4に到達される方は稀ですが、いらっしゃいます。レベルの上昇が緩やかになるのはLv.4からですので、検査の必要性はございません」

 

 奥から用紙の束を持ってやってきたセルンが言う。彼女はミアの解析を終えるなり、ギルドの奥へ引っ込んでしまったので困っていたのだ。セルンと入れ替わるように、男性のギルド職員は逃げるように別の冒険者の対応に当たりにいく。

 彼女が持って来たのは歴代のミアを解析したデータだった。

 

「あちらのお部屋で話をしましょう。ミア様の固有魔法暴発(スキル・オーバーヒート)についてのお話です」

 

 かっとなっていたミアは宥められ、皆と共に別室へ案内される。

 少し狭い部屋に五人、そして一人の女性ギルド職員がお茶を運んでやって来る。彼女が下がると、セルンは解析データをデーブルの上に広げ始めた。

 

「ミア様の成長具合は初期のころから目に見えておりました。そして、それが酷く偏ったものであることも」

 

 どれも見比べればすぐにわかることだが、魔力値がいつも率先して上昇している。対して筋力や俊敏といった項目が鈍麻だ。前回のLv.3へレベルアップを果たしたときも、筋力の項目はDである。

 

 そしてセルンは前回の解析結果を差し出した。

 

 

【ミア・グーテンベルク】Lv.3

 職業:蟲操師

 スキル:蟲生

 筋力E 耐久B 魔力限界値 俊敏B 幸運E 器用B

 

 

「こちらをご覧になってわかります通り、筋力の項目が」

「これでよくレベルアップできたもんだな」

 

 メルバが横から口を挟む。正直ミアも同感だ。

 

「魔力の欄にあります『限界値』がミア様をLv.4に引き上げたと考えられます」

「セルン、この調子だとまた同じようなことが起きかねないか?」

 

 レイノワールが首を傾げて尋ねた。セルンはしばらく返答に渋った後、はいと簡潔に答える。

 

「回避する方法が一つだけございます」

「それは何?」

 

 テーブルからエリシアが身を乗り出す。

 

「それは……」

 

 ミアも御免だ。このような恐怖の目覚めには二度と出会いたくない。

 

「ずばり、鍛えることです」

 

 

 セルンは腕を鉤型に持ち上げると、細い二の腕を叩いて見せた。筋肉を主張したようなポーズだが、冒険者でもないセルンの細腕は言葉に信頼を与えない。

 

「……」

 

 思いの外原始的な方法で、一同は沈黙してしまった。

 けれどミアは役職とスキルに甘んじて、体力に直結するトレーニングを怠ってきたことを思い出す。このままではいけないという神の啓示なのだ。

 

「わかりました。原因究明できたのなら早いです」

 

 ミアはその場で立ち上がり、エリシアを振り返った。その勢いの良さにエリシアはびくりと肩を揺らす。

 

「ミア?」

「わたし、頑張ります。早速これからでもダンジョンに──」

「ちょ、ちょっと待って。今日は絶対安静よ、それに急いでも意味ないわ。……ね?」

「それから、スキル内容に関してですが」

 

 部屋を飛び出そうとするミアをエリシアが必死に引き留めてくる。それに加勢するように、セルンが続きを口にした。思わずミアの足元も止まる。

 

「さすがレイノワール様です、見立ては正しかったようで……」

 

 

 スキル:蟲生⇒体内で蟲型モンスターを生成する。生成過多の場合、口以外の出口を求めて穴を作り出す傾向にある。その時に破られた穴は自動的に治癒魔法がかかる。この治癒能力は使用者の治癒魔法が使える最高の魔法の治癒能力に依存する。

 

 

 ミアが使える治癒魔法は中級魔法が最高だ。目に見えない部分──内臓の小規模な治癒を可能とする。つまり朝起きて喉を食い破られた痕跡がなかったのは、自身でそれを癒す魔法を使ったような状態であったためだという。

 

「治癒能力も上級まで習得すべきだな」

 

 レイノワールが腕を組んだ格好で言う。ミアは頷いた。

 

「スキルも大きく成長していたみたいで、吐いた蟲の量は今までと比になりませんでした」

「スキルのコントロールから、治癒魔法の習得まで課題が山ほどあるな」

 

 メルバも細く息を吐く。

 ミアは掴まれていた腕を軽く引っ張られて、振り向いた。

 

「ね、ねえミア」

 

 エリシアのぎこちない笑みに、ミアは笑い返す。エリシアの手はミアの両手首をしっかりと握る。

 

「……その……『先輩』に話を聞いてみるのは、どう?」

 

 ミアは驚きで、思わずその笑みを消しかけた。

 

「『先輩』とはどういう意味ですか、エリシア」

「……オフィーリア・メイサンダーって知ってる?」

 

 ミアは首を振る。聞いたことはないが、名前から女性ということはわかる。視界の端でセルンとレイノワールが小さく目を瞠ったのに気づく。それはどういった意図の反応なのか尋ねたいところだが、ミアはエリシアの泳ぐ視線から目が離せなかった。

 

「ミアと同じように、体内でモンスターを生成するスキルを持つ人よ。……ぐ、偶然、居場所がわかったの」

 

 エリシアは一瞬メルバに視線を向けた。ミアがその目を追うと、メルバが呆れたように額を押さえて深い息を吐く。

 

「エリシア、変に取り繕わなくていい。……ミア、あたしがパーティーを掛け持ちしていることは知ってるだろ? そのパーティーにオフィーリアがいる」

 

 ミアは密かに踊る胸に手を当てた。ずっと一人だと思っていたものに、仲間がいたという事実を知って。

 すぐにでも会いたい、と身体が前のめりになる。ミアは、ミアが嫌なら……と俯きがちになるエリシアの手を逆にとって、上下に振った。

 

「わたし、とっても会いたいです」

 

 強くなるためのヒントがあるやもしれない。

 

 

 

 

 

 

 ギルドを出てすぐ、レイノワールは用があると言って拠点とは別方向に歩き出した。さりげなくウィンクでサインを出されて、昨晩の約束をミアは思い出すことになる。

 

 先々と進む二人に、ミアはつんのめったような調子で声をかけた。二人は何気ない様子で振り返ってくれる。

 

「……明日、少し遠出をしませんか? 四人で」

 

 エリシアはすぐに表情を綻ばせた。

 

「珍しいわね、ミアがそう言って誘ってくれるなんて」

「レイと話になったんです。割れたティーセットを見繕いに行きたいという理由で」

 

 メルバが微々たる動作で動揺を示す。

 ミアはすぐさまピンときた。レイノワールのお気に入りを割ったのはメルバなのだと。そういえば少し二人の間に距離があった──いや、どちらかといえばメルバがレイノワールを避けているように見えていた。

 

「メルバも、行きましょう」

 

 レイノワールはミアのため、と言っておいて、メルバの為でもあったのだと気づいた。メルバはしばらくぼんやりとしていたが、ミアに声を掛けられてぎこちなく頷いた。

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