赤龍帝と騎士王の現し身   作:ファブニル

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 ドーモ、ファブニルです。

 今回は第5章は完結となります。一時期創作意欲が完全に死んでましたが、なんとか書ききれました。次回からは第6章となります。ここで主人公アルトリアに秘められた謎を辿ることになるでしょう。お楽しみにお待ちください。

 よろしければ今回もお気に入り登録や高評価、感想をお願いします。

 それでは第五十四話、どうぞ!


『グレモリー』VS『シトリー』後編

 時間はゲーム開始から数分ほど経ったころにまで遡る。祐斗とゼノヴィアは立体駐車場に入っていた。

 グレモリー側の作戦はイッセーと小猫、祐斗とゼノヴィアが二方向から進み、イッセーが『女王(クイーン)』にプロモーションした後に一度退いて、再度全員で突入するというもの。しかし、その動きが崩れた場合にはイッセーが囮として目立ち、その隙に祐斗とゼノヴィアで本陣に奇襲するという作戦になっている。

 故に二人はバレないように薄暗い駐車場を警戒しながら進んでいく。幸い、二人とも任務で密偵が多いせいか、この手の進行は得意だった。祐斗が先に進み、物陰から先を見定めてから、後方のゼノヴィアを呼んで進む。これを何度も繰り返して、徐々に駐車場のなかを進んでいった。

 ルートとしては二階の駐車場から車用の通路を下りて、一階に行く作戦だ。一応エレベーターも機能しているが乗っている間に襲撃されるリスクを避け徒歩である。

 

 二階から通路を進んで、一階の駐車場へ足を踏み入れたときだった。前方に人影。見れば、メガネをかけた黒髪長髪の女性が一人。シトリーの『女王(クイーン)』、真羅椿姫である。得物は薙刀。有段者である彼女の得意武器だ。

 

 

「ごきげんよう、木場祐斗くん、ゼノヴィアさん。ここへ来ることは分かっていました」

 

 

 淡々と話す椿姫に会わせてその横から二名出てくる。長身の女性と日本刀を携えた細見の女性。長身の女性が『戦車(ルーク)』の由良 翼紗、日本刀を持つ女性が『騎士(ナイト)』巡 巴柄。

 この三人には共通点があり、皆化け物や悪霊などの退治を得意としている。椿姫は日本の対人外を司る『五大宗家』の一角『真羅』の出であり、由良はフリーで、巴柄は一家の生業として異形とやり合ってきた。

 

 リアスの読みではこのルートが優先される可能性は比較的低いとみていた。しかしソーナはリアスの手を読み、それを崩すべく駐車場にカウンター持ちの『女王(クイーン)』を含む多数の手勢を配置したのだ。

 まだプロモーションの連絡が入らない以上、逆侵攻を防ぐためにここを突破するしかない。

 

 ゼノヴィアは腰の剣を抜き放ち、祐斗もまた聖魔剣を構える。今回のゲームでゼノヴィアはデュランダルを使わない。破壊力に長けるデュランダルでは、ルールの特性上上手く立ち回れない。威力を制御できていない為、建物を無闇に破壊してしまう。

 

 

『リアス・グレモリー様の『僧侶』一名、リタイヤ』

 

 

 緊張が走る中、アナウンスから聞こえてきたのは最初のリタイヤ報告だった。祐斗は素早くギャスパーがやられたのだと判断した。

 

 

「冷静ですね」

「ええ、こういうのに慣れておかないと身が保ちませんから」

 

 

 椿姫の指摘に祐斗は冷静に返した。無論、彼の心中でははらわたが煮えくり返っている。仲間をやられた悔しさを覚られないようにしつつ、やられた仲間の分まで彼は剣を振るう事を決めた。

 

 

「まったく、あいつは体の鍛えが足りないから」

 

 

 横でゼノヴィアも嘆息していた。一見すると冷静に状況を判断し、やられた仲間を情けなく思っているように見えるが、その目は座っていた。

 

 

「だが、かわいい後輩をやられたのでね。仇は討たせてもらうよ」

 

 

 ゼノヴィアから青髪が逆立たんばかりに凄まじいプレッシャーが放たれる。祐斗はそれを肌で感じていた。彼女もまた身内に甘い。かなりのスパルタを強いていたが、それも彼女なりの愛情であった。彼の敗北の報せは彼女にとって許し難いものだろう。お互いに得物をかまえ、じりじりと間合いを詰めながら飛び出した!

 

 

 ギィィイイイィィンッ!

 

 

 裕斗と椿姫、ゼノヴィアと巴柄が剣を交える。その勢いに剣から火花が散り、激しい金属音を奏でた。

 その瞬間、巴柄がゼノヴィアの手にしている物に気づき、一歩下がった。

 

 

「…聖剣!?」

 

 

 彼女は驚愕の声音をあげていた。そう、ゼノヴィアが持っているのは聖剣。しかも伝説上のものだ。

 

 

「ああ、これはアスカロン。イッセーから借りた」

『ッ!?』

 

 

 ゼノヴィアの告白に相手全員が驚く。それは夏休みの少し前、アザゼルは『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』と同化したアスカロンに注目していた。

 

 

「イッセー、それ外せないか?」

 

 

 この一言により、アスカロンは神器から取り外せることが発覚。急遽、アザゼルはゼノヴィアにアスカロンに慣れさせるための修行プランを渡した。裕斗から見ても夏休みの修行でアスカロンの扱いに慣れてきているようだ。神器と同化していたアスカロンには龍殺しの力と赤龍帝の力が両方宿っており、絶大な威力をほこる得物へと変化している。

 破壊力自体はデュランダルに及ばないが、周囲に暴力的なまでのオーラを出さない使い勝手を考慮するなら、デュランダルよりも使える幅は広い。今回のルールではデュランダルよりも相性がいい。

 

 激しい斬り合い、避け合いの中で祐斗とゼノヴィアは『戦車(ルーク)』の動きにも警戒を割いていた。現状フリーの彼女は隙を見て攻撃を仕掛けてくるだろう。それを警戒しながらも祐斗達は聖魔剣と聖剣を相手に放ち続ける!

 彼等の剣の持つ聖なる波動は悪魔に特効を持つ。相手に一撃当てれば大ダメージは確定だ。そうすれば回復する術を限定されている彼女たちはリタイヤする事になる。無論、椿姫の持つカウンター系の神器『追憶の鏡(ミラー・アリス)』を警戒する必要があるため、迂闊な攻撃は出来ない。それでも一太刀でも浴びせれば大勢は決する。

 

 攻防を繰り広げるゼノヴィアは、ふいに空間に穴を開けた。通常ならここでデュランダルを出現させるところだ。だが違う。空間の裂け目から聖なるオーラが漂い、ゼノヴィアの持つアスカロンを包んだ。

 

 

「っ!デュランダルを空間に閉じ込めたまま!?聖なるオーラだけを!」

 

 

 その意味を理解した椿姫は驚愕していた。それに対してゼノヴィアは笑う。

 

 

「ああ、デュランダルのおもしろい使い道を提示されてね。修行でなんとか得られた。今の私には十分すぎる使い方だよ」

 

 

 アザゼルは、ゼノヴィアの聖剣に対する高い適性と同時にデュランダル自体も重要視していた。オカルト研究部において、エクスカリバーに続く二本目の聖剣を有効活用しない手はない。が、それと同時に彼女が剣を使いこなせないところも勿体ないと感じていた。

 デュランダルは不毀の概念による頑丈性と凄まじいまでの切れ味をほこる聖剣である。それゆえ、持ち主が使いこなせなければ凶刃となる。事実、ゼノヴィアはデュランダルの破壊力に翻弄されている部分も多分にあった。いつかは使いこなせるかもしれない。しかし、それまでただ闇雲に凶刃を振るうには危険も伴う。

 

 そこでアザゼルは思いついた。エクスカリバーは封印礼装であるエムリスによって力を封じたままオーラのみを利用して、様々な形態に変形することが出来る。それと同じことが出来るのではないかと。

 

 

「そのデュランダルのオーラだけ、異空間から放出できないか?それをアスカロンか、木場が創り出した聖剣に纏わせるんだよ」

 

 

 その場にあるだけで強大な聖なるオーラを放ち続けるデュランダル。そのオーラだけを異空間から取り出し、他の剣に力を流す。デュランダルほどではないが、限りなくそのパワーに等しい能力が違う剣に注がれることとなる。言うなればデュランダルの概念付与、それがゼノヴィアが手にした新しい力だった。

 そしてその発想を齎したのは堕天使の総督であるアザゼル。それまで考え付かなかったあらゆる可能性を提示した恐ろしくも頼もしい堕天使をつい最近まで敵にまわしていた事実に祐斗は内心で冷や汗をかいていた。そんな考えを巡らせている間にもアスカロン+デュランダルのオーラでゼノヴィアは果敢に攻め込む!

 

 

 ギィン!ギィィィィンッ!

 

 

 暗がりの駐車場に銀光と火花が煌めく。祐斗の眼から見ても巴柄の持つ技量と刀の性能は高い物だが、ゼノヴィアの速度とパワーに彼女は徐々に追い詰められていた。

 

 

「くらえ!」

 

 

 一瞬の隙を見逃さず、ゼノヴィアが一気に詰める!取った!とグレモリー側が思った瞬間、その間に入り込む者がいた。『戦車(ルーク)』の由良 翼紗だ。彼女が両手を前に出すと

 

 

反転(リバース)!」

 

 

 ゼノヴィアがかまわず一撃を繰り出すが、聖なるオーラは消失し、魔のオーラと変化した!ゼノヴィアの斬撃はただ勢いのある一撃となり、そのまま振り下ろすが翼紗は『戦車』の防御力と高い動体視力でアスカロンの刃を真剣白刃取りで止めてしまった!

 聖剣に触れてもなんらダメージが見られないことに動揺したゼノヴィアは隙を作ってしまう。そこに『戦車』のパワーを込めたボディーブローが炸裂、後方に弾き飛ばされてしまう。

 祐斗は先ほどの現象に驚いていた。聖なるオーラが魔のオーラに変化した。先ほど「反転(リバース)」と叫んでいたが、文字通り聖なるオーラを魔のオーラに反転、変質させたというのか!?

 

 

 

 

 貴賓室で戦いを見守っていた一同はシトリーの『戦車(ルーク)』が見せた反転(リバース)の力に驚愕していた。

 

 

「あれは、聖と魔が裏返ったのですか?」

「えっ!?あんな能力持ってるなんて私知らないんだけど!?」

 

 

 聖剣と保有していたミカエル、ソーナの姉であるセラフォルーは画面の中の現象に驚きを隠せないでいた。そしてもう一人、頭を抱えて天井を向く者がいる。

 

 

「アザゼル。君はあの力を知っているようだね?まさか堕天使側の技術か?」

「あ"ぁ~、先に言っとくとアレはまだ研究段階の技術で公表できる状態じゃないんだ」

 

 

 サーゼクスからの指摘にアザゼルは申し訳なさげに答える。

 

 

「あれは『反転(リバース)』。文字通り属性を反転させる力だ。聖を魔に、光を闇に変えるようなことが出来る。さっきみたいに悪魔にとって弱点となる聖なる力を反転してダメージを軽減したり、回復能力を反転させて攻撃に転用する事も出来る。だが、属性の反転は本来の流れや在り方を逆流させるようなものだ。加えて元々持たないものを無理やり植え付ける技術だから、生来の素質が損なわれたり寿命が減ったりする危険性が高い。ウチでもデメリットの方が大きいってことで研究中止が考えられているモノだ」

「そんな技術をソーナ・シトリーの眷属が保有している。アザゼル、君はそんな危険な物を彼女たちに植え付けたのか?」

「いや、俺がやったのはヴリトラ系神器の移植、合体までだ。反転(リバース)に関しては、恐らくウチの誰かが勝手に漏らしたんだろう。この試合が終わり次第、すぐ内部監査を行わせてもらう」

 

 

 そういうアザゼルの眼は座っていた。彼は些か不真面目なところがあるが、技術や知識、教育に対してかなり誠実なところがある。未来ある若者の可能性を閉ざすような事を彼は望まないのだ。しかしそうなると誰が漏らしたのか。

 実際に堕天使側の幹部をこの目で見たアルトリアからすると、皆研究熱心であり尚且つ可能性を閉ざすような危険性の高い技術を移植するとは思えない。アンチマジックや精神修行などでかなり無茶苦茶やっていたアルマロスもその辺りの見極めはしっかりと行っていた。

 

 

「小僧共、そういった話はあとでも出来よう。ホレ、戦局が動くぞ?」

 

 

 険しい顔を浮かべる三大勢力の面々を窘めるようにオーディンが指摘する。彼の指さした先では、早速祐斗とゼノヴィアが対策を編み出していた。

 祐斗とゼノヴィアは互いの位置をスイッチし、相手を交換する事にした。祐斗は早速『反転(リバース)』の仕組みを見抜いたようで、聖魔剣で対処している。属性を消される訳ではないので、聖魔剣であれば問題なく戦えるだろう。

 ゼノヴィアの方はデュランダルのオーラを纏ったアスカロンで果敢に攻める。『騎士(ナイト)』でありながら『戦車(ルーク)』並みの攻撃力を誇るゼノヴィアにやや押される椿姫。『追憶の鏡(ミラー・アリス)』でカウンターを狙うが、そこは戦いにクレバーなゼノヴィア。鏡が張られた瞬間に聖剣を引っ込めて避けたり、体当たりで受けてカウンターでのダメージを低減させている。

 

 

『くッ、やはり攻めてきませんか!』

『あると分かっているカウンターに突っ込む程私は甘くないぞ?』

 

 

 やはり対策されているカウンターほど脆い物もない。そこをどう相手に攻めさせるか。彼女たちもまた今後に期待という事か。しかし戦況は膠着した。祐斗はゼノヴィアに比べて一撃の破壊力には欠けるため、一気に勝負を決めることは出来ない。ゼノヴィアの方もカウンターを警戒して攻めるに攻めきれない。

 当初の方針のままならイッセーのプロモーションまで耐え、一度退くという事も出来るが……

 

 

『!部長……ハイ。ゼノヴィア!一気に決めるよ!』

『心得た!』

 

 

 どうやらリアスから指示が入ったようだ。画面が切り替わり、リアスたち本陣組が進軍を開始した。どうやらリアスは一度退かず、流れに乗って一気に攻める方向に舵を切ったようだ。

 

 

『ぶっつけ本番だけどやってみるか!』

『そういう勢い任せな所、イッセー君に似てきたね』

『フッ、そちらこそ!』

 

 

 祐斗とゼノヴィアが合流する。ゼノヴィアはアスカロンを鞘に納め、空間の穴からデュランダルのオーラを取り出す。そして祐斗は聖魔剣を地面に突き立て、ゼノヴィアがそこにオーラを流し込んだ。

 

 

『デュランダル・バースッ!』

『『!!』』

 

 

 次の瞬間、聖魔剣の剣山が咲き誇る。『反転(リバース)』の効かない聖魔剣。そこに強力なデュランダルのオーラを乗せ、360°の範囲攻撃を食らわせる。『追憶の鏡』のカウンターすら潰すその攻撃は翼沙と巴柄を刺し貫いた。途端に輝き始め、この場から消えていく。椿姫のみはすかさず天井の梁に退避し、そのまま撤退していった。

 

 

『フゥ、木場。いい攻撃だったな』

『そうだね。ここにイッセー君の『譲渡』が合わされば更に強力な攻撃が出来そうだ』

『あぁ。これからの相手に対抗する為にも、我々の連携も強化していこう』

 

 

 二人は拳を合わせ、逃げた椿姫を追う。リアスの二正面作戦は成功した。やはりロキ戦でカウンターがある事を見られたのがいけなかっただろう。やむを得ないとはいえ、やはり戦いにおいて情報は秘匿するに限ると、アルトリアは思った。

 

 

 ゲームも終盤、まず祐斗とゼノヴィアが先にシトリー本陣に到着。続いてイッセーと小猫、最後にリアスたちがやってきた。

 

 モールの一角、円形広場にて睨み合う両者だが、突如イッセーが崩れ落ちる。アーシアが回復を掛けるが効果は薄い。突然の出来事にグレモリー側は混乱するが、よく見れば未だに消えていなかったイッセーのラインの先には血液パックがあった。

 

 

『これは貴方の血です。人間がベースとなっている転生悪魔。人間は体に通う血液の半分を失えば致死量です。知っているでしょう?レーティングゲームのルール。ゲーム中、眷属悪魔が戦闘不能状態になると、強制的に医療ルームへ転送されます』

 

 

 そうか!匙の狙いは当初から一つ。ラインを使い、イッセーの血液を吸い続ける。少しでも早く吸わせるためにイッセーとの肉弾戦を演じ、彼の血流を早める。例えどれだけ殴られても斃れなかったのは、時間を稼いでイッセーを失血でリタイヤさせる為か!

 

 

『兵藤一誠君。貴方はリタイヤに近いでしょう。これから攻撃も一度か二度しか出来ないはずです。理由は失血。貴方の鎧は堅牢。貴方の攻撃力は強大。けれど、倒し方は探せばいくらでもあります。貴方を物理的に倒せなくてもゲームのルールが貴方を戦闘不能とみなします』

『リアス、貴方のプライドと評価は崩させてもらいます』

 

 

 この戦い、下馬評はリアスの圧倒的優勢となっている。事実、リアス側の撃破者はギャスパーのみだ。しかし、そんな勝って当然の戦いで彼女の眷属一のビックネームである赤龍帝が倒されれば、相対的にそのゲームメイクを行ったソーナの評価も上がるだろう。

 

 

『夢を持ち、懸命に生きる『兵士』はあなただけじゃない!貴方を倒したのは匙元士郎です!』

 

 

 見事な執念、そして戦術だった。未だに不利な状況に変わりはない。だが、このゲームにおいて間違いなくソーナの評価は上がるだろう。現に貴賓室の多くの者が頷いたり、考え込んでいた。

 すると、イッセーが最後の力を振り絞って立ち上がり、そして少しだけ距離を取った。何をする気だ?

 

 

『リタイヤ前に…俺は俺の煩悩を果たしてから消えようと思う…』

 

 

 そういうとイッセーの周囲をオーラが覆う。

 

 

『高まれ、俺の欲望ッ!煩悩解放ッ!広がれ、俺の夢の世界ッ!』

 

 

 刹那、イッセーを中心に謎の空間が展開する。それを肌で危機を感じたのかグレモリー、シトリー両眷属の女性陣は身を守る格好になっていた。この段階で嫌な予感がしていた。まずイッセーがリアスに声を掛ける。

 

 

『あなたの声を聞かせてちょうだいなッ!』

 

 

 リアスは突然の事に反応できなかったが、イッセーは満足したように何度も頷いていた。

 

 

『部長、今俺を心配してくれましたね?変な事ばかりしていると体に障ると…』

 

 

 イッセーの言葉にリアスは驚愕の表情を浮かべる。まさか、イッセーは読心術を身に着けたのか!?しかしどんな原理で……

 

 

『ソーナ会長、今俺の新必殺技が心の声を聞けるものだと思いましたね?』

 

 

 イッセーの告白にソーナは酷く驚いていた。

 

 

『ふふふ、違う。当たっているけど違うんですよ。俺は聞きたかったんです。胸の内を!否!おっぱいの声を!』

『新技、『乳語翻訳(パイリンガル)』ッッ!俺の新技は女性限定でおっぱいの声が聞こえるんですッ!…ハァハァ。質問すればおっぱいは偽りなく俺にだけ答えを教えてくれる!…ハァハァ。相手の心が分かる最強の技なんですッ!うっ、血が足りねぇ…』

「パ、『乳語翻訳(パイリンガル)』……」

「これが現赤龍帝か……」

 

 

 貴賓室の重鎮悪魔たちが口々に引いていた。幾ら欲に正直な悪魔といっても、流石にここまでの珍技を出されては思わず引いてしまう。

 現に胸の内をさらけ出された女性悪魔達は口々にイッセーへの非難を飛ばしている。その姿にイッセーはガックリとしていた。確かに強力な技だが、ゲームバランスや倫理的な面から禁止になりそうだ。しかし、そこから切り替えたイッセーはすかさずソーナの胸から作戦を聞き出す。

 

 

『!会長のあの結界は…囮だ。結界の中に立体映像を出す『僧侶』二人の術なんだ…。本物の会長は屋上だ!映像に精神だけ映しているみたいだぜ…。小猫ちゃんの索敵が屋上の会長を捉えないのもそのせい。でも、精神がこちらに来ているから、パイリンガルも効いて映像のおっぱいが話してくれたの、かな…?』

 

 

 イッセーはそれだけ伝えると、その場で倒れ込む。

 

 

『イッセーさん!』

 

 

 アーシアがイッセーへ駆け寄ってこようとするが椿姫がイッセーの元に行かせまいとする。そこでアーシアはその場で祈りのポーズを取ると、その体が淡く輝きだし、周囲一帯に広がろうとする。あれは、アーシアの回復能力が範囲拡大したものか?修行の成果か。回復は意味が無いとわかっている筈だが、それでもイッセーを心配するのは彼女のやさしさからだろう。

 

 

『それを待っていました!』

 

 

 『僧侶』の一人。花戒 桃がソーナの立体映像を解く。結界とソーナの映像が消えるが、彼女はかまわずにアーシアの回復領域に足を踏み入れた。!?まさか!

 

 

反転(リバース)!』ドンッ!

 

 

 淡い緑色の光が一瞬で変質し、赤い危険なものを発する。やはりだ。アザゼルの説明通り、回復すらも『反転(リバース)』は反転させてしまう。アーシアの回復領域はそのまま死の領域へと変わってしまった。桃は反転した赤い領域の中で血を吐きながらも満足げな笑みを浮かべた。

 

 

『…グレモリーの回復要員を倒しました…会長…』

 

 

 桃とアーシアが同時に消えていく。そしてイッセーの体も光に包まれていく。

 

 

『ソーナ・シトリー様の『僧侶』一名、リタイヤ』

『リアス・グレモリー様の『僧侶』一名、『兵士』一名、リタイヤ』

 

 

 イッセーがやられてしまった。彼の存在はグレモリー側の精神的柱だ。いくら残り人数で上回っていたとしても士気に問題があれば、ここから逆転の可能性もある。

 しかし先ほどの一手、あれは驚いた。アーシアの回復領域のことは知られていないはず。もしアーシアの成長まで予想していたとすれば、ソーナの読みはどこまで冴えているのだろうか。ここに、もし強力な切札ないしエースの加入や全体の戦力アップが成されれば、シトリー眷属は更に化けるだろう。

 

 

『小猫、気は感じる?』

 

 

 リアスが小猫に訊ねる。その顔にイッセーを失ったことによる動揺は見られなかった。

 

 

『…はい。先ほどは感じ取れませんでしたが、今は屋上に会長の気を感じます。さっきの結界は会長の姿をそこにあるように見せる為の虚偽と幻影、そして本人の気と位置を感じ取られないようにする特殊なデコイだと思います』

 

 

 小猫もまた猫耳をピクピクと動かして、ソーナの気を探っているようだ。すかさず椿姫ともう一人の『僧侶』草下 憐耶が止めに入るが、祐斗とゼノヴィアが椿姫を、朱乃が憐耶を相手取る。椿姫を相手に先ほどの再演を行う二人だが、もう片方の方は一瞬で片が付いた。

 朱乃の放った雷光。それを反転させて無効化しようとしたが、そのまま雷が彼女の身体を貫いた。

 

 

『無駄です。雷を反転(リバース)させようとしたのでしょうけど、今のは雷光。雷と光。反転させるには雷の部分の反転(リバース)が足りなかったわね』

『ソーナ・シトリー様の「僧侶」一名、リタイヤ』

反転(リバース)するものを違えれば力を覆せない。こいつもこの力が実用化に至らない点だな。複数属性持ちに無力なもんだからアルマロスからすれば失敗作なんだろうな」

 

 

 確かに彼の性格を考えれば、受け身な印象の強い『反転(リバース)』よりもアンチマジックの力で物理的にゴリ押しする方が好きそうだ。

 

 

「くっ!」

 

 

 そのまま朱乃は祐斗とゼノヴィアの援護に入る。椿姫の肩を雷光が霞め、少なからぬダメージを与える。流石に3対1では彼女も分が悪いと判断したのか、デパートの奥へと引いていく。それを二人が追いかける。

 

 モールの奥、小物などが置かれたエリアで『フェニックスの涙』による回復を済ませた椿姫は、そのまま祐斗とゼノヴィアを迎え撃つ覚悟でいた。

 

 

『ここまで、とは言いません。どうしますか?この狭い空間では聖魔剣の花も、デュランダルも周りを破壊してしまいますよ』

 

 

 彼女の指摘は正しい。今回のルールではなるべく広く頑丈なものが多いところで戦うべきだ。だが今いる場所はその条件とは無縁の場所となる。加えて今椿姫は神器の鏡を盾のように扱っている。攻めるのは困難だ。

 

 

『そうですね。でも手が無いわけではないですよ。ゼノヴィア』

『全く。余り望むところではないのだがな…』

 

 

 そのままゼノヴィアが空間に穴を開け、更に祐斗が力ある言葉を口にしていく。

 

 

『ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、聖母マリア。我が声に耳を傾けてくれ!』

 

 

 それはデュランダルを扱う為の口上。まさか彼は扱えるのか!?

 

 

『聖なる刃に宿りしセイントの御名において、僕は解放する。デュランダル!』

「デュランダル。ユウト、貴方いつの間に……」

「ほう、禁手で聖魔剣を扱えるようになった事で後天的に聖剣使いの資格を得たのか。面白い」

 

 

 アザゼルがまた新たな研究対象を見つけ、ほくそ笑む。祐斗が手にしたデュランダルは「ブゥゥゥゥゥン…」と静かな波動を放っていた。ゼノヴィアの時の様な荒々しく暴走めいた波動は出ていない。

 

 

「くっ!これは…ッ!ゼノヴィアさん以上に扱えている!?」

『失礼な!私は威力を求めるオーラの気質だから、デュランダルもそれに反応してしまっただけ!の、筈だ!』

『けど、僕は威力よりも確実性を選ぶ。威力よりも能力です』

 

 

 そのまま祐斗はデュランダルを正眼に構えず、『平晴眼』の、平突きの構えを取る。あの構え、師の影響だろうか。

 

 

『師匠の技、お借りします』

 

 

 そのまま祐斗は『騎士(ナイト)』の速度限界で突っ込んだ。あの技は、彼の師でありサーゼクス・ルシファーの『騎士(ナイト)』。日本史に残る剣客集団である『新撰組』一番隊隊長の!

 

 

『天然理心流、三段突き!』

 

 

 デュランダルの刃が鏡面に突き刺さる!本来ならこの後カウンターの波動が発生するが、祐斗の攻撃はそこで終わらない。文字通り三回の連続突きが椿姫を襲った。一度目で鏡面を、二度目でカウンターを、三度目に椿姫自身を貫いた!カウンターの波動すらも連続攻撃で防ぐとは……

 

 

『ガッ!?』

 

 

 デュランダルによる突き攻撃は椿姫を貫き、そのまま彼女の後ろの構造物すら切り貫いてしまった。

 

 

『……まだ師匠みたいにはいかないな。持ち主のいう事を聞かないじゃじゃ馬とは聞いていたけれど、本当みたいだ。僕が思う以上に切れてしまう…扱いはまだ難しいか』

『それだけで済んでいる辺り、君も大概だろう。自信を無くしそうになるから止めてくれ』

「…ッ!計算外だわ、ソーナ!兵藤くんよりも…ッ!真のエースは…ッ!注意すべき眷属は…木場祐斗ッ!」

 

 

 椿姫はそれだけ言い残し、その場から消えていった。

 

 

『ソーナ・シトリー様の『女王』、リタイヤ』

『僕は彼らを、赤龍帝と騎士王を超える事を目標にしていましたから』

 

 

 彼は悔しかった。リアス・グレモリーの本当の『騎士』が主を守れずにいる事に。神器の極みである禁手(バランス・ブレイカー)に至っても彼と彼の同志の力はコカビエルに通じず、結局倒しかけたのはエクスカリバーだった。そして白龍皇や『奈落の魔竜』との戦いにも実力不足で参戦できなかった。

 そして先のロキ戦でも、危うくイッセーが命を落とすところだった。

 

 貯め込んだ悔しさをバネに彼は師の元で一から修行をした。本当に一から剣の基本から再び始めた。師に頼み込んで天然理心流の稽古も受けた。禁手であることに胡坐をかかぬように、地道なトレーニングを続けていたのだ。

 

 

『イッセー君が誓ったように僕も誓おう。我が主リアス・グレモリーを二度と泣かせない』

 

 

 祐斗の決意を最後に画面が屋上駐車場へと移る。そこにはソーナとリアスが向かい合っていた。

 

 

『ソーナ、どうして屋上に?』

『最後まで『王』が生きる。それが『王』の役割。『王』が取られたら、ゲームは終わってしまうでしょう?』

『…そう、深くは聞かないわ』

『リアス、匙は赤龍帝に勝ちました。イッセー君にも貴方にも落ち度なんてない。あの子を舐めないで。必死なのは貴方達だけじゃありません』

『ええ、身をもって体感出来たわ。さあ、決着をつけましょう、ソーナ』

 

 

 リアスは自身の周囲に滅びの魔力を、ソーナは周囲に水で作り出した大蛇を数匹侍らせる。数瞬の間、そして二人は同時に攻撃を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『投了を確認。リアス・グレモリー様の勝利です』

 

 

 

 

 あぁ、クソ。やっぱ勝てねぇか。やっぱ強ぇな兵藤の奴。

 

 

『まぁ仕方ないのう。あちらは赤き龍の力をしっかりと引き出しておるしのう』

 

 

 会長は大丈夫かな。『神の子を見張る者』から色々と技術提供受けてたみたいだけど、なんか怪しかったし……

 

 

『おい、聞いておるのか?』

 

 

 あ"ぁぁぁ"ぁ!勝てねぇとは分かってたけど、それでも会長をお傍でお守りしたい!

 

 

『言っておくが、あの小娘は負けたぞ』

「そんな!?ってアレ?」

『やっと反応したか』

 

 

 イッセーに敗れた匙が目覚めると、そこは真っ黒な空間だった。上も下も分からない闇の中でポツリといる。

 

 

「この声、まさかヴリトラ、なのか?」

『然り、じゃ。我が分身よ』

 

 

 次の瞬間、青黒い炎が燃え上がり、声の主がその姿を現した。大きな金色の瞳、大きく裂けた口にはやや緑がかった牙が生えそろっている。頭部の角から全身の鱗までが黒と青に染まっており、長すぎる躯体の全長はハッキリとは見えない。

 

 

「お前が、ヴリトラ……」

『そうじゃ。『アスラシュレーシュタ(アスラ中の最上のもの)』、『アスレーンドラ(アスラの王)』、『スラーリ(神々の敵)』、『堰界竜(いかいりゅう)』、まぁ色々な呼び名で呼ばれておるが、ここはお主らに馴染み深い二つ名で名乗ってやろう』

 

『わえはヴリトラ、五大龍王が一角『黒邪の龍王《プリズン・ドラゴン》』ヴリトラじゃ。よろしくのう、我が分身たる魔。匙 元士郎よ』

 

 

 

 

 

 

 

 気が付く匙は病室にいた。丁度側にナースがおり、すぐに彼が目覚めたことは彼の主たるソーナへと伝えられた。

 直ぐにソーナが病室にやってくる。そこには魔王サーゼクスと『女王』グレイフィアも一緒だった。簡単なあいさつの後、サーゼクスは匙に装飾の施された小箱を送った。

 

 

「これを受け取りなさい」

「あ、あの…これは…?」

 

 

 明らかに高そうなものに匙は緊張して震える。

 

 

「これはレーティングゲームで優れた戦い、印象的な戦いを演じた者に贈られるものだ」

 

 

 サーゼクスは微笑みながら言う。しかし、匙の顔は曇っていた。

 

 

「お、俺は…兵藤に負けました…。これを受け取っていい立場ではありません」

 

 

 匙は悔しそうにベットのシーツを掴んでいた。

 

 

「そうだ。けど、結果的にイッセー君を、あの赤龍帝を倒した。私達は君の戦いを観戦室で興奮しながら見ていた。あの北欧のオーディンも君に賛辞を贈った程なんだよ」

 

 

 サーゼクスは小箱の勲章を取り出し、匙の胸につけた。魔王自ら、匙の奮戦を讃えたのだ。

 

 

「自分を卑下してはいけない。君だって、上を目指せる悪魔なんだ。私は将来有望な若手悪魔を見られてうれしい。もっと精進しなさい私は期待しているよ」

 

 

 そして、サーゼクスは匙の頭をなでる。

 

 

「何年、何十年先になってもいい。レーティングゲームの先生を目指しなさい」

 

 

 

 サーゼクスの一言に匙は無言で泣いていた。とめどなく涙は流れ、顔はくしゃくしゃになっていた。

 

 

「…匙、あなたはたくさんの人々に勇姿を見せたのですよ。貴方は立派な戦いをしたのですから」

 

 

 ソーナもまた我慢していたものを目から溢れさせていた。自分の自慢の眷属が大きく評価されたこと、彼女も嬉しく思っている。匙は胸の勲章を触り、涙を拭って力強くうなずいた。

 

 

「…はい…ありがとうございます!」

 

 

「……今は匙の見舞いって感じじゃないな」

「えぇ、戻りましょうか」

「そうだな」

 

 

 その様子を病室の外からイッセーとアルトリアは見守っていた。良き戦士への賛辞、ライバルへの宣戦布告はまた日を改めるべきだろう。二人はイッセーへ割り当てられたの病室へと戻っていった。

 

 

 

 

 八月も終わりが近づく頃。オカルト研究部は、グレモリー本邸前の駅で冥界との別れの時を迎えようとしていた。

 駅にはグレモリー夫妻とサーゼクス、グレイフィア、ミリキャスが集まっている。

 

「それでは、一誠くん。また会える日を楽しみにしているよ。いつでも気兼ねなく帰ってきてくれてかまわんよ。グレモリー家をキミの家と思ってくれたまえ」

「ありがとうございます! で、でも、ちょっと恐れ多くて……」

 

 

 苦笑いするイッセーだが、ヴェネラナも肯定していた。

 

「そんなことありませんわよ。一誠さん。人間界ではリアスをよろしくお願いしますわね。娘はちょっとわがままなところがあるものだから、心配で」

「お、お母さま! な、何をおっしゃるのですか!」

 

 どうやらイッセーは正式にグレモリー夫妻公認という事になりそうだ。今後はより注目を集めることになるだろう。

 

「リアス。残りの夏休み、手紙位は送りなさい」

 

 

 サーゼクスが息子ミリキャスを抱えながら言う。そのすぐ後方にはグレイフィアが待機していた。

 

 

「はい、お兄さま。ミリキャスも元気にね」

「うん、リアス姉さま!」

 

 

 列車に乗り込み、窓からサーゼクスさまたちに最後の別れを告げる。サーゼクス、グレイフィア、そしてミリキャス。やはりこうしてみると、あの二人は家族なのだという事が良く分かる。

 あの二人もかなりの試練を乗り越えて今の生活と愛を掴んだ。イッセーも、恐らく同じような道を辿る事になるのだろう。アルトリアは胸がチクリとする感覚を味わいながら、グレモリー領を後にした。

 

 その後イッセーたちは修行でまるで手のついていなかった宿題の処理に追われ、朱乃はなにやらリアスにイッセーを貸すように頼みこむなど、色々な出来事があったが割愛させて貰おう。 

 何故なら人間界に付いた後、それらが吹き飛びそうな出来事が起こったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーシア、僕は君を迎えに来た。会合の時、挨拶出来なくてゴメン。でも、僕と君の出会いは運命だったんだと思う。僕の妻になって欲しい。僕は君を愛しているんだ」

 

 

 到着した人間界のホーム。そこに待っていた若手悪魔の一人、ディオドラ・アスタロトがアーシアに求婚したのだ。




 これにて第5章は終了。次回から第6章となります。

 今回から新キャラとしてわえちゃんことヴリトラに登場してもらいました。今後匙くんを始めとしたシトリー眷属やその周囲に様々な試練を課していくことになるでしょう。
 がんばれ匙くん!乗り越えれば君は更に強くなるぞ!因みに諸事情からわえちゃんはピアス無しです。なんでかはご想像にお任せします。
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