アイズ・ヴァレンシュタイン。
まだ幼いながらわずか一年でレベルアップに至った現在の最速到達者。
時に剣の姫と呼ばれ、時に戦の姫、そして時に人形と呼ばれる存在である。
そして、今はとあるファミリアに移籍した。
その名はアンリマユファミリア。
現在のオラリオの最強であり、自らを悪と断じる闇派閥のファミリアである。
「クロさん!こっち片付けました!」
「ありがとうございます。さすがですね。元看護師の方々は気が利きます。」
「いえいえ。」
そう、例え元治療院のスタッフと一緒に孤児院を経営していたとしても。
「クロ~!この私が手伝いに来たわ!」
「アリーゼ、あなたは寝ていて下さい。目の隈が凄いですよ。」
「だってここでアストレア様も働いているのよ!じっとなんてしていられないわ!」
「はあ~」
そう、例え正義の神とその使徒が共に手伝いをしていたとしても。
「クロ、そう言わないであげて。アリーゼはやる言ったら聞かないんだから。」
「・・・アストレア、様。」
「そう、顔を顰めなくてもあなた達が何かしない限り私もアリーゼ達も何もしないわ。それにここはもうあなたの孤児院よ。クロ。」
「・・・はあ。」
例え、悪のファミリアが経営責任者となった孤児院が繁盛しようとも。
彼女達は悪の眷族。その在り方は変わらない。
「ねえ。」
「なんです?アイズ。」
「クロは本当に闇派閥?」
「・・・そうですよ。私は悪い悪い闇派閥ですよ。」
アイズは頭に?マークを浮かべて、うんうん悩むことしか出来無かった。
世の中は彼女が考えるより摩訶不思議なのだ。
◆◆◆
「はあ!」
アイズの一閃がモンスターを塵に帰していった。
「やあ!はああああ!」
正に剣の姫の名に恥じない疾風怒濤の連撃。レベル3と言うステータスを十分に発揮して少女は躍動した。その剣に迷いはなく、そしてその剣閃はモンスターの魔石を砕いていった。
「!そこ!」
「あ!ありがとうアイズ!」
そして、アイズはポーションの受け渡しにあたふたしてしまった団員の危機を見事防いで見せた。
「うん。変わったね。アイズは。」
ここはダンジョン、そこにはロキファミリアの幹部を含めた者達が揃ってダンジョンアタックをしていた。
「急に『アイズを連れていけ』と言われてみれば、何じゃ。成長しとるのう。アイズは。」
「ああ、動きが他の者達を考えた動きになっている。」
以前のアイズは突っ込む事が多く、その尻拭いを他の者達がすることが多かった。だが、明らかにそのアイズは他の者達との連携をしようとする動きをしだしていた。
基本的に冒険者とモンスターではモンスターの方が凶悪だ。何せ、数も、その種類も違う上にこのダンジョンという場所は比喩無く冒険者を狩りに来るのだ。そのために多くの冒険者は連携し、協力することで何倍もの力を発揮してその狩りに抗うのだ。
そしてそれを強力な指揮能力を持つフィンが最大限化することがロキファミリアの強さの秘訣である。そしてそのフィンはこう断言する。
「アイズの
「ああ、間違い無い。」
視野の広がり、それはダンジョンの連携において重要なことだ。敵の状態、仲間の状態、それらの情報を見て最適な行動を取ることができればその分、連携の穴がうまりより強力なものへと変化する。よって指揮官にはこの能力が必須能力であり、大隊を動かすには、さらなる能力が必要になる。
「まさか、あのアイズが味方の補助を進んでするようになるとは・・・。感慨深いの~。なあ、フィン!」
「そうだね。ノアール。きっと
「あの孤児院か・・・。何をしのかの~。」
にやにやするノアール達古株は孫を見るように、アイズの成長を喜んでいた。
◆◆◆
「はあ、はあ、はあ。」
アイズは突然ダンジョンに連れ出された経緯を思い出していた。
『え、ダンジョン行っていいの?』
『ええ、構いませんよ。そろそろリヴェリアにあなたを見せなくてはいけないと思いましたので。』
『!ダンジョン!』
日々、エヴァという格上に遊ばれている、アイズは久々のダンジョンに胸を高鳴らせていた。そして同時にあることが気がかりになった。
『あ、でも・・・。』
『安心して。ミラちゃん達は私が代わりに何とかするわ。』
ミラとはアイズがよく構ってあげていた子供だ。毎日のようにもみくちゃにされたアイズも3ヶ月も頑張っていればそれなりに要領を得ていく。まあ、3ヶ月ももみくちゃにされたおかげでダンジョンに行く体力と精神力が奪われていたのだが・・・。
『どうして・・・。』
この人は何故、自分と彼女のことを知っているのだろうか?
『当然です。私はあなたを預かった身なんですから。』
そこにはただただ、子供を案じる母のような姉のようなそんな風な女性がいるようにアイズには思えた。
『・・・じゃあ、行ってきます。』
『はい。いってらっしゃい。あ、それとロキファミリアも呼んでおきました。』
『・・・え?』
そうしてダンジョンにロキファミリアと共に出てみれば前とは違うようにアイズには見えた。
不思議だ。前ならすぐにでも駆けだしていたのに、今では頭によぎるのは面倒をみるようになった子供達の姿が浮かび前より体が思うように動かない気がする。
「アイズ!」
「!」
「ぼーっとするな!ダンジョンだぞ!」
リヴェリアからの叱咤が響いた。
「お前らしくもな・・・いや、すまない。疲労だな。すぐに後方に戻れポーションも忘れるな。」
「まだ!私は!」
「やめておけ。アイズ。それにお前もう限界だろう。」
まだやれると声を上げようとしたとき、アイズは頭がくらついたことに気付いた。
(あれ?)
すぐにリヴェリアがアイズが転ばないよう支えていた。
「・・・大丈夫だアイズ。お前のおかげで後方は大分楽をしている。お前の穴埋めには十分足りる。」
「私は・・・ま・・・だ。」
そのままアイズは倒れた。
◆◆◆
「は!」
「気付いたか。アイズ。」
「リヴェリア!」
「ここは18階層セーフティーエリアだ。安心しろ。」
「・・・ごめんなさい。」
アイズは中層で自分が倒れた事を思い出した。
「・・・良い。お前の疲労を考慮しなかった私達に問題があった。お前に責任などはない。」
「・・・私、どうしたんだろう?」
以前ならば中層で倒れるなどあり得なかった。それにあんなに疲れることも。
「不思議か?自分が倒れたのが。」
「うん。」
「お前がダンジョンから遠ざかっていたことも影響しているだろうが、根本は違う。」
「え?」
てっきり体力がそこまで落ちてしまったのかと思っていただけにアイズは驚いた。
「アイズ。お前は視野が広がったのだ。それも以前より格段に大きく。」
「視野?」
「ああ、お前は以前ならモンスターに猪突猛進をしていただろう?だが、今ではお前は味方を助けながら戦っていた。」
「・・・・・・あ。」
確かにそうだ。剣をふりながら自分は周りを盛んに気にしていた。モンスターの数、仲間の状態。どれも併行して追っていたのだ。おかしい。以前ならモンスターばかり追っていたのに。・・・いや、違う?
「どうやら思い当たったようだな。」
「多分・・・孤児院での仕事のおかげ?」
孤児院の生活で常に子供達を見続けたアイズは常に周りを見続け、子供達から逃げたり少し助けたりしていたのだ。そのおかげで自然と周りを見る癖ができ始めていたのだ。
「・・・そうか。良い経験をしたなアイズ。」
優しい目をしたリヴェリアはそう言いながら、アイズの頭をそっと撫でた。
「そうなの?」
アイズからしてみればオフェンスが一人欠けた状態でいる方がダンジョンアタックにとって問題のように思えた。
「ああ、視野が広がるということは、他の人を見られるということだ。これは連携をする上で必須な能力だ。それにそれがあるおかげでお前は仲間を助けられるだろう。今回のようにな。」
「あ」
アイズは確かに自分が仲間を助ける機会が多かったことを思い出した。
「まあ、今回は久々のダンジョンであり、その視野をフル活用したことで脳の疲労がピークを迎えたのだろう。気にするな。」
そう言われてみればそうだ。確かに私は疲れていた。いつもより圧倒的に・・・。
「ご飯はここに置いておく。ゆっくり休め。」
そう言ってリヴェリアは立ち去っていった。
「・・・私は、強くなってるの?」
アイズは強くなるためにアンリマユファミリアに行った。だが、ダンジョンには行かせてもらえず子供の世話をさせられ続けた。一応エヴァに訓練をしてもらっているがあまりに強さの差がありすぎて全く以て自分が強くなっているのかステータスの数値以外分からない。でも、だからと言って仲間が危険と分かっていて助けないという選択肢はアイズには無かった。それに、面倒をみている子供達を無視することも自分は出来ない。
「・・・強くなりたい。」
思い出すのは己の起源。己の両親を奪った。あの黒き終末。そして弱い弱い自分への憤怒。だからアイズは強くなることを止められない。だが、同時にこの怒りが徐々にアイズ自信を狂わせていることもなんとなく分かっている。それでも、強くなるためならなんだってする覚悟をアイズは自らかしたのだ。
けれど、それ以外を捨てることなどどうしても出来ないこともなんとなく突きつけられたように思えた。
「・・・どうすればいいの?」
リヴェリアには褒められた。だが、アイズが求めた強さとは違うように思える。アイズはモンスターを倒し続けた先に強さがあると思っていた。だが、視野が多方面に広がったおかげで今まで見ていなかったものが見え始めた。
それは仲間の機微だったり、自分への配慮、そして優しさ。色々なものをアイズは見始めていたのだ。
仲間を見捨てるなんて論外だ。見えていて助けないなんてして良いわけが無い。子供達もそうだろう。自分より年下の子供達の事も無下には自分は出来ない。
「私は、どうしたいの?」
いつの間にかアイズは強さの袋小路にいるように思えた。
彼女ができるのは己の手のひらを見つめることのみ。
黒竜殺しを求める少女の歩みはまだまだ先が長いものであった。