こんなデスゲームは嫌だ。

※この作品は小説家になろう、カクヨムでも投稿されています。

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デスゲーム運営の致命的なミス

 例えば、君が空腹を満たす為に、行き付けではないレストランに入ったとしよう。

 

 その店内は騒がしく、店員の手際が悪く、料理も普通に不味かったとする。

 

 だとしても、多くの人間は不味い飯を食わせるレストランにも代金を払うだろう。

 

 二度と来店しないし、レビューで低評価を付けるかもしれないが、その場で「どうなってんだ!」と店員を詰問するような人間は少ないはずだ。

 

 勿論、俺もそうだ。それが社会性動物として正しい姿だと思っていた。

 

 ただ、何事にも例外があるわけで。

 

 時には、はっきりと声を上げなくてはならない場面もある。

 

 例えば、自分の生死を賭けたデスゲームの運営に対して、とか。

 

 

 

「えー、まずは弊社がこのデスゲームを企画した意図からお話させて頂きます。ある日、国民医療費の推移に対して危機感を抱いた社長が我々を呼び出し……」

 

 なんで、お偉いさんの長話って、一言目から長くなる事が察せられるんだろうな。

 

 俺は熱の籠った室内で、目立たないようにスーツの上着を脱ぎながら、現実逃避気味に考えた。

 

 ていうか、早く終わってくれないと熱中症になるわ。デスゲームが始まる前に死人が出るぞ。

 

 それに、さっきから、建物の外から聞こえてくる工事と選挙演説の音がうるさい。精神がガリガリと削られる。

 

 おかしい。デスゲームに巻き込まれるっていうのは、もっと緊迫感と没入感があるイベントじゃないのか。

 

「……命懸けの極限状態でこそ、後世に語り継がれるような頭脳戦と心理戦が生み出される。そのような信念の元、我々は一丸となってデスゲーム制作に注力して参りました。これより、ご協力頂いた皆様の名前を……」

 

 あ、誰か倒れた。図体のデカイおっさんだ。

 

 明らかに室内向きのデスゲーマーじゃなかったしな。一人目の脱落者が、なんとも間抜けな死に方だ。

 

 あの倒れたおっさん、どうなるんだろう?

 

「もしもし、救急です!場所は……!」

 

 係のお姉さんが電話していた。

 

 嘘だろ。救急車、呼ぶのか。

 

 てか、電話繋がるのかよ。俺もポケットからスマホを半出しにして、こっそり起動してみる。

 

 今日は遅くなりそう。夕飯は食べて帰る。風呂は流しておいてくれ、と。送信。

 

 おおぅ、送信できてしまった……。

 

「……それでは、簡単ではありましたが、私からは以上です。ゲームのルールに関しては配布された説明書をご覧ください」

 

 そうだな。アンタの話はマジで私信だったもんな。せめてルール説明だったら真面目に聞いたのに。

 

 俺は手元に配られた説明書を読む。紙質はザラザラだ。一々、微妙な気持ちにさせてきやがる。

 

 と、あれ?

 

「あの……俺の貰った説明書、印刷が半分消えてるんですけど……」

 

 恐る恐る、係のお姉さんに声をかけた。デスゲームの導入テンプレ的に、見せしめに殺されたりしないだろうな。

 

「しょっ、少々お待ちください!今、印刷して持ってきますので!先輩、説明書ワン入りました!」

 

「説明書ワン、了解!」

 

 ラーメン屋のオーダーかな?

 

 ドタドタと走り回る係の人。手際が悪いな。時期的に研修中の新人なのかもしれない。

 

 皆が通る道だ。温かい気持ちで見守……れるか、馬鹿。こっちは文字通り命懸けなんだぞ。

 

 俺が説明書を受け取ると、お姉さんが元気良く叫ぶ。

 

「じゃあ、二人組作ってくださーい!」

 

 何故か俺の隣に立っていた黒ずくめの女の子が胸を押さえて倒れた。大丈夫か?

 

 

 

「クククッ、まさかカードゲームとは……!これが我の運命力よ!」

 

 俺が介抱するまでもなく起き上がった黒ずくめの女子──仮称オタクちゃんが、端を痛めそうなカードの切り方をしている。

 

 彼女が倒れている間、セクハラ扱いされない程度の距離をとって呼び掛けていたのだが、そのまま強引にペアにされてしまった。

 

 そして、今作ったペアこそが、デスゲームでの対戦相手になるらしい。

 

 なんて悪辣な仕掛けなんだ……!と憤るべきなのだろうが、関係性が薄過ぎてイマイチ乗れないのよ……。

 

 まあ、そんな事はどうでも良い。いよいよゲームだ。安っぽい説明書を捲り、「Card Game」の頁を開いた。

 

 ホラー感を出そうとして、結果的に読みづらくなっているだけの変なフォントが、絶妙に哀愁を誘う。

 

「ん……?」

 

 そして、俺は頁を二度見した。今、とんでもない事が書いてなかったか?

 

 ……落ち着け。冷静にまとめよう。

 

 だらだらと無駄な説明が多かったが、このカードゲームの力関係を簡潔に表現するとしたら、下記のようになる。

 

 神滅騎士(手札に1枚まで)>神族(手札に5枚まで)>その他のモンスター(無制限)。

 

 ちなみに、属性相性などはあるが、神滅騎士に勝てるカードは一枚もない。出された時点で敗北が確定する。

 

 ……。……?

 

 なんだ、このカードゲームは……?

 

 どちらが先に神滅騎士を手札に引けるかのガチャじゃないか。

 

 バランス崩壊にも程がある。最後の一問だけ馬鹿げた高得点になっている、昔のクイズ番組みたいだ。

 

 頭脳戦と心理戦は何処に行ったんだよ。詐欺じゃねぇか。

 

 いや……。いや、もしかして、俺がルールを正しく読解できていないだけなのか?

 

 そうだよな。いくらなんでも、デスゲームの運営がそんなに杜撰なわけがない。

 

 連中はプロだぞ。企画を通す前に、ダブルチェックとかしてるはずだ。そうだと言ってくれ。

 

「あわわ……」

 

 あっ、駄目そう。対戦相手のオタクちゃんも混乱してるもん。

 

 多分、俺なんかより何倍も熟練のカードゲーマーなのに、可哀想なくらい目が泳いでいる。

 

 もう終わりだよ、このゲーム。

 

 

 

「くっ……!」

 

 俺はオタクちゃんに追い込まれていた。

 

 俺達二人は互いに引き運がなかったようで、ゲーム中盤になっても神滅騎士が出る気配はない。

 

 結果、表面上は普通のカードゲームが成立してしまっていた。

 

「ふへへ、あと5秒で私のターンですよ、お兄さん!」

 

 オタクちゃんは既にキャラ作りを捨てていた。極限状態になると、人間の本性が現れるんだなぁ。そのままの君でいて。

 

 俺の手番終了を告げるカウントダウンが無情に進む。俺の人生もここまでか。

 

 3、2、1。

 

 せめて、国民的海賊漫画の大秘宝の正体を知ってから死にたかった……。

 

 0。

 

 我ながら、今生への未練が微妙だな。

 

 1、2、3……。

 

「はあァ!?」

 

 オタクちゃんが、女の子が出したとは思えない低い声で吠えた。びっくり。

 

 しかし、それ以上にびっくりな事が起こっている。

 

 そう。ゼロになったカウントダウンが、1・2・3とまた増え出したのだ。

 

「ちょっと、どうなってるんですか!係の人!係の人ー!」

 

「……皆、帰ったよ。ゲームが全部終わったら遺体を回収しに来るって」

 

 デスゲーム完全自動化の実証試験でもあるらしいからな。係のお姉さんが言っていた。

 

「って事は……?」

 

「ああ」

 

 このゲームには手番の時間制限がない。やろうと思えば、一方の意思で永遠に引き延ばせるわけだ。

 

 俺達は即座に理解する。今、ゲームの趣旨は大きく変わった。

 

 これは肉体でなく……心を抓む戦い。

 

「百歩譲って死ぬのは構わないが」

 

「ええ、そうですね」

 

 今、俺達は心が通じ合っている。

 

「「こんなデスゲームに殺されるのだけは、絶対に嫌だ!」」

 

 長い戦いになりそうだ。

 

 

 

 俺はデスゲームから解放された。

 

 ついでに、オタクちゃんと熱中症のおっさん他、愉快な参加者達も無事に解放された。

 

「処刑装置の故障で全員生存とはな……。品質管理はどうなってんだ」

 

「あの7時間に及ぶ泥仕合は何だったんですかね……?最後なんてほとんど人間性を捨ててましたよ」

 

 オタクちゃんが虚無の表情をしている。

 

「半分気絶して、俺の事を5回くらいヒロちゃんって呼んでたよな。誰だよ、ヒロちゃん」

 

「それは、弟の名前で……ってプライバシーですよ!」

 

 弟がいるのにデスゲームに巻き込まれたのか。災難だな。

 

「ところで、あの会社はどうなったんですかねー。デスゲームとか言ってましたけど、普通に犯罪ですし、海外に高飛びとかしたんでしょうか?」

 

「捕まえたよ」

 

「え……?」

 

 俺は溜め息を吐いた。マジで杜撰な連中だったな。

 

「こう見えてお兄さん、警察のお偉いさんなんだわ」

 

 警察手帳を見せてやると、オタクちゃんはあんぐりと口を開ける。

 

「多分、参加者の身元確認すらしてなかったんだろうな」

 

「それは……」

 

 致命的なミスですね、とオタクちゃんは呆れた顔で言った。




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異能バトル長編もよろしくお願いします。

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