盲目少女は蟲で踊る ~ダンジョンでおとりにされて死にかけましたが、蟲使いに覚醒したので復讐に参ります。~   作:千田伊織

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第27話 イルクパーティーの悪事

 夕食を終えてしばらくした後、四人はリビングに集まっていた。

 ミアはキッチンの戸棚に仕舞われた新しいティーセットの箱へ手を伸ばして、しかし引っ込める。すぐに背後から「どうしたの?」と声を掛けられた。

 ミアはエリシアを振り返る。

 

「いえ、……四人だからと思って」

「いいじゃない」

 

 エリシアが代わりに箱を取り上げると、丸められた緩衝材の紙を除きながら磁器をキッチンに並べて置いた。新品のティーセットをさっとスポンジで撫で洗うと、布巾で雫を拭き取る。ミアは手際の良さに、少し離れたところから見ているしかできなかった。新しいものや割れものと言われると、どうも慎重になりすぎてしまう。

 

 エリシアにお湯を沸かしてほしいと頼まれて、やっとミアは自分の役目を思い出した。言われた通り小さな鍋で水に火をかける。

 そのしているうちにレイノワールがキッチンにやってきた。同じ日に購入した新しいティーセットを開封している。ミアは思わず吹き出しかけたが、ぐっとこらえた。皆同じことを考えているらしい。

 

 メルバは一人、ソファの上にちょこんと座って頬杖をついている。

 茶葉を入れたポットに湯を注ぐとふたをする。ミアは二人分のカップを、エリシアはレイノワールの分もポットを持って席についた。

 

 四人がリビングに集まって、膝を突き合わせるのは久々だ。

 茶葉を蒸らしている間、三人の視線がメルバに向けられる。メルバは一つため息を吐くと、もったいぶって口を開いた。

 

「オフィーリアの知識は全部人に調査させたものだ」

 

 ミアはダンジョンを飛び出した後、三人の女性が入り口に張っていたことを思い出す。

 

「だから、正しいことかどうかはわからない。でも大抵は真実だ」

 

 メルバは一枚の紙を取り出した。そこにはイルクパーティーの変遷が書かれている。いつ結成したのか、メンバーの特技や役職役割はなにか、誰がいつそのレベルに達したのか。

 ミアは自身の調査内容を煮詰めたようなそれに唖然とした。完成度が違う。

 

「これはオフィーリアから譲り受けたものだ。あの人イルクのことが嫌いだとは言っておきながら、こんな調査結果があるなんて……むしろ大好きだろ」

「えっと、これに何かおかしな点があるの?」

 

 エリシアがメルバに尋ねる。ミアもエリシアに同意を示した。ミアも身を乗り出して覗き込んでいるが違和感は見当たらない。レイノワールはカップに紅茶を注ぎながら「ああ」と一人納得したように言葉を零した。

 

「確かに妙だ。私たちを騙してくれた一年と少し前でイルクはLv.4、今はLv.7だな。成長速度の速いエリシアでLv.4からLv.6だ。それもエリシアの場合、三十階層の階層主を倒したときにはすでに頭打ちだった」

「つまり……ハイポーションですか?」

 

 ミアはギルドで疑われたことを思い出す。もし他に怪しい人間がいるなら、ミアが詰められたのも納得できる。そこで血液の提出を進んで出たがために見逃してくれたのだろう。

 

「イルクパーティーにいるこのダークエルフ、こいつがポーションに詳しい。薬草の森の出身だから、ハイポーションの配合を知っていてもおかしくはないな」

 

 ハイポーションはもちろん製造も禁止されている。しかしながら案外にも材料が手に入りやすいのか、たびたび製造が検挙されることで問題になっている。これが本当ならイルクパーティーは犯罪に手を染めているということだ。

 

「ところでレイはハイポーションの材料を知らないの?」

 

 エリシアがふと思い立ったように尋ねる。レイノワールはすんなりと頷いた。

 

「もちろん知っているさ。田舎出身のエルフにハイポーションの配合を知らない奴はいないだろう。違法になっているのはウルサリアとのその周辺の街だけだからな」

 

 三人は仰天する。ミアはエリシアに顔を見られて首を横に振った。

 同じ田舎出身とはいえ、知るはずがない。

 

「ミアが知らないのも無理はないな。そもそもポーションの技術は魔法によるものだ。エルフは皆生まれた時から魔法を習得しているようなものだから、エルフの多く住む村ではハイポーションの配合を知っている場合が多い」

 

 なるほど。ミアは嘆息した。

 本来であれば、ハイポーションの製造方法がエルフの中で一般的なものとなっているこの事態は、もっと大騒ぎになってもいいことなのだろう。けれどそうではないということは、エルフが絶大な信頼を得ている種族だということ。

 

 レイノワールとしては、同じエルフとして──とはいえ向こうはダークエルクだが──複雑な心境に違いない。エルフの信用を落とす出来事だ。

 

「それで、何からできているの?」

「……あまり言いたくはないが、致し方なしか」

 

 レイノワールはソーサーにカップを置くと、耳を寄せるよう手招きをした。三人は小さく集まって、その声を拾おうとする。

 

「階層主の周辺に湧く、アムドゥシアスの角だ」

 

 ミアは聞きなれない名前に疑問符を浮かべるが、エリシアとメルバは途端嫌そうな顔をした。エリシアはそれにとどまらずソファから腰を浮かせて叫ぶ。

 

「もしかして私たちが騙されたとき、あいつらは端からハイポーションの材料を求めてたってわけ⁉」

「もしかしなくてもそうだろう。時期もピッタリ合っている」

 

 レイノワールの淡々とした分析に、沈黙が落ちる。もしかしたらエリシアたちは犯罪の片棒を担がされそうになっていたかもしれなかったのだ。そうでなくても、間接的に協力してしまっていた。

 エリシアは憤慨してソファに乱暴に腰を下ろすと、足と腕を組む。

 

「あの……アムドゥシアスの角ってなんですか?」

 

 お怒りのところ恐縮だが、ミアは小さく挙手をして、アムドゥシアスの角について説明を求めた。階層主との戦闘経験がないため、ミアはそれが何かを知らない。

 

「角の生えた馬型モンスターの亜種よ。俗にユニコーン型モンスターって言われているわ。それは決まって階層主の周辺だけに湧くの」

「そしてそのドロップアイテムである角をギルドに持って行くと、高額で金に交換してもらえるんだが……ってそうことだったのかよ」

 

 メルバはエリシアに続いてミアに説明しながら、頭を抱えてソファーの上にうずくまりだす。

 高額の交換を謳っていれば、冒険者たちは怪しむことなく喜んで交換してくれるという算段だ。妙な研究に使ったりしないための対策というわけだろう。

 

「今回もまた、ハイポーションの材料を求めているんだろう。その証拠が押さえられさえすれば」

 

 イルクパーティーの悪事を暴くことができる。

 四人は顔を見合わせて頷きあった。

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