二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 作:Tmouris_
睦ちゃんたちの進む先はどこに
そこからはAvemujica大進撃が始まった。
事務所への所属は速攻で決まったし、SNSでも話題沸騰中だ。
あとは何度もライブをこなして、今日はついに武道館ライブ……
「緊張する?」
「大丈夫。仮面もあるし……結月もいるから」
祥子ちゃんの家の前でタクシーを呼んで待っていると、ガタガタと音を鳴らしてキャリーケースを持った祥子ちゃんが降りてきた。
有無を言わさずタクシーに乗り込む祥子ちゃん。
「あのクソ親父!今まで私がどんな気持ちで!」
「何があったのさ……」
怒りをここまであらわにする祥子ちゃんは珍しい。
「わたくしと一緒にいると惨めになるから……居なくなって欲しいと言われましたわ!」
それを聞いて、俺は睦ちゃんの方を一瞬だけ向いた。
親から否定される気持ち……俺には分からないけど。それがどういうことかってことくらいはわかるようになった。
「祥……武道館大丈夫?」
「大丈夫に決まっているでしょう……未練を断ち切り全てを忘れる。わたくしにはもうAvemujicaしかない!」
未練……感情的になってる今だからこそ初めて聞いた。
もしかして……CRYCHICのことも。
―――
幕が上がって、寸劇が始まる……けど、なにか様子がおかしい。
「こんな張り付いた笑顔なんて誰も欲しくな〜い。心から笑わないと。こんなふーに!」
そう言って、自らの仮面を取り払った。
そして、次は睦ちゃんの元に……
ダメだ!やめろ!やめろ!
今にも叫びそうになる声を押し殺しながら、俺は舞台を見ることしか出来なかった。
そして、にゃむちはそのまま睦ちゃんの仮面を勢いよく外し、スクリーン全体に睦ちゃんの顔が映し出された。
……終わった。
睦ちゃんは必死に隠してるけど、会場全体が湧いている。
そこからはにゃむちのやりたい放題だった。睦ちゃんだけじゃなく、海鈴さんも祥子ちゃん、それに、初華の仮面を外すように進行していった。
そこからのライブのことはあまり覚えていない。
ライブが終わって、真っ先に控え室のドアを叩き開ける。
「どういうつもり!約束と違う!」
「最高の舞台で最高のタイミングで仮面を取る、それって今日以外ありえる?」
部屋に入ると、ちょうど祥子ちゃんとにゃむちが言い争ってる最中だった。
……祥子ちゃんの意思ではなかったんだ。
だけど、一回外した仮面はもう付けられない。
「睦ちゃん大丈夫!?」
「はぁ…はぁ…」
ダメだ、呼吸も浅くなってるし、顔色もあまり良くない。
「祥子ちゃん……約束覚えてるよね。俺は抜けるよAvemujica」
祥子ちゃんは歯を食いしばって「っく」っと顔を逸らす。
「行こう睦ちゃん。このバンドはもう終わりだよ」
俺が睦ちゃんの手を引いて帰ろうとすると、睦ちゃんは抵抗するようにその場に居座った。
「……ダメ、祥には、Avemujicaしか、ない、から」
「辞めるなら結月くんだけやめなよ。むー子に辞められると困るんだけど」
「祐天寺さん!」
Avemujicaにはもう俺には想像もつかないほどの人気とお金が動く……簡単に決められることじゃないのは分かってる!分かってるけど!
「分かったよ……祥子ちゃん。睦ちゃんのことをよろしくね」
俺はそれだけ言って控え室を去った。
帰り際、スマホを開くと立希ちゃんからメッセージが入ってた。
『どうせ結月、祥子のこと知ってるんでしょ?説明してもらうから』
『分かった』
一言だけメッセージを返して俺はスマホを閉じた。
……今日は疲れた。
次の日、RiNGのカフェに足を運ぶと、入口でそよさんと鉢合わせた。
「睦ちゃんから全部聞いたから」
……仕方ない。仕方ないんだけど、出来れば睦ちゃんに負担のかかることはしないであげて欲しい。
俺はその言葉を飲み込んで、そよさんに続いて中に入った。
「祥子ちゃんが全部やってるんだよ」
「全部ってなに?」
「そのままの意味だよ、バンドも劇も曲も」
それ以上のことを言うかは迷った。祥子ちゃんの事情も全部説明するべきなのか……俺には分からない。
「知らない祥ちゃんの叫び」
そう、みんなが知らない祥子ちゃんの苦しみ。それがこのバンドには詰まっている。
ある程度の事情を話したら、母さんから急に電話がかかってきた。
『みんな呼んでパーティするからよろしくね〜』
「ごめん、急用できたから帰らないと」
どうしてこんな時に……そして、俺は急いで実家に帰ると、Avemujicaのメンバーも揃っていた。
あんなことがあった後で、個人的にすごい気まずいんだけど。
そんな中でもにゃむちは特にはしゃいでいて、母さんに言いよっているようにも見えた。
まぁ、職業柄掴めるチャンスがあるなら掴みたいって気持ちはあるんだろうな……でも、それで周りを巻き込まないで欲しいけど。
そのあとは、俺と睦ちゃんが昔使っていたスタジオを使って、ドラマの放映会を始めた。
自分の母親ながら凄い……大女優と言われることはあるなって。
「どうせなら、ここバンドの練習に使っちゃってもいいわよ?」
母さんの提案に、睦ちゃんの肩がぴくりと動いたのを見逃さなかった。
俺は未だに残っている、すり減った椅子を見る。
母さんに見てもらえなくて、唯一自分の居場所だった睦ちゃんの場所を、そんな簡単に奪ってしまってもいいんだろうか。
だけど、それを言う権利は俺にはない。俺はAvemujicaからもう抜けてしまったんだから。
―――
みんなが帰って、俺と睦ちゃんと母さんの三人だけが残った。
「睦ちゃん、俺たちも家に帰ろうか」
「結月はちょっと残っていきなさい。睦ちゃんは先に帰ってもいいわよ」
なんとなく予想はしてた。Avemujicaのメンバーを集めて、わざわざ俺まで呼んだんだから何か言いたいことがあるんだろうなって。
「睦ちゃん、明日生放送の仕事入ってるよね。今日は先に帰ってゆっくり休んで」
睦ちゃんは少しだけ俺の目を見ると、こくりと頷いて先に玄関から出て行った。
その時の目が少しだけ寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。
「結月、後悔はしてない?今ならまだやり直せると思うけど?」
そういいながら、母さんは俺を抱き寄せて頭をなでてくれる。
そっか、俺がAvemujicaを抜けたの母さん心配してくれてたんだ。
「……後悔はしてないよ。きっとこれ以上俺がいてもうまくやっていけなかったと思う」
変にメンバーと衝突して、足を引っ張っていくくらいならいない方がいい。
……睦ちゃんを一人だけ残しちゃったのは心残りだけど。
「だけど、これで睦ちゃんを守るのは難しくなったと思うわよ」
「家は一緒だし。ちゃんと気をつけるよ」
多分、これから仕事が忙しくなって家に帰って来られる日も少なくなっていくだろうけど、それでも、ずっと帰ってこれないわけじゃない。その時にちゃんと見ててあげればきっと大丈夫。
「そう……結月がそれでいいならいいわ。ただ、芸能界をあまり甘く見ちゃだめよ」
心配事は多い。仮面を外した時の睦ちゃんの様子は普通じゃなかった。それに、これからメディアへの露出だってどんどん増えてく。
……それに、俺たちは二人とも親とずっと比べられて、それが嫌だった。
睦ちゃんなんて、何をしてもさすがみなみちゃんの娘って言われるだけ。
「頑張るよ」
俺にできるのは睦ちゃんを支えることだけ。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
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現在、avemujica再履修中です。