タイトル通り。女と魔王が戦うだけの作品です。
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第1話

 

 何も無い荒野に一つの異形と女が立っていた。

 

 片方は異形も異形。

 人型ではある。だがそれだけだ。

 頭部は猪の髑髏。眼孔が赤く灯っている。

 腕は熊と人を融合させたような毛皮に覆われた腕。

 腹は特徴的だ。縦に割れた口が着いており、ぎちぎちと外に突き出た牙が蠢いている。

 背中──正確には腰の少し上からは被膜の付いた翼の生えた腕が生えており、その腕が肩を掴むことで翼を形成している。

 足は四本指の蜥蜴の足を持ち、全長は三十メートル程という怪物。

 名をヴィルト・シュヴァイン。かつては魔王と恐れられた者。

 

 対するは女だ。

 身長は百七十五センチと女性としては長身に分類されるだろう。

 白いスーツを纏った姿は様になっており、敏腕サラリーマンを彷彿とさせる。

 切れ目の鋭い目つき。肩まで伸びた服と似た銀の髪。肌は白く、艶もある。綺麗な肌をしており充分美人と言える部類だ。

 女性としての体は豊満で胸も尻も大きい方と胸を張って言えるだろう。

 女に名は無い。あるいはあったのかもしれないがそれは昔の事だ。

 

 一つの異形と一人の女は荒野で相対し──どちらともなく動き出した。

 

 両者とも右拳を突き出す構えでの突進。初速はマッハを超えている。

 音速を両者超えた事で衝撃波が荒れ狂い周囲に被害を与えるもここは何も無い荒野。傷つくのは地面だけ。

 

 そして──拳が衝突する。

 

 音速を超えた拳同士がぶつかった事で周囲に更に衝撃波が飛び散り周囲を悲惨な状態に造り替える。

 

「ぬぅん!」

 

 叫びと共にヴィルトが動かしていない左手の拳を構え突き出す。

 女はそれを予測し同じように左の拳を突き出しぶつけ合う。これにて膠着状態になった。

 

 ヴィルトが口を大きく開ける。魔力を口に溜めて光球状にし破壊光線の構えだ。

 女が気づいた瞬間に発射。黒く光る矛盾に塗れた破壊光線は自身の両腕も巻き込んで女を包み込み遠くへ飛ばす。

 

 ヴィルトはすかさず破壊光線で消し飛んだ己の両腕を再生させ破壊光線の着弾先へ飛翔。翼の腕を動かし速度を出す。

 初速にしてマッハ1.5。其処から更に速度は増していき着弾先に着いた時にはマッハ十二に達した。

 

「オオオ!」

 

 ヴィルトは地面に倒れた女を見ると両腕を振りかぶり拳を放つ。

 右の拳を。左の拳を。順に繰り出していく。

 

 ラッシュ。ラッシュ。ラッシュ──ヴィルトの拳が地形をえぐり衝撃波が更に地形を痛めつける。

 

 その拳の一撃一撃が鋼鉄の鎧を纏った人間をミンチに変えて尚余りある威力の拳だ。

 

 女が居る地面が抉られ続け蜘蛛の巣上のクレーターが更に深まっていく。

 通算百の拳が女に当たった頃。女が指を構える。

 中指を内側目に丸めて親指で抑える状態──俗にいう片手で放つデコピンである。

 

 女はそれを虚空──ヴィルトの居る上方向に向けて放つ。

 

「ぬお!」

 

 それだけで衝撃波が生じデコピンの風圧がヴィルトを遥か上空まで吹き飛ばす。

 雲を幾つも抜け吹き飛ばし、ヴィルトは成層圏近くになってようやく上昇が止まった。

 

(来る!)

 

 ヴィルトの人外の視力をもってすればわかった。女が跳躍か飛翔をして接近しているのが。

 

「カァ!」

 

 ヴィルトは口を大きく開け黒い破壊光線を放つ。それは無惨にも女に避けられる。

 

「まだまだ!」

 

 ヴィルトは両の腕を突き出し、更には翼の腕も突き出す構えにする。

 更に落下を辞め魔力を持って滞空する。

 

 そして全ての腕から光る魔力球弾を放つ。

 グミ撃ち、乱射である。狙いは正確ではない。数撃てば当たるの理論で放ちまくる。

 何百何千、何万の魔力の弾丸の嵐である。一つ一つが人間を包み込んでなお余るサイズの弾丸だ。避けるのは至難の業。

 

 それを女は避けて上へ上へと進む。

 ただの一発も当たらない。ヴィルトが時折口から破壊光線を放っても尚当たらない。掠りすらしない。

 代わりに避けられた破壊光線や魔力弾が地上に着弾しキノコ雲を幾つも生成する。

 

 そうして女はヴィルトの眼前までやって来る──かと思えばヴィルトの視界から消えうせた。

 

「何処へ?!」

 

 その答えは背後からの衝撃によって答えられた。

 一瞬のうちでヴィルトの背後に移動し蹴り技を喰らわせたのだ。

 

 ヴィルトは地面へと急降下する。魔力を持って逆噴射で落下速度を緩めようとするが間に合わない。地面へと激突した。

 

「グヌヌ」

 

 地面に大きなクレーターを作りだし、ヴィルトは其処から飛び上がり地上に出る。

 其処には女が既に居る。

 

 女は地面から土を空中へと呼び集め巨大な腕を作り出していた。

 

 ヴィルトが驚愕する暇もなく、巨大な腕──ヴィルトよりも余程大きい腕が拳を握りヴィルトに突撃する。

 

 情けない悲鳴を上げながらヴィルトは拳の突撃をその全身で受け止める。

 地面に足を擦りつけ止めようとするも無意味だ。拳は止まる事無く進み続ける。

 

「舐めるなぁ!」

 

 ヴィルトは口を開き魔力を溜める。腹の口にも魔力を溜め同時に破壊光線を放つ。

 極太の光線だ。巨大な拳を飲み込んでなお余りある光線は星の重力圏を抜け遥か遠くの星まで届き着弾してようやく止る。

 ヴィルトの破壊光線によって拳は消え去った。次の一手をヴィルトは放つ。

 

 ヴィルトは地面を蹴り跳躍。女まで跳躍し跳んでいく。

 

「オオオオオオオ!」

 

 雄たけびと共に自己強化の術を自らにかけヴィルトは女に向かって拳を放つ。

 

 女は堂々と正面から受け止める。

 掌を開き、まるで受け入れるかのようにヴィルトの右こぶしを受け止めた。

 

 そのことによって衝撃波が生まれ周囲を破壊する。

 女の立っている地面に亀裂が走りクレーターとなり大きくへこむ。

 ヴィルトは口を開き破壊光線を放つ。

 一発や二発ではない。自身の腕を巻き込むことを無視した乱射。何十発と放つ。

 

 地面を蹴り、ヴィルトは後ろに跳ぶ。

 

 煙が晴れた後、其処に居たのは──無傷の女だ。

 

「化け物が」

「貴方が言うのですか?」

 

 女は異形であるヴィルトが呟いた化け物という言葉にくすりと反応する。

 

 ヴィルトは己の持つ力を凝縮し武器を生成する。

 ヴィルトの身長よりも大きい戦斧だ。両刃の戦斧であり、漆黒に覆われている。

 

「オオオオオ!」

 

 ダッシュ。女に一瞬で近づくと同時に女に向かって戦斧を振り落とす。

 斬撃と成り女を襲う。余波の斬撃が大地を裂き、渓谷を作り出す。

 対し女は無傷。余波で渓谷を作り出す斬撃を受けてもその肌どころか服にすら傷一つ付かない。

 

「オオオオオオオオオオ!」

 

 ヴィルトは更に叫び、戦斧を両手で構え滅多打ちにする。

 武器の使い方の成っていない振り下ろし。構えすらなっていない身体能力任せの攻撃だ。

 だがそんな攻撃でさえもヴィルトがやれば災害となる。一撃一撃が山を斬り裂いて尚余りある破壊の渦だ。

 

 それを女は片手で──しかも小指で弾く。

 

 音速を超えた速度で振り下ろされる戦斧の一撃をイかれた動体視力で視認し小指を正確に当てることで全てを弾く。

 

 その余波で周囲の地形が壊れる。深い深い渓谷が何十と出来るも女には傷一つ付きはしない。

 

「せぇぇぇい!」

 

 ヴィルトは止めとばかりに勢いよく戦斧を振り上げ──振り落とす。

 

「児戯ですね」

 

 それを女は受け止める。片手を開き、刃を掴む。

 受け止めた衝撃で周囲が荒れ狂い空の上の雲が消し飛んだ。それでも女は動かない。

 

 ぴしり、と戦斧に罅が入った。

 ヴィルトが作り出した戦斧を女が強く握っているのだ。尋常ならざる握力が成す所業である。

 

(う、動かん!)

 

 ヴィルトは戦斧を動かそうとするが大木のように──ヴィルトは大木をずらせるので正しくは無いが──動かない。

 武器を放棄する。その考えに至る前にヴィルトの戦斧が握り砕かれた。

 

 自身が構成した武器が壊された事にヴィルトは一瞬放心してしまう。そしてその隙を逃す女ではない。

 

 女はヴィルトの骨の顎に向かってアッパー! ヴィルトを上空へ吹き飛ばす。

 

 ヴィルトは顎の骨の欠片を撒きながら遥か上空まで飛ばされる。壊れた顎を再生しようとした瞬間、次の衝撃がヴィルトを襲う。

 今度は背中に蹴りだ。ヴィルトは上空から地上まで一直線に落下する。

 

 がばっとヴィルトは起き上がり、敵を探す。

 目の前に悠然とただずむ女が居た。

 

「……本気で行くとしよう」

「今までは本気では無かったと、いい訳ですか?」

 

 まるで子供の様だ、と女はくすりと笑った。

 

 ヴィルトの全身から口が生える。幼子程度ならば丸のみに出来る口だ。牙が外側に生えた異形の口。

 その口の一つ一つが呪詛を奏で始める。生あるすべてを憎み恨む呪いの言葉だ。

 効果は単純でヴィルトの強化術の更なる強化だ。これでヴィルトの身体能力は更に高まる。

 

「カァ!」

 

 ヴィルトは空に向けて口を開き、魔力弾を放つ。

 放たれた魔力弾は雲の上ではじけ、暗雲となる。

 暗雲から黒い墨にも似た雨が降り注ぐ。此方の効果は使用する魔法──魔力を用いた術──の強化と魔力を持たない生物全般の弱体化だ。

 ただし、弱体化は女には通じない。女は別に魔力を持つ者ではないが、あらゆる弱体化能力は通じない。

 本来ならば多数の口から呪詛を吐く事で周囲の生物全てを弱体化させれるはずだが、女には通じないと見て自己強化だけにヴィルトは割り振る。

 

「行くぞ!」

 

 ヴィルトは本気の疾走を見せる。初速からマッハ二に達する超高速移動だ。

 只の移動の余波で衝撃波が生じるほどの力。

 その力をもって拳を握り、ヴィルトは女に向かって振り落とす。

 

 一撃。ヴィルトの拳は女の手によって防がれる。

 

「オオオオオ!」

 

 先の焼き直しをするつもりはヴィルトには無い。左手も翼の腕も使いラッシュを見舞いする。

 合計四つの腕による攻撃。流石にこれは通じるだろうとヴィルトは女を見る。

 

 だが──

 

(──全て防ぐだと?!)

 

 変わらず、女は片手で全て防いでいた。

 どんな身体能力だ、とヴィルトは心の中で舌打ちをする。

 

 ヴィルトは地面を蹴り、後ろに跳ぶ。

 

(一旦ここは遠距離から──)

 

 そう考えるも女の方が早い。後ろに跳んだヴィルトに直ぐに追いつく。

 

 とん、と軽く地面を蹴って少し上に女は飛ぶと、まるで頭を撫でるかのようにヴィルトの頭を攻撃する。

 

 それだけでヴィルトは地面にクレーターを残す程に強い衝撃と共に打ち付けられる。

 

「ヌゥン!」

 

 ヴィルトは翼の腕を使って立ち上がると同時に口を開き破壊光線を放つ。

 黒い光のそれは女を包みこむ。

 破壊光線を放ちつづけたまま、ヴィルトは後ろに跳んで距離を取る。

 

 多数ある口を幾つか別の用途にヴィルトは使う。

「魔の傷病。憤怒の炎。贄の宴──」「闇夜のカラス。翼の折れたエンジェル。小人の宴──」

 

 産み出されるは闇の獣たち。墨で出来ているのではないと思える程の漆黒の体で出来た多種多様な獣だ。

 ただその全てが非常に大きい。最低でも一メートルはある。

 狼、熊。鼠に蚯蚓に蜥蜴。

 

 ヴィルトは破壊光線を一旦やめ、口を閉じる。

 それと同時に獣達が突進。女に襲い掛かる。

 

「塵ですね」

 

 女が軽く腕を振るうと、それだけで獣たちが塵となり消し飛んでいく。

 

 ヴィルトはすかさず腹の口を大きく開ける。

 腹の口からはい出る様に異形が湧いて出てくる。一体や二体ではない。何十何百という単位の数だ。

 それは幼子が描いた人の絵のように歪な手足を持つ人型の怪物。眼球が縦に二つ付き、口を開け涎をだらだらと流す異形の怪物達。

 同時に多種多様な武器が生成される。斧、剣、槍に弓と矢。

 異形──魔物達は武器を手に女に襲い掛かる。

 

「数を幾らそろえたところで、無意味とわからないのですか?」

 

 だが、魔物も獣達も女の前には雑兵、塵芥。

 女が軽く腕を振るう。吐息を吐く、足を少し上げる。ただそれだけの動作一つで塵芥とかす。

 

 女が魔物達の相手をする間に、ヴィルトは翼の腕を動かし羽ばたき遥か空の上まで飛んでいく。上へ、もっと上へ。

 

「はぁ」

 

 女は溜息を零す。それだけで地上にいる全ての魔物と獣が死んだ。

 

「上ですか」

 

 女は空の上を見る。上空一万メートル。通常人間の視界では映る事など無い遥か空の上。だが女の目にはまるですぐ傍にいるかのようにわかる。

 

 

 ヴィルトは空に手を伸ばし、力を溜める。

 

 

「オオオオオ!」

 

 上と腹の口両方で叫び、巨大な魔法を行使する。

 

 それは余りに巨大すぎた。デカく、太く。逞しすぎた。

 

 全長は優にキロ単位。横幅など考えるのも馬鹿らしいサイズだ。

 

 柄だけで数百キロはあり、刃の部分もやはり数キロはある。

 

 余りにも巨大にも程がある漆黒の槍が産み出された。

 

 

「この星(ごと)! 消えて無くなれい!」

 

 ヴィルトは手を振り落とし、槍を地上に居る女に向かって落とす。

 

「神滅の槍!」

 

 

 数百キロメートルの槍が女に向かって飛ぶ──あるいは落下していく。

 

 地上に命中、或いは着弾すればそれだけで甚大な被害を齎す破壊の槍だ。

 最低でもヴィルトと女が戦っている荒野──それどころか大陸すら最低で消し飛ぶだろう。下手したら着弾の余波で生物が滅ぶかもしれない。

 だがヴィルトには関係の無い事だ。例え生物が滅ぼうと自身の生存には関係ないし、自身以外の全てがどうなろうと知った事ではない。

 

 そんなあらゆる生物を滅ぼす槍を女は──

 

「可愛いですね」

 

 くすり、と笑いながら女はまたしても片手で受け止めた。

 

 魔法で強化した超視力をもって、ヴィルトもまたその光景を見た。

 

「馬鹿な?!」

 

 地上に落ちればそれだけで大陸を消す破壊の槍だ。それを片手で受け止めるなど有り得ない、有り得てたまるかと発狂する。

 

 女が少し腕に力を籠める。それだけで槍が粉々に砕け散る。

 砕けた破片は魔力へと帰り、他に被害を出すことは無い。

 

「化け物が──」

 

 そう言うのが早いか、それより遅いか。

 

 槍を砕かれた事に放心しかけたヴィルトの視界に女が映った。

 

「せい」

 

 女は可愛らしい声と共にヴィルトの腹に向かって正拳突きを放ち──それだけでヴィルトの身体は頭部を残し消し飛んだのだった。

 

「あり……えな……い」

 

 ヴィルトは最後にそう呟くと、意識を闇に帰るのだった。

 

 

 


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