こち亀TSホモ夢小説(両津勘吉総受)   作:誤算

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時代設定はポケベル〜PHSくらいのつもりです


異世界転生者登場!!の巻

「クッソー、犯人だって捕まえてんだから署長もあんなに怒ることないのに」

「配送のバイト中だからって犯人を段ボールに詰めて置いてくからですよ」

「流石に留置管理課に直送はやりすぎだったか」

「段ボールを開けた瞬間を見計らって犯人が飛び出してしまって、危うく逃すところだったみたいですからね」

 

 クーラーのいまいち効いていない廊下を汗ばみながら歩く人物が2人。

 もはや日課の如くに屯田署長から直々に雷を落とされた後、両津勘吉と中川圭一が我らが派出所に帰ろうとした時、遠くからキャピキャピとした話し声が聞こえてきて両津たちの興味を引く。どちらかといえば猛暑の外に出ていくのを引き延ばす目的をもってその声の発信源へ近づくと、雑誌を囲んでなにやら騒いでいる様子。

 

「また何を盛り上がってるんだうちの婦警どもは」

「多分雑誌の占いじゃないでしょうか? この前麗子さんが署内で新しい占いが流行っていると話題に出してましたよ」

「また占いかよ、いつも何か流行っているからどのことかも分からん」

「何でも最近は自分の身の上を書いたハガキを送るって、『前世』を占ってもらうという占いコーナーが人気なんだとか」

「なんじゃそりゃ」

 

 それはもう『占い』の目的を見失ってないか?と呆れ顔で言う両津に愛想笑いを返す中川。くだらんとは思うものの外の窓が熱気で揺らいでいるのを見て消去法で話の続きを両津は盗み聞きすることにした。

 

「私は金星出身のプリンセスですって!」

「アタシは恋を成就する役目のキューピッド!」

「ウフフ、私の前前前世は神社の巫女だったんだって!」

 

 課内から漂う冷気が感じられるほどに(なんでか署内は女子がいるところだけエアコンが効いてる気がする)近づいてみると、内容が占いということを差し引いても()()非現実的な内容で盛り上がっているようだ。

 

「金星って、言ったもん勝ちにもほどがあるだろ」

「まあこういうのは本人の気持ちをポジティブにするサポートが主な目的ですから」

「そうは言っても占う方も占われる方も適当すぎるだろ! 前、前、前、世ってそこまで遡らないとダメな結果だったのか? おい」

「もう外野からぶつぶつと、うっさいわねー両津!」

 

 その占いの結果を見ていた早乙女リカが自分だけ何故か前前前世まで遡られていることの理由にむかついたというのもあってか、いの一番に返って嫌そうに両津に言い返した。ほかの署員も好き勝手言いたい放題の両津に何となく不快そうな表情を見せたが、隣の中川をみて即座にチャラになったようだ。

 

「どうせアンタの前世は占ってもらうまでもなくゴキブリか何かだったに違いないわね」

「何だと!」

「まあまあ先輩、きっと先輩の前世は大人物ですよ」

「例えば」

「た、例えば?」

「例えば誰かね中川くん」

 

 急に矛先がこっちに向いた中川が言葉に詰まりうんうん唸って考え込む。

 

「例えば? うーんうーん……ポ、ポンツィとか?」

「何故だろう、恐らく大()人の名前だろうということだけは分かるぞ……」

 

(一応)味方であったはずの中川からさえ言いたい放題を受けて歯軋りをしていた両津が、腕を組んでそっぽを向いて開き直って言う。

 

「フン! 大体人間『過去』や『未来』よりも今この時の方が大事だ! 前世が貴族だろうが奴隷だろうが今立派に働いていれば問題ないだろ! 占いなんて余計なお世話を自分から聞きに行く気が知れん」

「アンタが立派に働いてた時って一体いつの話よ」

「うるさいな! 今日だって常習の空き巣犯を1人捕まえたんだぞワシは!」

「アンタがダンボール詰めで送りにしたせいで署内で大捕物するハメになったのよこっちは!」

 

 売り言葉に買い言葉ですぐさま沸騰する両者だが、両津は全身お前が言うな人間であるので基本的に口喧嘩で勝つことはない。ぐぬぬ、と両津が言葉に詰まって何か反撃の糸口を探そうと視線を彷徨わせた時、早乙女の腕に彼女が普段していないであろう不思議な意匠のアクセサリーがあることに気づき、素直に疑問が口から出た。

 

「ん? 早乙女、そういえば珍しく派手なアクセサリーしてるが、まさかラッキーアイテムか何かか?」

「ああこれ? これは『前世』をコーナーに送る時に一緒に現金書留を送ると次号の雑誌と一緒に今月のラッキーアイテムを送ってもらえるシステムなの。これをつけてから随分体の調子が良くなって」

「おいおい、ラッキーアイテムが占いより先に送られてくるなんて聞いたことないぞ! 怪しいアクセサリー屋が『本業』(雑貨屋)のついでに占いしてるんじゃねえだろうな」

「アンタって本ッ当に人のやる気を削ぐのが上手いわね」

 

 よく見ればほかの婦警たちも色違いのネックレスをいているし、道ゆく人々にもまばらに同じものが腕に通っていたりしていた。それを見て瞬時に原価計算をした両さんが仮にも公務員がその手があったか! という顔をしたので商売人としての謎の対抗意識を感じている様子の両津にちょっとだけ引いている早乙女。

 

「あのね、この占いをしてるウソーダ・ホントウソ先生は前世占いのプロなの。いっつも当たってるから私たちだって驚いてるくらいだし」

「そんなニッチな分野にプロも資格もないだろ。そんなことをいったらワシの幼馴染にだって子供のころから転生者を名乗っとる奴がいるぞ」

「先輩、それはこの占いコーナーの人と『同業』(雑貨屋)なのでは?」

 

 バーナム効果、という言葉をグッと堪えていた中川も両津のトンチンカンな反論に思わずツッコミを入れる。

 

「大体、こんなものは」

 

 と言って婦警たちの間に無理やり割って入り占いの文章を幾らか目を通した両津が突然黙り込み、「いや……?」とか「もしやこのやり方は……」などとブツブツと呟き出し、婦警たちが気味悪く両津を見る。

 その様子に完全に気づかない両津は、よし! と急に顔をあげて中川に向かって宣言する。中川は直感的に嫌な予感がした。

 

「丁度いい。確認がてら久々に顔を出すか」

「えっどこにですか?」

「その自称”転生者”にだよ、せっかくだから中川も来い!」

「えっー! ウソーダ先生のこと知ってるなんてウソよ!」

「なんか私この占い急にインチキに見えてきた」

「なんで俺の知り合いなだけで嘘になるんだ嘘に」

 

 婦警の1人がふらりとたたらを踏むのをスッと受け止めながら、中川が両津から器用に後ずさる。

 

「ほ、僕は勤務中ですし、ちょっと遠慮しておこーかな……」

「そんなもんはちょっと待ってろ」

 

(絶対に面倒臭いことに巻き込まる!)と思った中川がフェードアウトしようとしたのを両津は無情に遮ると、ポケベルを胸ポケットの警察手帳の中から取り出し、手早く何らかの文面を打ってその場を離れると、署内に置かれた公衆電話からどこかへと送信。一分もかからず戻ってきた。

 

「本田と寺井が代わってくれるってさ」

「今、送信しかしてなかったわよね?」

「先輩って本当に今この時だけで生きている人だ」

 

 早乙女と一緒に呆然としている中川を置いてどんどん歩いて行っていた両津が振り返って怒鳴った。

 

「おい中川! そんなところでボサっと立ってないでさっさと行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中川たちはパトカーに乗って(くそ、エアコンが直ってねえ!)両津の指示で男子寮へと一旦寄った後、勤務をサボりあるアパートの3階、件の自称『転生者』が住む部屋の前まで来ていた。扉には『天声異世界研究所 CLOSE』と刻まれた何とも手作り感漂う看板が雑に掛けられている。

 

「荷物を持ってくるから先に行ってろ」

 

 と言った両津よりひと足先に車から降りた中川はこの文言のあまりの胡散臭さに引き攣った笑いを浮かべて所在なさげにしていた。

 

「ここまでくるとあまりにも胡散臭すぎて逆に気になってきたな」

 

 待つこと数分、両津が二段飛ばしで階段を駆け上がって追いついてきた。その両手には明らかに素手で運ぶのが無理と思われる大きさのキャリーバッグが無理やり握られている。

 

「このアパートは相変わらずなんで扉がないんだ! 団地は全てエレベーター完備にしろよもう」

「寮から出てきた時から思っていましたが、その大荷物は何なんですか先輩?」

「なあにこの部屋の主にちょっとした占いをね」

「この『天声』って人、まさか占い師なんですか?」

「いや、そうではないが。あの占いコーナーのウソーダ先生の筆跡は完全にこいつの文字ではあったな」

「じゃあ占い師じゃないですか!」

「いや、まあ見てろ。ただの占いとは一線を画す面白いものが見れる!」

「……?」

 

 両津が物臭にキャリーバッグを持ったまま玄関横のチャイムを鳴らすが、中から人の気配がしない。

「留守でしょうか?」

「いやあいつは自律神経が崩壊しているからおそらく寝ているだけだ、おい生きてるか!」

 

 両津が無遠慮に玄関ドアを叩きまくり、キャリーバッグと拳の接触音がフロア中に響く。

 

「ちょ、ちょっと先輩そんな無遠慮に叩かなくても大丈夫ですってきっと!」

「いやこうでもしないとこいつは」

 

 扉が突然開き、中川たちの目線は扉の方を反射的に動いた。

 

「おお……おお? 両吉、今日は確か勤務の日じゃなかったかい」

「親切なお友達が仕事をしたいっていうんでね、親切にも代わってあげたんだよ」

「相変わらず勤務態度という言葉が辞書にないようで何より」

「ええっ」

 

 どんな胡散臭い人物が出てくるのだろうと身構えていた中川は、中から出てきた人物がまず女性であったことに驚き、次に自分と並ぶほどの長身であることに驚き、そして最後に相当の美人であったことに驚いた。燃えるような髪色の緩やかなウェーブに世にも珍しいオッドアイ。タンクトップに半パンという油断した格好の女性は、先輩のいう『幼馴染』と言う言葉を信じるならば30代は優に超えているはずだが、自分よりも年下といっても違和感のない『少女』、と言っても良い容姿をしていた。

 モチロンのこと、中川はほかの亀有警察署員諸兄が美人を見てするようにフリーズするとか、顔を赤くして見惚れるなどと言ったみっともない醜態を晒すことはなかったがそれでもこの美人が先輩の幼馴染とは全く思えなかったのだ。特に目の色が。

 

「こっちがあの中川さん?」

「あっどうも、僕は中川圭一と言います、すみません挨拶が遅れて」

「おいおい、なんだあまりの美人さにびっくりしてるのかよ? あの中川が」

「い、いえ、先輩と違って下町にいそうな感じでなくてびっくりしちゃって」

「おい! 一言余計だぞ! ……こいつ孤児院出身なんだよ」

「そ、名前も自分でつけたんだよね」

 

 だからハーフなのかクウォーターなのかすら分からん、と続けた両津の言葉に途端に申し訳なさそうになる中川に向かって女性は手をひらひらとさせながら笑う。

 

「ああいや全然気にしなくていいよ勿論、私はともかく両さんすら気にしてないことなんだから」

「先輩の場合はデリカシーがないだけだと思います」

「そうだね」

「なんだか俺の悪口を通じて打ち解けようとしてないか?」

 

 腑に落ちない両津の様子にふふ、と緩やかにわらった女性は、まあ立ち話もなんだから、と両津たちを部屋に通す。狭い部屋でごめんね、と中川が通された居間を一通り見回すと、そのスペースの半分くらいには『でん助人形』であったり、『Gショック(の偽物)』であったりと明らかに先輩のお宝グッズ【ガラクタ】に占有されており、この女性の家というよりも両津の家と言われた方が納得感のある有様であった。

 

「せ、先輩さすがにこれは……」

「い、いいんだよこれで! こいつ自身のセンスに任せるとそこの机と布団以外なにも私物持ってない非人間的な部屋になるんだから!」

 

 と布団とちゃぶ台を指差した両津が誤魔化すように大声で、そんなことよりこれだ! と言って持ち込んだキャリーバッグを床に横置きにして開く。

 そして、混沌とした中身から『枕にしては妙にカサのある物体』を取り出してみせた。

 中川にはその物体に見覚えがあったので両津に尋ねる。

 

「あ! これは確か前に先輩がモニターをしていた!」

「ああ、枕の下に敷く目覚まし機能付き『膨らむ枕』だな」

 

 その商品と乱雑に詰め込まれた雑貨の数々を見て微妙な顔になる天声。

 

「また何か胡散臭い商売に手を出してるのかい?」

「まあまあ、これ見たことがあるか?」

 

 両津が怪訝な顔を天声を宥めて質問をする。それに対し、中川はついこの間に両津本人がモニターをしていたはずの試作品を『見たことがあるかどうか』などと聞く様子に違和感を感じ、その後のやり取りを聞くに従いそのモヤモヤが膨らんできた。

 

「うーん、確か()にネットで駅員が使ってるらしいって記事を見たことがあるけど家電量販店じゃ一度も見たことないかなぁ」

「成る程。これは売れても大当たりするかは分からない……じゃあこのロボット掃除機はどうだ?」

「『ロボット掃除機』なら大ヒット商品になった! なったが、形状がこんな掃除機の延長上みたいな感じのものはなかった、確か完全に円形のフリスビー形状だったはずだよ」

「小型化必須か?」

「多分ね」

「お二人は今は何を?」

 

 目の前で突然謎の確認作業を始め、置いてきぼりになった中川が思わず聞くと、両津がああ、と何でもないことのように説明を始めた。

 

「ああ、さっきも言ったがこいつは『転生者』なんだよ」

「自称ね」

「もう取ってもいいだろ。で、コイツは何と前世の記憶があるどころか数十年後の未来からの転生者らしいと」

「未来人の転生とは何と言うか矛盾しているような……」

「まあワシも最初はそう思っていたが」

「ひどいなあ」

「で、最初はコイツから当たる競馬や宝くじの番号を聞き出そうとしたんだが、そもそもギャンブルの類をやっていなかったと。そこで思いついたのがこれだ」

「今のやりとりですか?」

「そうだ。試作段階の商品を未来で見たことがあるかどうかを聞くだけ。これなら一般人目線でも売れ筋の商品を覚えているわけだから十二分に金儲けが可能というわけだ。我ながらいいアイディアだと思う」

「先輩は何でも金儲けに繋げてしまいますね……」

 

 中川は両津の守銭奴っぷりに(ある意味で)感心したが、それ以上に両津が自称幼馴染の『転生者』などという与太話を信じていることに驚いた。両津はそこまでオカルトのことを信じるタイプでもない。

 

「その、失礼なことをお伺いしますが『転生者』というのは一体どういうものなんでしょうか? こう、雑誌でのキャラ作り的な意味だったりとか?」

「ふっふっふ、中川くん。このワタシが証拠もなしにこんな話を信じると思うかね?」

 

 両津が部屋の奥の窓枠に腰掛け、外を覆い隠すように座ると光の加減で天声が後光を受けているように錯覚をする。

 

「いやあそうは言っても本当に突飛すぎてですね」

「見せてやりたまえ天声くん、チミの超能力を!」

「ちょ、超能力?」

「ははぁ。まあ良いけどね」

 

 その神秘的な雰囲気に反した気の抜けた低めの声で息を吐くと、天声は徐に部屋の隅を指差した。中川たちその指の向いている方向へ追って首を回すと、そこに適当に積まれていただけのでん助人形がカタカタと震え出し、なんと『ふわぁ〜っ』と浮き始めた。そして『ぴゅーん』と中川の手元に収まってしまう。これは流石の中川も仰天し、何度も人形と天声の顔を往復して目を白黒とさせた。

 

「まあ、全然証拠にならないと思うけど一応こんなことできちゃったりして」

「未来だとこーいうのを『チート』っていうらしいぞ中川」

 

 ゲーム用語の、と捕捉する両津の言葉もうまく頭に入ってこない中川。

 

「凄いじゃないですか天声さん!」

「いや〜、実際僕の力という感じではないというか、私には過ぎた貰い物と言いますか、というか転生者である証明にはなりませんよね?」

「ちなみにワシがコイツを信じたのは60年代に流行り出す前にロケット鉛筆をコイツが売り始める提案をした時だ」

「じゃあ超能力関係ないじゃないですか」

「あと、室内だからやらないが手から火を出したりもできるぞこいつは」

「発火能力まで持っているんですか!」

「ちなみにワシは子供のころ勝鬨橋から度胸試しで飛び込んだとき凍死せずに済んだのを今でも感謝しているよ」

「下町って超能力がないと生き残れない環境だったんですか?」

「ま、こいつはあの雑誌と違って『本物』と言うわけだな」

「本物といえば、あのブレスレットは?」

「ブレスレット……ああ! あれは一応血行が良くなる効果を仕込んであるからまるっきり嘘というわけじゃないんだな」

「おお、どれくらいの効果があるんだ!?」

「ゲルマニウム鉱石のブレスレットくらい」

「それはもうそのものを売った方が早いのでは……」

 

 当てが外れた、と両津が窓枠からずり落ちる。そしてずっこけついでにもっと商品を車から取ってくるか、と言って中川をその場に置いてひとまずアパートを出て行く。

 中川はあの『日暮熟眠男』以外に初めて遭遇するエスパーに知的好奇心が隠しきれず、そわそわと話を切り出した。

 

「しかし凄いですね、超能力に未来の情報なんて」

「とは言ってもうまく使いこなせる頭がついてこなかったんだけど」

「そこまで凄い情報を持っていると、その、先輩を通さなくても巨万の富、いや、世界を変えることだってできてしまうのでは?」

 

 ボロアパートを見回しながら純粋な疑問をぶつけてきた中川に対し、そうだね、と言って天声は少しだけ顎に手を当てて考えた後、知識が有限な以上、出せば出すほどアドバンテージが減っていくっていうのもあるけど、と前置きをして返答をした。

 

「ボクだと知識に対して正しい制御ができないと考えている」

「制御?」

 

 中川は、話の内容よりも相手の一人称が揺れたことに気を取られたように感じた。

 

「そうだね。実現不可能なもの、知識の上では知っていても利用方法が分からないものはともかく、実現可能な気がするけど出来たらどうなるか分からないものは特にそう思う」

「た、例えば?」

「例えば〜、あー、兌換機能も国の保障もないのに何故かお金として機能するデータ上のお金の作り方とか」

「そんなものが成立しうるんですか?」

「する。まあ、どっちかというと投機商品になっちゃうけど最初に作った人間は億万長者になれる、と思う」

「な、成る程」

 中川は、天声の抽象的なアイディアの説明からですらとんでもない金脈の匂いを嗅ぎ取った。しかしその反面、もしもそのような発明が為されると最()の場合の想像がまさしく『想像を超えている』と感じ首筋がやけに寒々しく感じた。

(いくつかの国が消えてしまう、いや国体が変わりかねない……そもそも乱立して『おもちゃ』になる程度なのか? いや)

 

「考え込んでも仕方ないと思うよ」

「しかし、いつか実現されるアイディアということでは」

「僕はこのアイディアを積極的に活用した結果だれかの首に降りてくる輪っかに対する責任が取れないし──」

 

 ここで一度言葉を切った天声は、中川ですらドキリとするほど魅力的で無邪気な笑顔で続けた。

 

「中川さんほど頭のいい人が何が起きるかリスクの計算ができないリスクは一つしかないでしょ」

 

 中川はハッとして扉を、正確には扉の向こうにいる角刈り頭を幻視して先ほどとは全然違う理由で顔を青ざめさせた。

 恐る恐る聞く。

 

「そのアイディア……まさか先輩に言ってたりはしませんよね?」

 

 無意識に震えてしまう声を抑えながら尋ねた中川。天声はイタズラっぽく、意地悪く。まるで『両津勘吉』を真似するように不敵に大きく口角を上げて言った。

 

「まだ言ってないよ。──まだね」

 

 中川は蝉時雨に混じって風流に鳴っている風鈴を一瞥もする余裕もなく立ち尽くし、足元のフローリングには汗溜まりを作るばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったぞ、どうした中川そんな疲れた顔をして」

「いやぁ〜ハハハ、大変スバラシイお話を聞かせてもらいまして……ハハハハハ」

「な、なんか中川が壊れたラジオのようになってるが大丈夫か?」

「ちなみに僕が転生してくる前はまだ世界のどこも核爆弾打ってないよ」

「モーいや!」

「本当に何の話をしていたんだ?」

 

 

 せっかくだから三人で飯でも食いに行こうということになり、三人はボロアパートから亀有の町に繰り出した。

 

「亀有公園の方はまずい、病院予定地の裏を通っていこう」

「そういえば、未来の日本製品の仕分けができるってことは日本から来たってことなんですよね、もしかして中川グループの未来の姿も」

「それがだな、俺たちはいないらしい」

「そうなんですか!?」

「そうなんだよ、だから歴史の流れは大体一緒なんだけど中川コンツェルンとか両吉とかの分だけ色々なことがずれちゃうんだよね、こっちはまず前世よりも製品の流行り始めが早い」

「そこは中川コンツェルンの強力な物流パワーのおかげだな」

「言われてみれば不思議な話だね。WW2とかの人類に対する大きなイベントはともかく、神武景気や岩戸景気といった局所的な経済イベントなんかは中川コンツェルンがあるだけで様変わりするはずなのに日程すらズレてないんだ」

「いくら中川コンツェルンが大きくても人類全体の意思を制御できるほどではないということでしょう」

「なんだかんだで人類の力というものを感じる話だな」

「あと両吉がニッチなアイディア商品を当てちゃう時があるから、その時点で陳腐化する時がケッコーある」

「俺はアイディアマンだからな、未来知識なにするものぞというわけだ!」

 

 両津が警察手帳を扇子代わりにしながら豪快に笑う。

 

(なぜそこまですごいアイディアを出せるのに借金まみれなのだろうか)

「お、パチンコ玉! これで25銭は儲かったかな」

「それ濡れてるの犬の小便じゃないかい?」

「うおっバッチぃ!」

「あ」

 

 両津が左手に握ったパチンコ玉をなぜか離さず右手の警察手帳を手放し、さっきパチンコ玉が転がっていた場所に落としてしまう。そこには当然、この猛暑の中なぜか湯だった水たまりがあり、天声が必死で笑いを堪え、中川がげんなりとする。

 

「何でパチンコ玉じゃなくて警察手帳の方を投げちゃうんですか先輩」

「なぜかパチンコ玉から指が離れなかった……」

「20銭以下の警察手帳かぁ」

 

 中川は両津を見てさえいれば一目瞭然な考えを済みにやり、さっきから気になっていたことを天声に質問した。

 

「そういえば天声さんは先輩のことを『両吉』って呼びますよね」

「ああ、おみくじのあたり見たいでかわいいだろ」

「か、かわいい?」

 

 中川が思わずずっこける。

 

「ワシは縁起が良くて気に入っとるから良いが……ん!? おいあのマンションを見ろ!」

「あっ」

 

 両津が指差したマンションの最上階に豆粒のような影が見え、よく目を凝らすとそれが人間、さらにいえば自殺を考えている十代の女性だとわかる。

 

「相変わらず素晴らしい目だね両吉」

「言ってる場合か! 走るぞ中川!」

「はい!」

 

「お先!」

「は、速い!」

「おい! お前は警官じゃないだろ!」

「聞く耳持たん!」

 

 天声はスポーツ万能の両津、中川両名の全力疾走を軽く抜かし、まるで風のように道路を駆け抜けていく。それでいて通りがかりの自転車などは頭上を飛び越えてしまい飛び越えられた当人は気づかないほどスムーズに道を進んでいるのであっという間に角の向こうへと消えてしまった。

 

「あの人車と並走してませんでしたか?」

「ならこっちも同じ速度で走る!」

 

 両津は近くを走っていた自家用車を「タクシー!」と体を張って無理やり止めると警察手帳を見せ、助手席に乗り込み無理やりマンションに向けて発進させてしまった。

 

「中川は部長たちに連絡をとりながら来い!」

「はい!」

 

 こういう時は頼もしい男だ、と中川は素直に思いながらPHSの短縮番号を押した。

 

 

 天声が現場に着いた時、最初に目に入ったのはベコベコの軽バンとその運転手に謝っている両津の姿だった。

 

「さっすが両吉!」

「こちとら120kmで信号無視したんだぞ! 追いつくなよ人類として」

 

 などという両津を半ば無視してそのまま天声は両津に向かって全力疾走、

 

「おいなぜこっちに向かってくる」

「僕を最上階まで投げ飛ばせ!」

「何だと!? いや分かった!」

 

 そのままバレーボールのレシーブの要領で待機した両津の腕に乗り、ボールの要領で飛ぶふりをして超能力で自分を空中へ引っ張り上げる。

 

「うっそぉ」

 

 という軽バンの持ち主の声を背に頂上まで飛び乗ると、そのままへりに立っていた少女を天井へ引っ張り込んでおき、自分も後に続く。

 崖下では集合した『こち亀』の面々がこっちに向かって好き勝手喋っているのがチート身体能力を通じて聞こえ、自然と笑ってしまった。

 

 

「両ちゃん、今両ちゃんが女の子を屋上まで投げ飛ばしたように見えたんだけど……」

「そこら辺の事情は後で話す! 今はとにかくマットの用意だ!」

「なんだと? もうあの女性が確保したんじゃないのか?」

「部長! アイツは前に話したワシを両吉って呼んでる幼馴染ですよ!」

「何だと!? あれはお前の妄想じゃなかったのか?」

「妄想だったらこれで解決ですけど本当だから問題なんですよ!」

 

「アイツはワシ以上にイカれてる! とにかくマットを引け!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「両吉言い過ぎ」

 

 オレは勘吉がオレのことをイカれ扱いすることに文句を言いながら少女に近づいていく。屋上は仮にも地面が土だった地上と違って1時間いるだけでゆで卵ができそうなくらい熱い。

 オレは屋上に引き戻した女に目線を移した。目が合い、女が少しばかり怯えた顔を見せる。この程度で怯える女があんな遠い地面を何十分も見つめていたんだ。

 

「どどど、どっから来たんだアンタ! さっきアタシ浮いて──」

「さっきそこで見かけてね。飛び降りの先輩としてアドバイスだけしとこうと思って来た」

「は? ……はぁ?」

「まず、この距離の飛び降りは痛い!」

「な、何だよいきなり」

「しかも意外と死なないんだな、こう、落ちる時にもがくと意外と頭から落ちれなくて、逆に足から落ちもしなくて背中から落ちちゃったりするワケ。そうすると起きたら首から下が動かなかったりしてそっからは死んでんのに生きてると思っちゃったりするってワケ」

 

 俺は身振り手振りで脅しながら、女を観察した。今日一日じゃありえない汗由来じゃない制服の匂いと汚れ。欠食傾向。『身体的には女』のオレの目線にさえ反射的に体の一部を遠ざけようとする動き。その全てを具備しながら、その様子がありながら死にたくて死ぬやつの目をしていない。

 この少女は『死ぬしかないから死ぬ』奴だ───オレとおんなじ。

 

 

「ア、アタシを脅そうったって無駄だぞ」

「脅してるつもりはないね」

 

 困惑しきりの少女が、だんだんと状況を飲み込んできたのか、再び表情に怒りが混じり始める。

 

 

「じゃあ、いや……だから何だってんだよ!」

「おお」

「ここで助かってもなんだってんだよ! 放っといてくれよ! ここで助かっても警察がなんかしてくれんのかよ!」

「ホントそれな!」

「巫山戯んな! 帰れよ! バカにしやがって!」

「バカにしてないよ」

「何が」

「先が見えないんだろ?」

「あ」

「ここが何とかなっても、この先の人生でここまでの負債が返ってこない気がするんだろ?」

「な」

「もう『今』がチャラにできれば何も要らないんだろ! 『今』が手放せさえすれば!」

 

 少女はもう何も言わないで、頬を濡らしてしゃくりあげていた。近づいて来たオレを突き飛ばす。そうだよな。今日あったおばさんに何も話せねえよな。

 屋上の端から下の様子を見る。

 

 大原部長と思しき人が「そこにいろ」と手旗で示し、勘吉が「こっちに落ちて来い」とジェスチャーを行なっている。自分の額から汗が一粒落ち、あまりの地面の遠さにそれを見失う。

 無意識に喉が鳴り、歯がガチガチとなるので見るのをやめた。

 勘吉がオレのことをよく分かってるし、やっぱり頼れる大人だね。

 

「ねえ」

 

 少女がオレの方をじっと見つめる。

 

「下を見てご覧、あの角刈りのオッサン。けっこー頼りになるんだよ。もしここを生きて帰ったらおっさんに相談してみてよ、ぜってー何とかなるから。でも!」

「でも?」

「今日は死んじゃおっか」

「えっ」

 

 オレは、少女をお姫様抱っこでしっかりと抱いて、勘吉たちがいる方向と真逆に向かって大きく飛んだ。

 中途半端な距離にならないように青空に向かって! 

 少女は一瞬、オレの顔を見ると、首をしっかりと抱いて、その身を全部任せてくれた。

 彼女には悪いけど、オレはこういう時に必ずある男の声を思い出してしまう。

 

 

 

 

『俺を見てりゃあわかるだろ! 人生生きてりゃ何とでもなる! 辛い時があったら黙ってオレに着いて来い! だからまずは生きろ!』

『両吉……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬の浮遊感のあと、景色がピタッととまった。

 

 

「あらら」

「ワ、ワシじゃなかったら死んでるぞバカが!」

「ね、このオッサン、頼りになるでしょ」

 

 大人2人分の体重を1人で支えきるのは流石に設定盛りすぎ 好き好き大好き♡キスしちゃお♡

 ……勇気が出なかったので頬に掠らせる程度に終わった。

 

「あっこらキモいことをするな!」

「うぉっ、ちょっと、落とさないでくれないかい?」

「キモいことするからだ!」

 

「高所恐怖症が無理すんなよな、エスパーでいくらでも浮けただろうが」

「そういうズル【チート】はやり方をしっていても使う気がなければ使わないようにできるのが良いところだよ両吉」

 

 オレは腕の中で呆然としている少女の腰を叩いて気つけをして話しかけた。

 

「ま、死ぬのはそんなに悪い選択肢じゃないと今でも私は思ってるけど、死んでも人生が続いちゃうんじゃ死んでもしょうがないしね」

 

 僕、いや私はどんどんと周りに集まってくる警官たちに申し訳なさそうなふりをしながら少女に言った。

 

「それに、この世界はケッコー楽しいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約二週間後。

 

 

「お姉様♡お久しぶりです♡」

「久しぶり譲ちゃん」

「うーむ、こんなところまでテンプレートでなくてもいいんだけどね」

「助けたのはワシだぞ……! お前の親と話しつけたのが誰か言ってみろ」

「だからありがとうっつってんじゃねーかよゴリラ! 超感謝してるよボケ! 将来の夢にお巡りさんってかいたわタコ!」

「お、おう……」

「先輩があっさり負けてる……」

「きゃあ! 両ちゃん鍋に唾が飛ぶからやめてちょうだい!」

「おい天声向こうの部屋からワシの箸とって来てくれエスパーで」

「ほい」

「お姉様に近づくな猿!」

 

 いろいろなことが良いところに収まった後、オレたちは派出所に集合して夏なのに鍋を囲んでいた(マジで何で?)。

 

「なんか悔しー!」

 

「こいつは心が男なんだよ」

「えっお姉様はお兄様なのですか?」

「うーん、まあね……両吉、そういうの多分今後許されなくなるから治しといたほうがいいぞ!」

「え? 何で?」

「人の大きな事情を他人がバラしてしまうのは人としてダメですね」

「そうよ両ちゃん!」

「まあ今更いいけどさ」

 

 譲ちゃんがオレのことを見て、その後勘吉の方を見てから、

 

「じゃあ私に好かれてよかったですね♡」

 

 と言ってくれたので()()()()()()髪を撫でたら、彼女は寂しそうに笑って、顔が見えないように私の服の中に潜った。

 その様子を見て中川くんがあっ、と口を思わず押さえた。さすが80年台にして現代並みの倫理観の男。オレはまだ相手の性的嗜好に配慮できねぇ。

 

「くそっ見せつけやがって! それが何で今世でこんなにモテるんだ! 同性にまでモテるのは反則だろ!」

「ま、顔かな?」

「お前まで〜!」

「またオレなんかやっちゃいました?」

 

 オレに抱きついている譲ちゃんも顔を拭き終わったみたいで、オレの服から顔を出して鍋を突き始める。

 その様子を見た麗子さんが服に残った涙の跡にか、はたまた一流の女のカンか、なにかを勘付き、突然オロオロと中川くんとアイコンタクトをしきりにし始めた。知らぬは勘吉だけである。

 

 僕は脳を切り替えるように首を数回振り、私の好きな具を探し始めた。

 

 ふと鍋から顔を上げた時、私はゾッとしたような、同情的な目を向けてくれる中川くんたち両吉の後輩と目が合ってしまう。

 私は彼らにだけ見えるように僅かに肩を竦めてみせた。そして未来に向かってファイティングポーズを取って見せた。かかって来い麻里愛!俺の方が物理的には強いぞ(魅力は負けてる)!

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