盲目少女は蟲で踊る ~ダンジョンでおとりにされて死にかけましたが、蟲使いに覚醒したので復讐に参ります。~   作:千田伊織

21 / 36
第21話 お出かけ

 レイノワールはミアのおめかしした姿を見て、首を傾げた。そしてすぐ、満足げに口角を上げて一つ頷く。

 

「完璧だな」

「こんなに着飾って……汚したら大変です」

 

 昨日ギルドの後、レイノワールは別の道へと足を進めたが、まさか服を買いに行っていたとは思わなかった。

 レイノワールはミアの懸念に眉を曲げる。

 

「汚すようなことをするつもりか?」

「いえ、そういうわけじゃありませんけど……」

「なら汚れたときのことなど、今から心配するな」

 

 淡い水色のワンピースは立襟で、その下には小さなボタンが連なっている。背中が少しばかり大胆に開いていて、白の丈が短いカーディガンを羽織ることで隠していた。靴は白のパンプスで、いつもは隠れている膝が露出していて恥ずかしい。

 

 ミアは姿見に映る、見慣れない格好の自分に眉を下げた。格好はまるで無邪気な町娘風だ。けれどミアにはどうも着られている感じが拭えない。

 

「よし、そこに座りなさい」

 

 レイノワールに言われて、ミアはドレッサーの前に置かれた背もたれのない椅子に腰かけた。手癖でまとめていたシニヨンがゆるゆると解かれていく。

 ミアは首を動かさないよう、着せ替え人形みたくじっとしていた。

 

「……エリシアがずっとわたしのことを気にかけてくれるんです」

 

 鏡越しに伝えるようにミアはぽそりと呟いた。俯いているのでレイノワールの表情は伺い知れないが、沈黙に言葉を続けることにする。

 

「昨晩も寝床がないことを心配してくれて……ベッドまで貸してくれて。わたしのせいだって、わかってるんですけど」

「ミアのせい?」

 

 レイノワールがミアの言葉をおうむ返しにする。

 髪の間を指がすり抜けてゆく。そしてまるで指遊びのように、細い指同士が交差しては元に戻る。左耳の後ろに編み込みが出来上がっていた。ミアは鏡にちらりと映るそれに思わず感嘆の息を漏らすが、レイノワールが右半分の髪を掬ったのを見て首の動きを止める。

 

「わたしが勝手に出て行ったせいです。そのせいで、エリシアに心配を掛けさせてしまって……」

 

 風呂も手伝ってくれて、背中が濡れているのにも関わらずミアには黙って部屋へ連れて行ってくれようとした。一時も目が離せない、といった様子だ。

 

「ふむ。私にはあまり困ったことのようには思えないが」

 

 編み込みが襟足まで到達すると、白いリボンで丁寧にまとめられる。そしてもう反対側も。

 ミアはレイノワールがくすり、と笑うのに疑問を抱きながらも、続く言葉を待つ。

 

「だが、ミアが不安に思うならいい提案をしてあげよう」

 

 レイノワールが出来上がったミアの可愛いお下げを胸の前にやった。

 ミアの両肩に手を添え、レイノワールはまるで母親のように微笑む。

 

「今日一日、エリシアの心を満たしてあげるつもりで動きなさい」

「……え、でも」

 

 レイノワールは部屋をさっさと出て行くと、すぐさま戻ってきた。手には麻袋が握られていて、ミアの腕を取ると小さな手のひらに麻袋を乗せる。重みは町娘の小遣いよりも少し多いくらいだろうか。

 

「こ、これは」

「元からこのつもりだった。ありがたく受け取っておきなさい。私には子供にプレゼントさせる趣味などないよ」

 

 ミアはしっかりと受け取って、レイノワールを見上げた。

 

「素敵な少女だな。きっとエリシアもかわいいと褒めてくれるさ」

「……ありがとうございます、レイ」

「これくらい、どうってことない」

 

 目を覆うための布も、髪とお揃いのものを手渡される。

 仕上げにと、レイノワールはミアの背中を軽く叩いた。

 

「お詫びのつもりじゃいけない。ただ喜ばせるために行動するんだ」

 

 

 

 

 

 

 目的地は拠点から見てダンジョンの向こう側に位置する繫華街だ。

 人の多さはウルサリア有数で、休日は最も人が集まる場所となる。

 

 ミアは久々の繁華街に少し胸を躍らせていた。人並みに溺れそうになるあたりにやってきて、ミアは手を掴まれる。腕の先を辿るとエリシアがいた。

 

 今日のエリシアは珍しく髪をハーフアップにしていて、いつもとは別人のようなシルエットをしている。普段の服装はホットパンツにロングブーツの組み合わせだが、今日は涼やかな白のブラウスに赤いハイウエストで膝下丈のスカートを履いている。靴も黒のエナメルで上品だ。

 

 ミアと同じようにおめかししてくれているのだろうか。こういう格好も似合うのだとミアは少しどきどきした。

 

「ミア」

 

 名前を呼ばれてミアは返事をする。はぐれてしまわないようにしっかりと指を絡めて握り、腕を引き寄せた。

 

「なんですか?」

「今日のミア、すごく可愛い」

「……」

 

 同じことを考えていた。

 ミアは思わず頬が熱くなる。おしゃれとは人を変えてしまうものらしい。今日、おめかしをしてから何か変だ。

 

「髪型もすごく似合ってる」

「エリシアもです。もっとそういう格好が見たいくらい、素敵です」

 

 ミアが褒めると、エリシアは耳を赤くして口ごもった。

 

「……でもこれ、ほとんど私のセンスじゃないのよ。私ってばおしゃれとかすごく苦手で、メルバに選ぶのを手伝ってもらっちゃったし」

「じゃあ、わたしとお揃いですね。わたしもレイノワールに綺麗にしてもらって……」

 

 ミアは少し膨らんだポシェットを、布の外から撫でてその存在を確かめた。少し離れたところをレイノワールとメルバが歩いている。

 エリシアとしっかり手が繋がれていることを確認して、ミアは立ち止まった。腕を引っ張られたエリシアは振り返る。

 

「置いてかれちゃうわよ?」

 

 ついて来ていないことに気づいたメルバがこちらを振り返る。

 

「どうしたんだ、はぐれるぞー!」

 

 その声にレイノワールはさっとメルバの後ろに回り、背中を押しやった。レイノワールの突然の行動にメルバは驚き暴れているが、長身のレイノワールには太刀打ちできず半ば引きずられている。レイノワールと目が合う。彼女は気の利いた行動にさりげないウィンクを添えた。

 

 ミアは空いている手の方を、繋がれている手に重ねた。エリシアがぐっと息を飲んで、握りあっているところから腕を辿り、そしてミアと視線を交わす。

 

「少し、二人になりませんか?」

 

 ミアの提案にエリシアはためらうことなく頷いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。