あとこれクロスになるんでしょうかね?一応タグは付けますが。
目を覚まして最初に見たのは、見覚えの無い天井。
急遽あてがわれた個室は避難民用と言うよりは独房か何かだ、本来の用途をなんとか隠そうとしてはいるけれど。少なくとも客室ではあるまい、そんな優雅な艦ではないだろう。
古めかしい電子カレンダーは、宇宙世紀0079年11月11日を迎えたと告げている。……らしいが、私にその実感はない。と言うかまず、その日付が正しいと思えない。これが故障しているか、私がおかしくなったかのどちらかだとさえ感じている。
私が今いる場所だって異常だ、こんな事有り得ない。
ペガサス級宇宙揚陸艦は一番艦が0079年9月にジオンに滷獲された筈で、二番艦は戦線に投入されなかった。確か三番艦も建造が間に合わないまま戦争が終わったし、四番艦以降はペーパープランこそあったが、戦後の連邦軍の財政事情では存在自体が都市伝説に近い。一説には隠密機動部隊が運用したとかなんとかいう説もあるが、そんな余裕があるなら戦争に勝っている気がする。とにかくこの日付け時点でペガサス級が前線に置かれている訳がないし、搭載されている機体もおかしい。
――ガンダムが、連邦の艦艇に積まれているなんて。
おかしいと言えばまあ、私だってそもそもおかしい。あの日私は赤いガンダムと戦い、死んだのだから。
クランバトル等と言うものに興味はなかった、赤いガンダムの話を聞くまでは。
私のマヴを奪い、戦場から勝ち逃げしたあの仇敵。私の平穏はあれによって崩れ去り、魔女と呼ばれるほど敵を殺し尽くしても私はずっと怯えていたのだ。いずれ戦場で再会し、また私の大切なものを奪っていくのではないかと。
第二次ソロモン海戦でロストしたと聞いたときは、あの子の仇を討てなかった悔しさもあれど私は安堵していた。いなくなったなら仕方がない、逃げ出した相手を追っても意味がない。
軍を辞め恋をして、結婚して子宝にも恵まれて。そんな幸福のなかで、私はすっかり油断していたのだろう。
あれは又しても、現れた。
赤いガンダムは私から何もかも奪う、ニュータイプは私を苦しめる。だから今度こそ殺そう、完全に死ねばもう二度と地獄から這い出しては来るまい。そうしたらこの先、何も奪われずにすむ。大切な旦那と坊やを守るために、私は再び魔女に戻らねばならなかった。
勿論頭では分かっていたのだ、あれはあの日のガンダムではないし乗っているのもシャアではない。私の人生を奪うために来たわけではない、単に一年戦争の武勇伝に肖っただけの浅薄な示威行為に違いないと。だからこんなのは私にとって只の儀式、もう戦争は完全に終わったのだと区切りを付けて前に進むのだ。
ブランクはあれどこっちはプロのパイロット、乗機も旧式量産機なのはちょっと気に入らないけど私仕様にカスタムしてある、それもマグネットコーティングなる最新技術が使われていて現行機とも十二分に渡り合える。相手は形だけのガンダムに乗った素人、或いはマトモな職に付けなかったパイロット崩れ。一年戦争でスコア100を越えた私が、まさかそんな連中なんぞに遅れをとるものか。
当然危なげなく赤いガンダムを沈め、ファイトマネーはすべて家族の為に使うつもりだった。
しかし開戦して異様なプレッシャーを浴びた途端、血が凍り付くようなあの感覚が蘇りそして。殺意のままにゲルググを駆り、機体強度が限界を迎えると知って尚三本めのワイヤーフックで変則軌道をかけ――私は負けてしまった。あの瞬間何を見たのか、言語化は出来ないが意識が散大し宇宙へと散っていくイメージと共にすべてが止まった。……筈だったのだけれども。
気が付けば知らない場所――それもコロニーでは無さそうな荒れ果てた廃墟に倒れており、連邦軍の制服を着た人々に助けられていた。
「……まあ、その後が良くなかったのよね」
ここは何処で何があったのか尋ねたら、ここは地球のオデッサであり運び込まれたのはホワイトベースなる連邦艦の救護ブロック、そして今はジオンとの戦争をしている真っ最中だと教えられたのだ。そんなバカな話がある訳がない今は0085年だし一年戦争はとっくに終わっててオデッサは戦後ジオンの地上拠点に改修された、と真っ向から反論したのが悪かった。それに自分の立場を明確にしたくて、連邦軍の退役軍人だと言ったのも悪手だった。IDや氏名データの照合結果は「該当無し」……作戦区域にいる所属不明で自称自陣営の人間なんて、信じる方がどうかしている。
酷く疲れているようだからとりあえず今は休みなさい、と入れられたのがここ。食事が貰えたのは御の字だったけど、さすがに長期滞在はしたくない。
――と。
僅かに感じたプレッシャーに少しだけ身構えると、施錠されていたドアが重く軋む。
「あの……おはようございます。ブライトさん……艦長がブリッジに連れてくるようにと」
入ってきたのは何処か気弱そうな、青年と言うよりは少年に近い姿の男性。改めて事情聴取しようと言うのだろうか、ブライトという名前は昨日も聞いた。しかし個室に勾留したまま尋問させない辺り、ここの艦長はどうも甘いようだな。まあどうなるかは分からない、私が未来から来たなんてどう信じさせれば良いのやら。
「えー……つまり貴女はシイコ・スガイ……連邦の退役軍人と。その……一年戦争……ジオンと連邦の戦争が終わってから現場を退き結婚、その五年後にクランバトル……という民間モビルスーツ戦闘ショーに参加していた……と……」
私より年下にしか見えないのに艦長だというブライト氏は、顔をひきつらせたまま私の話を要約している。まあ、そうだろうな。俄には信じがたいのはこっちも同じだ。
どうもこの人が言うには、ガンダムもペガサス級も奪われた事など無いらしい。だからかRX計画は遅れこそあれど廃案にはならず、この艦には私が知る話ではサイド7で破壊されそのまま再建されなかった、ガンキャノンやガンタンクが乗せられている。
オデッサでの大規模作戦に関しても確かに知っている、当時まだ量産試験中だった軽キャノンが前倒しで最前線に投入された時だ。ガンダムとペガサス級を奪取しただけでなく慣熟訓練中の01ガンダムを破壊し『連邦軍がモビルスーツを実用化させるにはまだ間がある』と考えていたジオン、その地球上最大の資源供給拠点へと全地上軍の三割以上を投入した電撃作戦。どんなエースがいようが新鋭機があろうが、兵站が破綻すれば軍は動けない。古今東西を問わず、それが戦争というもの。
その頃私はまだ転科前で宇宙軍の戦闘機乗り、そのあと一旦地上でモビルスーツパイロットになり残敵の掃討任務を経て宇宙に戻り――忌まわしいあの瞬間を迎えたと記憶している。
……のだが、再度調べてもらってもこの艦が持つデータベースに私とそして、あの子のデータは無かった。ここは私が知る0079年ではなく、だから私たちは存在しないのか。それとも軍人になっていないだけで、何処かにいるのか。それを知る術は、恐らく無いが。
そして赤い彗星のシャアは確かにいるものの、乗っているのは赤い
「V計画やジャブロー基地に関しての情報を持っているということは民間人ではないのでしょうが、しかし……ジオンの斥候とも思えん……。うーん……」
ここでスパイ容疑がかかっては困るけど、どう言ったものだろうな。自分の身分が証明できないのは、こうも不便なのか。
「ブライトさん、この人は嘘を言っていないと思います」
「どういう事だ?アムロ」
「いえ、ただの勘ですが……少なくとも悪意は無いと信じたいんです」
声を潜めて行われる会話に耳をそばだてて、聞き捨てならない単語に背筋がひりついたのを私はなんとか抑え込む。ただの勘、その表現。まさかこのアムロとやらもあの子と同じ……なのだろうか。先ほどのプレッシャーはそのせいかも知れない、出来ればそうあって欲しくないが。
「とりあえず、ここに残してはおけないな。ジャブローでなら詳しいデータを得られるかもしれんし……我々に同行していただきたいのですが宜しいか?」
断ればこのまま放り出されるか、悪くすれば略式法廷で銃殺だろうな。選択肢はあっても選択権は無い、私は頷くだけ。
前途は多難だけれど、生き延びなければ帰れない。それだけは確かだ。
ここで見て来て分かった事、私が知る歴史より連邦軍の旗色は悪い。ここの白いガンダムは私が相対した赤いガンダムよりもスペックが低く感じられるし、軽キャノンのような量産機も実戦配備どころか開発さえ遅れているようだ。と言うかホワイトベースは正規のクルーがほぼ全滅し、民間人まで総動員して漸く動いている。操縦士を任されているミライさんはスペースグライダーのライセンスしか無いし、パイロットもほぼ民間人。そのお陰で、何処の馬の骨とも知れない私までパイロットをやらされている始末だ。操縦系統は私が知ってるのと違うが、まあ一応本職ですから馴れてみせる。民間人を乗せるよりは余程マシな動きができるとは思う、正直なところ重力下ではスティグマ戦術こと立体機動は難しいが。例え出来ても下手をすると腕部が圧壊するし、そもそも急場凌ぎでマニュピュレーターを突貫改造して貰っただけだからなんとも頼りない。それに接触回線用のワイヤー自体も在庫が少なく、あだやおろそかには使えない。て言うか私にモビルスーツ預けて脱走とか警戒しないのか、本当にここの人たちは御人好しだな。
しかし反抗作戦の要であるこの艦でこれなのだから、他所の隊はどうなってるか想像したくもない。
艦はあれからベルファスト基地に入港し、補給後ジャブローへと進路を向ける事となった。私が知る歴史ではジオンによる大規模攻撃は12月1日未明、この世界でも同じかは分からないがその日は近かろう。
そしてそこには、シャアが来る筈だ。赤いガンダムを駆る私の仇敵ではなく、アムロくんの因縁の相手が。
……私はどうするべきだろうか。なにかを為す為ここに送り込まれたのだとしたら、シャアとの交戦にその答えがあるかもしれない。
まあ魔女である私としては、若い皆を守らねばならないか。大した縁でも無いとは言え、知った顔が死ぬのはやはり嫌だ。この世界が過去であれ違う時空であれ、私は私なのは変わらない。奪われる事を許さない、全部手に入れるし持っているものは守り通す。
私が私であるなら、ここが何処であろうがいつであろうが同じこと。
さあ、やってやりましょうかね。
原典のジャブロー線は12/1ではないですが、ジークアクス世界ではズレがあるということで。あとシイコさんはMSだけで100機撃墜はさすがに敵機遭遇機会が多すぎると思うので、転科前にも空軍パイロット辺りで活躍してたと思ってます。……一年戦争で航空機が活躍できたかどうかは……うんまあ……。
現時点では続きはありませんけど、もしかしたら公式スピンオフとかに合わせて作るかも?