【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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last.ここにいます

 

 

……2026年4月6日、月曜日。午前7時。

 

「それじゃあお母さん、そろそろボク行くから」

 

朝食を終えて支度を整えたボクは、制服に着替えて玄関の前まで向かった。

 

「あなたも今日から、三年生ね」

 

「そうだね」

 

「しっかり勉強するのよ」

 

「はいはい、分かってるって。ボクの耳にタコができるくらい聞いてるよ」

 

「……彩月、その、ボクっていうの何とかならないの?」

 

「え?」

 

「あなた女の子なんだから、似合わないわよ」

 

「……それは、お母さんの気分の話でしょ?」

 

「………………」

 

「ボクのことは、ボクが決めるから」

 

「……彩月」

 

「それじゃ、行ってきます」

 

そうしてボクは、玄関を開けて出ていった。

 

「………………」

 

結局、未だに母さんとは仲良くない。

 

楽しい雑談を交わすこともないし、ボクのことを理解して貰えてはいない。

 

でも、それでいい。

 

お互いに人間であるなら、相性の合う合わないがあって当然。それがたとえ、親であっても同じこと。

 

ボクは親という色眼鏡をかけて、お母さんを大きく見すぎていたんだ。

 

必要以上に怖がることはない。

 

そして、必要以上に憎むこともない。

 

ただ、そうかと、思うだけでいいんだ。

 

「彩月さん」

 

優樹くんが、ボクに声をかけてくれた。

 

彼の口には、春のようにあたたかな笑みが浮かんでいた。

 

「おはよう、優樹くん」

 

「うん、おはよう」

 

ボクたちは二人並んで、学校へと向かった。

 

校門をくぐると、桜並木がボクたちを迎い入れてくれた。風に吹かれて桜吹雪が舞っていて、ボクたちの肩や頭に降り注いでいた。

 

「ようやく、学校が始まったね」

 

「そうだね」

 

「普段はめんどくさいなって思うけど、なかったらなかったで寂しいものだね」

 

「うん、意外とね」

 

悠々と雑談を交わしながら、二人で校舎の中へ入った。

 

「ん?」

 

すると、廊下で二人の女の子を見かけた。

 

「え、えっと、どっちだっけ?教室……」

 

「わ、分かんないよ。だ、誰かに聞いた方がいいんじゃない?」

 

「で、でも誰も知り合いいないよ……」

 

幼い顔立ちで身長も低かったことから、二人は恐らく新一年生なんだろうと予想がついた。

 

「教室が分からないの?」

 

ボクの声を聞くや否や、二人はびくっ!と肩を震わせて、恐る恐るボクの方へ顔を向けた。

 

「あ、は、はい、場所、分からなくて……」

 

「い、一年二組の教室、なんですけど……」

 

「ああ、二組なら廊下を真っ直ぐ言って、奥から二番目の教室だよ。ボクも以前、そこの教室だったんだ」

 

「あ、あ、ありがとうございます!」

 

「た、助かりました!」

 

「うん、それならよかったよ。それじゃあ、がんばってね」

 

「「は、はい!」」

 

そうしてボクたちは、彼女たちへ背を向けて、三年生の教室へ歩いていった。

 

「あ、あの人、なんか、かっこよくなかった……?」

 

「分かる!ボ、ボクっ子で、イケメンだった!」

 

「ね!な、何て名前の先輩なんだろう……?」

 

彼女たちのひそひそ声が、思わずボクの耳に届いてしまった。

 

「ふふふ、彩月さん、イケメンだって」

 

優樹くんは、なんだか嬉しそうに笑っていた。

 

ボクはちょっと照れ臭くなって、肩をすっとすくめた。

 

「初めて言われたよ、あんなこと」

 

「でも確かに、彩月さん本当に堂々とするようになったね。以前までの君とは大違いだ」

 

「まあ、それは自分でも思うよ。さっきのおどおどしてた一年生を見て、昔はボクもあんなだったなあって思ったもん」

 

「ははは、そうだね。君もあんな感じだった。あれはあれで、可愛かったけどね」

 

「もう、優樹くんったら」

 

ちょっとしたイチャイチャな会話をしつつ、ボクたちは教室へ入った。

 

中には、既に他のクラスメイトたちが集まっており、がやがやと騒がしく談笑していた。

 

黒板に席順が貼られていて、ボクと優樹くんはそれ通りに座った。

 

今回、ボクは窓際の一番後ろの席となった。自分の席からクラスメイトみんなの背中を一望できる場所に座っていた。

 

「おっ!純一!また席近いじゃん!」

 

「うっすリョータ!」

 

「かなっちー!よろしくねー!」

 

「やったー!桜ちゃーん!」

 

自分の席の近くに親しい友人が来て、喜び合うクラスメイトたち。

 

そんな彼らを眺めていると、全然関係ないボクもなんだか嬉しくなって、いつの間にか口許が少し緩んでいた。

 

「今回もお隣だね、彩月さん」

 

そして、左隣の席となった優樹くんが、ボクへそう言った。

 

「また隣になれて、嬉しいよ」

 

「うん、ボクも嬉しい」

 

ボクと彼は、にっこりと微笑みあった。

 

「おーい!さっぽーん!優樹ー!」

 

ふと見ると、遠くの方で千夏さんがボクたちに手を振っていた。

 

周りにはなんと、西川さん、二階堂さん、小岩瀬さんが固まっていて、みんなこっちへ手を振ってくれていた。

 

「凄い、ボクたちみんなおんなじクラスだ」

 

「ほんとだね」

 

「今年も、楽しくなりそうな予感」

 

「うん、きっと楽しくなるよ」

 

ボクも優樹くんも嬉しくなって、彼女たちに手を振り返した。

 

「よーし、ホームルーム始めるぞー」

 

先生が教室へ入ってくると、クラスメイトたちはみんな話すのを止めて、静かになった。

 

「それじゃあ、出欠を確認するぞー。まずは、有馬!」

 

「はい」

 

「江藤!」

 

「うーっす」

 

「金森!」

 

「はーい!」

 

「黒影!」

 

「はい」

 

「うん?黒影ー?どこだー?」

 

どうやら、ボクの声が小さかったらしく、先生はキョロキョロと教室を見渡した。

 

そこで優樹くんが、「先生、彩月さんはここに……」と、そこまで言いかけていた。

 

「優樹くん、ありがとう。でも、いいよ」

 

「彩月さん?」

 

「ボクは、もう大丈夫」

 

彼にそう言って笑いかけた後、ボクは真っ直ぐに手を上げた。

 

 

『……ボクなんて、いてもいなくても同じだ』

 

『 ボクが今死んだところで、誰も悲しむ人なんていない』

 

 

「先生!ここです!」

 

教室に響き渡るほど大きな声で、強く叫んだ。

 

 

 

「ボクは、ここにいます!」

 

 

 

 

 

おしまい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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