──そして、目を覚ました時、彼は10年前の世界に戻っていた。
まだ7歳の少年となった凪は、戸惑いながらも、自分の小さくなった身体と若返った両親に違和感を覚える。事故の影響か、それとも何かの奇跡か──
過去に戻った理由もわからぬまま、彼の目に映ったのは、見たことのない”超次元サッカー”の映像。燃え上がるような必殺技、常識を超えたプレー。
CGだと思いながらも、画面から感じる熱は間違いなく本物。
「このサッカーなら、もう一度熱くなれるかもしれない」
今度こそ、自分のサッカーを見つけるために。
もう一度、玲王とサッカーをするために。
凪誠士郎の“第二のサッカー人生”が、超次元のフィールドで始まる。
──今度こそ、俺のシュートで世界を変える。
俺――凪誠士郎は、ブルーロックから脱落した。
天才だとか、才能だとか、俺にはもう関係なかった。
気づけば、夢も希望も熱も全部、どこかへ置き去りにしていた。
──面倒くさい。
現実を見るのも、歩くのも、生きるのも。
──退屈だなぁ…。
一日が、薄っぺらいノイズみたいに通り過ぎていく。
──戻りたい…。
そんな叶わない言葉を、まるで祈るように心の中で繰り返す。
でも――もうあの場所には、もう戻れない。
玲王のいない教室。
玲王のいない階段。
玲王のいない帰り道。
すべてが“後戻りできない過去”として、目の前に広がっていた。
そんなときだった。
「──あ」
視界の端に、迫る自動車の姿が映った。
スローモーションのように、車が俺に向かって突っ込んでくる。
運転手は、眠ったままハンドルを握っていた。──いや、もう何も操作していなかった。
間に合わない。
時間が止まったような感覚。
周囲の喧騒が遠ざかる。
ただ、思考だけが鮮明に動いていた。
──もっと、サッカーがしたかった。
──玲王と、もう一度だけでいい、一緒に走りたかった。
──あのとき、シュートを打っていれば──
痛みと共に、意識が闇に飲まれる。
冷たいはずの夜の空気が、やけに熱かった。
そこで、俺の意識は──途切れたはずだった。
「──起きて。誠士郎」
──眠い…。
「起きてってば!」
誰? 声が……懐かしい……?
「誠士郎!」
その名を呼ばれた瞬間、まぶたの奥が光に包まれた。
目を開けると、見慣れない天井。白く、眩しい蛍光灯。病院の匂い。
「起きた! 起きたよ、お父さん! 誠士郎が目を覚ましたの!」
泣きながら俺にしがみつく女性──その声は。
「……母さん?」
思わず呟いた言葉に、彼女は涙を浮かべながら笑う。
「そうよ! セイちゃんのお母さんよ!」
違和感。
いや、それはもはや“恐怖”に近い感覚だった。
──若い。
俺の知ってる母さんより、10歳は若く見える。
顔つき、声、雰囲気までもが、昔の記憶のままだった。
「誠士郎……!」
今度は、見覚えのある男が駆け寄ってくる。俺の父親だ。
だけど彼も、明らかに若返っていた。
周囲の景色がグラグラと揺れる。
自分の体に目を落とすと、小さくなっている。手足も細く、軽い。
ベッドに映る自分の影が、まるで別人のようだった。
──過去に戻った?
信じられない。けれど、それ以外に説明がつかない。
「やり直せる」
そんな都合のいい言葉が、ふと頭をよぎった。
その後は、いろいろ大変だった。
どうやら俺は「三日間の昏睡状態だった」だったらしい。
ただの夢かと思ったけど、多分違う
俺は、過去に戻ったんだ。
退院後、家で何気なくテレビを見ていると、不思議な番組がやっていた。
──『フットボールフロンティア・全必殺技集』
目に映る、オレンジのバンダナの青年。
空を裂くようなボール。炎をまとって宙を舞うキック。
「……なんだ、これ」
一瞬で引き込まれる映像。CGかと思いきや、凪の第六感が告げていた。
「この熱は……本物だ」
父さんがテレビを覗く。
「お!フットボールフロンティアの番組かぁ〜」
「あの頃は世界中が凄かったんだぞ!」
父さんの言葉が、態度が、興奮が、これがCGではないと思わせる。
その瞬間、胸の奥で“何か”が再び燃え始めた。
もう一度、サッカーがしたい
こんな世界で、こんな熱の中で、今度こそ後悔しないために
今度こそ、玲王の隣に立てるように。
「ねえ、お父さん──」
──俺、凪誠士郎 7歳。超次元サッカー、始めます。