無個性だって必死で努力すりゃヒーローになれるかもよ? 作:絆蛙
他のプロヒーローが駆け付けて来たが、俺はそれよりも
北の方角から強い気を感じられる。
違う……これは。
「悪い爆豪。どうやら
「は?」
「ちょっと行ってくるわ」
「おい、行くって何処に……!」
「すぐ帰るからそっちは任せた!!」
あからさますぎる。
これが罠だと分かってながらも俺は残った気を全開にして舞空術で移動を開始した。
「へえ……よく気づいたね」
「俺にだけ気を送っといて白々しいな。急に気を感じられるようにもなった……大方お前のせいだろ。お前……一体何者だ?」
そう、わざわざ俺に向けて気を放ってきた何者かが居た。感知させて誘導するように。
俺だけが感知できると知っていたのだろう。
それが目の前のこいつ。
筋肉質な身体にかなり高い身長。紫色の肌。
赤い瞳に鋭い目付き。
メガネを掛け、後ろの腰部には刀のようなものが取り付けられている。
髪は白髪でポニーテールのような髪型にしている男だ。
知的そうに見えるが、何処か胡散臭い。
「アッハッハ! そこまでバレてたか! さっすが悟空くんの弟子なだけあるなぁ!」
「!!」
こいつ、俺のことを知っている?
何より師匠のことすら知っている。
俺は今まで以上に警戒しながら戦闘態勢に入る。
はっきり言って戦う力はほとんどないが話を聞く必要がありそうだ。
「あー! 待って待って! 僕は今日戦いに来たわけじゃないんだってば! むしろ逆! 拳王技界くん。君に直接感謝したかったんだ!」
「は?」
師匠の弟子と知ってる時点で名前を知ってることは驚かないが、意味が分からなかった。
感謝だと? 俺はこいつに対して何もしてない。それどころか初対面だ。
「君のお陰でいいエネルギーが手に入ったからね。 この世界は面白いことがいっぱいあるんだ。特に気になるのは”個性“! 悟飯くんたちやガンマ1号、ガンマ2号とは違う”ヒーロー“ってのにも興味はあるんだけど、やっぱり個性の方が気になるんだよねえ。
それは僕たちの世界には無くってさ」
エネルギー?
”僕たち“……こいつ、別の宇宙からやってきたのか?
個性に興味を持っているようだが……。
「あのヒーロー殺しだっけ? とってもいい実験になったよ! 今回は強化したらどうなるんだろうって”気“と身体能力を強化したんだけど、あそこまで強くなるなんてね。ああ、それと脳無もだ。栽培マンの種を与えたらまさか栽培マンが”個性“を得るなんて想像もしてなかった! それもたったの一つで何百体も生み出すことが出来るなんて……この方法が確立出来たらどんな面白いことが出来るんだろうね? 栽培マンだけじゃなくて植物や農作物、はたまた自然のものにも影響があるかな? 気になることがたくさんあるなぁ」
「お前、何言って……? まさか、あの魔術はお前の仕業なのか!?」
「あ、魔術も分かるんだ?」
こいつ自身の態度にも怒りが込み上げてくる。こいつが元凶か。
今にも握り締めた左手から血が出てきそうだ。
正直、こいつの言っている意味は分からない。
だが、実験とやらのせいでここまで被害が出たってことなのか。
「お前が栽培マンを……ヒーロー殺しを……この騒動も……お前がやったのか。USJの時も……お前が……!
お前が強化したのか!? お前が言う実験のために、多くの人を……俺の幼馴染を、友人を、先輩たちを巻き込んだってのか!?」
「そうだと言ったら--君はどうするのかな?」
「界王拳--ッ!!」
自分の全てを使って殴りかかった俺の拳に反応出来なかったのか目を見開いて。
「おっと。へえ、さっきの戦闘より戦闘力が上がってる……やっぱり面白いね、君。それにまだまだ力が眠っているみたいだ。でも戦うつもりないんだよね」
俺の攻撃はあっさりと空振った。
それどころか首元に刀が添えられ、左腕は抑えられ、全く反応すら出来ない。
冷や汗が流れる。
動きが何一つ見えないどころか動いた瞬間すら分からなかった。予備動作が一切なかった。気を含めて。
ネロと違って俺の予測が通じる相手じゃない。
こいつ、
だとしても。
「離れろッ!」
「だーかーらー! 戦うつもりはないってさ。落ち着いてよ」
「ふざけんなッ!」
抵抗しようとするが左手が一切動かない。
なんて力してやがる、界王拳を使ってても動かねえ。
底知れない強さを感じる。
なら、と折れた腕を強引に動かして薙ぐと軽々と避けられる。
男は身軽に空中を回って逆さまになりつつ片足を組んでいた。
この野郎……!
「いちいちムカつくヤツだな……だったらこれで吹き飛ばしてやる!」
両手を腰部に添えた俺は気を凝縮させる。
残った気のほとんど全てを集め、通常よりも大きく貯めると。
「かめはめ--波ァァァァアアアアアア!!」
膨大なエネルギーの塊を解き放つ。
今の俺の残る全ての力。
直撃さえすれば無事で済まないはずの一撃。
「仕方がないな」
その一撃が、あっさりと刀で斬られた。
体が一気に重たくなり、界王拳が維持出来なくなる。
浮くことで精一杯で呼吸が酷く乱れてきた。
「く、くそ……」
「落ち着いた? 一応言っとくと、騒動事態は僕がやったんじゃないからね? そこは誤解しないで欲しいな」
「だ……だったら、なんの用だ……」
「さっきも言ったけど実験と感謝だよ。どんな科学反応が起きるのか気になるじゃない?」
「お前……ッ! 人をなんだと……!!」
「そう怒んないでって。殺すわけでもないんだし。代わりと言ったらなんだけど、君にいいこと教えてあげるからさ!」
「ッ……!」
どれだけ怒りを抱いたところでもう戦う力は遺されていない。
歯を強く噛み締めながら俺は戦闘態勢を解いた。
こいつのことは全く信用出来ないが、今の俺じゃ実力でどうにも出来ない。
それどころか気が変わって街を狙われたらお終いだ。
深呼吸をして、怒りを鎮める。
冷静に判断しろ。今勝てない相手に挑んで殺された方が最悪だ。
「やっと話を聞いてくれる気になった? じゃあ教えて--……ってやっぱりバレちゃったか。別にいいでしょ、エネルギーは回収したんだから。別に新しい歴史や世界を創ったわけでもないんだし。僕は誰一人殺してないじゃない」
「……?」
「それにそこの彼が居る限り--ああ、そっか。聞こえないんだね。じゃあチャンネルを繋いであげようか」
突然誰かと喋り出したような話し方するのを見て周囲を見るが、誰も居ない。
気すら感じられず、怪訝そうにしている俺に文字のようなものを書いた何らかのエネルギーを放ってきた。
俺は避けることが出来ずに直撃する。
体を紫の光が包み込み、特に変化もなく消えた。
「俺に何を……」
『ちょっ……勝手に界くんに繋げないで! 聞こえないようにしてるのに! 私たちの存在を彼に伝える訳には--』
「!?」
頭の中で声が響く。
これはテレパシー? というか女の人の声だ。全く知らない……何故俺の名前がこんなに知れ渡ってるんだ。
「誰……ですか?」
『あ……て、手遅れだった……。こ、こほん……私のことは今は気にしないでちょうだい。いずれまた話す機会があると思うから。ただ味方だとだけは伝えておくわ』
「……分かりました」
『あら、随分とあっさり信じるのね……』
「声に悪意を感じないので……それに今の相手はこいつですから」
目の前の男を睨みつけると、そいつは両手を広げて肩を竦める。
声の正体が誰であれ、味方なら今はそれでいい。
『そうね。とにかくそれ以上の介入は許さないわ。まだ何かするつもりならこっちもこっちで対応させてもらうわよ』
「それは面倒だなぁ。分かったよ。今日のところは引くとするよ。それにもう一人……厄介な存在が僕に気づいたみたいだしね」
そう言って男は俺を、その背後に視線を向けていた。
俺も同じように目を向けるが、そこから気を感じられることもなければ気配すらしない。
こいつが言ってる意味が全く分からねえ。解説役が欲しいレベルだ。
「そうだ、さっき言ってたお礼。僕は嘘は付かないからね、ちゃんと教えておいてあげる。拳王技界くん、君は自分がただの普通の、気が使えるだけの無個性の人間だと思ってるでしょ?」
『……! 待ちなさい! それ以上の発言は--ッ!!』
「何も間違ってないだろ。俺は無個性で、それ以上でもそれ以下でもない」
声にノイズが走り、途切れたように何も聞こえなくなる。
だが気になる発言にそれを気にしてる暇はなく、男の言葉に事実を突き付ける。
「そうだね、確かに君は”無個性“だ。サイヤ人のような特殊な特性もなければ異星人や神様のような力もない無力”だったはず“の存在。だけど今やこの世界は君を中心に回っている。不思議だと思わない? 君という存在がこの世界を、この宇宙のレベルを引き上げてるんだ!」
「お前……何を言ってる? 全く言ってる意味が分からない」
「君たちが住むこの宇宙はちょっと特殊でね、覚えがない? 例えば……そう、君の周りで誰かが
「……!」
そう言われて、俺が見てきた中で急成長を果たした面々が浮かぶ。
出久や爆豪、切島、轟。通形先輩や天喰先輩。ホークスさんやレディナガンさん。エンデヴァーやオールマイト。
かつて共に戦ったヴィジランテの人たち。
先程戦ったネロ。
それから、小森さんとねじれ先輩。
俺が知らないだけで他にも多くの人がいるかもしれない。
「ほら、その顔は覚えがある顔だ」
「っ……だとしたって、それに何の関係があるッ! 強くなることは悪いことじゃないだろ!?」
「そうだね、悪いことじゃない。だけど逆に言えば、君の存在がなければそうはならなかった。君の存在がなければ
「特……異……点……?」
どういうことだ。
個性特異点とはまた違う意味合いなのは分かる。
だが、特異点ってのは何を指している?
ブラックホールの特異点? 技術的特異点--シンギュラリティのことか? それともフィクションで扱われることの多い方の意味か?
「そう! 君だけが特別! 君だけが
君だけが
「……言ってる意味が分からねえよ」
「ま、それもそうだよね。ただ君を中心に世界が回ってるだけさ。これから先どうなるかは”特異点“である君次第ってこと。君の行動で全てが変わるんだ」
そう楽しそうに語るこいつに俺は頭が混乱しそうだ。
俺次第? 俺の行動で変わる?
何が変わる? この世界に生きる人々は皆今を生きている。俺一人が何か行動したところで世界は何も変わらない。
「じゃあ僕は帰るとするよ。その前に名乗っておかなきゃね。
僕の名前は”フュー“。また会いにくるよ、拳王技界くん。僕、君自身にもすっごく興味があるんだ!」
「意味分からない事ばかり言いやがって、二度と来んな」
「アッハハ! 本気で言ってるのもいいね、面白いや! ますます君のこと調べたくなってきたよ! 僕は君が特異点的存在ってことしか知らないし、その割には
あー解剖して隅々まで調べ尽くしたくなるなぁ。でも……残念だけど時間切れだ。これ以上居たら僕からしても厄介な存在と顔を合わせることになる」
何が面白いんだ、こいつは。
ガチで殴ってやりたいが、もうその余力がない。
殴りにかかったところでゆっくりすぎて絶対当たらないだろう。
俺に手を振るフューとやらに愛想笑いすら出来ず心底嫌な顔をすると、そいつは刀を抜き身にして刀身が紫に染まると何かを斬るように振るう。
するとブラックホールのような、ヴィラン連合の黒霧の個性のような丸い空間が現れ、その中に入っていた。
まさかこいつ、空間--いや次元?
次元を斬ったのか……?
「バイバーイ!」
最後まで気味の悪いやつだったが、空間と共に跡形もなく消えていた。
見た感じだが恐らくどこかにワープしたのだろう。
それがどこか分からないが……。
「なんだったんだ……あいつ……」
『ッ……!やっと繋がった! 大丈夫!?』
また声が響く。
さっきの人だ。
……いや人間かは分からないが。
とりあえず俺は出久たちの方に方向を向けて動きながら返事する。
消費しすぎたせいで、スピードが全然出ない。
「大丈夫です。帰ったみたいなので」
『そう……よかった。フューが何を言ったかは分からないけど、君は君のやりたいように動いていいからね。あまり気にしないでいいわ』
「……」
声の主も色々と知っているのだろうか。
フューが言っていた意味も分かるのだろうか。
特異点。世界の中心。
まるでそれは、フィクションでいう
俺がそうだと言いたいのか? そんな訳ない。
物語ならまだしも現実ってのは一人一人、それぞれが主人公なんだ。
特定の誰かがだけが主人公ってのは有り得ない。確かに両親を目の前で殺された……というのはコミックなら主人公として扱えるエピソードとして十分かもしれない。
でもそれは、俺に限られたものじゃないんだ。俺の知らないところで似た経験をしたり、俺とは違った暗い過去を持ってる人たちもいる。
だが……あいつは嘘をついてるようには見えなかった。
もしこの先、俺の行動で未来が変化するなら……俺は何もしない方がいいのか? それとも何かすべきなのか?
俺が動くことで最悪な未来へ辿り着くんじゃないのか?
『……界くん。少なくとも私は貴方の行動に感謝してるの』
「感謝、ですか」
『うん。たくさんの人を助けて力になって、その世界を守ってくれている。だから貴方は何一つ間違えたことはしてないわ』
俺のことを見ているのか声の主は急にそんなことを言ってきた。
慰めてくれているのだろうか。
俺は別にやりたいことをしてるだけだ。
「……でもあいつは、フューとやらは俺が引き寄せたんじゃないんですか。俺が”特異点“ってやつだから。そのせいで多くの被害が」
『そう……それを聞いたのね……。界くん。強い力を持てばその力を邪魔に思って排除しようとする者が現れる。世界って案外、そんな因果関係で結ばれてたりすると思うの』
『だけど強者を引き寄せる理由は界くんが”特異点“というだけじゃないわ。貴方が”強い“から。強い人のもとに人は集まるものよ。それに……引き寄せるのが悪人だけとは限らないわよ。悟空くんを知ってる君なら、君の周りを見れば、それはよく分かるんじゃない?』
「…………」
その言葉を聞いた俺は一瞬空中で固まり、また進む。
確かに師匠は多くの者を魅了し、かつて敵対していた相手と気が付けば仲間と呼べる関係性を築いていた。
共通の敵が居たというのもあるが、師匠が居たからこそ出来たことだ。
だがそれとは違い、師匠は悪人を引き寄せてしまっていた。
俺は……俺の周りには、色んな人がいる。
雄英の人たち。先生。先輩方。プロヒーロー。
そして俺の中で大切な存在である師匠。
『何より悪人を引き寄せちゃうなら簡単な解決方法があるわ!』
『解決方法……?』
『ええ、簡単な話--
強くなってぶっ飛ばしちゃいなさい! そうすれば解決でしょ?』
「----」
「っ、ふ。はははッ!」
『え!? 私何かおかしいこと言った!?』
「ははははっ、く、くく……。い、いえ、そうですね。ありがとうございます。フューの言ってることはあんまりよくわかりませんけど……俺は俺なりに生きていこうと思います」
そうだ。
俺の目的が師匠を超えることならどんなやつにだって勝てるようにならなきゃいけない。
例え俺が悪人を、強者を引き寄せてしまう体質だったとしても、この声の人の言う通りぶっ飛ばせばいいだけの話なんだ。
『そう……振り切れたみたいならよかった。ただごめんなさい。私たちは貴方の力になることも出来なければ、あまり長く話しちゃうとその宇宙にどんな影響があるか分からない。だから最後に一言だけ伝えるわね』
「……?」
『--頑張って』
その一言が響くと何も聞こえなくなる。
声の主がどういう存在なのか何者なのか。
それは分からないが、込められた感情から懐かしい感覚を思い出す。
もう与えられない、昔に与えられた母からの愛情に近いもの。何処か子供を想う母親のような、そんな優しさを、慈愛を感じた。
惑わされていた俺を導いてくれたことに心の中で感謝を述べると、俺は目の前の光景を見て速度を強引に速めた。
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気が付けば界くんが居なくなって何処かに行ったみたいだけど、OFAと変速の負荷で動けない僕はネイティヴさんに背負われたまま、ひとまず引き渡しと合流のために動くことになった。
界くんについてはグラントリノが残って探してくれるみたいで、かっちゃんも一緒に居るから大丈夫なはず。
そう決めて行動に移ろうとした瞬間だった。
「伏せろ!!」
僕は空にいて、視線を向ければ脳無に連れ去られていた。
「緑谷くん!!」
明らかに動けない様子の僕を狙ったのか!
まずい、こいつかなり速いぞ。
追いつける人は限られてる。僕がどうにかしないと--!
「出----あ!?」
反応したかっちゃんの爆破が見えたけどそれよりも早くナニカが駆けた。
視界から消えたせいで正体は分からず。
「--偽物が蔓延はびこるこの社会も」
その声が誰なのか。
ついさっき戦ったからこそ、考えるまでもなかった。
ドッ、と。
脳無の脳ミソに、まだ隠し持っていたのか短刀をブッ刺していた。
それもオーラはないのに、紫色のエネルギーが纏われている。
状況的に気絶から覚めたであろうステインが束縛を解いて駆けたのだろう。
しかし脳ミソを刺して殺したのであればどうなるか予想するのは容易で。
脳無の体から力が抜けたのか墜落し始めた。
「うわあああ!?」
体が上手く動かせない僕はこのままでは地面に激突する。
何とか黒鞭でどうにかしようとするけど、上手く個性が発動しない。
やばいやばいやばい--!
そうパニックになりかけると、体が浮遊感を覚える。
支えてくれたのだと理解して地面に着地した僕はうつ伏せから仰向けになり、声から分かっていたとはいえ目を見開いた。
「ヒーロー殺し……! なんで……っ」
「--徒に力を振りまく犯罪者も……粛清対象だ……ハァ……ハァ……」
誰もが慌てて戦闘態勢を取る中で僕は近くにいると危険だというのに戦闘態勢を取らなかった。
危機感知が鳴ってないのもある。
だけどそれ以上に、ステインが僕を傷つけるつもりがないと本能で理解していた。
「何をしているっ!? 今さっき上空を駆けた脳無がこちらに来たはず……ッ。む、あれはヒーロー殺し?」
どうやら目に入った脳無を追って来たみたいでエンデヴァーが姿を現す。
するとステインが僕に背を向けるようにゆるりと振り返った。
目元を隠すように覆っていたボロ布が解け堕ち、僕も含めて、この場の全員がその素顔に慄いて個性を使われたかのように膠着した。
隠れていた削ぎ落された鼻が露出し、焦点を失いかけているにも関わらず強い念の籠った瞳が虚空を見つめ、全身から噴き出すような威圧感が周囲を呑み込む。
その気迫に僕らは気圧される。
これほどのものは感じたことがない。それこそ界くんを遥かに上回る気迫。
「贋者……。誰かが正さねば……正しき社会の為に………
一歩歩む。
ただそれだけなのに向けられた全域に向けられた圧に押し潰されそうになり、ナニカ、怨念のようなものがステインの背後に幻視する。
あまりの気迫にプロヒーローでさえ立って受け止めるには覚悟が足りず、何人かが後ずさるか座り込んでるのが視界の端で見えた。
けれど視線は誰もがステインに釘付けになって、僕も同様だった。
「来い贋者共! 俺を倒して良いのは……俺を殺して……良いのは--」
本物の
その瞬間。
先程以上の威圧感が発せられ、
同時に僕やかっちゃん。グラントリノやエンデヴァーですら動けない中でステインの目の前に辿り着いた人物がいた。
上空から降ってきたその人物は--
「そうか。だけどなステイン。お前が思うヒーローは、本物のヒーローは--殺さないだろ?」
「……! メテオ……」
それはいなくなっていたはずの界くんだった。
彼だけはいつも通りで、ただその顔は酷く悲しげで。
「本、物……やはりお前が! お前はッ! 未来の英雄! 本物の
「……またな」
気も纏っていない、ただの拳をステインは受け止めるように両手を広げながら頬を殴られて。
どこか満足そうに倒れたあと、動かなくなった。
意識を、失ったんだ。
「なぁ、ステイン。お前は道を間違えたんだと思う。どんだけ高尚な信念持ってようが……
誰一人として動けなかったというのにそう呟く界くんは何も変わってなくて。その声はどこか沈んでいた。
どうして君が、そんなに泣きそうなんだ。なんでそんなに、悲しそうなんだ……?
ヒーロー殺しは犯罪者でヴィランで。
同情の余地はあっても君自身が悲しむ必要はないはずなのに。
そう僕が口にしようとした途端、界くんの体が揺らいだかと思えば後ろに倒れた。
倒れた……倒れた!?
「やっと見つけた、界くんーッ!!」
「波動さんナイスキャッチ! ギリギリセーフ! って、空気重たっ! 重たくないですか!? どういう状況!?」
「緑谷少年! 先生! っとと、轟少年や飯田少年、爆豪少年まで……ってええっ!? 拳王技少年がまた酷い状態になってる!? 彼がここまでなるって……もしかしてヤバい状況だった……?」
「!? ネジレちゃん、ルミリオン! メテオの容態は!?」
「おいバクゴー! どういう状況だこれは!?」
「とにかく……ヒーロー殺しを捕縛しましょう」
--次々と色んな人たちが集まってきて収拾がつかないからか。
情報共有のためにリューキュウの言葉でようやく全員が元通りとはいかないけれど動き始めた。
そんな中で僕は、僕とかっちゃんだけは界くんを見ていた。
あの中でも動けるなんて……まるで彼は、
界くん……君は一体、今まで誰と修行してきたんだ……?
本当に君は、君が修行してきたのは君の師匠だけなのか……?