盲目少女は蟲で踊る ~ダンジョンでおとりにされて死にかけましたが、蟲使いに覚醒したので復讐に参ります。~   作:千田伊織

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第28話 成り代わり計画

「エリシアパーティー、でしたかな」

 

 歳のわりに立派なひげを蓄えた男性は、女性の四人組を見て確認するように尋ねた。彼の目の前に腰を下ろしているエリシアは、人当たりよく表情に笑みを湛えて頷く。

 

「ええ。突然の手紙で驚かれましたよね?」

 

 ミアは金髪のポニーテールが視界の端でちらつく中、揃えた膝の上でこぶしを握り締めた。手のひらにじんわりと汗をかく。

 

 マハトリム、という男性はやはり中東の出身で、妻と六人の子供を抱えた一家の大黒柱だと名乗った。鋭い目つきは家族を守るためのものだと思われる。確かに、今ミアたちはとんでもない不審者だ。

 

 マハトリムパーティーとイルクパーティー──マハトリムはイルクパーティーだと認識していないだろうが──しか知らない情報を知っていて、突然押しかけて来たのだから。

 

「それで、どういった用件で?」

「……私たち、ギルドでこんな張り紙を見つけたんです」

 

 マハトリムパーティーが募集していた貼り紙だ。

 マハトリムはエリシアが差し出したそれを一瞥すると、片眉を上げた。沈黙で「それが何か」と訊き返している。

 

「この募集に集まったパーティーは、赤毛の若い男性をリーダーに据えた四人組だったでしょう」

「……確かにそうでしたな」

「私たちは彼らと一緒に階層主の討伐に向かった経験があります」

 

 男性は思い返すように空を眺めてからエリシアに視線を戻す。エリシア再びにこりと目元を弓なりにすると、声量を下げて囁いた。

 

「そして騙されました。彼らは私たちの武器やポーションが目当てだったのです」

 

 マハトリムが目を瞠る中、エリシアは豪奢な装飾の目立つ室内を見回した。

 

「彼らをこの部屋に通しましたか?」

「もちろんです。予定のすり合わせのためにはこちらから心を開かなければいけない」

「では、唾をつけられた、と思ってください。彼らと仕事をするのは非常に危険です。実際、私たちは半数の仲間を失っています」

 

 廊下を駆ける子供の笑い声が聞こえる。十にも満たないほどの無邪気さ。エリシアはそちらの方角を一瞥すると、マハトリムの表情を窺った。

 マハトリムは真剣だった目元をより濃くした。

 

「一家の家長でいらっしゃるんでしょう」

 

 エリシアが畳みかけた時、マハトリムはこめかみから一筋汗を流したかと思うと、太い指先をミアに突きつけてきた。ミアはうわの空で反応が遅れるが、エリシアに太腿を撫でられ我に返る。

 

「あ……わたし、ですか?」

「貴方は先ほどからぼんやりですな」

 

 ミアはぐっと息を飲む。

 ああ、もう少しでと名残惜しく思った瞬間、目の前の視界がクリアになる。ミアは息を整えながら耳によじ登っているセンティピードを撫でた。

 

「ごめんなさい。少し過去を思い出してしまって……」

 

 そして空々しい嘘を吐く。

 ミアは現在、ほとんど二十四時間体制で、イルクパーティーを見張っていた。拠点に三匹、そしてメンバーに一匹ずつ、音と映像を拾っては継ぎはぎしながら彼らの動向を探る。以前行った時よりも正確性は上がっているはずだが、やはり疲れることに変わりはない。

 

 手紙を書いた本人が不在なのは敬意に欠けている、とミアが訪問に参加することを押し切ったので、しっかりしなければ。

 

 拳を握り締め直すと、エリシアは演技だと受け取ったのか、その手を包むように握り締めてきた。

 

「ですから、また同じような被害者を出したくないのです」

 

 マハトリムははあ、とため息を吐くと「ですがな、」と続けた。隣のエリシアからごくりと唾を飲む音が聞こえてくる。

 

「階層主の討伐を放っておくわけにはいかんでしょう」

「ええ」

「どうするんです。私らが行かねば、他に困る冒険者がいる」

「だから今日、私たちがここに参ったのです」

 

 ここからが本題だ。ミアは座り直す。

 

「マハトリムパーティーは諸事情で向かえなくなった、と募集したパーティーへ知らせてください。討伐には代わりに私たちが向かいます。私たちは身分を隠しますから、どうかマハトリム様の知り合いという体でお伝えくださいませんか?」

 

 三十五階層であればもしイルクパーティーに逃げられても、階層主くらい死ぬ気でやれば倒せる。死ぬ気でやれば、だが。

 

 おそらくエリシアパーティーはイルクパーティーに認知されている可能性が──いや、確実に認知されているだろう。こうなれば遠い国から最近やってきた、ウルサリアに詳しくない冒険者を演じるべきだ。それも彼らにとって都合のいい、騙しやすそうな。

 

「それは私らが恨まれやしませんかね」

「大丈夫です。私たちは彼らと討伐に向かうだけです。彼らに直接何か手を下したりはしません。約束しましょう」

 

 マハトリムの心配に、エリシアはきっぱりと言い張った。そして立ち上がり手を差し出す。マハトリムは自身の褐色の手のひらを見つめた後、エリシアの白い手を確認して躊躇いがちに手を重ねた。エリシアは自信に満ちた表情で、強い握手を交わした。

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