アキラに全部盗まれる一般通過ヴァルキューレ生徒の話 作:はと×4
評価を見てみたらバーが赤くなってる&お気に入り500件以上で驚いてひっくり返りました。
第三話です。よろしくお願いします。
「デートに行きませんか?」
「え?」
唐突にそう言われて戸惑う俺。
今現在、ヴァルキューレ警察学校の俺の仕事部屋に、アキラが乗り込んできていた。
今日もアキラがいるであろう家に帰ってさっさと寝ようと思っていたところ、向こうからこちらに乗り込んできたのである。
「デートですよ。今日は、あなたの初デートをいただきに参りました」
「ほう」
最近は家に帰ってからは身体しか盗まれていなかった*1が、今日はどうやら俺から一風変わったものを盗むらしい。なるほど。初デートを盗むとは、考えたものだな。
………いや、待て、なんでコイツは俺が今まで彼氏彼女がいなかったことを知っているんだ!?
「ふふ、その様子、何故私があなたの人間関係を知っているかって………?ふふ、それは怪盗の秘密というやつです………強いて言うなら……そう、自分が盗む作品について理解するのは、怪盗の基本事項とでも言いましょうか」
「いや乙女の秘密みたいに言うなし」
くそ、なんか俺のこと何でもかんでも知ってやがるなコイツ……
「それより、あなたは明日は休みでしょう……ならば日程的にも問題ありません、行きますよ」
「いや俺の予定も筒抜けかよ!?」
そう叫ぶ俺を他所に、アキラはいつもの仮面を付けて俺を抱えたまま、空に飛び立った。
「ッ~~~!??!??!」
現在、キヴォトスD.U.シラトリ地区上空。
俺は、アキラに担がれたまま空を飛んでいた。
「アキラッ、いッ、いくらなんでも高すぎるぞッ、どこに行く気だ!?」
「それはついてからのお楽しみというやつですよ」
アキラに担がれて強制退勤させられた俺は、そのままヴァルキューレ警察学校を飛び出し、そのまま連邦生徒会管理地域のD.U.シラトリ区に来ていた。
「まさかとは思うが、高く飛ぶことで連邦生徒会の監視範囲から出て自由に動き回ることが目的じゃねぇだろうな!?」
「ご名答、さすがです。私たちのデートに、邪魔などあってはなりませんから」
D.U.は連邦生徒会が直接管理しているため、治安が良く、そしてその分監視が多い。何か事を起こせばすぐに鎮圧部隊が出てくる。
特に七囚人として恐れられているアキラは、連邦生徒会に見つかるなどもってのほかである。そのため、高度を高く維持することで監視範囲から逃れるという脳筋戦法で街を移動していた。
ふと、空から、街を見下ろしてみた。
するとそこには夜に輝く街の光がいくつも瞬いている。
夜であってもその暗さを感じることなく、いつものように営みを続けているのが分かった。
いつもアキラと追いかけっこをしている街並みは、よく見てみればとてもきれいなことに気付いた。
「これを、あなたにまずは見せたかったんです。前世では、明かりの一つもない絶望のまま、私たちは終わりを迎えてしまいましたし、今世に至ってはあなたは私を追いかけることにのみ、注力してきました。ですから、あなたと過ごしている街が、こんなにもきれいなことを知らないのは、少し勿体ないと思ったのです」
「………」
あの日の絶望、恐怖。それは今でも俺の中を渦まいて、頭から離れない。
だけどこの街を見れば、それが紛れる気がした。
「いいこと、言うじゃん」
さらに担がれているままの体を完全に預けて、アキラの体温を感じてみれば、絶望など、霞んで見える気さえした。
「………ふへ」
なんとなく、気の抜けた笑みが零れた。
「ありがとう、アキラ」
「その感謝は素直に受け取りますが、デートはまだ始まったばかりです。これはただの前菜にすぎません」
すると、飛んでいるアキラが着地した。そして担いでいた俺を降ろす。
そこは夜景の良く見えるビルの上で、神秘的な光を放つサンクトゥムタワーが印象的に光るのが見えた。
「せっかくのデートなんです。これからディナーといきましょう」
そう言われて手を引かれてアキラについて行けば、いかにも洒落たレストランに着いた。
壁にある重厚な装飾と、よくわからない芸術作品。そしてレッドカーペットが贅沢に使用されている床。いかにもアキラが好みそうな場所であった。
店に入るなりアキラが店員と少し話をして、奥の個室へと連れていかれる。
その通路を歩くときでさえ、どこもかしこも輝いて見えるものだから、少し体がすくんでしまった。
「いいでしょう?ここ。よく来るんですよ」
「怪盗稼業って儲かるんだな………」
「いえ?私は盗品をどこぞの誰かに売却することなどはありませんよ。他に
末恐ろしいな、慈愛の怪盗さんや。
「ですので、今日この場所でお代はいりませんよ」
よかった。正直いくらするんだと内心戦慄してたから。
横を見れば、大きなガラス張りの窓に先ほどの夜景が映し出されていた。
思わず見惚れていたけど、名前の分からないようなお洒落な料理が運ばれてきて、すぐに意識をそちらに向けた。
「どうでしたか?私の誘ったデートは」
ディナーを終えた俺たちは、再びビルの屋上に戻ってきて、夜風を浴びながら話をしていた。
「良かった………と思う……な。あまりに唐突だから驚いたが、それでも、楽しかった」
思えば、今世でこんなに落ち着いた夜を過ごしたのは初めてな気がする。
アキラが前世を思い出す前は、毎日毎日アキラを探して、目撃情報や予告状を見ては、置いて行かれていないことに安堵する生活を続けていて、気分が休まる日は無かった。
そしてアキラと一緒に過ごすようになってからは、家にはアキラが居て毎回食われるから休まるもクソもない。
随分と、俺はアキラに執着しているらしかった。
「メグル」
突然、アキラが俺の名前を呼んできた。
これはかなり珍しいことで、いつもは俺を「あなた」と呼ぶから、違和感が大きかった。
「どうした?」
アキラの方を見ると、やけに畏まって、俺の方を見ていた。
「私は、慈愛の怪盗です。ですから、いろいろなものを盗みます」
「あぁ、そうだな。おかげでお前を追ってる俺はいつも忙しいよ」
「そして、私は、作品として、宝物としてあなたをあの日に盗みました」
アキラは俺の方をまっすぐ見て、少し震えた瞳で淡々と述べる。
「ですが最近、あなたを、別の方法で盗みたくなるのです」
「
「………あぁ、"美術品は人の目に触れてこそ価値がある"、"美術品が個人の元にだけ存在するのは気に入らない"だっけ?」
「えぇ。そうです。ですが、私は最近、どうしてもあなたを他人に見せたくないし、私だけのモノとしておきたくなるのです」
「ですが、それでは私は他の、作品を独占する輩と等しくなってしまいます」
「ですから─────あなたを、作品として、盗むのはやめます。私は、慈愛の怪盗として、あなたを盗むのをやめます」
今は、いつもの純白のアキラの衣装が、震える赤い目に映えて、よりきれいに見えた。
「私に─────
「私に、慈愛の怪盗としてではなく、清澄アキラと言う一人の人間として、あなたを盗ませてください」
告白だった。その言葉に、予告状は無い。なぜなら、彼女は清澄アキラだから。
慈愛の怪盗ではなく、清澄アキラだから。
「っ─────」
言葉が出なかった。あまりに突然の出来事に、脳が理解を遅らせた。
でも、体はすぐに動いて、彼女の体を抱きしめていた。
ふわりと香る優雅な香りは、純白の彼女を体現しているように思えて、自分の気分を良くした。
きれいな形の体は、抱きしめるだけで何か壊れるほど愛おしくなった。
「──よろこんで」
そう応えると、彼女の落ち着いた息が少し不規則になった。
「俺の全てを、恋人として、盗んでください。アキラの全てを、恋人として、盗ませてください」
それを聞いたアキラは、純白の細い腕で俺を抱きしめ返した。
「ありがとうっ、ございますっ」
その声は震えていて、いつもの余裕は感じられなかった。
でも、その声だけで、愛おしさが止まらなくなる。
「あなた──紬野メグルの全てを、今から、盗ませていただきますっ!あの絶望も、今までの苦難もっ」
「───ふふ、よろしくな」
この時、ようやく、あるヴァルキューレの生徒は、
すごい透き通った話になりました。