これは結束バンドとトゲナシトゲアリが出会う物語。
「陰キャなら、怒りも喜びも哀しさも全部ぶちこんで、ロックをやれ!」
ぼっち・ざ・ろっく!×ガールズバンドクライ
「結束バンド? 何の話?」
ライブハウスSTARRYでのライブ後、結束バンドの取材に来たと言っていた音楽ライターさんが苦笑いで傾げた。
「あたしが言ってるのはギターヒーローさんだけ」
あとで知ったけど、この人は結束バンドではなく私、後藤ひとりが文化祭ライブでダイブしたことを記事にするために来たらしい。そして、私の演奏のクセを見て、ギターヒーローだと見抜いたのだ。
プロデビューできるかもしれないという話で盛り上がっていた私たちに困ったような顔を向けた。
「っていうか、"ガチ"じゃないですよね」
その言葉で私たちに緊張が走った。喜多さんの屈託のない笑みから光が消えた。リョウさんの表情に大きな変化はないけど、瞳が少し見開かれた気がした。そして、虹夏ちゃんは感情を失ったように顔が強ばり、小さな声が漏れた。
「えっ……」
ライターさん曰く、私たちのバンドを見に来るのは常連さんだけ、バンドの宣伝もせず、本気でプロを目指しているようには見えないとのことだ。
一方的なライターさんの言葉に言い返すこともできず私たち押し黙っていた。そこに店長さんとPAさんが割って入り、ライターさんを追い出そうとしていた。
言葉にならない感情で心が苦しめられる。考えもまとまらないまま、私は震える声を絞り出す。
「あっ、あの……私は……」
今まさに追い出されようとしているライターさんが私に声を掛けた。
「こんなところでうだうだやってると、あなたの才能腐っちゃいますよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ライターさんが立ち去った後、店長さんに気を遣ってもらった私達は早めにバイトを上がることにした。
私たち、結束バンドの4人はSTARRYの階段を上がり地上へ出た。
「じゃーね。ぼっちちゃん、きをつけてね!」
虹夏ちゃんは何事もなかったように明るい声で見送ってくれた。でも虹夏ちゃんもリョウさんも喜多さんもどこか寂しそうな表情に見えた。
夜の下北沢を一人で歩く。モヤモヤした気持ちがリフレインした。
私はあのとき、ライターさんに好き勝手言われたとき、何か言い返そうとしたのだ。
ギタリストとして皆の大切な結束バンドを最高のバンドにすること。それが私がバンドをする理由だ。でも、私はバンドになるとうまく合わせられない。メンバーを引っ張れるほどの実力をライブで発揮できないのだ。そのライブでの酷い演奏はライターさんにも指摘された。
何ひとつ反論できる余地はなかった。
無意識に歩いていた私は、いつの間にか小さな広場にたどり着いた。そして、そこにあるスツールに腰掛けた。
住宅地に囲まれ静かな落ち着ける場所だ。こうして一人佇んでいると、虹夏ちゃんと初めて会った公園を思い出す。
思えば、あれからいろんな事があった。虹夏ちゃんに連れられSTARRYに行き、そこで会ったリョウさんと一緒に初めてのライブをした。学校では喜多さんと出会い、毎日のようにギターを一緒に練習した。そして4人で初めてのライブ。そのライブ後、虹夏ちゃんの"本当の夢"を聞いた。
その虹夏ちゃんが言ってくれたことは、いまでも忘れない。
今日のぼっちちゃん、私には本当にヒーローに見えたよ────
バンドをやるという私の夢を叶えてくれた虹夏ちゃん。その虹夏ちゃんが私のことを信じてくれているのに、私はその期待に応えられていない。ただただ、それが悔しかった。
視界が霞む。頭上を見上げると、夜空の星々が滲んで見えた。
その時、暗闇に声が響いた。
「あっ! ギターー!!」
声の主は走りながら近づいてくる。街灯に照らされた顔は赤らみ、息が上がっていた。
「それってギターですよね? 弾けるんですか?」
短めの栗色のおさげ、綺麗な青い瞳をした同い年くらい女の子だった。
彼女は興味津々に私の顔を覗いてくる。対する私は初対面の相手に緊張して自然にしゃべれない。
あわあわして戸惑っている私を気遣うように彼女は言葉を続けた。
「突然すみません。ちょっといま困っていることがあって、無理だったら大丈夫なんですけど……。大丈夫なんですけど困ってて……」
彼女の声はだんだんと小さくなっていった。
これ、絶対だいじょばないやつ……! ここは関わらずに逃げるのが吉。
私は震える声を発する。
「あっ、あの……私このあとライブの打ち上げがあって……」
もちろん打ち上げなんてない。時計も何も着けていない左腕を確認しながら立ち上がる。
「あっ、そろそろ行かないと遅れちゃう!」
ギターを背負い直して歩き出す私。それをなだめるように彼女が制した。
「私もそっちの方向なんで、とりあえず一緒に歩きながら話だけでも!」
懇願するように手を合わせながらうるうるな瞳を向けてきた。
ダメだダメだ、断るんだ私!
「ま、まぁ、話だけなら……」
私のば~か~! 断れ~い!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「私のバンド、このあとライブなんです」
二人で肩を並べながら歩き出すと彼女は話し始めた。
「なのに桃香さん……ギターの人が電車で遅れてて、ライブ開始までに間に合わなさそうで」
下をうつむく彼女の顔には不安の色が浮かんでいた。それでも勇気を振るうようにこちらに顔を向ける。
「そのつなぎと言ったらなんですが、サポートギターとして何曲か一緒にやってほしいんです!」
知らない人たちと一緒に、しかも知らない人たちの前で演奏するなんて……。想像するだけで緊張で吐き気がしてきた。今の私には無理だ。マンゴー仮面は2度と許されない……。
「私じゃなくても……。あっ、下北沢ならギター弾ける人、いっぱいいるんじゃないですか?」
下北沢はギターロックの聖地。いわゆる下北系バンドがたくさん活動している。
すると彼女は手を前で組ながらモジモジした。
「いや~何人かは居たんですが。……変な勧誘だと思われて無視されちゃいました」
私も無視できれば……。でも、真のコミュ症は逃げることもできないのだ。
彼女は私の背負っているギターを見ながら続けた。
「バンドやってるんですよね。どんなバンドなんですか?」
「は、はい。一応……下北系みたいな。あはは」
「へぇー。私、そんなにバンドに詳しくないんですけど、なんかかっこいいですね!」
屈託のない笑顔で彼女はそう言った。
かっこいいって褒めてくれた! この人、いい人かも。何か会話を続けないと……。
「そ、そちら様はどどのようなおバンドを……」
変な丁寧語を聞いて彼女は笑った。
「そんなかしこまらなくても。わたし井芹仁菜っていいます。仁菜でいいですよ」
仁菜さんは前を向いて続ける。
「わたし達は川崎を中心にバンド活動してるんです。これでもプロデビューまでしたんですよ」
「ぷぷぷプロデビュー!?」
「はい、デビューしてすぐ辞めちゃいましたけどね」
彼女は自嘲するように照れ笑いをした。
もしかして私、いますごい人とお話ししているのでは!?
ここで私がサポートギターとして助けに入って演奏することで、私の才能が世間に知れ渡り、私と結束バンドの噂で下北沢がもちきりに! メジャーレーベルが私達の元にやってくる。スカウトされてプロデビュー! 人気バンドになって売れたら学校中退できる────
いやいや、そもそも、そんなすごい人達と一緒に演奏したら私の下手さが際立って死んじゃう!
そんなことを考えていると仁菜さんの足が止まった。
「あ、いつの間にか駅まで来ちゃいましたね」
顔を上げるとたくさんの人達の往来、下北沢駅の小田急線専用改札口が見えた。
仁菜さんはこちらを振り返り、丁寧にお辞儀をした。
「無理なお願いしてごめんなさい。こっちのことは自分たちでなんとかしてみます」
仁菜さんは小さく微笑むと後ろを向いて走り出した。
その姿がいつかの虹夏ちゃんの後ろ姿と重なった。虹夏ちゃんが打ち明けてくれた"本当の夢"、有名になってSTARRYを盛り上げること。そのために私にできることはギターを弾くことくらいかもしれない。
それでも────
「あ、あの!!」
想像以上に声が大きくなってしまい、驚いた仁菜さんが振り返った。
もしかしたら仁菜さんのバンドから何かしらヒントになることを見つけられるかもしれない。こんなチャンス2度とないかもしれない。
「も、もし私なんかで良かったら、やらせてくだしゃぃ……」
「本当ですか!」
目を輝かせた仁菜さんが元気よく私の手を握った。
「ありがとうございます! そしたらスタジオに急ぎましょう。そこで他のメンバーも準備してるんで」
仁菜の小さな手に手を取られ、私たちは下北沢の街を走り出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リハーサルスタジオに到着した私たちは防音ドアを開いた。
ここから私のサクセスストーリーが動きだ───
「仁菜、遅いわよ! 本番まで時間無いわ」
入って早々、キーボードの前に立っていた小柄な女の子が腕を組んで怒っていた。
いいいイキってすみませんっ!
そして彼女は仁菜さんの後ろに隠れている私を見つけると、
「って、あんた、本当にギター連れてきたの?」
うんざりそうに仁菜さんを咎めていた。
すると、ドラムセットで隠れていた女の子が顔を出した。
「おっ、ホントだ」
長い黒髪と紫紺の瞳、左耳の上に白いリボンを結んだ女の子が私に向けて挨拶した。
「ドラムの安和すばるでーす。よろしくねっ!」
すばるさんは屈託のない笑顔でピースを送ってきた。対する私が不自然な笑顔で会釈していると、ベースを抱えた背の高い女性が歩み寄ってきた。
「はじめまして。ベースやってるルパって言います」
金色に近い茶髪、黄緑色の瞳をしたルパさんは、穏やかな笑顔で挨拶した。
「それと、キーボードの智ちゃん」
ルパさんに紹介された智さんは先ほどの女の子。リボンの付いたカチューシャをした赤い瞳が特徴的だった。
「よろしく」
智さんは短くそう言うと、再び腕を組んでそっぽを向いた。あんまり私歓迎されてないのかな……。
早く帰りたいという気持ちが強くなってきたところで仁菜さんが話しかけてきた。
「そういえばお名前聞いてませんでしたね。なんてお呼びすればいいですか?」
私は口早に自己紹介をする。
「ごご後藤ひとり秀華高校です。仲の良い人たちからは『ぼっち』って呼ばれてます。えへへ」
「……それ本当に仲良いのか?」
すばるさんは眉をひそめて訝しげな表情をしていた。
その隣にいた智さんは咳払いをして仁菜さんに問いかける。
「で、何やるの? さすがに今からオリジナル曲を覚えてもらうのは間に合わないわよ」
「やっぱそうかな……」
仁菜さんが眉尻を下げると、すばるさんは溜息をついた。
「何も考えないでスタジオ飛び出したのか……。やっぱりさ、ニーナが弾くんじゃダメなの?」
「うーん、わたしが弾けるのは1曲だけだし。それ以外の曲は今の完成度じゃ……」
仁菜さんは智さんをチラリと見ると、智さんは目を閉じて静かに首をふった。
スタジオに沈黙が訪れると笑顔のルパさんが口を開いた。
「後藤さんは何か弾ける曲ありますか?」
「こ、ここ数年の売れ線バンドの曲ならだいたい……」
「すごっ」
すばるさんが驚嘆すると仁菜さんは得意げに胸を反らした。
「後藤さんは下北系のバンドやってるんだよ」
「なるほど」とすばるさんは何かをひらめいたようにスマホを操作した。
「ならこの曲はどう?」
すばるさんは私達にスマホの画面を見せた。表示されている楽曲は私も知っている曲だった。
「あ、それなら弾けます」
「私も! それなら歌える」
仁菜さんが元気よく手を挙げて返事した。ルパさんが笑顔で会釈すると、智さんもコクンと頷いた。
「よし! そうと決まれば、すぐに合わせるよ」
すばるさんはドラムスティックを両手に取るとカツンと鳴らした。智さんとルパさんが定位置につき、仁菜さんはスタンドからマイクを取り外した。私も急いでギターを取り出し、シールドでアンプと繋げた。アンプをパワーをオンにしてボリュームを上げながら音を確認する。
準備が完了して皆さんの方に向き合うと、すばるさんは笑顔で頷き、ドラムスティックを頭上に掲げた。
「それじゃ、いくよー。わん、つー、すりー、ふぉー」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして本番。心臓がバクバクしたまま私はステージに登った。
下北沢CLUB Que。STARRYと同じくらいのキャパを有するライブハウス。でも、結束バンドのライブと比べてお客さんの入りが全然違う。文化祭ライブでの人数がこのライブハウスに詰めかけているような密集度。ここにいる人たちは、みんな仁菜さん達のバンドを見に来た人たちなんだ。
全員が定位置につき準備が終わると、仁菜さんがスタンドマイクに手を添える。
「こんばんは! トゲナシトゲアリです!」
お客さんから拍手と歓声が湧き上がる。仁菜さんはお客さんを見渡してタイミングを見計らうと話を続けた。
「今日はスペシャルゲストがいます。下北沢で活動中のガールズバンド、結束バンドの後藤ひとりちゃん!」
仁菜さんが私の紹介すると、お客さんたちからはまばらな拍手が起こった。そして「誰あれ?」「結束バンド?」「桃香は?」という声が聞こえてきた。
完全なるアウェー。見知らぬ人たちのポカーンとした顔。路上ライブでも感じたことのないプレッシャーが圧し掛かってきた。
気を失う一歩手前。何も反応もできず微動だにしない私を見かねて仁菜さんがつなげる。
「えー今日は1曲だけひとりちゃんと一緒に演奏したいと思います。ガールズバンドで下北沢盛り上げていきましょー!」
仁菜さんが拳を挙げるとお客さんも「おーー!」と歓声を上げた。
リハーサルスタジオで合わせられたのは1曲だけ。その練習も自分の実力を発揮できないまま終わってしまった。
その曲を演奏して私の役割は終わり、その後は仁菜さんが弾ける曲でつなげることになった。
仁菜さんがメンバーのほうを振り返り、私にも目くばせをくれる。
覚悟決めてやるしかない。私はうなづいて応える。
そしてすばるさんのフォーカウントがはじまった。ネックとピックを握る私の手に力が入る。
イントロ。私のオクターブ奏法で始まるソロパート。フレットをスライドで移動させる。
すばるさんのハイハットとフロアタムの音を合図に、ベースとキーボードの音が重なって入った。
次は単音のリフ。緊張で走りそうになるけど、すばるさんのリズムキープされたドラム、ルパさんの身体の芯まで響くベースを頼りにリズムを合わせる。
そして仁菜さんのブレスと共にAメロに入った。
“軋んだ想いを吐き出したいのは 存在の証明が他にないから”
力強く透き通った歌声がフロアに響く。まるでそれが仁菜さんの独白のように、言葉たちが感情を持って紡がれていく。
“掴んだはずの僕の未来は 「尊厳」と「自由」で矛盾してるよ”
智さんの繊細な指使いから美しいコードが流れ、それがギターのリフを際立たせる。
“歪んだ残像を消し去りたいのは 自分の限界をそこに見るから”
現実世界の人たちは、だれも私なんか興味ないと思ってた。けれども、虹夏ちゃんも仁菜さんも、こんな私に話しかけてくれた。
いつかコミュ症を治してギターヒーローの私としての力を発揮したい。
“自意識過剰な僕の窓には 去年のカレンダー 日付がないよ”
バンドをやってるなんて、1年前の自分は信じてくれないと思う。今だって、みんなとのギャップを感じたり、過去の辛い思い出がフラッシュバックしてくることもある。
でも大切なのは今、この瞬間だ。
“消してリライトして くだらない超幻想 忘られぬ存在感を”
バンドをやる理由。最初は人気になって自分がちやほやされたいからだった。
でも今は、虹夏ちゃん、リョウさん、喜多さんの4人で人気者になりたい。バンドをしていたい。
“起死回生リライトして 意味のない想像も君を成す原動力”
バンドも、バイトも、オーディションも、ライブも全部はじめてのことだらけで怖かった。でも私は、結束バンドのみんなの夢のためなら、これから先どんな壁でも乗り越えていきたい。
そのためにならすべてを捧げる。
“全身全霊をくれよ”
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
全神経をギターに預けていたためか、演奏が終わっても私の意識はどこか遠くにあった。だから徐々に周りの音が聞こえてきて、それがお客さんの歓声と拍手だと気づくのに時間を要した。
ハッとして仁菜さんを見ると、仁菜さんはニコッとした笑顔で小指を立てていた。
仁菜さんは息を整えると正面を向いた。
「ASIAN KUNG-FU GENERATION で “リライト” でした。ひとりちゃん、一緒に演奏してくれてありがとう!」
再びお客さんの拍手が沸き上がり、「ごなんとかさん、よかったぞー!」という歓声も上がった。
私は照明を避けるように軽く会釈をすると、手早く帰り支度をしてそそくさとステージから捌けた。
ステージの方からはまだ拍手がなりやまない。
私はライブの余韻でぼーっとドレッシングルームを歩いていた。
すると誰かと肩がぶつかってしまった。
「すすす、すみませんっ!」
ぶつかった方に振り返って頭を下げると、私の肩に手が伸びてきてポンッと叩いた。
「あたしの大切なバンドを助けてくれてありがとうな」
その声の主はステージの方へと向かっていった。
ステージからは仁菜さんの声が聞こえてくる。
「ここからは私たちの曲をやります。……桃香さんはまだ来れてないですが、いま私達ができることを全力でやります」
仁菜さんのギターを持つ手に力が入る。
「桃香さんに頼るんじゃなく、桃香さんの力になっていきたいんです。それは、ここに居るみんなに対しても同じです」
仁菜さんがメンバーの方に振り返り笑顔を送ると、皆さんも頷いて応えた。
そこにPsychederhythmのサイコマスターを持った女性がステージに上った。
「待たせたな」
お客さんの歓声、そしてトゲナシトゲアリのメンバーから驚きの声が上がった。
「桃香さん!?」
仁菜さんが目をパチクリしているのをよそに、桃香さんはアンプにギターを繋げていた。
そして桃香さんはギターを鳴らしてニヤリと笑った。
「弾けるよな?」
「はいっ!」
仁菜さんが元気よく返事してお客さんの方に向き直った。
「それでは、聴いてください! “運命の華”」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ライブが終わるまで、私は舞台袖から皆さんの演奏に聞き入っていた。私と違って、みんな対面など気にせず心から音を楽しんでいた。そして最高にロックだった。
最後の曲が終わり、歓声に送られながら皆さんがステージから戻ってきた。
「ふー。おつかれー」
すばるさんがタオルで汗を拭いながらメンバーに労いの言葉をかけた。水を飲んでいたルパさんも頷いて返事をした。
「おつかれさまです。お客さんも盛り上がってくれてよかったですね」
「そうね。仁菜、歌もギターも気持ちが乗っていて良かったけど、少し走り気味だったわ」
「ごめんごめん、ついテンション上がっちゃって……。それよりも」
仁菜さんは私に深くお辞儀をした。
「改めて、ひとりちゃんありがとう! おかげで無事にライブを乗り切れたよ」
「いや~私なんてそんな。ライブなんてちょちょいのちょいですよ。えへへ」
もっと誉めて欲しそうな顔をしていると、仁菜さんが何かを思い出した。
「そういえばひとりちゃん、結束バンドさんの打ち上げは大丈夫?」
「あ、それ嘘なんで大丈夫です……」
「えぇ……。すごい自然に嘘ついたね……」
「仁菜、あんま迷惑かけるなよ。ひとそれぞれ予定も事情もあるんだから」
私の隣でソファーに座っていた桃香さんは、クロスでギターの手入れをしながらやれやれと首を振っていた。
「えぇ~。元はといえば、桃香さんが遅れるのがいけないんじゃないですか~」
「うっ……それに関しては何も反論できない。みんな、迷惑かけてごめん」
桃香さんは立ち上がってメンバーに深々とお辞儀した。それを見ていた仁菜さんがニヤニヤした。
「まぁ、桃香さんも反省しているわけですし、何より今日のライブは、ひとりちゃんのおかげですごく盛り上がったし、終わりよければすべて────」
「あんた調子乗るんじゃないわよ。そもそも仁菜がギター弾けば、あんなにハラハラしなくて済んだんだから」
智さんは胸の辺りをさすりながら溜め息ついた。
「もぅ智ちゃんは厳しいなぁ。でも私がスタジオ飛び出したとき、そんなに心配してくれたんだね」
「なっ! あんたじゃなくてライブのことを心配してたの!」
仁菜さんは智さんに抱きつくと頭をなでなでしていた。それから逃れようと嫌がる猫みたいに智さんがもがいていた。
その後ろで笑顔のルパさんが缶ビールをプシュッと開け、それを「まだ早い」とすばるさんが制していた。
桃香さんは、そんな皆さんのやりとりを優しい目で見守りながら私に声をかけた。
「仁菜の無茶振りにも関わらず出演してくれてありがとう。おかげで助かったよ」
勝手に怖そうな印象を持っていたけど、すごく礼儀正しくていい人だ。今なら気になっていたことを訊けるかも。
私は恐る恐る声を掛けた。
「あ、あの」
「ん、どうした?」
「皆さんはプロデビューまで行ったんですよね。どうして辞めちゃたんですか?」
桃香さんは微笑むと遠くを見るような目になった。
「“間違ってない”って証明するためだな」
「間違ってない?」
「そう」と桃香さんはうなづく。
「さっきの“運命の華”って曲、あたし達のデビュー曲なんだ。結局、全然売れなかったんだけどな」
桃香さんは自嘲するように笑って頬をかいた。
「わ、私は好きです、あの曲。なんというか、メンバーのことを大事に想ってるっていう気持ちが伝わってきました」
「ありがとう。でもプロである以上、数字が求められる。その期待に応えられなかったのはあたしのせいなんだ。その責任をとって事務所を辞めた」
手元のギターを眺めながら桃香さんは続ける。
「昔のあたしは音楽性も主張も必要ないって思ってた。でも本当は、自分の信念に共感してくれて、本気でぶつかってくれる味方が必要だったんだな」
桃香さんは視線をメンバーに向けた。
「あたしは、あたしを信じてくれるあいつらとずっとやっていきたい。絶対にこのバンドを辞めない。イチからやっていくって、5人でそう決めたんだ。それはきっと間違っていない」
桃香さんは私にウインクを送ると、立ち上がってメンバーの元へ歩みだした。
私は結束バンドの4人で夢を叶えたい。
みんなと一緒にライブで感じた高揚感、そして「結束バンドは最高なバンドだ」という想いに嘘偽りはない。
っていうか、"ガチ"じゃないですよね────
そんなはずはない。虹夏ちゃん、リョウさん、喜多さんのすごさを、結束バンドが最高のバンドであることを証明してやるんだ。
私が勢いよく立ち上がると視線が集まった。
「今日はありがとうございました。色々と勉強になりました」
私がお辞儀すると、仁菜さんが笑顔で近づいた。
「こちらこそ。ひとりちゃん、また会おうね」
「はい!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日。私はSTARRYに続く階段を下っていた。
私の手には、昨日のライブハウスで見つけた“未確認ライオット”というフェスのフライヤーが握られている。未確認ライオットは10代アーティスト限定のロックフェス。ここに出てみんなの力を証明したい。
扉を開けた先のフロアには虹夏ちゃん、リョウさん、喜多さんが居た。
「あっ、ぼっちちゃん!」
虹夏ちゃんは私に気づくと心配そうに声をかけた。
「今皆で未確認ライオットってフェスに出ようって……」
やっぱり私たちのバンドは最高だ。バラバラの個性が集まって、それが1つの想いになって結束する。
私は未確認ライオットのフライヤーを3人の目の前に出してニヤリと笑った。
「結束バンドで、グランプリ獲りましょう!」
2025/05/02:
あとがきです。
お読みいただきありがとうございました。
ガルクラ13話はトゲトゲが事務所に辞表を出して、桃香さんの元サヤであるダイダスとの対バンライブで終ります。
マネージャーである三浦さんが辞表を受け取った後の描写がないので、果たして本当に退所という手続きが取られたのかは不明ですが……。
トゲトゲはプロデビュー(メジャーデビュー)して人気者になるよりは、EDの描写のように、自分達の意思で遠方のライブハウスに出向いて自分達のことを知らない人達に爪痕を残していくストーリーの方が合っているように個人的に思っています。
とはいえ目標は武道館ですし、そこまでの道のりはより険しいものになりそうですね。そんな苦難をどう乗り越えていくのか……とか勝手に妄想しちゃいます。
一方、ぼざろのアニメは、文化祭ライブとぼっちちゃんが新しいギターと出会うところで終っています。
2期が決まっている今、未確認ライオットとその先の話がどんな風に描かれるか楽しみです。
今回は、ぼっちちゃんが未確認ライオットに出ようと志すところをクロスオーバーとして描いてみました。先輩バンドとしてSICK HACK、ライバルバンドとしてはSIDEROSがいますが、その両方に属さないトゲナシトゲアリのようなバンドがいたら面白そうだなと思いました。
レーベルと契約して徐々に有名になっていく結束バンド。退所して自分達の信念を貫きつづけるトゲナシトゲアリ。この2つのロックバンドが、果たしてどんな結末を迎えるのか。
大ガールズバンド時代、目が離せません。
ぼざろ×ガルクラ。どんな話を読んでみたいですか?(書くという保証はありません…)
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原作に影響与えない範囲でのオリジナル展開
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会話メイン・日常系の1話完結のお話