燈に好きな男の子がいると知って爆沸きしたクラスメイトたちが恋バナする話。

※原作登場人物への恋心を好きな男の子がいるものと勘違いして受け取る周囲の話とかではなく本当にガッツリ架空の幼馴染男性を生やすので、原作CP以外認めたくない方はブラウザバックしてください。

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本当に燈に彼氏できたらデンジャラスなことになるのは立希じゃなくてそよ・ザ・デンジャラスな気がするジャラスね


「は? 燈に彼氏なんか認めないんだけど?」

 ともりんは不思議ちゃんだ。

 窓の外を眺めてるなーと思ったら手許のノートにめっちゃ綺麗な雲のスケッチが描かれてて、次の日もやってるなーと思ったらごちゃごちゃした迷路が広げられてたりする。学級文庫の背表紙の色を真剣な顔でグラデーションに揃えていたり、黒板の磁石をきちんと並べて満足そうに頷いてたり、板書を消したあとの黒板消しを丁寧にクリーニングして優しく撫でてあげたりする。

 

 とりあえず大人しい系かと思いきや、どったんばったんのツウィスタンターンズの紆余曲折を経て、私とバンドなんか組んでたりもする。

 激しいドラムと流麗なベースが作る土台の上で、超絶技巧のギターが二本バリバリに絡み合って……ごめん見栄張った、りっきーの作ってくるイジメみたいなフレーズにひいこら言いながら弾いてる激しいメロコアバンドで、人に馴染めない生きづらさとか怖さとか、それでも見つけてきた綺麗なものとか、そういうのを一生懸命磨き上げた言葉で、叫ぶように歌ってる。

 なんなら今のだってともりんの歴としては二つ目で、前のバンドは知る人ぞ知る感じで話題になってたりしたらしい。解散経験もアリのバンドマン、ってともりんにマジで全く似合わない文字列だけど事実だからすごい。

 

 大人しくて、だけど秘めた想いの爆発力がすごくて、ステージに立って全身全霊で歌う姿に胸を打たれる子も多い。それにふつーに顔も可愛いし、なんなら仕草もちょこちょこしてるし、不思議ちゃんだけど不思議ちゃんなりに周りと協調しようと……周りの善意に善意で返そうと頑張ってるのも伝わる。

 不思議ちゃんなともりんは、不思議ちゃんゆえにひとりでいることこそ多いけど……実のところ、すっごい愛されていた。

 目立ちたい褒められたい私としてはずるいなー横でギター弾いてるんですけどー? とか思いつつ、ともりんが褒められてたりするとぶっちゃけ鼻が高いのも本当だった。

 そりゃそうでしょ。友達が愛されてる。最高。

 

 とはいえ、ともりんがファンサとか積極的に人に好かれようとするムーブしたらなんかヤダな、と思ったりもする。こう、そんな気なくて素朴に笑ってるからカワイイ、みたいなのもあるわけじゃん?

 いやでも聞いてくれる人が喜んでくれるから、ってMCのときにちっちゃくお手々フリフリして歓声にびっくりしてたな。可愛かった。ファンサくらいはいっか。じゃあなんだ、こう、あざとくぶりっ子し始めたり、うーん、恋愛匂わせる感じになってくると、って感じかな。そうなるとヤかも。女子は男ウケ狙いの猫かぶり女に厳しいよね。ねーそよりん! あの子の恋愛は想像したくないな。重そうで。

 

 とかなんとか想像しつつ隣の席をチラ見すると、ともりんは今日も今日とで空を眺めていた。ホームルームが終わって5分くらい。みんなお喋りに興じていてまだまだ帰る気配はなし、部活に行くような子もまだスマホをいじってるくらい。騒がしい我がクラスで、ともりんの周りだけがいつも穏やかだ。

 今日はバンドの練習もない。特にやることないし、久しぶりに水族館行きたいって言ったらともりんも来るかな? なーんて考えてた私、千早(ちはや)愛音(あのん)。女子高生にあるまじき感性の鈍さだったと猛省することになる。

 

「ともり〜ん!」

 

 おや? 返事がない。ひらひら手を振ってみるも無反応。

 机の上に広げられたともりんのノートは真っ白だった。握りしめたペンは微動だにしていない。

 心ここに在らず、って感じ。どしたんだろ?

 

「……ともりん? いっしょかーえろ!」

「……ぁ、え、あのちゃん……あれ? ホームルーム……」

 

 はっと私の方に振り向いて、それから教卓にクラスメイトたちに視線が顔ごと右往左往する。髪がサラサラ揺れる。可愛い。

 

「どしたの?」

「えっと…………その……ぅ……」

 

 俯いてしまった。

 だがしかし、大親友の私にはわかる。言葉の海に溺れかけていたり正しい返事が思いつかないときのそれじゃない、単純に恥ずかしがってるときのともりんだ。

 私は「大丈夫だよ〜」と微笑んで、机の前にしゃがみ込んだ。

 

「ゆっくりでいいからね。あ、場所変える?」

「……う、うん。……じっくり話したい、かも」

 

 かも。かも……? 口にするまでにじっくり吟味するともりんにしては不明確だ。彼女はぎゅっと握った手を胸元に置いて、それから何度か首を傾げたり、頷いたり。文字通り自分の胸に何かを尋ねてるみたいだった。

 

「え、なんかマジ悩み?」

「…………うん。えっと、たぶん、っていうか。悩んでるのかがわからないんだけど」

「うん……うん?」

 

 なに?

 うっかり油断した私の脳味噌に、ふと、さっきのしょーもない考え事が蘇った。ともりんが男ウケ狙ったらなんかちょっとヤダな、ってあれ。

 おおバカヤローだった。

 ともりんはぽっと頬を染めた。かわいいなぁ、と思った矢先だった。

 

「……すきな男の子が、いて」

「……………………」

 

 ん?

 

「……すきだから、すきなんだけど。すきなのは本当で、悩みじゃないんだけど……どうすきなのかが掴めなくて……あの、あのちゃ」

「ともりんに好きな人!?!?!?!?!?!?」

 

 三秒後、クラスメイトたちも同じことを叫んだ。

 

 

 

 

 

「誰誰誰いつどこなんでどこから!?」

「あ、あの……落ち着いて……」

 

 助太刀致す。

 クラスに残っていた全員、いやほんとマジの全員が残っていた。誇張なし。2()()B()()総勢30人勢揃い。

 ごめん嘘ついた。

 

「そうですわよ(ともり)! どうして教えてくださいませんでしたの水臭いですわよ!」

「落ち着いて……」

 

 豊川(とがわ)さ……いや祥子(さきこ)ちゃんでいいって言われてたっけ。祥子ちゃんがともりんの手を握ってぶんぶん振り回してた。A組じゃん。なんでいんの?

 

「もー祥子ちゃん落ち着いて! 話聞けないでしょ!」

「愛音こそ落ち着きなさい! 肩を揺さぶられては話すものも話せないでしょう!?」

「お、お、落ち着いて……!」

「こらこらこらチハヤ、あとオブ様、違うえーと豊川さん、ストップね。高松(たかまつ)さん話せないから。大丈夫高松さん」

「だ、大丈夫です」

 

 レフェリーに引き剥がされた。祥子ちゃんが悪いんだからね! ふたりして床にぺたんと座らされたので祥子ちゃんの膝をてしてし叩く。その手をペチペチされる。

 

「それで高松さん、こんな話広げちゃって今更なんだけど……みんなで聞いちゃっていいの?」

「……はい。その、私ひとりじゃ、掴みきれないかもしれないから。探すのを手伝ってほしい……です」

 

 祥子ちゃん? なにそのチョップ。太腿へ落ちてきた手刀に裏拳で返すと払いのけるような平手打ちが。その隙にパンチをお見舞ぐえっ。

 ……やんのかー!

 

「探すって?」

「好き、なんだけど……二文字だと、説明しきれないっていうか……」

「うっ」

「ドキドキするの一言でも、炭酸を飲んだみたいとか、花が咲いてくれたときみたいとか、違うから……ちゃんと、全部向き合って、整理したい」

「きゃー! すごい! キュンキュンしてきた!」

「協力するする! めっちゃする!」

「あたしいまラノベ持ってるよラブコメのやつ」

「でかした! 他に資料ある!?」

「図書室行ってくる!」

「サブスクのプレイリストとかどう! ラブソングの歌詞!」

「ていうかそこのふたり! 暴れない! 友達でしょなんかないの!?」

「痛っ、ちょ、いまホントに叩いた!?」

「やかましい!」

 

 おかしいな、あんたたち私たちのライブ来てファンになっちゃったーとか言ってたよね? なんか荒っぽくない!?

 ね、と隣を振り返ると祥子ちゃんがいない。

 

「こほんこほん……それでは燈? まずは、そうですわね、馴れ初めから順にお話ししてくださる?」

「あっずる! 私も聞きたい!」

「うるさいですわよ! 親友である私にこそ話しやすいというものでしょう、聞き役は譲りませんわよ!」

「はぁー!? ともりんの親友は私ですぅー!」

「どっちでもいいから大人しく聞く!」

 

 もっかい引っ叩かれた。

 

 

 

「では……改めて、お聞かせくださる?」

「は、はい」

「ふふ……畏まらずとも大丈夫ですわよ」

 

 という祥子ちゃんは満面の笑み。心の声聞こえそう。あー癒やされますわねーとか思ってそうだ。私も聞き役したかったなー。あ、私は議事録担当です。

 なお、それはそれとしてともりん本人もノートを書くことになった。いつものやつね。小学校とかで使ってる感じの写真付きノート。

 ともりんのなかでその「すきな男の子」への思いを言語化するのが目的らしいから、議事録とは別にノートは書きたいよね、っていう祥子ちゃんの判断。なんでもいいからラブコメを摂取したい私たち以下クラスメイトは特に何の文句もなかった。存分にやって。

 

 Q.出会いは?

 

「え、えっと……幼稚園? かな……」

「幼稚園!」

「幼馴染だ」

「幼馴染!」

「お待ちなさい、出会いが幼稚園としか仰ってませんわよ! 燈、どうですの?」

「……お、幼馴染、です。中学から私が女子高になって、学校は離れちゃったけど」

「きゃーっ!」

 

 フロア熱狂。

 めちゃめちゃ意外だ、ともりんに幼馴染……少なくとも、ともりんがそう認識するくらいにはずっと側にいるんだよね? ただ単に古い知り合い、ってわけじゃなくて。

 

「えーっと、えっと、えー!? ウソウソウソ知らないんだけど! 私見たことある!?」

「え、えっと……あのちゃんは……ない、はず」

「なんでぇ!?」

「『MyGO!!!!!』は私の仲間で、自分は違うから、邪魔しちゃダメ、って」

「律儀!」

 

 でもなんかともりんの幼馴染っぽいな。なんていうか、区分けとかに厳格なとこ。

 ともりんが幼馴染くんの名前を書き込んだノートに「幼馴染」「律儀」ってワードを添えていくのをよそにひとりで頷いてると、祥子ちゃんが思案顔をした。きれーな細い指を顎に添えてぽつり。

 

「……燈、もしや、CRYCHICの頃にお会いした彼ですの? ノートを届けにいらしていた、あの」

「うん……祥ちゃんは知ってたんだ」

「練習の休憩中に、少しだけお話をした記憶が……ああもう、そんな不安そうになさらないの! 可愛いですわねまったくもう!」

「えっ、いや、えっと」

 

 ともりんの眉が気持ちしょんもりした瞬間に祥子ちゃんはもう抱きしめていた。おろおろしているあたり無意識だったっぽい?

 私はびっくりして動けなかった。ともりんが? 好きな男の子が他の子と喋ってるって聞いて? 不安げにしょんぼり?

 あの純真無垢なともりんが? なんか嫉妬をにじませるとかじゃなくて、ちょこっと不安そうになるくらい? しかも無意識?

 

「可愛…………」

「あ、あのちゃん、助けて……あのちゃん……?」

 

 あのさあワタシ。わかってなさすぎじゃない? 男の子ウケを狙う女のムーブが鼻につくのはそうかもだけどさ、恋する乙女が可愛くないわけないじゃん。

 

「ともりんカワイイ…………」

「あのちゃん……? あの、鼻どうしたの」

「いいのいいの、千早はこれで大丈夫だから」

 

 顔面押さえて呻く私の背中をクラスメイトが撫でた。

 逸材だ。ともりん可愛すぎる。なんか、こー、見えてきた。幼馴染くんの後ろをちょこちょこヒヨコみたいについて回るともりん。幼馴染くんが届けてくれた忘れ物(何?)を抱きしめて切なそうな嬉しそうなはにかみを見せるともりん。

 

「続けて……」

「う、うん……これ、書いたほうがいいかな」

「書きましょう! 恐れることでも忌避することでもない、大事な気持ちですわよ!」

「……そっか」

 

 ちょっと怯えながら、ともりんは可愛い不安と嫉妬をノートに書き込んだ。

『じくじく 痛み 傷み 内側から滲むような 目を見て話したい ←ほかの人を見てほしくない?』

 

 Q.印象的なエピソードは?

 

「…………」

「え、そんな指折り数えるくらいある?」

「とりあえず、思い出せる限りだと……うん、いろいろ」

 

 十本ぜんぶ折り返してまだ続いていくので「とりあえず古い記憶からいこう!」と誰かが言った。ご尤もだしとりま片っ端から聞きたい。

 

「……幼稚園の頃、行事で近くの自然公園まで遠足に行って」

「自然公園ですの?」

「あーあるある、生き物を観察しましょーみたいなね」

 

 そんでみんなでお弁当を食べる。少なくとも、私は前後の生き物観察フェイズはまるっきり記憶にない。芝生を走り回ったりはしたかな? そのくらい。

 祥子ちゃんは不思議そうに首を傾げた。

 

「植物園くらいならば幼稚舎内に……いえ、そうとも限りませんか」

「普通の幼稚園にはちっちゃい花壇くらいしかないよ」

「そうなんですわね……」

 

 お嬢様ギャップにはとりあえずツッコまないでおいた。人の問題よりとりあえず目の前の恋バナが気になる。

 

「石を探そうとしてたら」

「オーケーいつものね」

「なんですの、素敵ではありませんか」

「ポケットがいっぱいついたエプロンを、くれて」

「エプロン?」

「うん、デニムの……」

 

 材質は別にどうでもいい。やんわり続きを促す。

 

「へぇー、買ってきてくれたんだ」

「ううん、手縫いだった」

「手縫い!?」

 

 デニムの手縫い結構たいへんじゃない!? そりゃまあ、お店レベルじゃなきゃぜんぜん誰でも作れるだろうけど……でも幼稚園の頃でしょ、やば。

 

「どうしてエプロンを?」

「……ともりちゃんがせっかく見つけた綺麗なものを、失くしちゃったら悲しい、って」

「うわー、うわー……えっ幼稚園児でそんなセリフ言う?」

「そのエプロンは今どうしていますの?」

「……え、えっと……」

 

 ともりんは鞄をごそごそと探った。

 綺麗に洗われた石がいくつか納められた、色褪せたデニム生地の小物入れが取り出された。

 

「……何度も直したり、リメイクしてくれて。まだ使って、ます」

「愛……」

「あ、あい……?」

「愛ですわよ、燈の好きなこと、好きという気持ちのために手を尽くしてくれることは、彼からの愛に違いありませんわ」

「……愛」

 

 ともりんは恥ずかしそうにそわそわ身動ぎして、ちょっとためらって、ノートに書き込んだ。

 

『なんども直してくれる ←絆創膏を貼ってくれるのと同じ(かも)

 やさしい みぞおちの奥でじんとする気持ち 今年初めてのコスミレを見たみたい 痛くない』

 

「コスミレ? って何?」

「……コの付くあたり、小さなスミレでしょうか」

「うん……スミレ科の多年草で、白っぽいのから紫までいろんな色があって……春頃、石を探してると道端で見かけるんだ」

 

 説明しながら何のお手本もなしにお花の絵をサラリと描いてくれる。前から思ってたけど、ともりんはスケッチみたいな写実的な絵が上手だ。

 覗き込んでいたクラスメイトたちも小さく感嘆の声を上げる。

 

「高松さん絵うまっ」

「あ、ありがとう……」

「字も綺麗だよね」

「ていうか可愛いかも、ちょっぴり丸めで」

「わかるー、女の子の字だ」

「そうなんだ……」

 

 不思議そうなともりんだった。もー、こんなに女の子な女の子が他にいるのかって話。いや、私も乙女ですけど。

 

「コスミレの花言葉ってある?」

「えっと、確か……『謙虚』『細やかな幸せ』、あと……『そんなに近くで見られると恥ずかしい』」

「えっそれ花言葉なの? 可愛い」

「ていうかそれ言ってる高松さんが可愛い」

「あう……」

 

 ……うーん、互角かな!

 

「愛音の負けですわよ」

「うっさいっ」 

 

 Q.小さい頃の思い出もっと聞かせて!

 

「……くも、かな」

「雲? 入道雲とかひつじ雲?」

「ううん、ハエトリグモ。ちっちゃくて、ぴょんぴょん跳ねてる……」

「描かなくていい描かなくていい!」

 

 ともりんが躊躇なくクモの複眼(って言ってたらイメージしちゃった。うげー)を描き始めたので慌てて止めた。ダンゴムシ描くならクモも描くかそりゃ。

 祥子ちゃんがなんか遠い目して呟く。

 

「ダンボールを放置していると見かけますわよねぇ……」

「えっ何その似合わないセリフ」

「それで、クモにどういうエピソードがございますの?」

 

 ともりんは「んぅ……」と呻きながら俯いて考えはじめる。さっきは説明のために描こうとしてたクモが簡略化されて爆速で描き上がったと思ったら、なんかの鳥、石、あと……うーん? もうわかんないな。

『家 跳ねてる一匹 二階 捨てる 逃がす 追い出す 命を選ぶ アメユジュ』……ラップ? ビジュアルイメージから言葉に変換されていく。

 ……アメユジュ? 宮沢賢治?

 

「……ねえ千早」

「なに」

「もしかして私たちって今『MyGO!!!!!』の作詞過程をリアルタイムで見てる?」

「追っかけはお帰りくださーい」

 

 まあ確かにそうなんだけども、指摘の仕方がファンっていうかオタクっぽくない? オタクさんのことよく知らないけど。

 

「……、……、……えっと。小学生の頃にね」

「うん」

「私の、このノートをたくさん入れてるカラーボックスから、ハエトリグモが出てきて」

「うわ」

「こら」

「いやでもうわってなるでしょ。なんなかった?」

「……ちょっと、なったかも。急に来られるとびっくりする」

 

 流石のともりんでもそっか。嫌な顔するとこは想像つかないけど、困った顔はしてそうだなぁ。

 

「それで……びっくりして動けなくなってる私の代わりに、クモをなんとかしようとしてくれたんだけど」

「イケメンだ」

「こういうとき彼氏がスマートに動いてくれるとね、やっぱちょっと嬉しいとこあるよね」

「え、そう? 一緒にきゃーきゃー喚いて後で爆笑するのめちゃ幸せだけど」

「うるせー」

 

 幸せ者をいっかいみんなで袋叩きにする。あとで聞かせな、と後ろに追いやって閑話休題。

 

「それで、どうしましたの?」

「……クモを取ろうとしたあの人と、目が合って。えっと……」

 

 ともりんの瞳がおずおず揺れた。ニュアンスに迷ってる感じ。

 

「……こう、だったかな。『……あぁ、そうだよな。あんまりだな』」

 

 呟くような声はいつものともりんと少し違った。いつもが穏やかな風なら、深い水みたいな。

 

「『僕らなんか、でっかくて怖いだろうに。あんまりだよなぁ』……って。ティッシュを指に巻いて、ゆっくり近づけて。そこに乗ったクモを窓から壁伝いに逃してあげてたのを、なんだか……ずっと覚えてる」

 

 好きな男の子のエピソード、って言うには、なんだか不思議としんみりした空気になっちゃった。

 たぶん、クモを取ろうとしたんじゃなくて殺そうとしたんだろうな。それを、ともりんの目を見て──ともりんに見つめられて、ひどいかも、って踏み留まった。

 でもなんだろ、後ろめたいとか幻滅されたくないとかじゃなくて「あんまりだ」っていうのは、優しい人なんだろうなぁ。

 

「……あぁ、思い出しましたわ」 

 

 祥子ちゃんがポツリと言った。

 

「以前に彼とお話した際、なんだか燈みたいだと感じましたのよ。燈が男性であれば、もしかしたらこのような方になっていたのかも、と」

「男の子版ともりん?」

「ええ。物腰柔らかで、言葉少なで、だけれど不足はなくて。燈ほど繊細な印象はありませんでしたが……そこは、なんでしょう。男性的な、割り切りのようなものがあるのでしょうね。男性との関わりはほとんどございませんから、ステレオタイプなイメージですが」

「へぇー……」

 

 なるほど、となるようなならないような。

 A=BでB=Cなら、じゃあA=Cだ。ともりんみたいってことはつまり、ともりんの歌詞における「みんな」になれない自分、「人間」じゃない自分と同類なわけじゃん。そんな人がずっと側にいて、今の孤独と疎外感を歌うともりんが出来上がるものかな。

 まあ、そんなもんだよって言われたらそっかーで済むけど。祥子ちゃんの言うように性差っていうか、周りにどんな人がいたかの違いかもしれないし。

 

 気づいたら、ともりんのノートが徐々に加筆されつつあった。

 悲しそう、と書いてあった。クモを逃がす姿と、優しく自分を見守ってくれる姿のギャップのようなこと。

 

『頼りにしてばかり 申し訳なさそうにしてほしくない ←どうしてほしい? 穏やか ハルジオン 風がすうと長い午後のカーテンみたいな人 に 何を』

 

「……カーテンみたい、ねえ。揺れてたら、ああ風が吹いてるなーって気づくみたいな?」

「千早なんか頭良さげ」

「これでも成績は良いんですけどー!?」

「は、って言ってしまっているじゃありませんの」

 

 あ。ヤバ。ぐうの音は辛うじて出した。日頃そよりんにもりっきーにもおバカ扱いを受けてる弊害ぐぬぬ。

 歯噛みする私をよそに頷く祥子ちゃん。

 

「……ふむ。風と、陽光もですわね。電気をつけなくても、午後の日差しを白いカーテンが柔らかく反射するだけで、部屋が明るく感じるものですわ」

「陽光……」

「あ、じゃあともりんはなれるじゃん!」

 

 天才あのんちゃん閃いた。パシンと手を叩いて、私は一年ずっと思ってきたことを叫ぶ。

 

「名前からして『燈』だし! 名が体を表してるのは『MyGO!!!!!』やってきてもうわかってるじゃん!」

「……表す、って?」

「ともりんは人の心を照らせる太陽ってこと! ……や、太陽だと燦々ピカピカ過ぎてイメージ違うけど、こう、春の日差し的なね!」

「『春日影』ですわね……」

「それ!」

 

 なんかくしゃくしゃの顔した祥子ちゃんの顔を指差して頷いた。ん? 言葉的には『春日影』でオッケーだけど歌詞的には『あなたは私にとって春の日差しです』だからともりんのことは指してなくない?

 ……まあいっか! 解釈次第ってことで!

 ともりんはきょとんと目を丸くして、私の目を、それからじっと自分の手を見る。

 え、どしたの? 私スベった?

 

「……私が、光なら」

「ともりん?」

「言葉が……文字が、黒いのは……」

 

 ともりんは、ページを捲った。

 それからさっきまで話してたこと、思い出のエピソードから私たちの反応からはっきりやりとりしたことはもちろん、ぼんやりと形になってなかったこと……非言語的な、ともりんの中のイメージだろう何かも、ぐちゃぐちゃと塗りつぶすようにしながら猛然と描き進めていく。

 やり直しかなって、一瞬思った。

 違う。清書だ。

 私たちと同じ「みんな」の言葉じゃない、ともりんの言葉での清書。翻訳と変換ロスで落としたニュアンスを取り戻しながら整理する作業。

 クラスメイトたちがざわめく。そっか、見たことないか。ないかー、作詞モードに入ったともりん。ふふん。

 ちょっと優越感で祥子ちゃんの方へ視線を向けるとおんなじ顔をしてた。どうするってゆーの? うん?

 祥子ちゃんは「燈、そのまま、描きながら、聞き流してくださいまし」と声を投げかける。

 

「書くことを最優先に、私の言葉から、材料を好きにお取りなさい……中学の入学式でどう思いましたの? 彼がいない通学路に、何を感じましたの? 慣れ親しんだ方が側にいないこと……それが毎日の当たり前になっていくことには?」

 

 ともりんの手が止まりかけて、また動き出す。祥子ちゃんの言葉を咀嚼して、混ぜ込んでこね回して、その心象が言葉とイメージになってスケッチされていく。

 なんだっけ、前に国語で習ったな。リズムと視覚表現を合わせた独特の技法で……そうそう、『春と修羅』。

 私は議事録用のノートに太字でぐいぐい書き込んで掲げながらオーディエンスに振り返る。肩を軽くたたいて祥子ちゃんにも。

 

『ここに書き込んでまとめるから! 聞きたいこといっぱいおしえて!』

『※ただし小声!』

 

 ぐっと静寂。うんと頷いて、私たちは一歩取り巻きの輪を下げた。

 

「中学の頃の話聞きたくない?」

「うんうん。学校外とかね、違うとこになっても交流はあるわけっしょ」

「高松さんに似たとこあるなら、なんかそういうエピソードないのかな? 趣味に付き合ってもらったとか」

「石集められるエプロン作ってくれるくらいだしね、一緒に集めるのもやってそうじゃない?」

 

 質問を書き留めていきながら、ときどき振り返って祥子ちゃんとアイコンタクト。うおおお聖徳太子だ、今だけ愛音太子! 楽譜見ながらりっきーの作る曲聴き取ってるときより耳働かせてんじゃない?

 

「……ええ、ええ…………離れたあと、彼に会うたび思い起こされることはございませんでしたの? 空の色、クチナシの香り、どこかの家のシチューの……ええ、お書きになって」

 

 ともりんの言語中枢エンジンに燃料が放り込まれていく。ごうごうとうねりを上げてペンが走る。たまに手が少し止まって、返事っていうか現像って具合にエピソードトークが降りてくる。

 

「……そだ、押し花」

「押し花?」

「桜と、コスミレと、カタバミ」

「春の花たちですわね」

「学校が分かれたときに、本でもノートでも使ってって言われて……栞を」

「彼氏くん手先器用だな」

「まだ幼馴染だってば」

 

『日々に隙間 栞の花 言のいろ葉をめくりながら』

 

「栞……そういえば、燈は宮沢賢治を読んでいましたわね」

「うん……春と修羅とか、教えてもらって」

 

『あめゆじゅとてちてけんじゃ』も書き込まれた。『賢治や』じゃなくて『〜(して)くれませんか』の訛りなんだっけ? でもなんで今これを、と思っている端から詩が加筆されていく。

 ……『ほんたうにおまへはひとりでいかうとするか わたくしにいつしよに行けとたのんでくれ 泣いてわたくしにさう言つてくれ』?

 なにこれ、と首を傾げていたら「『松の針』ですわよ」と耳打ちされた。検索。へー。いや授業で習わないやつはわかんないよ。

 あー、でも、ともりんは詩集とか好きそう。好きそうっていうか、自分の知らない言葉とか感性を不思議そーに眺めてるイメージが湧く。人の気持ちとか大事にする子じゃんね。

 同時に、幼馴染くんのことも少しわかる。その人も人の心というか、ともりんの気持ちを大事にしてそうだなー。

 なるべく自分の世界をそのまま大事にしておけるように……みたいなこと、小学生のときに司書の先生から読書の意義ってことで聞かされた覚えがあるんだけど。それを思い出した。

 あめゆじゅ……『永訣の朝』かあ。なんてゆーの? 献身的な人、なのかな。

 どんな人なんだか、わかるようなわからないような感じになってきた。……いやまあ、野暮? 深入りは野暮かも。

 

「そういえば、今日のお弁当作ってもらった」

「…………はぇ!?」

 

 あれこれ聞いたり燃料投下しているうちに衝撃の事実が判明したりもした。そのひと言で打ち切られてノートを書きまくるともりんになんにも言えずどよめく2年B組教室。

 ノートにスケッチが描かれてみんなして覗き込む。

 

「……ふつー!」

 

 めちゃくちゃな速さでめちゃくちゃなページ数を消費していたともりんの手がびっくりして止まった。

 

「こらっ」

「あっごめん! ごめんね、ともりん集中切らしちゃったでしょ、ホントごめん!」

「だ、大丈夫……えっと、お弁当? 普通、だと思うけど」

「うんまあそうなんだけど」

 

 なんだか神秘的になりつつあった幼馴染くんのイメージは霧散した。なにこれ。タコさんウィンナーじゃん。ベッタベタのベタ! ん? なにこれ。トゲトゲのマルがある。

 

「これは?」

「ハリネズミだって言ってた。プチトマトをささくれさせて」

「器用!」

 

 そしてなんか可愛いな、男の子がそういうことしてるの。

 ……ふつーか、そりゃそっか。

 

「なんか、あれだね、高松さんと幼馴染くんさ」

「……は、はい」

 

 おんなじこと思ったっぽい子が、私とかともりんとか祥子ちゃんとか、順繰りに顔を合わせた。

 

「変わってっけどさ、ふつーに幸せそうで、なんか良いじゃんね」

 

 ほっこりするわー、と笑った。ね、と周りも笑う。

 

「……普通に、幸せ」

「ちょうどいい言葉を探そうって言ってたけど、こういうのは大づかみでいいんじゃない? ほら、さっきオブ様も言ってたけど」

「えっ私ですの?」

「その前にオブ様呼びへツッコミはないわけ」

 

 ぺしっと叩かれた。はいはい黙ってまーす。

 

「えーと、千早ノート見せて……そうそう、風が吹いて日差しが入って? カーテンがふんわり光っててさ」

「うん」

「それって幸せのひとつじゃない?」

「……あー……うん?」

「なんかいま幸せだなーって思ってさ、そのときふっと隣を見て、そのたび彼氏が隣であくびとかしてたらさ。幸せだなー、好きだなーって思わん?」

 

 ……こいつ、さっき袋叩きにした幸せものだ!

 

「出会え出会え! 天誅!」

「微妙に話つながってないし良い雰囲気にまとめようとしてんじゃねーぞ!」

「ごめんごめんごめん! 痛っ、顔はダメ! 顔はダメだって! カレシが心配する!」

「うるせー!」

 

 ……ものすごい勢いで輪が崩壊して教室後方に流れ込んでいきましたとさ。うわ、えー、ヤバ。ゴリラとゴリラとゴリラじゃん。

 突然すべてが崩壊しておろおろしているともりんが流石に不憫だ。えーと、つまり……うん。

 祥子ちゃんも同じ考え? よしよし。私が最高に綺麗な題字を描いてあげよう。

 

「つまり、こういうことでしてよ」

 

 なぐり書きや塗りつぶし、単純に大きな字、スケッチ、模様、説明に詩みたいな文に疑問にメモにエトセトラ……50ページくらいはぜんぜんあったはずなのにすっかり使い切る寸前まで書き込まれた自由帳の、最後のページを祥子ちゃんは切り取って半分に折り、表紙に張り付けた。

 ちょっと斜めに傾けて、長方形の紙が商品としてのタイトルとトケイソウの写真を覆い隠す。そういうデザインです、って言えば通じそうな感じだ。

 サインペンの太い方をきゅぽん、とね。ANON TOKYOのチカラをご覧あれ。

 

「こういうのは──シンプル・イズ・ベストッ!」

 

 最初の横棒をスタイリッシュに長く取りつつ、大きく二文字。

『すき』

 持ち主欄にはもちろん、『高松燈』。本人署名だ。

 

「ともりん!」

「は、はいっ」

「お探しの言葉はこれだね?」

 

 たくさんの思い出、たくさんの言葉、たくさんの気持ちを含有して集約して代表して。

 

「切り分けなくても、区別しなくても、ぜんぶすき! ってことでどう?」

 

 ちょっとストレートすぎ? どう? あっこら、ちょっと小馬鹿にしてるでしょ祥子ちゃん!

 溜息みたいな呆れ笑いをひとつ漏らして祥子ちゃんが引き継ぐ。

 

「以前に、私に詩を差し出してくれたように……これを彼へお渡ししてみては?」

「……これを?」

「ええ。だって、いま燈が抱く彼への想いの……すべてどころか氷山の一角かもしれませんけれど。でも、ひとつの結晶ですもの」

 

 きっと喜ばれますわ、と結んで。

 ともりんはおずおず頷いて、受け取ったノートを抱きしめた。

 

 

 

 

「ちょ、見えない見えない」

「教室からでも見えたじゃん! なんでみんなで出てきたの!」

「静かになさい! 気づかれてしまいますわよ!」

「豊川さん最後までいるんだ……A組なのに……」

 

 幼馴染さんを校門までお呼び立てし(通学路的に羽丘を通り過ぎるらしい、たぶんともりんのお迎えが主目的なんだろうな)、そこであの「すきノート」を渡そう、って手筈になった。ついでにデートにも行っちゃいなよ! とみんなで結構ガチに囃し立て、まあでも二人にはお決まりの有名スポットとかじゃなくてなんか思い出の場所とかありそうっしょ、ということで口出しはせず。

 とりあえず成り行きだけ見守ろう、ということで校舎の影に30人ギッチギチになって待機中。何してんの?

 

「あっ、来ましたわよ!」

 

 顔を知ってるらしい祥子ちゃんの言葉を嚆矢にシンと静まるひとクラス分の不審者ズ。

 ……ふーん? ほー? 背は結構ある? でもなんかすっごいイケメンって感じではないかも? なんていうか……そう、素朴。

 

「素質アリじゃない?」

「ちょっと地味くらいでね、なんでもないときに『お、私のこと大好きだな?』って思わせられるくらいがさぁ」

「後ろ行かせるぞ」

 

 穏やかに手を振り合って小走りでやってきた。……なるほど、なんでもないときにおっ、って感じ。

 ちょっとやり取りして、お、彼氏さん気づいた? ともりんいけっ、渡せ、渡しちゃえ!

 

「いったっ……!」

「どう、どうなった……?」

 

 ……彼氏さん、丁寧に受け取って読み始めたな。うん、あ、びっくりしてるびっくりしてる。そりゃそう。丸々1冊あなたへの思いだぞ!

 ……あ。

 …………え!?

 きゃーっ!?

 

「うわあああっ」

「うっそ大胆! き、えぇ!?」

「抱きしめて……」

「抱きしめて、おぉー……え? キスした? してるよね?」

「ギリわかんないアングルだよぉ……!」

「いいんだよわかんなくて! 真実はともりんたちだけ知ってればいいの!」

「うーんつくづく似ていらっしゃいますわね……思えば燈も感情が爆発すると思い切ったことをするタイプでしたし、似たもの同士ですわね……」

「堪能してる……」

 

 爆沸きする私たちの周りを部活中と思しき人たちが怪訝に通り過ぎていく。

 ……あ。ライン来た。

 

『プラネタリウム行ってきます』

『でー』

『デート』

『してきます』

 

「…………」

 

 みんなに見せた。

 

「……ね、このあとサイゼで打ち上げしない?」

 

 勝ち鬨みたいな声が上がった。

 


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