まだまだ続く修学旅行。皆さんの修学旅行の思い出はなんでしたでしょうか。筆者は小学生の時に京都に行ったのですが。正直言って小学生に京都は早かった。中高生くらいの時ならもっと歴史に詳しくなって楽しみたのではないかなというものです。
思い出、とは言いにくいですが。
よろしければ、今回もお気に入り登録や高評価、感想、それと『ここすき』をお願いします。
それでは第六十九話、どうぞ!
「じゃあ、野郎ども!行くわよ!」
「「「おおーっ!」」」
キラリと眼鏡を輝かせた桐生の掛け声にイッセー達は声を上げた。修学旅行二日目、初日は襲撃など大変なこともあったが、先生達の厚意に甘え観光を続けていこうと、イッセー達は気持ちを新たに修学旅行を満喫することにした。
昨日は楽しめなかった匙達も今日は各所を回るようで、ヴリトラがやらかさないか見守るために彼女と一緒に行動するようだ。
イッセー達の二日目は京都駅前のバス停から清水寺行きのバスに乗ることから始まる。京都駅でバスの一日乗車券を買うと他の生徒達と共に並びながらバスを待った。他の観光客と共にギュウギュウ詰めになりながら乗車したあとは清水寺までバスで移動する。見知らぬ街の風景を眺めながら下車する予定のバス停に到着。
周辺を軽く散策し、坂を上って清水寺を目指す。周りを見れば、趣のある日本家屋のお店が両脇に立ち並んでる。
「ここは三年坂言って、転ぶと三年以内に死ぬと言われているらしいわよ」
「はぅぅぅぅっ!それは怖いです!」
桐生の説明にアーシアが本気で怖がり、イッセーの腕につかまった。初めて会った時も転んでいたアーシアだからか、迷信だとしても転びそうで怖がっている。確かに俺につかまっていた方が安全か、とイッセーが考えているとゼノヴィアももう片方の腕につかまってきた。
「ど、どうしたんだ、ゼノヴィア?」
「…日本は怖ろしい術式を坂に仕込むのだな」
「お前も信じてるのかよ……」
震えながらそうつぶやくゼノヴィア。お前も信じてるのか!?と驚くが、ゼノヴィアはたまに壮大な勘違いをする時があると、彼女の可愛い所を実感したイッセー。
因みに三年坂の言い伝えはあくまでも怪我しないように気を付けてね、という程度の物である。実際には
そんなことは知る由もないイッセーは両手に花の状態で、坂を上がる事となった。その間松田、元浜からの恨めしい視線を感じることにはなったが。
そして坂を上り切ると大きな門が現れる。そこは清水寺の玄関口である仁王門。そこを潜り、イッセー達は清水寺へと足を踏み入れた。早速教会トリオたちは有名な清水の舞台へと歩を進めた。
「わぁ、良い眺めですねぇ」
「ここの本尊は千手観音様なのよね」
「サンスクリット語でサハスラブジャ・アーリヤ・アヴァローキテーシュヴァラだな」
「え?」
「だからサハスラブジャ・アーリヤ・アヴァローキテーシュヴァラだ」
「……はい?」
「いやだからサハスラブジ「そういえばイッセー君は一度に五百人のおっぱいを揉めていいなって言ってたわよ」」
相変わらず仲のいい教会トリオはを見守りつつ、イッセーも舞台へ上がってテレビで見たことある清水寺の舞台下を眺める。感想としては、高いけど思っていたほどじゃないなと言った物だった。普通の人ならただでは済まなさそうだが、悪魔になった今なら多少の傷で済むだろう。
因みに人間の場合でも85%の人は死なずに済んでいるらしい。が、それでも死者は出ている上、怪我もするのでやらないに越したことは無い。
そのまま境内を回ると、安全と合格の祈願や恋愛成就を願う小さなお社などがあった。一応、今回もさい銭箱に小銭を入れて願っておく。イッセーもまた学生なので今のうちに合格祈願はしておくことにした。しかし悪魔なので、どこまで神仏が叶えてくれるか分からない。その辺りの調整もセラフォルーの仕事だろうか。
「兵藤、アーシアと恋愛のくじやってみたら?」
桐生に促され、イッセーとアーシアは恋愛のくじを引く。その相性のほどは………
「大吉だってよ。将来安泰。お似合いの二人だってさ、どんな困難も乗り越えられるでしょうって、アーシア」
イッセーがかいつまんで内容をアーシアに伝えると、アーシアは頬を赤く染めて大喜びしている様子だった。
「はい!うれしいです!……うれしいです、本当に…」
そういってアーシアはくじを大切そうに抱いて、涙ぐんでいた。ここまで喜んでもらうと此方も恥ずかしくなると、イッセーは頬を掻く。仏様が悪魔同士の仲を証明するというのもおかしな話だが、今この時だけは神様仏様に感謝することにした。
「よかったな」
「ええ、よかったわ」
「私もなんだか安心したわ」
横でゼノヴィア、イリナ、桐生が嬉しそうにうんうんうなずいていた。その反応に二人は顔を赤らめて恥ずかしがっていた。
「…俺達、蚊帳の外じゃね?」
「泣くな、松田よ」
イッセーを中心に女子が集まっているため、野郎の松田と元浜が隅でどんよりとした空気を醸し出している。イッセー達はその後寺を一回りし、記念の品を手軽く買うと、バス停に歩みを進めた。
「次は銀閣寺。ちゃっちゃと行かないと時間なんてあっという間に無くなっちゃうわよ」
時計を見ながら桐生が先導する。そう言われて時計を見れば午前十時を過ぎていた。あと二か所は両方とも離れている。回り切るのであれば足早に向かわないといけない。
次の目的地は銀閣寺だ。清水寺まではバスを乗り換える必要があるため市バスに乗り、イッセー達は清水寺を後にした。
◆
「銀じゃない!?」
銀閣寺に着き、寺を見たゼノヴィアが開口一番に叫んだのがそれだった。銀閣寺が銀色じゃないのは有名な話である。
「…ゼノヴィアさんはお家でも『銀閣寺が銀で、金閣寺が金。きっとまぶしいんだろうな』って瞳を輝かせて言っていたものですから」
アーシアがゼノヴィアの震える肩を抱きながらそう言った。金閣寺がド派手で有名な分、そういう幻想を抱いていたのだろう。ゼノヴィアの期待はさながら黄金の国ジパングを夢見たマルコ・ポーロのようである。
「建設に携わった足利義政が死んだから銀箔を貼るのを止めたとか、幕府の財政難で中止になったとか、そもそも初めから貼る気が無かったとか諸説あるけど、まぁ銀箔じゃないわね」
桐生がそう説明をする。どうやら事前に情報収集していたらしく、ガイドいらずで進んでいく。実際銀閣寺と呼ばれているのは金閣寺との対比の意味が大きいらしく、銀でないと抗議するのはやや筋違いではある。
銀閣寺も一通り回るイッセー達だが、その中でイッセーは山の色合いに目を惹かれた。季節は秋、紅葉があちこちを彩っており素人目にも風流な雰囲気を醸し出している。これが冬になれば雪景色、春は桜、夏は青葉と四季を彩っていくのを考えると、銀はどこか無粋に感じた。
その後、近くの店で昼食を済ませた一行は次の金閣寺へ向かった。
◆
「金だっ!今度こそは金だぞ!」
金閣寺に着き、寺を見たゼノヴィアは開口一番に叫んだのがそれだった。先ほどと違い、大はしゃぎしている。
「金だぞぉぉっ!」
両手を上げてゼノヴィアが顔を輝かせるほど、金閣寺は金色に輝いていた。更に金閣寺前の池と紅葉がその輝きをより深くしている。テレビ見る以上に、実際に見る金閣寺の輝かしさにイッセーは圧倒された。周りを見れば同じく金色に魅了されて、写真を取りまくっている学生たちがいた。
イッセーもまた様々な角度から何枚か写真を取る。順路に従い、ぐるりと回るが常にゼノヴィアのテンションは高かった。そうして見て回った後、お土産を買い、休憩所で一休みすることになった。
「どうぞ」
和服の女性が淹れ立ての抹茶を運んでくる。然も茶菓子も添えてあった。抹茶を初めて飲んだイッセーだったが、思っていたほどの苦味は無かった。むしろ、和菓子と共にいただくと風味も感じられてちょうどいいぐらいだった。
「うん、悪くないわね」
イリナも気に入っているようだった。
「少し苦いです」
アーシアは苦いのが苦手だったようで少しずつ飲んでいる。といっても飲めない程ではないらしい。
「…金ピカだった」
ゼノヴィアは未だに目覚めぬ夢の中のようだ。よほど金閣寺を見た感動が大きかったのか目が爛々と輝いている。出された茶にまるで手をつけていない。
修学旅行でのゼノヴィアは明らかにテンションがおかしい。クールジャパンに興奮する外国人そのものと言った様子だ。少しオーバーだと感じつつも、修学旅行というイベントを一番楽しんでいるのはゼノヴィアではないかと、イッセーは考えた。
「ゼノヴィア、記念に祈っておきましょう!」
「そうだな」
「私もお祈りします!」
「「「ああ、主よ!」」」
感動の余り、教会トリオは天にお祈りを始めていた。異教の寺院の近くでそれはどうなんだと思いつつ、黄金の国ジパングで黄金色の寺を見れた記念といったところかと一人納得した。
「きゃー!痴漢!変態!」
突如、女性の声が響く!気になり茶屋を出てみると、男性が係の人に取り押さえられていた。
「お、おっぱいを!おっぱいをくれ!」
どうやらまた痴漢騒ぎのようだ。せっかくの観光地だというのに興が冷めるとはこのことだ。同じく休憩所から顔を出している松田がつぶやく。
「痴漢かー。そういえばさ、朝のニュースでもやってたぜ、痴漢報道。祇園のほうで痴漢があったらしいぞ。昨日の駅といい、ちょっと多いな」
そう言う松田に元浜がメガネをくいっと上げながら物申す。
「お前が何を言う松田よ。行きの新幹線で俺に襲い掛かってきたくせにな」
「いや、なんだかさ、あのときは寝ぼけていたというか、意識がおかしかったというか、やたら乳に触りたかったんだよな。なんだろう、あの感覚」
首を傾げる松田。正しく衝動ともいうべきものに元浜は答える。
「それは青春だな」
「若さゆえの過ちか!」
答えを得たと言わんばかりに二人はうんうんと頷いた。乳を求める心に頷きつつも男の乳はどうなんだ?と思うイッセーの耳に着信音が入る。発信元は自分の携帯、相手は朱乃からだった。
「はい、もしもし。朱乃さん?どうかしたんですか」
『もしもし、イッセーくん。いえ、大したことではないのだけど……。送ってくれた写真について小猫ちゃんが気になる事があるって』
「気になる事?」
『さっき送ってくれた金閣寺の写真。それに狐の妖怪が映ってるらしいの』
「狐?」
『えぇ、風景の辺りに何体か。確かに京都には大勢の狐がいるのだけど、金閣寺辺りでここまで固まるなんて………何かあったの?』
此方を心配する朱乃の声音。それにどう返そうか考えていると。
ゴトッ!
突如、松田、元浜、桐生が抹茶の器を落とし意識を失ってしまった!
「!?」
『イッセーくん?』
「あぁ、すみません。アーシアが呼んでるみたいなんで、失礼します!」
足早に電話を切る。倒れた松田と元浜の二人に近づき状態を確認すると、どうやら眠っているだけの様で息をちゃんとしていた。
「ゼノヴィア、そっちは?」
「大事ない。三人共眠っているだけのようだ」
「イッセーくん!」
突然イリナの声が飛ぶ。周りをみると、木の陰や店の裏から狐耳を生やした男女が数名現れた。その中には先ほどお茶を出してくれた店員の姿もあった。
「狐!?まさか!」
「待ってください!」
籠手を出して構えたとき、聞き覚えのある声が聞こえる。声のする方向へ顔を向けると、そこにいたのはロスヴァイセだった。
「ロスヴァイセさん!?どうしてここに?」
イッセーの問いに急いできたらしいロスヴァイセは息を吐きながら言う。
「貴方達を迎えに行くようアザゼル先生に言われました」
「先生に?何が起こっているんですか?」
イッセーが周囲に目を配らせながら訊く。こちらを包囲する妖怪達、彼等から昨日の様な敵意を感じられない。
「停戦です。というか、誤解が解けました。九尾のご息女が貴方達に謝りたいと言うのです」
ロスヴァイセがそう言う。どうやらこちらと争う気はないらしく、イッセーたちは武器を降ろした。疑問の残るイッセー達に狐耳の女性が一人、前に出て深く頭を下げてくる。
「私は九尾の君に仕える狐の妖でございます。先日は申し訳ございませんでした。我らが姫君もあなた方に謝罪したいと申されておりますので、どうか私達についてきてくださいませ」
ついてきて欲しい?どこに?そうイッセーが聞こうとするが、そのまま狐耳の女性が説明を続ける。
「我らの京の妖怪が住む裏の都です。魔王様と堕天使の総督殿も先にそちらへいらっしゃっております」
◆
狐耳の女性の案内に従って、金閣寺の敷地内にある入り口からイッセー達が足を踏み込んだのは異界ともいえる場所だった。映画村の撮影セットのような江戸時代の町並み、古い家屋が建ち並び、灯篭や提灯といった穏やかな光があちこちをぼんやりと照らしている。そんな街並みの扉から、窓から、通り道から、面妖な生き物達が顔を覗かせていた。
薄暗い空間。独特の空気。古い家屋群。そして、そこの住人たちがイッセー達を迎えた。一つ目小僧、河童、化け狸等々、昔話に登場するような妖怪達がそこで暮らしていた。皆が好奇の視線を向け、此方を見てくる。
「うきゃきゃきゃ」
「うおっ!な、なんだ!」
提灯に目と口が現れて突然笑い出す。有名なお化け提灯という奴だろう。
「すみません。ここの妖怪達はイタズラ好きで…。害をなす者はいないと思いますが…」
と、先導する巫女服姿の狐耳の女性が歩きながら謝る。確かに多くの妖怪が人を驚かす伝承を持っている。意外とお調子者なだけなのかもしれない。
「ここは妖怪の世界なんですか?」
イッセーの問いに狐耳の女性が答えてくれる。
「はい、ここは京都に住む妖怪が身を置く場所です、悪魔の方々がレーティングゲームで使われるフィールド空間があると思いますが、あれに近い方法でこの空間を作り出していると思ってくれてかまいません。私達は裏街、裏京都等と呼んでおります。むろん、ここに住まず表の京都に住む妖怪もおりますが」
裏の京都、正に妖怪の為の異空間である。そんな説明を聞きながら周りに聞き耳を立てる。
「…人間か?」
「いんや、悪魔だってよ」
「悪魔か。珍しいなや」
「あの綺麗な外国の娘っ子も悪魔か?」
「龍だ、龍の気配もあるぞ。悪魔と龍…」
そんな妖怪達の話声が聞こえてくる。やはり妖怪の領域だけあって悪魔は珍しいようだ。一行は家屋が建ち並ぶ地域を抜け、小さな川を挟んで林に入る。そこをさらに進むと巨大な赤い鳥居が出現した。
その先に大きな屋敷が建っている。古さと威厳を感じさせる佇まい、その形は神社の社殿を彷彿とさせた。そんな屋敷の入り口前、そこにアザゼルと着物姿のセラフォルーはいた。
「お、来たか」
「やっほー、皆☆」
妖怪の世界に来ても相変わらずな二人。そして、その二人の間に金髪の少女がいた。先日イッセー達を襲った少女、話によれば行方不明の九尾の娘に当たる少女である。今日は巫女装束ではなく、大名の姫が着ているような豪華な着物に身を包んでいた。
「九重さま、皆さまをお連れ致しました」
狐耳の女性はそれだけ報告するとドロンと青い炎を出現させて消えてしまった。あの炎が話に良く聞く狐火というものだろう。少女、九重はイッセー達のほうに一歩出てきて口を開く。
「私は表と裏の京都に住む妖怪達を束ねる者。八坂の娘、九重と申す」
自己紹介をしたあと、彼女は深く頭を下げた。
「先日は申し訳なかった。お主たちを事情も知らずに襲ってしまった。どうか、許して欲しい」
そういって彼女は謝罪した。
「ま、いいんじゃないか。誤解が解けたのなら、私は別にいい。せっかくの京都を堪能できれば問題ないよ。もう二度と邪魔をしないならね」
ゼノヴィアはそう言う。京都でまで戦いたくないって心境もあるんだろうな。
「そうね、許す心も天使に必要だわ。私はお姫様を恨みません」
「はい。平和が一番です」
イリナも続く。アーシアもニッコリ笑顔で言った。教会トリオ達に言いたいことを言われてしまったイッセーは頬を搔きながら
「てな感じらしいんで、俺も別にもういいって。顔をあげてくれよ」
「し、しかし…」
四人の許しを得ても尚、九重は顔を上げない。今回の一件で余程責任を痛感しているのだろう。するとイッセーが膝をつき、少女に目線を合わせて言う。
「えーと、九重でいいかな?なあ、九重、お母さんのこと心配なんだろう?」
「と、当然じゃ!」
「なら、あんなふうに間違えて襲撃してしまうこともあるさ。もちろん、それは場合によって問題になったり、相手を不快にさせてしまう。でも、九重は謝った。間違ったと思ったから俺達に謝ったんだよな?」
「もちろんだとも」
イッセーは顔を上げた九重の肩に手を置き笑顔で続けた。
「それなら俺達は何も九重の事を咎めたりしないよ」
九重はイッセーの言葉を聞き、顔を真っ赤に染めてもじもじしながらつぶやいた。
「…ありがとう」
これで先日の襲撃の件はチャラとなった。立ち上がるイッセーにアザゼル先生が小突く。
「さすがおっぱいドラゴンだな。子供の扱いが上手だ」
「ちゃ、茶化さないでくださいよ。これでも精一杯なんですから!」
「いやいや、さすがおっぱいドラゴンだ」
「はい、流石です!感動しました!」
「本当、見事な子供の味方よね」
教会トリオからの賛辞を受けてイッセーは気恥ずかしそうだ。彼としては縮こまっている小さな少女を少し元気づけたに過ぎないのにここまで褒められるのは恥ずかしかった。
「イッセー君ちょっと見直しました。教師として鼻が高いです」
ロスヴァイセもイッセーへの評価を少し改めたようだ。が、昨日服を吹き飛ばしたため、その評価はまだ低いだろうが。
「ま、負けていられないわ!こんなところでまでおっぱいドラゴンの布教だなんて!魔女っ娘テレビ番組『ミラクル☆レヴィアたん』の主演としては負けていられないんだから!」
その様子にセラフォルーは対抗意識を燃やしていた。同じヒーロー番組を持つものとしてライバル番組の主人公が称賛されているのは忸怩たる思いだろう。
九重は照れながらイッセー達に言った。
「…咎がある身で悪いのじゃが…どうか、どうか!母上を助けるために力を貸してほしい!」
それは少女の悲痛な叫びだった。
◆
一行は屋敷の中にある大広間に場所を移し、状況の説明を受けることになった。九重の座る上座を挟み、左側にはアザゼルとセラフォルー、右側には先ほどの狐耳の女性と山伏姿で鼻の長い老人が座り、イッセーたちは下座に座る。
まず、この京都を取り仕切る妖怪の大将、九尾の狐こと『八坂』は、須弥山の帝釈天から遣わされた使者と会談するため、数日前にこの屋敷を出たという。
ところが、八坂は帝釈天の使者との会談の席に姿を現さなかった。不審に思った妖怪サイドが調査したところ、八坂さんに同行していた護衛の鴉天狗の一体を保護した。他の護衛たちは皆息絶えており、生き残った烏天狗も身体のあちこちに傷を作り、片翼が焼き貫かれた瀕死の状態だったそうだ。その鴉天狗が死の間際、八坂が何者かに襲撃され、攫われたことを告げたらしい。
そこで、九重は京都にいる怪しい輩を徹底的に探していた。それで悪魔であるイッセー達が襲われ、あの襲撃に繋がる。
その後、アザゼルとセラフォルーが九重達と交渉し、冥界側の関与は無いことを告げ、相手の手口から今回の首謀者が『
「ま、各勢力が手を取り合おうとすると、こういうことが起こりやすい。オーディンの時もロキが来ただろう?今回はその敵役がテロリスト共だったわけだ」
アザゼルが不機嫌そうにそういう。自由気ままに研究が出来る平和な日常を願うアザゼルからすればは、テロリストは決して許せない存在だ。現に修学旅行で遊びまわるという予定が崩され。その腹の内は煮えくり返っていた。
「総督殿、魔王殿、どうにか八坂姫を助けることはできんのじゃろうか?我らならばいくらでも力をお貸し申す」
と、鼻の長い老人、天狗の長がそう言ってくれる。すると、天狗の長が大きな一枚絵を広げた。巫女装束を着た金髪の女性が描かれており、頭部には狐の耳が生えている。
「ここに描かれておりますのが八坂姫でございます」
その美貌は絵画であっても引き付けるものだった。玉藻の前や妲己など、九尾の狐はその美貌で人を惑わすという伝説がある。彼女にもその力があるのか、イッセーはすっかり八坂の美貌にメロメロになっていた。
「八坂姫をさらった奴らが未だにこの京都にいるのは確実だ」
「どうしてそう思うんですか?」
アザゼルの言葉に疑問を持ったイッセー。アザゼルは頷きながら説明しはじめる。
「京都全域の気が乱れていないからだ。八坂姫たち九尾の狐、『天狐』はこの地に流れる様々な気を総括してバランスを保つ存在でもある。京都ってのはその存在自体が大規模な力場だからな。九尾がこの地を離れるか、殺されていれば京都に異変が起こるんだよ。まだその予兆すら起きていないってことは、八坂姫は無事であり、攫った奴らもここにいる可能性が高いってわけだ」
観光都市京都が成り立っているのはそんな影の努力があったからなのかと驚くイッセー。今のところ痴漢が多いくらいしか異変が起きていないのは、まだ八坂さんが無事だからかと救出の可能性が高いことに希望を持つ。
「セラフォルー、悪魔側のスタッフは既にどれぐらい調査を行っている?」
「つぶさにやらせているわ。京都に詳しいスタッフにも動いてもらっているし」
セラフォルーの話を聞き、アザゼルがイッセー達を見渡すように視線を向ける。
「お前達に動いてもらうことになるかもしれん。人手が足りなさすぎるからな。特にお前達は強者との闘いに慣れているから、対英雄派の際に力を貸してもらう事になるだろう。悪いが最悪の事態を想定しておいてくれ。あと、ここにいない木場とシトリー眷属には俺から連絡しておく。それまでは旅行を満喫してていいが、いざというときは頼むぞ」
「「「「はい!」」」」
その言葉にイッセー達は力強く応じた。楽しい旅行どころの話ではな無くなってしまったが、金閣銀閣、清水寺と回りたいところは回った。もしこの後すぐに動くことになっても未練はない。
九重が手をつき、深く頭を下げる。お付きの女性や天狗の長もそれに続く。
「…どうかお願いじゃ。母上を…母上を助けるのに力を貸してくれ…。いや、貸してください。お願いします」
こんな小さな子が頭を下げ、声を涙で震わせている。まだ母親に甘えたい歳頃の少女から親を引き離す、そんな非道なテロリストにイッセーは怒りの炎を燃やした。
が同時にイッセーはこうも考えた。助けたらきっと八坂さんが何かご褒美をくれるんじゃないか、と。
『うふふ、お主が赤龍帝か?わらわを助けてくれたようじゃな?さて、どんな褒美をくれよう
か……。なんじゃ、わらわの体ばかり見おって……。そうか、お主はわらわの体を所望するか。ふふふ、よかろう、極上の喜びを教えてやるぞ?』パサ……
着物を妖艶にはだける八坂の艶姿を妄想し鼻血を垂らすイッセー。救出の対価に肉体を要求するというテロリストを馬鹿に出来ない外道なことを妄想していた。
「....イッセーさん、エッチなこと考えてませんか?」
アーシアがジト目でイッセーを見る。最近俗世に染まってそういった勘が働くようになったアーシアに見られ、イッセーは頭を振って切り替える。京都での旅行中に今回のような襲撃や戦闘になるかもしれない。そのことをしっかりと覚悟しなくてならない。あはは、と誤魔化しながらも、イッセーは戦いへの覚悟をきめていた。
と、同時に消えてしまった己の可能性についても考えを巡らせていた。どこに行ったのか可能性、いつ戻るのか可能性。何故か近くにある気がしつつも、今後の事へ考えを巡らせるイッセーであった。
何処とも分からぬ、しかし京都の何処かに存在する異空間。
その中で『禍の団』英雄派の面々が駄弁っていた。
「なぁ、ジャンヌ」
「なによ、ヘラクレス」
「ウチの王様、やたらと英語読みだよな。俺たちを呼ぶ時」
「あぁ~、確かに。私の事サー・ジェーンって呼ぶわよね、ジャンヌじゃなくて」
「俺も、サー・ハーキュリーってな。ちゃんとヘラクレスって偉大な名があんのによぉ」
「大変だね、二人とも。一応僕はサー・ジークって呼んでもらってるけど。やっぱり英語圏での読み方なんだろうね。ブリテン島の王様だし」
どうやら彼等の主にあたる騎士王が英語読みで呼んでくることにややもやっとする物があるらしい。
「いいじゃないか、別に。彼女の流儀に合わせてやろう。俺なんてツァオツァオさ。パンダじゃないんだから」
「まぁまぁ。僕もサー・ジョージと呼ばれているし、レオナルドもレナードだからな。下の方じゃそこまで不満はないようだけど、僕らとしてちょっとね」
そこへ青年二人が合流する。
「曹操。例の顔見世、計画は進んでるのかい?」
「あぁ。明日、九重姫が赤龍帝たちと行動を共にするという情報をキャッチした。そこで大々的に発表してやろうと思ってね」
「遂にか、腕が鳴るぜ!」
「えぇ。見せてやりましょう。人間の力って奴」
立ち上がる面々。彼らの士気は高い。
「そうさ。蒼天のもと、俺たちの力がどこまで通じるか。見せつけてやろうじゃないか」