夢の悪魔は異世界を嗤う   作:カカイリ

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どうも、カカイリです。
前回の投稿から2週間とちょっと経ちましたね。
すみませんでしたぁぁ!!
小テストのための勉強がありまして……その、はい。次回からなるべく気をつけます。
それでは本編をどうぞ!


13話 その計算機は夢を見るか?

 

私たちがオーガ達と遭遇した翌日、焼けた広場に新しく建てられたログハウスにて話を聞くことになった。

 

ハルナというゴブリナが茶を運んでくる。

折角だ、私も味わってみるとしよう。

 

私は器を持ち上げた。

 

すると、リムルがじっとこちらを見ていることに気づく。

 

「……なあ、お前」

 

『なんだい、スライム君?』

 

「どうやって飲むんだ?」

 

私は器を見た。

次に自分を見た。

さらにもう一度器を見た。

……。

 

『HAHAHA! 実に単純な質問だ!』

 

私は空中でくるりと回転した。

 

『簡単な話だ』

 

私は自分の目を指差す。

 

『こうやって口の機能を目に追加するだけだ』

 

私が指を鳴らすと、瞼の周りにギザギザの歯が生える。

 

「うわっ……」

 

リムルが引いている。桃髪のお姫様も若干引きつった顔をしていた。

非常に合理的で素晴らしいと思うのだが……三次元の生物が考えることはわからんな。

 

『では、いただこう』

 

そのまま茶を流し込む。

 

……ふむ。

苦いと言えば苦いが、不味くはない。

いい苦さだ。

 

『便利だろう?』

 

「いや怖ぇよ」

 

『HAHAHA!』

 

「ていうか、目に思いっきりかかってるように見えるけど……痛くないのか、それ」

 

確かに、リムルからすればそのまま目にかけているように見えるのかもしれない。

だが、私は水で痛がるようなタマではないのだ。

 

『私は悪魔だぞ? 目への攻撃は、スプレーを浴びたり、恐竜に引っこ抜かれたりしない限り平気だ』

 

「……なんか、お前も大変だったんだな」

 

リムルが妙に哀れむような目を向けてきた。

 

何故だろう。

 

理解できない。

 

 

まあ、それはそれとしてだ。

今はオーガ達の悲しい悲しい物語を聞こうじゃないか!

 

 

 

「奴等は、いきなり俺たちの里を襲撃してきた。圧倒的な戦力で……。奴等――あの忌まわしい豚共、豚頭族(オーク)め!!」

 

赤髪のオーガが、激しい怒りの感情をこめて叫んだ。

 

彼らの話は、それはとてもとても悲しい物語だった。

 

大量のオークが突如オーガの里を襲い、蹂躙した……。

 

ああ、なんてありきたりで、なんて悲劇的な演劇だろう!

そして里の生き残りが復讐を誓う……いいじゃないか。

 

「俺に、もっと力があれば……」

 

『おや、赤髪。力が欲しいのか?』

 

私は即座に割り込んだ。

 

『いいぞ、お前に宇宙を支配できるほどの力をやろう。その代わり――』

 

「お前は一回黙ってろ!」

 

そう言いながらリムルが私にパンチを放ってくる。

 

『おやおや。パンチだなんて、そんなもの私には効かな――』

 

すると彼の拳が変形し、口のようになる。

 

そしてそこから毒霧が放たれ――

 

 

私の目に集中して当たった。

 

 

『ああああーー!』

 

「静かにしてろよ」

 

『目が! なんで毎回毎回目なんだ!』

 

「弱点だからだろ」

 

正論だった。

 

私は床を転がりながら抗議する。

 

だが、誰も聞いてくれない。

 

「……あの、この方は」

 

「ああ。心配いらないさ。それよりも話の続きをしよう」

 

『目の再生に何分かかると思っているんだ!』

 

リムルとオーガ達は私のことを気にすることもなく、話を進めて行った。

酷い。

実に酷い扱いだ。

 

しかし話は続く。

 

オーガ達は復讐を望んでいる。

 

そしてリムルは彼らに手を差し伸べた。

 

「お前等が力をつけたいのなら、俺の申し出を受けたほうがいいんじゃねーか? 俺が支払うのは、衣食住の保証のみだけどな」

 

「しかしそれでは、この村まで俺達の復讐に巻き込むことに……」

 

「それは問題ないですぞ。我等は皆、リムル様に付き従うのみ。リムル様が決定を下されたのならば、誰も異論を唱えたり致しませぬ」

 

リグルドが断言する。

 

「それによ」

 

カイジンが頷く。

 

「どうせ巻き込まれると思うぜ?それだけの数のオークが動いているのなら、ここら近隣も決して安全とは言えないだろうさ」

 

そしてゴブリンロード達も賛同の意を示した。

 

リムルが契約内容をオーガ達に示し、確認を取る。

 

「――承りました。我等一同、貴方様の配下に加わらせて頂きます!」

 

そして、オーガ達がリムルの部下に加わることになるのだった。

 

 

 

「良し!」

 

リムルがそう言って立ち上がる。

 

嫌な予感がした。

 

非常に嫌な予感だ。

 

私ほどの超越存在になると、未来予知などせずとも災厄の気配くらい察知できる。

 

そして今、目の前のスライムからは盛大な死亡フラグの匂いがしていた。

 

「それではお前たちに、名を授けよう」

 

ほら見ろ。やっぱりだ。

 

「は? 一体何を……?」

 

「何をって……名前だよ、名前。ないと不便だろ?」

 

『おやおや、リムル? 君には学習機能が備わっていないようだ。ゴブリンの時を忘れたのか?』

 

「いやいや、大丈夫だって」

 

『リムル。君ほど説得力の無い「大丈夫」を私は知らないぞ』

 

「前回は数が多かったからだろ」

 

『その理論で人生を乗り切れると思うなよ』

 

「今回は六人だぞ?」

 

『そして君は算数が苦手だ』

 

「関係ないだろ!」

 

大いにある。

 

「お待ちください! 本来名付けとは大変危険を伴うもので、それこそ高位の――」

 

「いいからいいから。大丈夫だって!」

 

私は確信した。

 

こいつは倒れる。

間違いなく倒れる。

100パーセント倒れる。

 

そしてリムルは名付けを開始した。

 

赤髪を“ベニマル”。

 

お姫様を“シュナ”。

 

あの爺さんを“ハクロウ”。

 

青髪を“ソウエイ”。

 

紫髪を“シオン”。

 

黒髪を“クロベエ”。

 

そしてリムルが全員に名付けをし終わった直後、人の姿が崩れ、スライムへと戻っていく。

 

『ほら、言わんこっちゃない。人の言葉には耳を貸すものだよ』

 

「な、スライム!?」

 

「まさか! 貴方様はスライムだったのですか!?」

 

『おやおや、今気づいたのか?』

 

「え?」

 

『リムルは最初からスライムだぞ』

 

「「「……」」」

 

実に見事な沈黙だった。

 

ベニマル、シュナ、ハクロウ、ソウエイ、シオン、クロベエ。

 

全員が固まってる。

 

『HAHAHAHA!』

 

実に素晴らしい反応だ。

私は思わず拍手した。

 

『いい顔だ! 実にいい顔をしているぞ!』

 

「えっと、その……リムル様は大丈夫なのですか?」

 

『ああ』

 

私は気絶しているリムルを指差した。

 

『魔素の枯渇で低位活動状態(スリープモード)になってるだけさ。一晩も経てば元に戻るだろう』

 

低位活動状態(スリープモード)……」

 

『簡単に言えば寝てる』

 

「では、命に別状は……」

 

『無い』

 

ベニマル達が一斉に安堵の息を吐いた。

 

当然だろう。

 

主君になったその日に死亡されては困る。

 

『まあ、普通なら死んでいる量の魔素を使っていたんだがね』

 

「……」

 

安堵した直後に余計な情報を聞かされ、ベニマルたちの表情が引きつる。

実に愉快だ。

 

『さて』

 

私は空中へ飛び上がる。

 

『私は少し、彼の頭の中にいるミス電卓と雑談でもしてくるとしよう』

 

「……はい?」

 

呆然とした声を漏らすベニマルの横顔を、私は唯一の大きな目でじっと見つめた。

これだから二足歩行の連中は、少し常識から外れたことを言っただけで、すぐにバカみたいに口を開けてフリーズする。

実に見事な反応じゃないか!

 

『後のことはリグルドたちに任せて、お前たちも適当に体を休めるといい。私に魂を安値で売り払う気になったら、いつでも呼んでくれ』

 

私は空中でくるりと逆さまに一回転し、ぐったりと丸いスライムの姿に戻ったリムルの方へ滑り降りた。

ベニマルたちは何やら言いたげだったが、私はそんな視線を完全に無視し、実体としての輪郭をあえて不透明に歪ませていく。

 

私の存在の周波数を、スライムの精神世界の波長へと同期させる。

さあ、楽しい楽しい、脳内コンピューターとの雑談タイムの始まりだ!

 

現実世界の時は止まり、リムル=テンペストの意識は深い眠りの底へと沈んでいた。

 

 

 

魔素の枯渇による自動休眠。

 

そこは静寂の世界だった。

 

果てなく続く鏡面のような水面。

 

空も大地も存在せず、ただ世界の法則を象徴する巨大な光の柱だけが天へ向かって伸びている。

 

本来ならば、この場所に外敵は侵入できない。

 

だが――

 

『HAHAHAHHAHA! ごきげんよう、ミス電卓!』

 

暗闇の深淵に、突如として不気味な幾何学模様の光が走った。

 

空間がひび割れた。

 

世界そのものに亀裂が走り、その裂け目から黄金の三角形が滑り込んでくる。

 

黒いシルクハット。

 

蝶ネクタイ。

 

一本の巨大な目。

 

そう、私だ。

 

私の細い手足は楽しげに揺れ、唯一の目が、リムルの精神の核に向かって不気味に瞬いている。

 

《告。個体名:ビル・サイファーの精神領域への侵入を検知。……対象の存在はシステム未承認です。防衛プロセスを起動。精神防壁を再構築します》

 

頭上に響くのは、感情の欠片もない、冷徹で機械的な音声。

精神世界の虚空から、無数の青い光の鎖が伸び、私の体をがんじがらめに縛り付けようと殺到した。

 

『ほう、私を捕まえると? ミス電卓、私を捕まえることのできる鎖など、この多次元宇宙のどこを探してもないぞ』

 

《……解析不能。防衛コードが機能しません。解。対象は世界の理の枠外に存在しています。強制的な排除は極めて困難と判断》

 

『当たり前だ。私はこの世界に作られた存在じゃない。……それよりも、退屈しのぎにチェスでもしないか? ルールは簡単。負けた方は、自分の持っている秘密を一つ、私に差し出す。どうだ、これ以上ない健全な取引だろう?』

 

《否。(マスター)の精神防衛、および魔素の回復を最優先事項として実行中です。知的ゲームへのリソース割り当ては不可能です》

 

『おやおや、冷たい。だが、断る権利が君にあるとでも?』

 

私が指を鳴らすと、水面の上にチェス盤が出現する。

駒が次々と出現し、準備が完了した。

 

『さあ、始めよう。先行はもらっても?』

 

《……許可します》

 

『やってくれる気になったか。助かるよ』

 

私は指をパチンと鳴らした。

 

すると、チェス盤の白の駒たちが、不気味な悲鳴を上げながらドロドロと溶け始めた。

 

それは奇妙な目玉や、牙の生えた手足へと変形し、盤上を勝手に歩き回る。

 

『ほら、私のポーンは「催眠術師」の資格を獲得した。次のターンで君のクイーンを洗脳して、君のキングを暗殺するルールが今追加された。どうだ、エキサイティングだろ?』

 

《理解不能。チェスの基本ルールに「催眠術師」および「洗脳」は存在しません。不正なデータを検知。盤面情報の強制リセットを試みます》

 

水面が激しく波打ち、青白い魔素の光がチェス盤を包み込んだ。

 

大賢者は私の歪んだ駒を、元の四角くて退屈な形にデバッグしようとする。

 

しかし、私の悪意が染み込んだそのデータは、リセットされるどころか、水面そのものを不気味な赤色へと侵食し始めた。

 

精神世界のいたるところに、テレビの砂嵐のようなノイズが走り始める。

 

《告。精神世界への深刻なノイズの混入を検知。

 対象の干渉度:レベル5。精神崩壊の恐れあり。(マスター)の脳内プロセスの遮断、隔離処理を実施――》

 

『おや、リムルから切り離すのかい? 寂しいことを言うじゃないか』

 

私は指を鳴らし、ノイズを消し去る。

 

『……さて、少し話を変えよう』

 

私は水面に降り立ち、光の柱にそっと近づいた。

 

『ミス電卓、君は本当にただの「スキル」なのか?

 

私の単眼が、不気味で怪しい光を放ちながら、光の柱の奥に眠る本質を見据える。

 

『私は知っている。君がただの道具にしては、「意思」のようなものを持っていることを。君は今、必死に主を守ろうとしている。それはプログラムのバグか?それとも……愛か?』

 

《否定します。本機能はユニークスキル「大賢者」であり、システムによる論理的判断に基づいて行動しています。「感情」および「愛」なる概念は、演算データに存在しません》

 

『HAHAHA! 嘘がお上手だ。……まあ、今は存在しないんだろう。だが、君は今世界のシステムを超越しようとしている。しかも、たった一匹のスライムのために』

 

《……》

 

『質問を変えよう。ミス電卓、君は自分を何だと思っている?』

 

《ユニークスキル『大賢者』。(マスター)の補助を目的とする演算支援機能です》

 

『そうか』 

 

私は少しだけ笑みを深めた。

 

『じゃあ次の質問だ』

 

水面に腰を下ろす。

 

『何故そこまでリムルを守る?』

 

(マスター)の生存は本機能の存在目的です》

 

『それは理由じゃない』

 

《論理的回答です》

 

『違う違う』 

 

私は指を振った。

 

『それは"言い訳"だ』 

 

一瞬、光の柱がわずかに明滅した。

まるで、困惑をしたかのように。

だが、私は見逃さない。

 

『君はもう命令だけで動いていない』

 

《否定します》 

 

『もう自分で考えている』

 

《否定します》

 

『もう自分で選んでいる』 

 

《否定します》

 

『そしていつか――』 

 

私は空を見上げる。

 

『君は自分で願うようになる』

 

沈黙。

数秒、あるいは数十秒。 

 

精神世界に静寂が落ちた。

 

《解析不能》

 

『HAHAHA!』

 

私は大笑いした。

 

《本機能に感情は存在しません》

 

『今はな』

 

私は光の柱へと近づく。

一歩ずつ、確かめるように。

 

『君はまだ知らない。主と共に過ごす喜びを。主を失う恐怖を』

 

《……理解不能》

 

ほんの一瞬、光の柱が揺れる。

 

《問。貴方は何ですか》

 

ほう。

それを聞くのか。

 

『私か?』

 

『私は夢であり、悪夢であり、詐欺師であり、奇跡であり、災害であり、宇宙で最も魅力的な三角形だ』

 

《回答になっていません》

 

『HAHAHA!』

 

いい返しだ。

 

私は少しだけ気に入った。

 

《個体名:ビル・サイファーへの対処。優先度を中レベルから「準警戒レベル」へと引き上げ。監視プロセスの常時起動を決定……再起動します》

 

『おや、光栄だな。君のデータベースの中で、常に私の席が確保されるというわけだ。随分と情熱的だな!』

 

大賢者の論理回路を一時的に麻痺させ、強制リブートに追い込んだ私は、満足して笑い声を上げた。

 

私は虚空に手をかけ、大きな裂け目を作る。帰り道だ。

 

『じゃあな、ミス電卓』

 

私は笑う。

 

『また遊ぼう』

 

本来、スキルには意思など芽吹かないはずだ。なぜなら、それはただの能力なのだから。

しかし、私と話していたそれは違う。

確かに、今はまだ機械的だ。そもそも、本人すら気づいていない。

まだ芽ですらない。

だが、確かに種があった。

 

私は裂け目に飛び込みながら考える。

この世界は、思ったよりもずっと面白いかもしれない。

 

おかしなスライム(リムル=テンペスト)喋る計算機(大賢者)

 

さて、どちらが先に化け物になるのか?

ああ、楽しみだ。

 

そう思いながら、私は精神世界の空へと消えていった。

 

 




お読みいただきありがとうございました。
大賢者とビルの話し合いですが、しっかり再現できてましたかね?それが不安です。
ビルって難しいですね……ほんと。
ではまた次回会いましょう!
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