アトリエシリーズってもっと和気藹々してるモンだと思ってたんだけど!?   作:ドンケルハイト量産計画

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プロローグ部終了。今話については都合上ほぼ原作と同様の流れです。新鮮味がない事をあらかじめお伝えしておきます。


紹介

「ナナシさんは私について来てくださいね」

「ああ、しっかり着いていくぞ。この歳で迷子は御免だからな」

 

 彼女のアトリエ(候補地)のある高台を下り、川を渡った先に調査団の拠点がある。遠目から見ても分かっていたが、廃屋と4本の柱に布を張った様な仮設テントが立ち並んでいて、拠点と呼ぶにはいささか頼りない雰囲気もある。恐らく、ここに来てまだまだ日が浅いのだろう。

 

 ぷに太郎が迷子にならない様に抱き抱えながら、俺は拠点へ続く橋を渡り、その入り口へと近付いていた。

 

「──おい、錬金術士。お前は何を連れて来た」

 

 すると、入り口の側に居た怖い表情をした髭面の男がユミアに詰め寄ってきた。突然の事に身体が咄嗟の反応を見せ、俺はその間に割り込んでしまう。

 

「何だ貴様は」

「……ああ、申し訳ない。俺はここを旅していた者で」

「この地に人間が居るだと……? あり得んな。まさか錬金術士、お前は嘘を吐いて手柄を立てようとしているんじゃないのか?」

 

 だが、その男のユミアへの敵視が半端ではない。おかげで俺は彼女の前を離れられずに居た。おいこれ仲間なんだよな、敵じゃないよな。

 

「ち、違います。ナナシさんは本当にここの人で……」

「どうだかな。禁(・)忌(・)の(・)術(・)を使う様な奴は信用ならん。団長はどういう訳かお前を利用しようとしているらしいが」

「……っ」

 

 ──いや、本当に味方かこれ。嘘だろ。禁忌の術だか何だか知らないが、初っ端女の子にこんな罵詈雑言が飛んでくるゲームなのアトリエシリーズって。思ったよりハードコアなんだな……。

 

 だが、黙ってこの場をやり過ごすのは俺の気が収まらない。彼女は耐えれば良いと思ってそうな顔してるが。

 

「……いや、別にユミア嬢はそんな事する様な子じゃない。それに俺が偽物って証拠はあるのか? 疑うなら、そっちが証拠を示すのが筋だ。無いならただの難癖でしかないと思うが、それは違うのか?」

 

 そう言うと、男の顔は怒りで赤みを増した。

 

「禁忌を犯す人間の何を信じれば良いと言うんだ!」

「悪い……アンタの言葉はさっぱりだが、やっぱり調査団なら調査の役に立ったって結果じゃないか? ユミア嬢は俺をここに連れて来た事で俺が持つ情報を得ることが出来るが、アンタはそれ以上の事をやって来たのか?」

「な、ナナシさん!? 私は大丈夫ですから!」

 

 こうなればもう売り言葉に買い言葉の有様だ。向こうが勝手にヒートアップしてるだけだが。

 

「コイツと貴様の何が役に立つと言うんだ!」

「差し出がましい事を言わせてもらうが、それを決めるのはアンタじゃなく、アンタが言う団長さんなんじゃないのか?」

「っ、貴様ッ!」

 

 彼の拳が振り上げられようとしたその時──

 

「お前ら! 一体何してるんだ!」

 

 ──強く鋭い男の声が、その場の空気を変えた。

 

 

 

 

 

「──ウチの連中が悪かったな、ユミアと、お前も」

 

 杖を突いた強面の古強者って雰囲気の男は、申し訳なさげにそう言った。

 喧嘩一歩手前の所をたった一言で終わらせたこの男こそ、調査団の団長であるらしい。どっしりとした雰囲気、確かに威厳を感じるぞ。

 

「いえ、私はまだ何も出来てないですから」

「……けど、あの態度はないだろう? お前もそう思うよな〜ぷに太郎」

「ぷにっ」

「ほら、ぷに太郎もそう言ってる」

「ほお、お前は魔物の言葉が分かるのか?」

「いや分からん」

「はははっ、ユミア、お前面白い奴を連れて来たな! 俺はエアハルト、この調査団の団長だ。よろしくな」

「俺の名前はナナシです。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 ただ一方で愉快なおじさんという雰囲気もある。何というか、良い意味で子供っぽくもある感じだ。バシバシと肩を叩かれながらそう思う。

 

「しっかし、こんな鎧を着たまま大陸を横断したなんて大したもんだ。脱がないのか?」

「……いや、訳あって脱げなくて」

「そうか。……で、俺に話があるんだったな。まずはユミア」

「あ、はい! やっと見つけたんです。私のアトリエにぴったりな廃墟を!」

 

 と、ユミアに話が回って来たが、彼女は目を輝かせてあのアトリエについて力説し始めた。

 

「多分錬金術士が使ってたんだと思います。もしかしたら遺物もあるかも……! 後、丁度灯台から続くマナの流れの上にあって──」

 

 俺は別に錬金術士じゃないんだが、彼女の語りを聞いていると何となく凄い場所なんだとは伝わってくる。ボロい模型屋でレアなプラモを見つけた時のような感動に近いのかも知れない。

 

「──お、おいユミア」

 

 だが、滝のような言葉を浴びせられた団長はやや引き気味にその言葉の続きを断ち切った。

 

「なんですか?」

 

 ……俺は何となく空気で悟った。これ、怒られる奴だ、と。

 

「俺は確かにお前に『準備をしておいてくれ』とは言った。だが、あちこちを調べ回れとは言ってない」

「……すいません。早く役に立ちたくて」

「ちゃんと言っていなかった俺に責任はある。そう思い詰めなくて良い。結果論だが、調査せずにすぐ帰っていればナナシの保護も出来なかったろうしな。ただ結果良ければ全て良し、では組織は成り立たない。もし独断専行で何かあれば俺も庇いきれん。これを機に改めて意識しておいてくれよ。……お前はアラディス調査団の要であると同時に、一応は監(・)視(・)対(・)象(・)でもあるんだからな」

 

 ……監視対象。また物々しいワードが出て来たな。禁忌の術といい、まるでユミアが罪人の様な言われようだ。アトリエシリーズじゃなくてテイ◯ズとか別のJRPGの様な重さじゃないか。

 

「……待ってくれ、ユミア嬢が何か悪い事をしたのか? その言われようはないだろう」

「ああ、こればかりは仕方ない事なんだ。……そう言えばナナシは錬金術が禁忌の術って呼ばれてるのは知っているか?」

「それは、さっきあの男が言っていたのを聞いたんだが……錬金術が禁忌の術だってのは?」

 

 エアハルトは表情を険しくしていた。隣に立つユミアもまた同じく。

 

「……かつて、この地に栄えていたアラディス帝国が滅んだ理由は、錬金術が原因だったと言われている」

「錬金術で国が滅びた……?」

「以来、錬金術は禁忌とされ表舞台に出る事は無くなった」

 

 ……なるほど。錬金術が禁忌と呼ばれるに至った経緯は分かった。

 

「ユミアは、そうした錬金術の評判をこの調査をきっかけに改善したいと考えているんだ。少し、焦り過ぎではあるがな」

 

 そして、ユミアがこの調査に参加する理由も。だが、錬金術が全部危険なものって訳でもない気がするんだが、全部ダメなのか。不思議な話だな。それだったら、家が燃えるから料理に火を使うのは全面的に禁止する、なんて理屈が罷り通りそうだが。

 

 なんて考えを捏ねていると、ユミアが何か言いたそうに俺を見ていた。

 

「ナナシさん。私は錬金術がみんなの役に立つ良い物なんだって示す為に、この調査に参加したんです」

「なるほど、ユミア嬢がどれだけ善良であろうと、扱う代物が代物だから、目の届く範囲にいて欲しい。そういう事ですか、エアハルトさん」

「まあ、そういうこった」

 

 ……親子、とまでは行かないが、2人の関係はそれなり以上で良好らしい。これならエアハルトさんはユミアの事を邪険に扱う事もないだろう。

 

「って事は、誰かがユミア嬢を監視するって事だよな」

「ああ、もうすぐ来るぞ。んで、ナナシ、お前の話だが……」

「そういやそうだった。あ〜俺は東から来たんだが、その中で見聞きした物について色々話が出来ると思う」

 

 だが『監視対象』ねえ。何というか、少し忌避し過ぎじゃないか。監視係がさっきみたいな奴じゃないとも限らない。エアハルトさんはまあ疑う必要はないにしても、調査団の他の連中については残念ながら印象最悪の状態だ。そんな中にユミアを1人放り出して、後方で保護されてるってのも、なんだかなあ。

 

「どうしたんですか、ナナシさん? 保護してもらうんじゃ……」

「……エアハルトさん。1つ頼みがあるんだが、構わないか?」

「ん、何だ。情報が貰えるなら、その対価に払える物は払うつもりだが」

「──俺もユミア嬢の調査に同行させてくれないか」

「お前、そりゃあ……」

 

 眼前のエアハルトが呆気に取られていたが、それより驚いていたのはユミアだ。

 

「えっ? えっ?! どうして急に!?」

「俺だって危ないのは御免だが、かと言ってじっとしているのも無理だ。なら、ある程度フィールドワークでもやっていた方が良いと思ったんだ。ただ……」

「部外者であるお前を自由に歩かせる訳にもいかない、か?」

「そう。だったら、俺とユミアを一緒に行動させてまとめて監視しておけば手間も省ける。一石二鳥……って事で」

「……全く、ユミア。お前とんでもない奴を拾って来たな」

 

 ピースサインをズイズイ出してアピールしてみると、エアハルトは呆れた様に笑っていた。強面だが、何かとよく笑う人だ。団長としての威厳やらは置いといて、こちらとしては寧ろそっちの方が取っ付きやすくて助かる。

 

「……確かに、今の調査団は使える人員は全て使っている状態だ。協力者が増えるなら助かる所だ。それにユミアに任せる任務の都合上、ある程度この地の勝手が分かるガイドがいる方が望ましい」

「……って事は、良いって事ですか?」

「いや駄目だろ普通に考えて」

「ですよねえ……」

 

 ユミアは調査の要とも言われている以上、監視対象であると同時に護るべき対象でもある筈なのだ。そんな子の側に得体の知れない奴を置いておくのは気が気でない筈だし、周囲からの認識にも悪影響になりかねない。

 

 しかしエアハルトは「だが……」と言葉を区切る。

 

「ユミアの調査の準備に必要なら話は別だ」

「私に、必要……」

「ユミアが必要だと考えるならナナシを連れて行くといい。それがお前の判断なら、とやかく言うつもりはないさ」

 

 ……なるほど。エアハルトさんでは責任が持てない。だからユミアの責任で俺を使うか使わないかを決めろ、って事か。責任逃れとは言えない。調査団なんて大勢の統率を取る以上、その足並みを乱しかねない行為は出来ないに決まってる。

 

 そしてこれは、俺に対しての杭でもある。俺が何か問題を起こせばユミアが責任を負う事になるぞ、と言う警告だ。

 

 撤回すべきか。一瞬そんな事が脳裏を過ぎる。が、彼女を見た時、目と目が合った。彼女は、俺の視線に1つ頷きエアハルトに向き直る。

 

「エアハルトさん。ナナシさんを調査に同行させても良いですか」

「……良いのか? ユミア嬢」

「一応だが、理由を聞かせてくれ」

 

 するて彼女は照れ臭そうに頬を掻きながら答える。

 

「ナナシさん、錬金術士のコトをなんて言ったと思います? 『困ってる人を助けるヒーロー』、そう言ってくれたんです」

「……ほう」

「だからナナシさんに見てもらいたいんです。……錬金術士が、ヒーローになる瞬間を」

 

 目がマジだ。あの時の発言を掘り返された事で、俺も少し照れ臭くなったが、その言葉で彼女に自信と勇気を与えられたのなら、それも捨てたもんじゃない。

 

「へへ、ちょっと、理由にしては個人的……過ぎですかね?」

「お前が決めたのなら、俺がこれ以上口を出す必要も無いさ。ナナシがお前の調査に同行する事を認めよう。ただし、ナナシから情報をある程度聞いてからな」

「はい!」

 

 やっぱり、見た目の割にとんだハリキリガールじゃないか。まあ、やる気に溢れているのは良い事だが。

 

「……なんて話をしてりゃあ、来やがったな」

 

 背後から足音が近付いてくる。振り返れば……そこには2人の男女が居た。

 

 揃って左上腕部に赤い布を巻いた2人。

 2人ともまだ若い、女性、少女にも見える彼女の方はおしゃれなのか、赤い布だけじゃなく白い布も巻いている。ユミアはぱっと見文学少女っぽさがあるが、こっちは誰が見ても白ギャルである。橙色の髪といい、臍だしルックといい、何から何まで明るそうな雰囲気を纏ってる。

 男性の方は、見事な細マッチョ。逆三角に加え厚い胸板が何とも頼りがいのありそうな爽やかイケメンな青年と言った所か、ただ、表情は若干硬い。

 

「団長。どちらが例の……」

 

 男性がそう問いかけると、団長は杖でユミアを指し示す。

 

「彼女の方が、アラディス調査の為に俺が招いた錬金術士だ。んでこっちは彼女が拾って来た現地の旅人のナナシ、だそうだ。伝えてはいるが、今後お前たちには彼女と彼の監視役として共に働いてもらう」

「……っ! 待ってください、アラディスに人が居たんですか!? それに彼の監視役、とは?」

「調査を開始したばかりで俺も想定外だったがな。詳細な話は後で聞くつもりだが、彼も彼女の調査に同行する流れになってな。だが今は錬金術士(こっち)の話だ」

 

 エアハルトと男性の間で進むのは何気ない仕事の会話、と言うには少し剣呑な雰囲気を纏っている。特に男性の方の表情は……何というか、憤りや困惑が混じった様な、そんな感じだ。女性の方は明らかにユミアに対して興味がありそうな様子。キマシタワー……はちょっと古いか。

 

「団長の指示であれば、それに従います。──君が、錬金術士、ユミア・リースフェルトだな」

「……は、はい」

「僕はユーステラ騎士団所属、ヴィクトル・フォン・デューラーだ。既に団長から話は通っていると思うが、僕らが君の監視役となる」

 

 どうやら、彼が監視役の1人らしい。

 

「立場をわきまえた上で、与えられた任務を遂行するように。勿論、僕らも協力はするが」

「はい、よろしくお願いします」

「……錬金術は禁忌の術だ。あくまで君は、調査の為に特例で術の使用が認められているという事を理解してくれ」

 

 ……ここまで来れば分かるが、堅物だ。間違いなくヴィクトルは堅物だ。見てるこっちが疲れそうなくらいに。

 

「も〜、お兄ちゃん! 初めましてなのにそんなカチカチじゃ緊張しちゃうじゃん!」

「そうだともヴィクトル君! これから共に調査をするんだ、是非仲良くしようじゃないか!」

「ほら、そっちの騎士さん……ナナシさんもそう言ってるし! 気楽にいこー、気楽に!」

 

 ……はは〜ん。彼女はヴィクトルの妹か。んで、俺の浅い知識だが、フォンが名前に付くって事は貴族って事だよな。どんな経緯で調査団や騎士団なんて肩書きを背負う事になったのやら。身体は鍛えてるが、何というか身綺麗で物々しさもあまり感じられない辺り、辺境伯って訳でも無さそうだ。

 

「む……」

 

 彼は腕を組み少し困った様な様子を見せていた。監視役としての立場を示したい一方、妹の言葉を無碍にしたくもない、そんな板挟みが見える。

 

「同じく騎士団所属、アイラ・フォン・デューラー。お兄ちゃんともども調査団には志願して参加したの。──よろしく、ユミア。歳も近そうだし、敬語は無しでお願いね! ナナシさんも、よろしくお願いしますね!」

 

 はにかみながら手を振る彼女。推定だが貴族だけあって、やや砕けた態度ながら気品を感じさせる振る舞い。思わずこっちの背筋が伸び切ってしまいそうだ。

 

「よ、よろしく。アイラさ……アイラ、で良いのかな?」

「あははっ、そんなに畏まらなくても良いのに〜」

「俺もよろしく、アイラ嬢。多分俺の方が歳上かも知れんが、別に敬われる様な奴でもない。ユミア嬢と同じく呼び捨てでもタメ口でも構わないぞ」

「アイラ嬢? そんな呼ばれ方初めて。じゃあ、改めてよろしく、ナナシさん!」

「えぇ? 俺はさん付け?」

「ナナシさんは、なんかナナシさんの方がしっくりくるから! ほら、お兄ちゃんも」

「……あ、ああ。以後、よろしく頼む」

 

 ユミア、アイラ、ヴィクトル。そして、俺。

 ──こうして、これから調査を共にする仲間の顔合わせは終わった。

 

 

 

 そして今、俺は──

 

「……この古い地図を見るに、俺はリグナス地方に来る為に、シバーシュ地方の南から儀式の山って所から地下水脈を通って来た事になるな。ただ、手応えで言うとここの魔物はリグナス地方の魔物より幾分か手強い。地下水脈にも魔物がうようよ居るから、ここから調査団を進めるってのは難しいだろうな」

「ふむ、そうか」

「悪いな、あまり役に立つ事が言えなくて」

「いや、使えないルートが分かるだけでも手間が省ける。今の状態では全てに人員を割ける余裕も無いからな」

 

 ──エアハルトへ俺の持つ情報の共有を行なっていた。ユミアはと言えば、実際の錬金術がどの様なものか、2人に見せたいと言ってアトリエに向かって行ってしまった。くっそ、見たかったな生錬金術……。

 

「所で、お前は記憶喪失だって話だが」

 

 無い歯をギリギリしたい気持ちに駆られていたその時、彼は俺の事を心配する様な目で見ていた。

 

「……錬金術ってものは、何を扱うか知ってるか?」

「さあ、分からないですけど」

「マナ……あらゆる生命が持つ記憶。そいつが死と共に世界に還り、マナとなる」

 

 ……マナ、か。ファンタジーらしいな。ただ、その力のあり方は何というか、スパンの早い化石燃料の様に聞こえる。死体が大地に還り、化石から石炭や石油へと変化し、それを燃料として扱う。『死体』の部分を『記憶』に置き換えたらほぼ同じだ。

 

「俺は昔、騎士団を率いて闇の錬金術士を追っていた事がある」

「いかにも悪そうな……」

「そいつは、錬金術によって人の記憶を切り売りしていた」

「……」

 

 絶句だ。アトリエシリーズに抱くほんわかとしたイメージはもはや無いも同然だが、まだ下が出てくるかと戦慄しつつあった。

 確かに、錬金術がマナ、つまりは記憶を扱うのであれば出来るのも当然だろうが。そこまでヤバい代物なのか、錬金術は。

 

「スラム街のガキに窃盗や暴行みたいな犯罪を犯させ、そうして作られたスリルのある記憶を闇の錬金術士は買い、刺激を欲する貴族に売り払う」

 

 他者の記憶の売り買い……もはやサイバーパンクの世界だな。

 

「胸糞悪い話ですね」

「そうだろう。俺も何度嫌気が差した事か。それで話を戻すが、お前は記憶喪失だって言ったが、それはもしかすれば──」

「錬金術によって奪われた、と」

「ああ、俺はそう睨んでる。アラディスの東で目覚めた事も、言葉は通じるのに、この世界の常識が悉く抜け落ちてる事も不自然だ」

「まあ、確かに」

 

 ……いや、俺が転生者だから、なんて話せる訳も無いよなあ。

 

 ただ、言葉が通じるのは確かに不思議な話だ。聞いていて日(・)本(・)語(・)で(・)な(・)い(・)事(・)は分かるが、にも関わらず話が出来ている。多分、この身体のせいなんだろうが。剣(・)な(・)ん(・)て(・)振(・)っ(・)た(・)事(・)も(・)な(・)い(・)のに、大剣を振り回せているのも恐らくはそれが要因なんだろう。

 

「お前をユミアと一緒にするのは、その為でもある」

「……まさか」

「錬金術士は記憶の専門家だ。ユミアと共にこの地を調査すれば、お前の記憶喪失の謎も突き止められると俺は睨んでいる。俺のアテが外れて本当にただの記憶喪失だったとしても、錬金術で治療出来る可能性もある」

 

 なんとまあ、随分と面倒見の良い人だ。お人好しと言ってもいい、だから団長なんだろうな。

 

「……ありがとうございます。団長」

「いいって事よ。こんくらいじゃお前の情報代にもならねえがな」

「別にここに居られるなら、情報代は要りませんよ」

「そうか。なら、これを渡しておこう」

「これは──」

 

 エアハルトが地図の敷かれた机の上に、赤い布を置いた。つまり、それは──。

 

「今、この時を以て、ナナシ、お前をアラディス調査団の現地協力員と任命する」

「……はい、承知しました」

「ユミア達の力になってくれ、頼むぞ」

「ええ、勿論ですとも!」

 

 

 

 ──思えばこの時、俺はユミア達に力を貸す事が『使命』いや『天命』の様に思えていた。何故だかは分からなかったが、今になって思う。

 

「……リリーボレア嬢。悪い、な、一緒に、逝けなくて」

「な……んで。貴方が居なくなったら、私は本当に独りに──」

「アンタ、は、ゆっくり、来てくれ……それで、旅の思い出……を……」

 

 

 

「──許さない。許さない! コルレオニスゥゥゥゥッ!」

 

 

 

 ──全ては、きっとこの時の為だったのだろう。

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