異世界転生したので無双できると思ったら既に現地転生者が無双していたんだが? 作:萬屋久兵衛
「……というわけでセーラのやつは急遽実家に帰ることになったから、申し訳ないけどあいつは今回不参加ということで」
「……」
「あ、セーラからカプリ姉に言伝があってさ。アクシア君の隣に誰がふさわしいのかは次の機会にって。いやあ、本人にそんな巫山戯たこと言わせるなって言ったんだけどさ。セーラが必ず伝えろって聞かなくて」
「……」
「いやあ、セーラのやつには困ったもんだよ。はっはっはっはっは……」
「……」
「は……はは……」
「……」
「……」
無言を貫くカプリ姉たちのパーティーに対し俺は無理矢理会話を繋げようと努力していたが、一方的に話しかけるだけで会話が成立するわけもなく。
俺たちの間に気まずい沈黙が流れる。
俺は彼女たちにどんな言葉をかけるのが正解なのか考える。
まあ、一晩考えても思いつかなかった答えを、今さらひねり出すことができるとは思えないが。
改めて彼女たちの様子を伺うが、カプリ姉は相変わらず呆然としているし、彼女の後ろにいるキュベロはあんぐりと口を開きっぱなしだ。
他のパーティーメンバーもふたりと様子はたいして変わらない。
ただ共通しているのは、全員の視線が俺ではなく俺の背後に向いていることだろう。
俺は彼女たちに倣ってちらりと自分の背後に視線を向ける。
そこには、白銀の甲冑を身に纏った騎士が控えていた。
いや、控えていたと言うにはその騎士──ヴァレリアは目立ちすぎている。
集合場所である冒険者ギルドの前は早朝ということもあり仕事に出かける冒険者たちで賑わっているのだが、そんなところにそこいらじゃお目にかかれないようなあまりにも立派な騎士が突っ立っているものだから、出入りする誰もかれもから様々な視線を向けられているのである。
そりゃあ冒険者たちからすればその辺じゃお目にかかれないような鎧を身に纏った騎士がはみ出し者の集まる冒険者ギルドに用があるとは思えないだろうし、カプリ姉たちからすれば知人が突然そんな人物を連れてきたら混乱もするだろう。俺だってそうなる。
しかしこのままでは悪目立ちするばかりなので、早いところカプリ姉たちを促して移動を始めたい。
それにはこのヴァレリアの存在を説明せねばならないのだが……。
俺はまたしばらく考えてみたが、やっぱりなにも思いつかないので諦めてセーラの案に乗っかることにした。
「ええっと……この人はヴァレリアさんって言って、セーラが用意した俺の護衛役の人なんだ。あいつは優秀な護衛を用意できる財力と人脈も実力のうちだなんて言っていたけど……」
特に名前を隠すこともしないドストレートな説明である。
俺としては彼女がヴァレリアの遺体
セーラ曰く、ヴァレリアは近年で一番活躍した聖人であるので娘の名前にヴァレリアと付けるのが流行っているので名前を偽るよりはヴァレリアの名前で通した方が外見との一貫性がとれるし、下手な言い訳や誤魔化しをするよりもあまり多くを語らない方が後々の面倒にならないとかなんとか。
個人的には先々の面倒に対処することを想定するよりも、そもそも面倒を起こさないようにすることを考えたかったのだが……面倒を起こさないですむ上手い言い訳が思いつかないので仕方があるまい。
「ふ、ふうん……あのおチビが雇った護衛ねえ。みてくれだけはいっちょ前だけど、実戦じゃどうだかね」
カプリ姉は俺の説明を聞いてようやく自失から回復したらしい。
セーラの、という部分に反応してか憎まれ口を叩くカプリ姉だが、やはりヴァレリアの見た目に威圧感は感じるらしく腰が引けている。
むしろ、舐められたら負けな冒険者家業とはいえこの見た目の相手に良くそんなことが言えたなと感心するほどだ。
そんな悪態にヴァレリアは動じることなく不動の構え。
「俺もまだヴァレリアさんの実力はよく知らないけれど、セーラが太鼓判を押すぐらいだから間違いないんじゃないかな」
「ふうん……アクシアあんた、あのおチビのことを信頼してるんだね」
俺がフォローするようにそんなことを言うと、カプリ姉は目を細めて険のある声を出す。
「……?まあ無茶苦茶なやつではあるけど、なんだかんだ助けられてるしね」
「ああそうかい!それじゃあさっさとその護衛とやらの実力を拝ませてもらおうじゃないか!さっさと申請して狩り場に向かうよ!」
何故か不機嫌になったカプリ姉は肩を怒らせながら冒険者ギルドに入っていった。
彼女のパーティーメンバーは慌てて彼女を追いかけていく。
後に残った俺とキュベロは顔を見合わせた。
「……カプリ姉、なんか今日機嫌悪くないか?」
「いやあ……今朝は機嫌良かったと思ったんだけどなあ」
「そうなん?やっぱり肝心のセーラがいなくて別のやつが来たもんだから気を悪くしたのかね。大口叩いてたセーラをぎゃふんと言わせたかっただろうし」
「ああ、確かに姉ちゃんそんなこと言ってたなあ。セーラちゃんからアクシアを奪い返すとかなんとかって」
「別に俺はカプリ姉のパーティにいたわけじゃないけどな」
俺と一緒に笑い合ったキュベロは、そこでヴァレリアの存在を思い出したらしく彼女に慌てて頭を下げた。
「す、すんません挨拶もせず。おらあアクシアの幼馴染みのキュベロです。きょ、今日はよろしくお願いしますです」
しどろもどろなキュベロの挨拶に、しかしヴァレリアはキュベロを省みることすらしなかった。
「……ええっと」
「あ、いや!ヴァレリアさんは無口でシャイなんだよ!だからこれはキュベロのことを無視してるわけじゃないんだ!本人も人と話したり顔を合わせるのが苦手すぎて年がら年中この鎧を着込んでるぐらいだから、気にせずそっとしておいて差し上げてくれ!」
無反応な相手に困惑するキュベロに対し、俺は慌てて言い訳を並べ立てた。
「へ、へえ。そうなのかあ。なんだか親近感が湧くなあ……」
「まあそんなわけだからさ。お前の方から他の人たちにも説明しといてくれよ」
「それぐらいならお安いご用だよお」
そう言ってキュベロは冒険者ギルドに向かって駆け出し……そして思い出したようにこちらを振り向いてヴァレリアに頭を下げてからギルドの中に入っていった。
早速パーティーメンバーに説明するつもりなのだろう。いろいろと律儀なやつである。
俺はため息を吐いてから、振り返ってヴァレリアを見上げた。
甲冑に身を包んだヴァレリアはその場に直立し続けている。
金属質で重そうな甲冑を身に纏っているので、立っているのすら大変そうだが弱音を吐くどころか身じろぎすることすらしない。
……そりゃあ死んでるんだから、辛さなんて感じることすらないだろうけれど。
セーラはヴァレリアの遺体を魔法で操ると、俺について回って身辺を警護するよう命令を下した。
既に死んだ者にどうやってそんなことを言い聞かせているのかセーラは延々と小難しく語っていたのだが、俺にわかったのは遺体の脳に魔法が作用することで命令を守らせているらしい。
一応俺の言うことを聞くようにも命令が出されているので不測の事態があれば俺から直接指示を下すこともできるということだが、どこまで細かい指示を聞いてくれるのかは不透明だ。
一応宿でいくつか簡単なことをやらせてみて、荷物を持たせたりするぐらいは問題なさそうではあるのでとりあえず背嚢を持たせている。
「しっかし、死霊魔法ねえ」
かつて不死王ブラックモアは、その外法とすら言われるその魔法を用いて世界を絶望の淵に叩き込んだ。
墓穴から死者という死者を引きずり出して
さらに殺した人々を屍人にすることで爆発的に増大した死者の軍勢は、いくつもの国を滅ぼした。
既に死しているが故に恐れを知らず、延々と増え続ける死者の群れ。
そんな存在を相手にしても人類が滅亡しなかったのは、救世主アルトリウスが残した恩寵の力をもって人々が団結したからだというが……。
俺はセーラとの会話を思い出す。
*
「死者の群れが人も魔獣も見境なく襲い掛かってしまったことで、思いのほか侵略スピードが遅かったのも一因ね」
「いや、そんな冷静に分析されても……」
特に感慨もなく平然とそんなことをのたまうセーラに、俺は困惑しつつもツッコむ。
「そもそも、なんでそんなことをやらかしたんだよお前は」
「私だって別にやりたくてやったわけじゃないわ。あれは事故なのよ」
「事故お?」
「あれは死霊魔法を応用した転生に失敗したのが発端なの」
「へえ……え?お前の転生って、死霊魔法なのか?」
「ええ。そもそも死霊魔法はブラックモアとなる前の最初の私が手に入れた恩寵よ」
俺はセーラの転生の絡繰りに驚いたが、同時に納得もした。
確かに人の生命を操るのであろう死霊魔法ならそういう使い方ができてもおかしくはない。
「なるほどなあ。つまり手に入れた死霊魔法をいろいろいじくり回しているうちに、他所の身体に自分の魂を移せるんじゃないかとか考えちゃったわけだ」
「考えちゃったわけね。まあ、それも見通しが甘くて失敗してしまったのだけれど」
「失敗ってなにをやらかしたんだ?」
「自分の魂を死者の身体に移そうとしたのよ」
「はあ?」
あっけらかんとしたセーラの言葉に俺は目を剥いた。
「そいつは転生とは別物じゃねえのか?」
「元々は転生するなんて発想はなくて、人の身体を使うぐらいの感覚だったのよ。それで、魂の抜けた遺体の中でも若くて損壊のないものを選んで魂を移したのだけれど……」
そこでセーラはため息をひとつ。
「魂は失われても、身体に刻まれた記憶までは失っていなかったのね。私の持ち込んだ魂という情報と、遺体に残っていた情報がぐちゃぐちゃになってしまって。私でありながら私でなくなってしまった。間の悪いことに、その身体の持ち主……ブラックモアがとんでもない悪逆の輩だったものだから……」
「ええと……元の身体の持ち主の記憶とか感情に引きずられすぎたとか?」
「だいたいそんな感じね。それで私は私じゃなくなって、力を得たブラックモアはやりたい放題。四人の英雄たちに倒されて死ぬ間際になって、なんとか最後の力で自分の魂だけを分離して適当な胎児の身体に潜り込んだわけだけれど、かえってそれが良い結果につながったのよね」
「世に生まれ落ちる前なら、遺伝子……もとい、血統以外の情報はないわけだから、余計なものと混ざらないってわけか」
「そういうこと。正直、行くあてもなく魂だけで飛び出してしまったから、運が良かったわ。こういうのを怪我の功名って言うのかしら」
「失敗していたら怪我どころじゃすまなかったけどな。まあ、諸々の事情はよく理解できたよ」
「それにしても、相変わらずアクシア君ってこういう話の理解力は高いわよね。普通の人だったら話の半分も理解できないでしょうに」
うんうんと頷く俺に、セーラが感嘆の視線を向けてくる。
「おうよ、俺の元々いた世界には魔法やら恩寵はなかったけど、魔法的概念への考察は盛んだったからな」
まあ盛んだったのはマンガやラノベの設定やその考察でしかないのだが、そういう設定も過去の神話や魔術を下敷きにしてるはずだしだいたい合っているだろう。
「へえ、やっぱり!それなら死霊魔法についても研究がされているのかしら?死霊魔法で作り出した屍人や骨人を操るための魔法構築とか!」
「い、いや。うちの世界では概念先行で小難しい実践についてはまったく──」
「私の使う死霊魔法の場合は肉体の有無で操作に大きく違いが出るのだけれど──」
「おい聞けよ」
*
結局聞いてくれなくて延々と魔法理論を聞かされ続けたことまで思い出しかけて、俺は慌てて思考を打ち消した。
とにかくセーラの転生がどういう仕組みで行われているかは理解できたが、同時にとんでもねえ厄ネタであることも知ってしまった。
そして俺の背後にもやたらと目立つ上に厄の塊みたいな騎士が控えているのである。
できればこんな騎士を従えてギルドに入りたくはないが、かと言ってこのまま外にいてもそれはそれで人目を集めすぎる。
……つまりどこにいてもあまり変わりがないのだと気がついた俺は、諦めてカプリ姉たちを追いかけてギルドの扉を潜った。